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放課後HEROES-children of the revolution-  作者: いでっち51号
第3章「私たちの結成記念日」
31/41

第3幕(挿絵あり)

 声のした方向。図書室の出入口。そこには賢一が目をみはる人物が立っていた。髪の色は漆黒の黒でいて長く賢一と悟よりも高い身長。目元は猫というよりか狐のような細長さのツリ目で色白のスラッとした顔。記憶に残るあの美人な風貌。何より前髪に付けている黄色い二つのヘアピンは記憶の中にでてきた“あの先輩”そのものだ。賢一は全て思い出し息をのんだ。



「どうも! 生徒会の者です! キミが江川悟君?」



 賢一が一瞬で思い出したことに対して相手は何も気づいてないようだ。いや賢一の方から目を合わせてないので気がついてないのだろう。「生徒会」という言葉がでた時点で賢一の予感は的中していた。これは先週3回もみた夢の再現。その事実が数秒後に確定することとなった。まさに正夢そのものだ。



「あれ? キミどこかで会ったよね? あのときの陸上部の子?」



 話は4月の末頃に戻る。賢一が陸上部の退部を生徒会室へ申し出に行った日のこと。賢一のそばには木塚という同級生がついていた。同じ陸上部のメンバーであり同じ長距離だったが部活の練習についていけない賢一を見て「辞めたら?」と退部を勧めた第一人者だ。表向きは思いやりのある人物だがその真意が善意なのかどうか疑わしいのは明らかだ。



 陸上部退部の申請を生徒会に出す際、慣れたような対応で「はいはい。部活の退部ね」と一人の生徒会女子が賢一をチラッと見て一言言ってこれを書くようにと『退部届』を渡してきた。木塚は賢一が書くのを見守ってはいたが、このとき不自然にも生徒会の人間と全ての会話を交わしていたのは木塚だった。



 賢一は『退部届』を書くことに集中したが緊張からか手が震えていた。



 賢一は既に体が硬直しそうな状態になっていた。手が震えるのは緊張からだけではない。言葉にできない怒りや困惑の感情もそこには込められていた。木塚はそんな賢一をイライラした目つきで眺めながら、偽りの優しい言葉をかけ続けた。何ともおかしな光景である。その光景を見て受付で対応した女子生徒とは別の女子生徒が賢一たちの前に現れて声をかけてきた。



「大丈夫?」

「はい。大丈夫ですよ。緊張しているみたいです。ほら心配されているぞ」

「君に聞いてないよ。私はこの子と話しているの。邪魔しないで」

「………………」



 木塚が全く予想もしなかった人物が登場してきた。こうなれば木塚に喋る余地はない。木塚にとっては望ましくない展開。不器用であるがゆえに先輩から可愛がられる賢一を木塚は妬み憎んでいたが、こうなれば黙るしかない。賢一はもともと緊張をしていたが木塚も緊張せざるえない状況となった。



「お名前は?」

「き、木塚佳宏です」

「だからアンタじゃないって! キミに聞いているの。ほら答えて」




 大きく目を開いた生徒会の女子が入室時より下をうつむいたままの賢一の顔を覗き込んだ。余計に緊張をしてしまう賢一だったが自然と返事は返せれた。



「伊達賢一です」

「伊達君?」

「はい」

「伊達君は本当に陸上部を辞めたいと思っているの?」



 いきなり核心を突く質問が飛び出した。木塚の両手には汗がにじみでてきた。



「……はい」

「ホントのホントに?」

「そうです」

「なんで辞めようと思ったの?」

「……ついていけないからです」

「そっか。それは辛いね……」



 賢一は退部届を書き終えた。不思議にもこの生徒会の先輩と話している時は落ち着くことができたがこの先輩に話した事はほとんどが本音ではなかった。ひとまず終了。木塚の手の汗は引いていき、安堵からか微かに笑みもこぼれた。木塚と賢一は会話を交わした生徒会の女子の先輩に退部届を手渡して生徒会室をそのまま出ようとした。木塚がドアに手をかけようとした時、「待って!」と呼び止める声が二人の足を止めた。木塚はため息をこぼして賢一は後ろを振り向いた。



「伊達君だったっけ?」

「はい。そうです……」



 呼び止めた先輩の顔はどこか寂しさのようなものがつまった表情をしていた。数秒ほど3人の間に沈黙があったが彼女は賢一に何かを伝えたいと口を開いた。



「陸上部を辞めるのを私は止めないよ。私も部活を一度辞めてしまった人間だし。偉そうなことは言えない。でもなんだろう。このままで終わって欲しくないと思う。だから……その……とりあえずこれだけ覚えていて欲しいと思うの」



 次の瞬間に賢一の脳裏で深く言葉が刻まれた。




「逃げるのは簡単なことだよ」




 賢一の頭の中でハッキリと一つの言葉が蘇った。同時に何度も走馬灯のようにあの場面がリピート再生された。しかしいつまでも過去の映像に囚われてはいけない。今あの先輩がこうして図書室にいるのだ。その事実を確認して顔を上げてドアの方を見ようとした時、例の先輩が大きく目を開いて賢一の顔を覗きこんでいるのが目の前に飛び込んできた。


挿絵(By みてみん)


「お~い」

「わっ!」

「わぁ! ビックリした! どうしたの? いきなり?」

「いや急だからビックリしてしまって」

「そりゃこっちのセリフだよ。声かけても何も返事しないんだもん」

「はい……すいません……」

「謝らなくていいよ。何か考えごとでもしていたの?」

「は、はい」

「そっか。じゃあ、間違いないか。やっぱり、あのときの陸上部の子かぁ」



 生徒会の女子がそっと微笑んだ。彼女もまたあの日のことを忘れてはなかった。賢一のことを覚えていたのである。そう思うとどこか嬉しい気持ちにもなるが彼女がなぜ図書室にいるのかを考えると疑問が尽きない。そういえば図書部の二人組が「高木さんに宜しく」と言っていたが……この先輩こそがその高木さんなのだろうか。賢一があれこれ考えているうちに生徒会の先輩が話をかけてきた。



「お名前はなんだったっけ?」

「伊達……賢一です」

「そうそう伊達君だったね! 思い出した! お元気していた?」

「はい……元気です……」

「へぇ~あれから図書部に入ったの?」

「いや……ボクは図書部じゃないのです」

「え? それはどういうこと?」

「あの……その…………ボクは文芸部です」

「文芸部!」



 生徒会の女子の目が大きく開いて輝いた。「文芸部」という言葉を発するのに相当な勇気がいった賢一だったが思わぬ反応が返ってきたので素直な驚きを隠さずにはいられなかった。この先輩は「文芸部」を知っているのだ。



「あ、そうだ。私、高木玲といいます。このたび生徒会で文芸部の担当になったの。よろしくね。でも、そっかぁ~もう一人の部員が君だったとは……これはある意味で運命だね!」




 賢一も認める美人の高木が「運命」と言ったので思わずドキッ! としてしまう賢一だった。とりあえずこの生徒会の人が高木さんであることは確定した。この状況、頼りになる悟がいて欲しいと思わずにはいられない――



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