第4幕
あまりにも突然な出来事に頭も心も整理できない賢一は緊張で固まっていた。
「あの……大丈夫?」
「はぁ……なんとか」
「ごめんね。突然だからテンパるよね」
「あの……僕たちのことご存知なのですか?」
「もちろん! 会長さんや図書部の人たちから色々聞いているよ!」
明るい笑顔がおどおどする賢一に応答した。
「私が聞いたのは5月頃から文芸部という部活を江川君っていう子が立ち上げようとしているよって話と一人、つまり君がそこに入部したことと図書室で金曜と土曜に役員をしているってこと。間違いないでしょ?」
高木の質問に弱々しく「はい……」と返事をして賢一はうなずいた。
「まだまだあるけどね~でも私が知っているのはほんの一部にしか過ぎない。そう思うよ。だって本当のところは江川君とキミにしかわからないでしょ?」
「そうですね……」
「だよね! ねぇねぇ、文芸部って何をいつもしているの?」
「何を…………ここで役員とかしたり………………色々話したりです」
「それじゃあ図書部だよ。ほら、何か書いたりとかしないの?」
「何か書く?」
「ほら、物語とか詩とか色々あるじゃん?」
「あ……五七五とか作っています」
「五七五! お~イイね! 伊達君が作ったものとかあるの?」
「え? あ、はい、あります」
「あるんだね! 見たい見たい!」
賢一は鞄から五七五を書いたノートを取り出して高木に渡した。
高木はじっくりと賢一の書いた五七五を読んでいた。数にしてみれば30首。高木は想定以上に時間をかけてノートを眺めた。話のながれでノートを手渡した賢一だったが次第に妙な緊張感も漂いはじめた。やがて高木がノートをパッと閉じて感想を一言言った。
「うん。キミは可愛いね!」
「はい?」
「それが感想だよ。嬉しくない?」
「かわいいってどういうのです?」
「ふふふっ。2年生になったら分かるよ。面白いね。文芸部!」
「あ……ありがとうございます」
高木が図書室に入ってきてから少し時間が経って賢一も段々と落ち着いて高木と会話を交わすようになった。自然と落ち着ける。そんな不思議さを感じる。
「あの、高木先輩は生徒会の……なんなのです?」
「文芸部の担当だよ」
「それって……つまりどういうことなんですか?」
「わかりやすく言えば三澤君の替わりってこと!」
「三澤さんじゃなくなったんですか?」
「そう! 今日から私。三澤君よりまともにできると思う!」
高木がニコリと微笑み、賢一も賢一なりにそれに合わせた。
「それにしても出会いって不思議だね。伊達君はなんでまた文芸部に入ったの?」
「悟君から一緒にやらないか……と言われて」
「ふうん“さとるくん”か。仲がいいね。江川君はどんな子なの?」
「どんなって…………いいひとです」
「そうだろうね。だから伊達君もこうして入部をしたのだろうね!」
それからしばらく賢一と高木の会話が続いた。陸上部を辞めた時のこと、文芸部に入ったときのこと、高木からの質問に賢一が答え続ける形で会話が続く。やがて一昨日の伊東との件の話になった時にやはり高木は驚いた。
「そうなんだ。そんなことがあったとは……ごめんね。迷惑したでしょ?」
「いや……終わったことだし、もう気にしてないです」
「会長には私の方からビシッと言っとくね。あの先輩もわからない人だなぁ」
「あの……先輩は僕たちに何かしてくれるんですか?」
「いや、頼まれないかぎりは何もしないよ。何かして欲しいことがあるの?」
「いや……特に何かがあるわけじゃないですが……」
「ふうん。あるように聴こえたけどなぁ。何かあるなら遠慮せずに言ってよ」
「いや、あの……すいません」
賢一がふと目をそらした先に並べて積んである30冊の本が見えた。
「手伝って欲しいの?」
「え?」
「いや、アレ今日返ってきた本でしょ? 返すのがたいへんかなぁって」
「はい……でも……ボク、返す方法がわからなくて」
「そう。そういえば江川君って今いないの?」
「はい……今日は風邪で休んでいます。悟君がいればいいんですが」
「そっか。うん。私もわからない……でも手伝うよ!」
「はい?」
「石原先生を呼んでくるから、ちょっとここで待ってね」
「はい」
賢一の返事のあと、高木はさっと図書室を出て教務室へと向かった。ずっと降り続いている雨音が残る。ドシャ降りの雨音を聴きながら気持ちを落ち着けた。あまりにも突然すぎる出来事に賢一の心の中の何かが高ぶっていてしょうがない。喜びか戸惑いか。それとも違うものか。考えるうちに高木が図書室に戻ってきた。
「ごめん! 石原先生いなかった!」
「そうですか……」
「準備室かどこかにマニュアルみたいなのないかな?」
「準備室?」
「うん。そこのドアを開けたらあると思う」
高木の指さしたその先にドアが存在した。受付のすぐ近く。何故今まで気づくことがなかったのだろうか。その事実に一瞬驚愕してしまったが高木がすぐさまドアを開き、「おいおい」と思いながらも部屋の中に入っていく高木の後に賢一もつづいた。何とも自由奔放な先輩だ。賢一はそう感じた――




