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■第2話「通用しない手札」

 勝てる戦いには、共通点がある。


 それは。


 自分のやり方が通用すること。


 どれだけ相手が強くても。

 どれだけ状況が不利でも。


 自分の手札が意味を持つ限り、勝負は成立する。


 だが。


 その前提が崩れた時。


 戦いは、成立しなくなる。



 雨宮澪は、三度目の試行を終えていた。


「……全部ダメ」


 椅子に深くもたれ、天井を見上げる。


 通常の拡散。

 意図的な炎上。

 ターゲットを絞った誘導。


 どれも、反応しない。


「いや、正確には」


 視線を画面に戻す。


「“反応させてもらえない”」


 指でスクロールする。


 投稿は存在している。


 だが、届かない。


 表示されない。


 埋もれる。


「ここまで露骨だと笑えるな」


 軽く笑う。


 だが、内心は冷静だった。


 これは。


「完全に上位互換」


 同じことを、もっと上のレベルでやられている。


「そりゃ勝てないわけだ」



 如月玲は、別のアプローチを試していた。


「直接行く」


 小さく呟く。


 アルゴリズムの外側から、内部へ。


 通常の経路ではなく、例外ルート。


 深く潜る。


 侵入する。


 だが。


「……弾かれた」


 即座に遮断される。


 しかも。


「早すぎる」


 検知が異常に速い。


「これ、人間の反応じゃない」


 氷室が頷く。


「自動化されているな」


「それも、かなり精度高く」


 如月は舌打ちする。


「隙がない」



 レギオン本部。


 空気は重かった。


「完全に封じられてる」


 堂島が言う。


「何やっても通らない」


「想定以上だな」


 鷹宮が静かに言う。


「ここまで徹底されるとは」


 神崎が口を開く。


「しかも、ただ遮断しているだけじゃない」


「どういうことだ」


「必要な情報は、ちゃんと流れているんです」


 その一言で、全員が気づく。


「……選んでる」


 如月が呟く。


「通す情報と、通さない情報を」


「つまり」


 氷室が続ける。


「完全に制御されている」



 一方。


 黒鉄蓮は、ある施設の前に立っていた。


 巨大なビル。


 久我玲司の会社。


 その一角。


「ここか」


 小さく呟く。


 物理的な接触。


 情報ではなく、現場から崩す。


 それが今回の役割だった。


 中に入る。


 警備は厳重だ。


 だが。


 それも想定内。


 すでに別の“顔”で侵入している。


 受付。


 通過。


 エレベーター。


 すべてが自然に進む。


 だが。


 違和感がある。


「……静かすぎる」


 人はいる。


 動いている。


 だが。


 どこか、均一だ。


 まるで。


「整えられてる」



 白鷺悠真は、別の場所で対話していた。


 相手は企業関係者。


 情報を持つ人間。


「最近、どうですか」


 軽く話を振る。


「いやあ、忙しくて」


 自然な会話。


 だが、その中に。


 わずかなズレ。


「……同じこと言うな」


 心の中で呟く。


 別の人物でも。


 別の場所でも。


 似たような言葉。


 似たような反応。


「これも、か」


 情報だけじゃない。


 人の認識も。


「揃えられてる」



 神代昴は、静かにそのすべてを見ていた。


「完全に支配しているな」


 小さく言う。


 情報。

 認識。

 行動。


 すべてが、久我の掌の上。


「いい」


 わずかに笑う。


「だからこそ」


 価値がある。


「だが」


 視線を落とす。


「このままでは、勝てない」


 それも事実。


 通常の手段。


 これまでのやり方。


 すべてが通用しない。


「なら」


 思考を切り替える。


「やり方を変える」



 雨宮澪は、再び画面を見ていた。


「情報が通らないなら」


 小さく呟く。


「別の方法」


 考える。


 そして。


「……ああ」


 気づく。


「そういうことか」


 口元が上がる。


「なるほどね」



 時任紗那は、ログを更新していた。


「プロジェクト・オーバーライト」


 その進行状況。


 成功率。


 分岐。


「……ここまで想定通り」


 だが。


「ここから」


 視線が変わる。


「分岐点」


 次のルート。


 これまでとは違う。


「情報を使わない」


 その選択。



 久我玲司は、静かに目を閉じていた。


 すべてが、順調。


 抵抗も、想定内。


 問題はない。


「勝てる」


 そう確信している。


 なぜなら。


「すべて、見えている」


 相手の動き。


 選択。


 思考。


 すべてが、予測できる。


 だから。


「負ける要素がない」



 だが。


 その前提が。


 もし。


 崩れたとしたら。



 オラクルの手札は、通用しなかった。


 完全に。


 徹底的に。


 封じられた。


 だからこそ。


 ここから先は。


 “別の戦い”になる。

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