第四話 伏兵エルピス
王の居る城では会議が開かれていた。総勢八名、国に勤める責任者の立場にある者達が集っている。
しかし、その場に王の姿はなかった。それもそのはず、これは王の為に開かれた会議であり、その議題は、王が殺されたことに関するものだからだ。
「反逆者めが。一体なぜ王を殺めたというのだ」
「反逆者だから、でしょう? はぁ、それにしてもタイミングが悪かったですね。騎士団長であるあなたが離席している時に全滅だなんて」
「全くだ」
王直属の護衛騎士団団長の男が顰め面で呟くと、愚問だと言うように細身の男が続けた。細身の男は確か、霊圧士だとか名乗っていた気がする。
「まぁ落ち着いてください。いえ、正直私が一番落ち着けていないのですけれど、とりあえず状況を整理させてください。私の為にも」
王の息子、つまりは王位継承権である男がそう言うと、全員が黙り込んだ。
「私の父、もとい国王は何者かの手によって殺されました。それも、団長不在とはいえ騎士団の護衛がある中で……」
「考えられるのは二つだ。相当な手練れか、国王陛下にとってとても信用に値する人物による不意打ちか。まぁそれか両方だな」
「もしそうなら、まず確認すべきは訪問客だね。門番、えーと、リフティさん。今日は何人お客人が来たのかな?」
門で人々の城の出入りを管理している受付嬢である、リフティという人に視線が集まる。
「誰も訪れていません。城の中の者が出入りすることはありましたが、真新しい人は見かけていません」
「なるほど。では騎士団長、あなたの所見で構わない。凶器はなんだと思いで?」
流れ的に霊圧士の男が順番に条件を整理し始めた。強面の騎士団長がぐっと背もたれにのしかかり、機嫌悪そうに唸りながら記憶を辿る素振りを見せる。
話によれば、騎士団長が現場の第一発見者らしい。
「ああ、剣だろうな。別に殺人現場に詳しい訳じゃないが、これでも騎士団長、剣の道は極めているつもりだ。ただそれ以上の事は何も、強いて言うなら魔法は使われてない」
「魔法痕は残されていないと。お二方の証言から推察するならば、犯行は普段この城に常駐している者によるもので、かつ剣の扱いに長けている者ということになる」
魔法痕……なるほど、こいつら、魔法の痕跡を辿る方法を知っているのか。運が良かった、偶然にも魔法を使わず殺していて正解だ。
議論が進むに連れて、凡そ犯人の目星もついてくる。それが正解か否かはさておき、恐らくこの場に居る全員口に出さずとも一つの仮説が脳裏を過ぎったことだろう。
「多分、皆口に出しにくいだろうから、あえて私から問います。騎士団長、誓って部下による反逆は無いと言えますね?」
「無論」
その言葉に濁りは無く、その瞳に嘘は紛れていなかった。
王位継承者によるその問いは、ある種の警告とも取れる。だがきっと、この騎士団長はその意に関わらず自らの任務と責務を全うすることだろう。
皆が異論を唱えることなく頷き、一瞬だけ沈黙が訪れる。次の推理の手順を立てているはずだ。
「だーうっとうしいな」
隣からのそんな声によって沈黙は絶たれた。騎士団長の声だ。見ると、薄暗い円卓の上空に居る何かを払いのけようとしている。コウモリだ。
「だーあー、そんな剣を振り回さないでくださいな。危ないですって」
とても剣を振り回されては気が気じゃなかったので、今まで一言も発さず乾ききりそうだった口を動かすことにした。
「仕方がないだろう、先程からずっとここら辺をうろちょろしているんだ。鬱陶しいにも程がある」
「まぁ落ち着いてください。そういえば、君にまだ聞いていませんでしたね。武器庫の管理人であるリュウ」
王位継承者による発言で、一気に視線が一つに集中した。そんな名前だったのか。ボクは今初めて、自分の名前を知ることになる。
さて、予定は少々狂えど、ここからが伏兵エルピスの腕の見せどころだ。




