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5. いへん の りゆう

よろしくお願いします。

見たところ彼等は男性1人に女性3人の計4人で、おそらくはパーティ。


男性は鎧を着て大剣を背負った戦士で、女性は軽鎧を着た軽戦士風が2人とローブを着た僧侶風が1人。


「確かにこっちの方角から音がしたんだけどなあ」なんて話し合いながら、僕達のいる方へ向かって来る。


さっき前方から聞こえてきた戦闘音は多分彼等で、こちらにも押し寄せてきた魔物の群れと戦っていたんだろう。


そこで僕が放った笛の音が聞こえたので、様子を見に来たらしい。




特に盗賊や追い剥ぎという感じはしないので、僕達は彼等の前に出ていくことにした。


大丈夫だろうとは思うのだけど、万が一攻撃された時のために即座に武器を抜ける体勢は取っておく。


森の中からがささと音を立てて「どーも」と2人で道に出ていくと、流石に彼等も驚いた様子だった。


「うわっ!びっくりした!」


飛び退く彼等に片手を上げて「こんにちは~」と挨拶。


勿論警戒だけは怠らないようにしている。


「驚かせてすまねえな。俺達はホウロの町から来た冒険者だ。魔獣車でドーヴに向かう途中なんだが、騎獣が何かを警戒してるのか動かなくなっちまってな。少し様子を見にきたところだ」


自己紹介をしながら、ガンユさんはギルド証を取り出して彼等に示し、僕も同じようにする。


冒険者証を見せられたことで彼等も多少は安心したようで、僕達と同じようにギルド証を見せてきた。


聞けば彼等は首都ドーヴを拠点とする4級の冒険者パーティで、パーティ名を『斬羽ガラス』


リーダーは今ガンユさんと話している男性で、名前をキョウさん。


ランクは4級。


それからシーフ、というより軽戦士の女性2人がリヴさんとケイさん。


神官の女性がシュナさん。


こちらはランクはそれぞれ5級。


最近ドーヴの冒険者ギルドには「馬や騎獣がこの道を行くのを嫌がる」「森の中で魔物の群れが動いているのを見た」などといった報告が寄せられており、ギルドから依頼を受けて調査に来たとのことだった。


なるほど、ここに来る途中にほとんど人と行き合わなかったのはそういうことか。



「さっきの笛みたいな音はあんた達が?」


「ああそれは僕です。魔物の群れのことを仲間に知らせたんです」


「へぇ」


キョウさんは僕を一瞥するも、すぐに興味を無くしたようでまたガンユさんとの話に戻る。


まあ僕はランクが低いし無理もない。


「それで、この先でさっきの魔物の群れに出くわしたと」


「まあザコばっかりだったんで、どってことなかったけどな」



聞けば彼等は、ドーヴの町からホウロの方へ向かう途中の山道で群れと遭遇し、ガンユさんが言っていた河の跡地で戦っていたらしい。


せっかくなのでと僕は、女性達に声をかけて魔物達の様子などを訊いてみる。


感じとしては僕達が戦ったのと似たようなもので、群れを挙げて襲ってきたというよりも、どこかへ移動しようとしていたような雰囲気だったとのこと。


「他に何かおかしなものを見たりはしてないか?」


「いや、別に?」


ガンユさんの問いにキョウさんは首を横に降る。


「なあ?」と声をかけられた彼女達からも同意の声。



やっぱり騎獣が動かなくなったのは、あの群れとぶつかるのを嫌がったからなんだろうか。


でも、先程から僕が感じている嫌な気配はまだ消えない。


それどころか大きくなってきているような気さえする。


それにやっぱり魔物達のあの様子、何かの脅威から逃げていたように思えてならない。



僕がその考えを言って、ここから移動するか何かした方が良いんじゃないかと提案するけど、『斬羽ガラス』の人達は訝しげな目で僕を見る。


「そう言われてもねぇ。この辺りで高ランクの魔物が出たなんて話、今までに聞いたことも無いわよ」


「これまでも普通にこの道を人が通っていて、特に何かあったという話もありませんでしたし、今回はたまたま群れの移動に出会ってしまったのだと、それだけのことだと思いますよ?」


とケイさんとシュナさんは言う。


「こないだこの辺りで地震があったらしいが、それが何か関係してるってことはないか?」


「ああ、それじゃねえ?土砂崩れか何か起きてさ、それから逃げて来たんだろきっと」


ガンユさんの問いかけに、皆が同意を示す。



でもそうかなあ?


地震があったのって確か1週間かそこら前の筈で、その時に起きた土砂崩れから今さら魔物が逃げ出すなんてことあるのかな。


そのままこの後のことについて話し始める、ガンユさんと『斬羽ガラス』の人達。


僕はなんか蚊帳の外になってしまった。




「う~ん…………?」



これで本当に大丈夫なのかと1人考え込んでいた僕の耳に、その音は微かに聞こえてきた。


それはかさこそという草木の揺れる音。


風などで揺れるのとは違う、何かが森の中を移動している時の音。


合わせてしゅるしゅると、なにやら聞き慣れない音も聞こえてくる。


この音何だっけ?


前世でも今世でも、確かに聞いたことがある音だったと思うのだけど。


まあ今は音の正体よりも対応が先。


僕は皆に声をかけて注意を促す。


「静かに……!何かいます」



「へ?」という顔でこちらを見るキョウさん達に対し、ガンユさんは僕の示す方を見ると、気配に気づいて即座に武器を構えた。


「ああ、確かにいるな。何だ?」


気を張り詰めて身構える僕達と反対に、『斬羽ガラス』の人達は訝しげな顔。


「おい、分かるか?」


「……確かに何か音はするみたいだけど、どんな奴かまではわかんないな」


「フン、どうせさっきみたいなザコだろ」


そう言うとキョウさんは足下に落ちていた石を拾い上げ、音の方向に向けて思い切り投げつけた。


「あ、ちょおっ!!」


相手の正体も分かってないのに何を!?と僕達が止める間も無く、投げつけられた石は森の奥へと飛んでいく。


そして当たったのかどうかは分からないけど、森の中を移動していた音は石に反応して、進行方向を僕達の方へと向けたのが分かった。


やがて僕達が見守る中、草木をかき分けて道に姿を現したのは、成人男性をも一飲みに出来そうな程の大顎に、僕の胴体程もある太さと、20mには達するんじゃないかという程の長さの身体を持った、巨大なヘビ……だった。

お読みいただきありがとうございます。


また評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。



おまけ設定


冒険者パーティのパーティ名ですが、冒険者ギルドで統計を取っているわけでも、登録の際にデータを照合しているわけでもありません。

なので同じ支部内ではともかく、町や地域が変われば同じ名前の冒険者パーティが普通にいたりします。

有名な高ランクパーティと同名だったり、同じ支部内に同名のパーティがいたりしたら止められたりしますが、それ以外では特に名前の制限のようなものはありません。

なので新人が分不相応なパーティ名を付けてしまい失笑を買われたり、なんてこともよくあります。


またパーティ名は、必ず付けなければならないというものでもありません。

コタロウ達もその口ですが、パーティ名が無い場合は便宜上リーダーの名前を取って『〇〇さんパーティ』と呼ばれます。

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