■第1話「プロジェクト・オーバーライト」
現実は、書き換えられる。
それが事実であるかどうかは関係ない。
人がそう認識した瞬間、それは“現実”になる。
だから。
情報とは、ただの記録ではない。
選択を決める力だ。
⸻
雨宮澪は、モニターを見ながら指を止めた。
「……完全に握られてる」
画面には、複数の投稿。
どれも、通常なら拡散されるはずの内容。
だが。
「届かない」
途中で止まる。
消える。
沈む。
「これ、やばいな」
軽く笑う。
だが、その目は笑っていない。
今までとは違う。
これは単なる対抗ではない。
「世界の上から被せてきてる」
言いながら、キーボードを叩く。
別のルート。
別の拡散。
別の方法。
だが。
「全部、弾かれる」
結果は同じ。
まるで。
「選ばれてる」
必要な情報だけが通る。
それ以外は、存在しないものとして処理される。
「……そっか」
小さく呟く。
「これが、あいつのやり方」
⸻
久我玲司は、静かに画面を見ていた。
流れていくデータ。
人の行動。
選択。
すべてが、予測の範囲内に収まっている。
「いい」
小さく言う。
「非常にいい」
外部からの干渉。
それも確認している。
だが。
「問題にならない」
画面を切り替える。
優先順位を調整する。
それだけで。
見える情報が変わる。
結果として。
人の行動も変わる。
「抵抗は、予測済みだ」
だから。
「対処も済んでいる」
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如月玲は、苛立っていた。
「……入れない」
何度試しても。
何度ルートを変えても。
核心に届かない。
「壁がある」
それも、ただの防御ではない。
「選別されてる」
アクセスそのものが制御されている。
まるで。
「こっちの行動、全部見えてるみたい」
その言葉に、氷室が頷く。
「可能性は高い」
「は?」
堂島が眉をひそめる。
「そんなことできるのかよ」
「理論上は可能だ」
冷静な声。
「行動パターンを予測し、最適な情報だけを提示する」
「つまり」
神崎が言う。
「私たちも、誘導されている?」
その一言で、空気が変わる。
⸻
鷹宮龍斗は、静かに目を閉じた。
考える。
これまでの動き。
情報。
違和感。
そして。
「……そういうことか」
小さく呟く。
「どういうことですか」
如月が問う。
「我々は」
ゆっくりと言う。
「見せられている情報の中で、最適な選択をしている」
沈黙。
「だが」
視線を上げる。
「その“最適”自体が、設計されている」
誰も言葉を返せない。
それが事実なら。
すべてが崩れる。
⸻
神代昴は、静かにその状況を見ていた。
「やはりそう来るか」
小さく言う。
久我玲司。
情報の支配者。
「いい」
口元がわずかに上がる。
「理想的だ」
強い相手。
だからこそ。
価値がある。
「澪」
短く呼ぶ。
すぐに通信が繋がる。
「なに」
「状況は」
「最悪」
即答。
「完全に上取られてる」
「そうか」
昴は淡々と頷く。
「なら、予定通りだ」
「……は?」
澪が一瞬黙る。
「どういうこと?」
「そのまま続けろ」
それだけ言う。
「すべて予定通りだ」
通信が切れる。
澪はしばらく画面を見つめたまま。
そして。
「……なるほどね」
小さく笑った。
「そういうことか」
⸻
黒鉄蓮は、街を歩いていた。
視線。
人の流れ。
広告。
すべてが自然に見える。
だが。
「違う」
小さく呟く。
配置されている。
選ばれている。
見せられている。
「なら」
足を止める。
「見せられてないものを探すか」
⸻
白鷺悠真は、静かに考えていた。
「情報で動くなら」
小さく呟く。
「情報を使わなければいい」
単純な話だ。
だが。
「それが一番難しい」
人は、必ず情報に頼る。
だからこそ。
「そこを崩す」
ゆっくりと立ち上がる。
「面白くなってきた」
⸻
時任紗那は、ログを更新していた。
「プロジェクト・オーバーライト」
入力する。
新しい作戦名。
新しい構造。
複数のルートが展開される。
「成功率、低下」
小さく呟く。
だが。
「問題ない」
別のルートを確認する。
「むしろ」
視線が止まる。
「ここから」
⸻
久我玲司は、静かに笑っていた。
「いい」
小さく言う。
「非常にいい」
外部の干渉。
抵抗。
すべてが、予測の範囲内。
「だから」
画面を閉じる。
「崩れない」
この世界は。
すでに。
完成している。
⸻
だが。
その“完成”は。
まだ。
誰にも見えていない。




