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9. きけん の しょうたい

よろしくお願いします。

「……へ?」


それは、道脇の木々を押し退けて、森の中から突然現れた。


本当なら、その巨体が立てる地響きに気付いていただろうし、気付かなきゃいけなかった。


でもこの時ばかりは僕達も、そしてタイタニックアダーでさえも、目の前の敵に気を取られて気付くことが出来なかった。



「嘘……」


それは、高さが5mを超えるかという巨体。


たった今、僕達の目の前でタイタニックアダーの頭を容易く噛み砕いてみせた、巨大な顎を備えた頭部。


その頭から巨木のような尻尾の先までは、15mにも届くだろうか。


その身体を支える大きな後ろ足に対して、前足は矮小な程に小さい。



「一体……何だ……?こんな……巨大な……」


黒ずんだ灰色の鱗に覆われた体表。


そして何より目を引くのが、片刃の剣のような形で鼻先から生えた、まるで血のように紅い1本角。



「ティラノ……サウルス……?」


そう、それは前世のテレビで見たティラノサウルス。


あの番組で見たものよりも身体のあちこちが刺々しいし、何よりもあんな角なんて無かったと思うけど、それでもその姿は紛れもないあの恐竜の王だ。




そいつは頭を噛み潰してそのまま咥えていたタイタニックアダーを地面に投げ捨てると、一度僕達の方に視線を向け、それから大蛇の身体から流れる血液をペロペロと舐め始めた。


僕達はというと、あまりの事態に全員が完全に固まっており、誰も1歩もその場を動くことが出来ない。


そんな中で最初に僕が声を出すことが出来たのは、実はかなりやっとのことだった。


「ねえ、アリサ、ユーナ、これ……何?」


「すまないが……見たことも聞いたことも無い」


「ごめん、私も……」


僕の震え声での問いかけに2人が頭を振る中、かすれた声で口を開いたのはガンユさん。


「あの赤い一本角……まさかブラッドレクスか……?」


「ブラッドレクス……一応訊きますけど、ランクは?」


「……確か、1級」



ランク1級認定。


1頭で都市を落とせる強さの魔物。


先日の地震の影響か何かで、それまでの住み処から移動して来たか。


この森に生き物の気配が無いのも、さっきの魔物の群れもついでにタイタニックアダーも、多分こいつから逃げていたんだな。


毎度毎度思うことだけど、なんでこんな奴がこんな所に!!



「ちなみに、やっつけた経験なんかは……」


「あると思うか?」


「ですよね……」


僕とガンユさんが小声で話していたその時だった。


僕達の後ろで、どさり、という鈍い音。


見ると『斬羽ガラス』の人達が地面に尻餅をついている。


「こ、こんな……無理……私達……死んだ……」


その場にへたり込み、涙声でうわ言を呟くリヴさん達。



そして、今の音が聞こえたのだろう。


それまで地面に流れる血を啜っていたブラッドレクスの眼差しが、じろりとこちらを向いた。


既に確保した食料よりも、まだ生きている獲物を片付けるのが先とでも考えたか。


地響きと共にゆっくりと僕達に向かって歩き出す。



「ひ……いっ……!」


その場にいる皆が気圧され後退る。


その中で僕は、体の震えを無理矢理押さえ付け、込み上げてくるものを強引に飲み下し、ブラッドレクスに向かって1歩踏み出した。


毎度のことだけど、恐怖に怯えるのは後回し。


今は動かなければ、この場にいる全員が死ぬ。


僕は絶対に、最後まで、生きることを諦めない!



僕はマジックバッグから、白いラインの入ったボトルを取り出した。


布に着火して、ブラッドレクスの注意を引くように相手の前でチラチラと左右に振ってみせる。


そして相手の気が火に向いたところを見計らい、森の中に思い切り放り投げた。


中身は露店などから格安で買ってきた、古くなって食べられなくなった麦粉。


用途は煙幕。


他になんか空中に粉を撒き散らして火を着けると爆発することがあるらしいので、上手くそれが起こればお慰み。


ついでにブラッドレクスもそちらに注意が向いてくれればお慰み……



放り投げた白ボトルは森の木にぶつかって砕け、パッと麦粉が周囲に撒き散らされる。


次の瞬間、布の火がその粉に引火して爆発!


周囲に轟音が響き渡った。


でもブラッドレクスは一瞬森に目を向けたのみで、再び僕達に向けて歩みを進める。



駄目か。


ブラッドレクスの動きは今のところ遅い。


まだ様子見しているのか、少なくとも僕達に驚異を感じていないのは間違いないだろう。


今の内に考えろ。


何か、生き延びる術は何かないか。


結局のところ状況は、さっきのタイタニックアダーと同じだ。


ここでこいつを倒さない限り、僕達に生存の道は無い。


なら考えろ。


どうやったらこいつを殺せる?


不可能なんてことは考えちゃいけない。


相手がどれだけ強かろうと、生き物が他の生き物を殺す術というのは必ずある。


ならば僕達が、今ある力でこいつを仕留める方法だってきっとある。


たとえ猫では出来なかったとしても、昔からその知恵で不可能を可能にしてきたのが人間だ。



考える時間は一瞬。


こういう時は、1番最初に浮かんだ案が正解になる。


いや、自分達で無理矢理にでも正解にする。


……よし。

お読みいただきありがとうございます。


また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。



コタロウのボトルキープシリーズ

No.5:白ボトル

白い塗料でラインの入った火炎瓶。中身は麦粉。用途は煙幕。着火して投げれば、条件次第では粉塵爆発が起こる場合もあり。ただし、爆発が起こるかどうかはあくまでも博打。

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