万事塞翁が馬
6月に入ると、練習もやっと軌道にのり、吹奏楽部の
パートアンサンブルも、後、出来てない部は、パーカスパートと
低音パートだけになった。
低音は、コンバスが独自にやりたいというので、案がやりなしとなったそうだ。
一応、合奏の時間をとって、それぞれのアンサンブルを 聞いてみた。
童謡から、民謡、popまで多彩にとんでいて、たまにコントも入ってる
パートがあるので、俺でも聞いていておもしろかった。定期演奏会では
大うけするだろう。
問題は、課題曲のほうだった。
長くはない曲のようだけど、どうも苦戦してる。特に1年生。
しょうがないよな。楽器未経験者がいるんだ。
そうこうしてるうち、俺は試験答案作りに入った。
職員室では、いろいろ騒がしくで 集中できない場合もあるので、
草稿は家で、うなりながら考えてる。
生徒も部活禁止。勉強に集中すれって事になった。
生徒は部活禁止だけど、教師はそうでない。トホホ。
俺は美術部に頼んであったポスターを、貼るのに動きまわった。
まず、校内掲示板。会場となるホールの掲示板。
あと駅構内の掲示板にも張らせてもらった。生徒がよく行く喫茶店。
あと、定期的にメンテにきてくれる楽器業者さんが、貼ってくれる所
があるので、残りをお任せした。
メンテに来てくれる業者は、楽器も販売・レンタル事業もしてる。
そちらの営業を考えると、このくらいは、当たり前のサービスなのだろう
ちなみに、どの部もすべて赤点をとった生徒は、部活禁止措置だ。
(追試の代わりに課題が出るので、そちらを優先しなさい という
学校側の温かい、余計なお世話といえる措置だ)
うちの吹奏楽部も、パートを超え、お互いに試験対策で勉強したりする。
吹奏楽部の練習がなくなると、それはそれで寂しい。
と、同時にやり残した仕事は、と心配になってくる。
まだ、製本作業がのこってる。
後、当日、トラックから楽器を上げ下ろしするのも、俺は初めての
経験で心配だ。一応、教員には手伝いを頼んでるが。
主にパーカスと低音楽器を積むのだが、パーカスはなにせ重い。
うちの先生方と部員だけで なんとかなるだろうか。。
試験終了と同時に、部員、全員でプログラムの製本にかかった。
A3の厚めの紙に両面印刷された原稿3枚を 重ねて真ん中でとめ、
折るだけの単純作業だが、700部となると、さすがに大変だ。
部員はというと、楽しそうにお喋りしながら、作業してる。
自分たちで作ったって思いが強いからかな、誰も満足そうにしてる
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あっというまに、定期演奏会当日。
俺は力仕事も得意なのだが、当日は作業の指揮にあたる。出来るのか俺・・
楽器運搬は、積み込みの時は、パーカス部の指示でみんな動いた。
喜ぶべきは、サッカー部部員が、手伝いに来てくれた。
「ありがとうございます。村山先生、助かりました。練習中に申し訳ないです」
「まあ、前顧問のよしみってことで。数人、だけで大丈夫だろう。
なんでも、あいつらに指示してやってくれ」
確かに、体育系男子高校生の力は大きかった。
サッカー部、全員、演奏会に来てくれるそうで、終わったあとの積み込みも
手伝ってくれるという。俺の心配事が一つへった。
ステージのお立ち台については、会場のスタッフが主に働いてくれた。
椅子などの配置は、パートリーダーを中心に、部員にテキパキ指示してる。
頼りになるな~~。俺は、あわてて、配置図をメモした。万が一、来年も
吹奏楽部の副顧問をまかされた時、忘れないようにだ。
昼は、全員に弁当が配られた。(校長先生のおごりだそうだ)
さあ、午後からはリハーサルだ。
満腹になった部員もいるが、もう緊張で半分も食べられない子もいた。
俺は、”ちゃんとくっとけ、持たんぞ”という前に、パートリーダーが
食べられない部員を励ましてた。
俺は手伝いに来る先生方を待つのにホールの前にいた。
車椅子の人が、押されながら入って来た。
あ、浜岡先生だ。先生~~!お待ちしてました。
正直、怪我で立てないから、諦めていた。
「指揮者の浜岡先生を連れてきました。
先生は、短時間なら立つことは出来るそうですが、指揮は無理だそうです。」
「面目ない、ギリギリになってしまったが、最後の課題曲演奏だけは、なんとか」
俺は、先生の手をにぎり、よろしくお願いしますと頭をさげ、たまたま居合わせた部員に
全員に知らせるよう指示した。
その部員は、慌てながら、全力でダッシュで部員を呼びに行った。
「それと国井先生、当日の受付は、うちの合唱部がお手伝いします。
チラシ入れもあるかもしれませんし、5時には揃います。」
俺は桜井先生に頭をさげ、助かりますと伝えた。
で、チラシ入れってなんですか??と聞くと、ため息をついて、説明してくれた。
「他の音楽団体、コンサートなどの、事前の宣伝に、プログラムにチラシを
入れる事が多いんです。大抵はその団体の責任者から、事前の確認がくると思うの
ですが。。今年は、それほど数が多いわけじゃありません。電話のほうは、
私が受けました。国井先生は本当にお忙しそうで、私は前の副顧問として、
何も力になれませんでしたので・・びっくりさせるつもりはなかったのですが、
まさか、国井先生がチラシの事をまったく知らないと思ってませんでしたので・・」
合唱部と桜井先生には、借りができた。
おそらく、今度、合唱部が定期演奏会をするなら、ウチが手伝う事になる。
それはいいが、音楽室の独占も考えてみれば、吹奏楽部も我儘だったかもしれない。
そうこうやり取りしてるうち、部員たちがこちらにかけて来た。
全員いる。先生~~っていいながら駆け寄ってくる。
「心配かけたな。さあ、リハーサルする時間だな。
課題曲は俺の指揮だ。”車椅子の指揮者”ってカッコいいだろう」
「はい」という部員たちの元気でイキのあった返事で、浜岡先生を中心に
部員達はホールに入って行った。
俺の苦闘にみちた日々も、もう終わりが近いだろう。
~~~~~完~~~~~
読了、ありがとうございました