13. しゅっぱつ の とびいり
よろしくお願いします。
「すまないな、みっともないところを見せて」
冒険者ギルドを出たところで、アークさんが僕達に謝罪してくる。
「いや、特に気にはしていませんが……それにしても、アークさんと彼らはどういう関係なのですか?パーティというにはランクも実力も離れている様ですし、指導する側とされる側という態度でもないですが」
ギルドを軽く振り返りながらのアリサの質問に、アークさんは彼らと行動することになった経緯をざっと話してくれた。
なんでもアークさんと『進撃の聖剣』が出会ったのは、以前ケイ達から聞いた、アークさんのパーティが彼を残して全滅した事件の時。
アークさんのいたパーティが依頼を受けて森の奥まで入っていた際に、運悪く『マッドサイドエイプ』という4級モンスターの群れに遭遇してしまう。
マッドサイドエイプというのは大型の猿の形をした魔物で、知能が高く動きも俊敏、力も強いため4級認定となっている。
ただこの4級というのは、あくまで1匹に対する認定。
というのもこいつは群れで行動する習性があり、群れごと相手にする場合は、群れの規模にもよるけど最低でも3級以上の認定となる。
アークさん達はその時、討伐対象であった別の大型魔物との戦闘後で消耗していたというのもあって、完全に不意を突かれた形となってしまった。
そして乱戦の中仲間ともはぐれて、命からがら1番近くにあった村までたどり着いたアークさんを助けたのが、その村に住んでいたあの3人だったのだそう。
そしてキャリーとマクトがアークさんの手当てをし、ヒルスが必死でドーヴに走ってギルドに通報したことにより、討伐隊が組まれてマッドサイドエイプの群れは討伐された。
アークさんの仲間達は助からなかったものの、彼にとっては3人はまぎれもなく恩人だ。
その後アークさんはドーヴに戻り、仲間を一度に喪ったショックもあって一線からは退いて、新しいパーティを組むこともせずに新人の育成などを中心に活動するようになった。
またしばらくして、地元の村で冒険者の真似事をしていた3人もドーヴに出て来て、パーティ『進撃の聖剣』として正式に冒険者登録。
アークさんは命を救ってもらった恩もあり、出来るだけ彼らと一緒に行動するようにして、自分がこれまで培ってきた冒険者としての知識や経験を伝えていた。
というのが、アークさんと『進撃の聖剣』とのこれまでの経緯。
事情はわかったし、アークさんが彼らを気にかけるのも理解は出来る。
出来るのだけど……
「あの、余計な口出しかとは思うんですが、彼らのアークさんや周囲に対する態度、あんまり良い状態とは思えないんですが……」
「確かにその通りではあるんだが、実際に命を救ってもらったこともあるもんだから、そこまで強くは言えなくてね」
「気持ちはわからないでもないですが……」
でもそれと彼らの現状を放置するのとは別の話だよなあ。
いくら恩があるとはいえ、叱る時はちゃんと叱らないと増長するばかりになる。
冒険者というのはなんだかんだで、お客さんに対しても同僚に対しても信用の商売。
信用が低ければ当然仕事は減るし、仲間からの対応だって変わる。
この危険と隣り合わせの仕事で、いざという時に周囲から助けてもらえるかどうかというのは、それこそ普段からの自身の態度によるものだ。
これは冒険者に限った話でもないのだけれど。
まあ彼らのことも気にはなるけど、ここでいつまでも悩んでいても仕方ない。
今回の依頼には彼らは参加しないということで、考えるのは後回し。
ということで僕達は、正午前くらいに運輸ギルドの前に集合することにして、それぞれ準備のためにその場は別れることにした。
ところがどっこい。
僕達はその後すぐに彼ら『進撃の聖剣』と再会することになる。
現在僕達は、運輸ギルドで借りた馬車に乗って、今回の依頼の調査場所へと向かっている。
例によって馬車運の無い僕。
運輸ギルドではちょうど良い時間に出発する乗り合い馬車に空きを見つけられず、仕方なく馬車を借りようと思ったら、危険な場所に行くということで壊されちゃ困ると貸し出しを断られてしまう。
受付の人に「馬車くださぁ~い」と鳴いてねだった結果、馬車に御者が付いて、目的地までの送り迎えをしてくれるということで話が付いた。
要はチャーターである。
馬車は今回の調査場所まで僕達を送った後少し離れた所にある村で待機して、僕達を下ろした翌々日の朝に1度迎えに来てくれる予定。
実際のところ、この方が助かる。
馬車を借りて行くとなると、調査をしている間必ず最低1人は馬車の守りに残さなきゃいけなくなるわけで。
今回はいつぞやのオークでの人質救出作戦と違って、戦力のダウンは純粋に避けたいところ。
実はこんな風に冒険者の送り迎えをすることもたまにあるんだそうで、先日もらったばかりのランク3級のギルド証を見せたらすんなり話が通った。
さすがに3級ともなれば影響力が違う。
ちなみに料金は送り迎えで銀貨5枚。
そんなわけで僕達は、移動の足を調達した後は運輸ギルドの周辺で軽く買い物をしたりして、最後の準備を済ませる。
昼前に皆が集合したら御者さんに挨拶して馬車に乗り込んで、御者さんの「それじゃ出ますんで、道中よろしく」の声でドーヴを出発した。
通りを抜けて東門から町を出て、舗装された山道を少し進んだ所でそれは現れた。
「おーい!」という声が後ろから飛んで来たかと思うと、声に気づいた御者さんがスピードを緩めたところを狙い、車に駆け寄って乗り込んできた人影が3つ。
見ればそれは『進撃の聖剣』の面々だった。
「お、お前ら!」
と慌てて声を上げるアークさんに対し、彼らは
「へへ、やっぱりアークだけじゃ心配でさ!」
「感謝しなさいよ。私達が一緒に行ってあげるんだから」
「あんた達だってアークだけじゃ頼りないだろ?僕達が協力してやるよ」
などと言いながら笑顔で馬車に座り込む。
アークさんはそんな彼らを少しの間困ったように見ていたけど、やがて軽く息を吐いて、
「……わかった。だがくれぐれも無茶なことはするな。必ず俺か、この人達の指示を仰ぐんようにするんだ」
と言った。
アークさんの了承を得られて、
「そうこなくっちゃ!」
「それくらいのこと、言われなくたってわかってるわよ」
「なあに、僕達なら何が出たって平気さ」
と喜ぶ彼ら。
えぇ~OKしちゃうの?
町を出る前のアークさんの態度を見るに、彼らの実力はランク相応のものだというのは見当が付く。
これから行く場所にゴブリンがいるのか野盗がいるのかはまだわからないけど、何にせよ彼らでは力不足なのは間違いないだろう。
連れて行くなんて不安要素以外の何物でもない。
僕はアークさんの背中をつついて小声で呼び掛ける。
「ちょっとアークさん!?」
「すまないな。こいつらの面倒は俺が見るから」
面倒は俺が見るて……
どう見てもアークさん、彼らを御しきれてないよね?
アリサとユーナに目をやると、2人そろってため息を吐きながら首を横に振った。
『進撃の聖剣』の3人は完全に行く気満々で、歓声を上げながら談笑中。
どうしようかな。とりあえずここは様子を見て、後は行った先に何がいるかと、彼らの動きなどを見て対応を決めることにしようか。
本当に最悪の場合は、この依頼を降りるというのも選択肢のひとつに入れておこう。
アリサとユーナには後でこの件を相談するとして……そうだ、御者さんには一言言っとかないと。
僕は御者台に這い寄って、手綱を取る彼に声をかけた。
「すみませんね。いきなり人数が増えちゃって」
彼は軽く頷くと、後ろにちらりと目をやって小声で話しかけてきた。
「いやまあ、あっしの方はやることは変わらないんで別にかまわないんですが……良いんですかい?」
「良いというのは……」
「いえね?あっしもこうやって冒険者さんを乗せることもあるし、少々危険な所に行くこともあるんで。ああいう言うことを聞かねえ連中を連れ歩くのが、危ねえことだってのはわかってるつもりなんで」
やっぱり御者さんから見てもそう思うか。
僕は彼の言葉に軽く頷く。
苦い顔をしていたという自覚はある。
「そこら辺は……まあ、なんとかするしかないですね。彼らがどう動くかを見て、僕達もちょっと考えます」
僕の返事に御者さんも頷いて「あっしも仕事に慣れたばかりの頃はよく勝手なことをやろうとして、その度に親方からどやしつけられたもんです」と低く呟いた。
曇り空の下、馬車は見た目のんびりと、ラサギへと向かう山道を進んで行く。
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