20. けいびたい の きょうじ
今年最後の投稿になります。
よろしくお願いします。
「2きゅっ……!?」
さすがにこれには驚いた。
話し忘れてたかもしれないけど、冒険者にランクがあるように、魔物にもランクが設定されている。
魔物のランクというのは簡単に言ってしまえば、その魔物の危険さの度合いを示すもの(強さではない。ここ大事)。
その魔物が過去に出現した際、どれ程の被害を出したかという記録などを基に、討伐に成功した冒険者のランクなどを加味して決められる。
大体の目安としては、3級モンスター1体の出現で村壊滅、2級で町壊滅、1級で都市壊滅といったところ。
3級以上が出現した場合は軍隊の出動も検討される。
冒険者が対応する場合は、基本魔物と同等以上のランクの冒険者パーティか、それに類する実力者達を当てるというのが鉄則となる。
にしても2級か。
町に入られたら、最悪町が壊滅するレベルの魔物だ。
僕は動揺を抑えて責任者さんに尋ねた。
「冒険者ギルドに連絡は?」
「真っ先に伝令を走らせた」
「魔物の種類は?」
「……シャドウタイガーだ」
シャドウタイガー。
本で読んだことあるぞ。
先程から言っている通りランク2級認定。
体長は4~5m程で、黒い毛色に銀の縞模様を持つトラの姿をした魔物。
僕も毛皮は見たことあるけど、実物は見たこと無い。
その毛並みの美しさから、毛皮は貴族などに高い人気を持ち、非常に高値で取引されているため狙う者が後を絶たない。
ただし強い。
身体の硬さはそれほどでもないけど、身に纏った風の魔力によって下級~中級の攻撃魔法はほぼ無力化され、更には桁外れの敏捷さと気配察知で弓矢や投げ槍などの飛び道具はことごとくかわされる。
そしてそれ以上に脅威となるのが、そのスピードと隠密性。
その気配や強大な魔力をほとんど相手に気付かせること無く、藪や草むらの中に潜んで近づいたところへの不意打ちや、気配を覚られない距離から一気に接近してきての奇襲攻撃には、ベテラン冒険者であっても対応が難しいとされる。
しかも夜行性。
その黒い毛色から夜は更に視認が難しく、真夜中の森の中や明かりの無い新月の夜では、たとえ目の前に立たれても気付けないとさえ言われている。
でも、今は朝。
夜が明けてまだ間もないけど、もう辺りはすっかり明るい。
それに今いる東門の外はしばらく平原が広がっているばかりで、森や茂みのような身を隠す場所が無い。
なんでこんなところに?
僕がそれについて尋ねると、責任者さんは苦々しい顔で答えてくれた。
「……盗賊だよ。この平原をずっと行った先に森がある。その森に隠れていた盗賊が、同じ森に居たシャドウタイガーを見つけて手を出した。それが敵わず逃げ出して、連中そのままここに逃げて来やがった」
「その盗賊は?」
「捕縛した。だが問題はシャドウタイガーだ。さっき偵察から連絡が入ったが、奴は間違いなくここを目指してる。その偵察だって5人出して帰ってきたのは1人だけだ。仲間が囮になってやっと逃がしてくれたらしい。奴め、相当怒り狂ってるんだろうさ」
そう言って苛立たしげに爪を噛む責任者さん。
ふらっと現れた6級冒険者にここまで話してくれるとは、相当焦ってるな。
でも、怒り狂ってる……か。
本当にそうかな?
あるいは……もしかしたら。
「もしかしたら……もっと悪いかも」
僕の呟きが聞こえたのだろう。
責任者さんはぎょっとした顔で僕を見た。
「なんだよ?もっと悪いって」
「いえ、トラって自分に傷を負わせた相手を執念深く追い回すなんてことあんまりやらないので……もしかしたら怒ってるっていうより、味をしめたんじゃないかなって」
「味を……しめた?」
僕は頷く。
「盗賊にも色々いるでしょうけど、話を聞いた限りでは逃げてきた連中に、シャドウタイガーを傷つけられるだけの力があるようには思えないです。多分、攻撃してきた盗賊を何人か喰って、人間は襲いやすい獲物だってわかったんじゃないですかね」
だからわざわざここまで追って来た……というより、後をつけて来た。
追いかければ他にもっといるんじゃないかって思って。
「人間は群れるし、他の獣や魔物を襲うより遥かに楽ですから」
まだ僕の想像でしかないけど、もしそうだとしたら最悪だ。
シャドウタイガーはこの町を新しい縄張りにして住民を喰い放題。
今からじゃ避難も間に合わないし、こちらの戦力が整って討伐されるまでに、一体どれだけの人が喰い殺されるか。
責任者さんと2人で顔を見合わせていると、そこに他の衛兵さんが駆け込んできた。
「駄目です。冒険者ギルドは動けません!」
「何!?」
声を上げる責任者さんに、全速力で走ってきたんだろう汗まみれの伝令の人は、息を荒げながら答える。
「現在、3級以上の冒険者パーティが全て依頼などで町を出ており、戻るのが最速で4日後の予定。今町にいるのはほとんどが低ランクの者で、緊急募集はかけてみるが、2級相手となると正直期待は出来ないとのことです!」
「なんてこった……!」
天井を仰ぐ責任者さん。
あと戦力になりそうなのは……僕は責任者さんに尋ねる。
「クレックス子爵様の兵団は?」
「子爵閣下が率いて、主力が数日前から訓練を兼ねた盗賊討伐に出向いている。今は最小限の人員しか残ってない。伝令は走らせたが……どこまで動けるか」
なんて間の悪い。
そういや一昨日大通りでなんかパレードみたいなことやってたな。
あれ出発式だったか。
にしても領都なんだから、クレックス子爵も防衛戦力ぐらい残しとこうよ。
ああ、でもクレックス子爵はベリアン侯爵と違って、軍事にあまり明るくない方だったっけ。
それにしてもまいったな。
「隊長のエメリヒさんは?」
「訓練兼ねて新兵連れて、子爵様の討伐隊に同行してる」
頼りになりそうな人全員連れて行っちゃってるよ。
今この町にいない彼らは、運が良かったというべきか、悪かったというべきか。
それにしてもどうしよう。
6級冒険者の僕が2級の魔物と戦うなんて、普通に考えれば自殺行為。
でもどうだろう、相手がトラであるなら……
見に纏った魔力で下級から、場合によっては中級の攻撃魔法は弾かれるって話なんだよな……
恐ろしく素早くて、矢とか飛び道具も通じないけど、身体自体はそこまで頑丈ではないって聞くし……
となると問題は黒曜鋼の刃が通るかどうか……
僕が考え込んでいると、責任者さんが衛兵さんに言い放った。
「町に残っている警備隊全員を集める。今いる者で敵を防ぐぞ」
「しかし相手は!」
「それでもだ。奴を通せばこの町は終わりだ。せめて時間は稼いでみせる。お前はその間に子爵様の館へ走って、家令に住民の避難を進言しろ」
「ですが副隊長!」
「急げ!おそらく長くはもたん!1人でも多くの住民を逃がせ!」
衛兵さんは泣きそうな顔で、唇を血が出る程に噛み締め「領主様のお屋敷へ行き、家令殿に住民の避難を進言します!!」と復唱してその場を駆け出して行った。
うん、そう……なるよね。
にしてもこの責任者さん、副隊長だったのか。
そして副隊長さんは僕の方を向く。
「聞いての通りだ。生き延びられる見込みは無いが、1人でも多くの住民を助けるために、手を貸してもらえると助かる」
僕は頷いた。
脳裏にロホスさん一家やタンポポ亭のおかみさん、武器屋の店主さん、ギルドの受付嬢さんの顔がよぎる。
「わかりました。ただその前にすみません、トイレ行ってきてもいいですか?」
「ああかまわん。俺達は人が集まったら門を固めて敵を迎え撃つ。用が済んだら来てくれ」
そこで副隊長さんは、ニヤッと自嘲するような笑みを浮かべた。
「もし間に合わなくても、誰も文句は言わねえよ」
僕は副隊長さんに軽く頭を下げるとそのまま門へ向かい、門の脇についている通用口のドアを開けて町の外へ出た。
お読みいただきありがとうございます。
また、評価、ブックマーク等いただき誠にありがとうございます。
魔物のランクについてですが、多くの場合は危険さに直結するということで強さ=ランクとなっていることがほとんどです。
ただし極稀に強さはそれほどでもないけれど、危険な伝染病を媒介するという魔物が高ランク認定になっている場合などがあります。
また、ゴブリンやオークをはじめ群れを作る魔物については、単体でのランクと群れのランク、群れの規模によるランクとに分けて設定されています。
今年の10月末から始めた投稿ですが、拙い作品にお付き合いいただきましてありがとうございました。
来年もまた、コタロウをよろしくお願いいたします。
それでは、良いお年を。




