6. らんく の しょうきゅう
よろしくお願いします。
執務室のドアをノックして部屋に入ると、机に座っていたキサイギルドマスターが立ち上がって、僕達に長椅子を勧めてきた。
僕達が椅子に座ったところに、後ろからノックの音がしてソランさんが入室。
ギルドマスターも対面に座ってテーブルにギルド証を2枚並べ、ソランさんはその後ろに控える。
「おはよう。まずはアリサとコタロウの3級ギルド証が出来たので2人に渡します。ただ今を以て、2人は3級冒険者に昇格しました。今後の更なる活躍を期待します。今までのギルド証は回収するのでここに出してください」
僕とアリサが新しいギルド証を受け取り、それまでの6級と7級のギルド証をテーブルに出すと、ソランさんがその2枚を回収する。
「なんだか、一気にランクが上がったからあまり実感がわかないね」
「それを言ったら私なんか、冒険者登録してまだ1ヶ月かそこらしか経ってないぞ」
これまでのよりもしっかりとした作りになり、若干の装飾もされて幾分豪華感が増した新しいギルド証を見せ合う僕達。
そんな僕達を見て、ギルドマスターは軽く笑みを浮かべている。
「ユーナの昇格については先日も言った通り、現在冒険者ギルドの本部に報告を上げて、その回答待ちの状態です。悪いんだけどもうしばらく待ってちょうだい。2ヶ月まではかからないと思うのだけど」
ギルドマスターの言葉に僕達は首肯する。
お金にはまだ余裕があるので、待機については問題ない。
とはいえ、この状態では何か依頼を受けるにしても、
「じゃあ馬車とかの護衛依頼なんかは、町から離れることになるので受けない方が良いですかね?」
「そうね。駄目とは言わないけど、出来るだけこの町にいてくれると助かるわ」
どのみちしばらくはこの町に滞在することになるわけだ。
なら依頼は採集ものあたりを受けるようにしてればいいか。
「それから、例の魔物の買い取りについてなのだけど、何分大物なので査定とお金の用意に大体後半月程見ておいて。それと装備品の作成については、こちらは大体1ヶ月半くらいかかると報告がきています。注文のあったマジックバッグは、買い取り額の支払いと一緒の時でいいかしら?」
「はい、それでかまいません」
特に急ぐものでもない。
「後は、今日を以て封鎖されていたドーヴとホウロ間の道が解放されたわ。ただ一応、今後も2都市で連携して周辺の調査は続けるから、報告まで」
あの山道通れるようになったのか。
てことは馬車などの通行も再開して、ガンユさんや『斬羽ガラス』の人達もそのうちドーヴに来るかな。
ギルドマスターはそこまで言うと、僕達の顔を覗き込んできた。
「ソランから聞いたのだけど、あなた達用事が済んだらこの町を発つんですって?」
彼女の言葉に僕達は頷く。
「はい、ちょっとやりたいことがあってグランエクスト帝国まで行く予定です」
「帝国……何をしに行くのか訊いても?」
「冒険者として生きていくのに強力な装備がほしいんです。大きな国だから、何かあるんじゃないかなって。それともう1つ、美味しいお魚が食べたい」
グランエクスト帝国は、この大陸の南方一帯を支配する大国。
南の海に広く面しているので、そこまで行くことが出来れば新鮮な魚介類の入手が期待出来る。
南方の海の魚が食べ放題……
もうそのためだったら、オブシウスドラゴンのウロコなんか全部投げ売っても悔いはないもんねふっふっふ。
僕の答えに、ギルドマスターは「魚?そ、そう……なるほどね」と戸惑いながら息を吐く。
そして僕の横ではアリサとユーナが2人して「こういうやつなんです」「すみません」と頭を下げている。なんなのさ。
「まあ、高ランク冒険者はなかなか得難い人材なので、出来れば滞在中に気が変わってくれることを期待します。後、最後にもう1つ」
ギルドマスターはそう言うと、後ろに控えていたソランさんに目で合図する。
すると彼女が前に進み出て口を開いた。
「えーと、まずは皆さん高ランクへの昇級おめでとうございます。それで早速なんですが、皆さんには礼儀作法についての講習を受けていただきます」
「礼儀作法の講習?」
なんだそりゃ。そろって首をかしげる僕達3人。
「皆さんは高ランク冒険者になるということで、これから要人の依頼を受けることも出てきます。そうなった時に失礼な態度で先方を怒らせたりしないための講習です。こう言ってはなんですが、冒険者の皆さんは……」
「あ~、そういうことですか」
この冒険者という職業、元は平民のはみ出し者達の中で腕に覚えのある者達が集まって、自警団のようなものを組んだのが始まりという説もある。
石を投げれば荒くれ者に当たるのがこの業界だ。
当然要人相手の礼節など望むべくもない。
だからといって、政府高官やら国賓やらに無礼な態度など取ろうもんなら、冒険者という職業そのものの信用に関わる。
なので高ランクに上がる人には、そうやって礼儀作法を教え込んでおくというわけか。
中にはどうしても堅苦しいのが合わないという人もいるとは思うのだけど、きっとそういう人は一定以上ランクを上げないとか、要人相手の依頼は受けさせないとか、そういう対応になるんだろう。
「えぇ〜、なんだか面倒そうだな」
顔をしかめるユーナ。
ユーナが元いたコモテのギルドでは、そういうのは無かったのだろうか。
そんなユーナを見ていたアリサが、ふと思いついたように口を開く。
「ん?でもそれだったら私達が教えてもいいんじゃないか?」
「ああ、そうだよね。僕達だったらそういう作法とかわかるし」
「おや、アリサさんとコタロウさんは、そういった要人対応の経験がおありですか?」
僕達の呟きに、ソランさんが首をかしげてこちらを見る。
「まあ要人対応っていうか。僕達隣のアト王国の出身なんですが、僕は元々貴族の家の出でアリサは騎士なんですよ」
「ああなるほど、それだったら礼儀作法なんかも……」
「大丈夫だよユーナ。偉い人とか貴族なんてのは口先だけだから。適当におだてて合わせておけばいいの」
「はい、やっぱり不安ですね。皆さん、講習は明日の朝から3日間を予定してますので、忘れないようにしてくださいね」
「あれぇ?」
「コタロウ……」
「なんでキミはそう……」
こうして僕達3人、明日から礼儀作法の講習の受講が決定。
僕は奥様2人に睨まれながら、冒険者ギルドを後にするのだった。
なんていうか、ごめんなさい……
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