それぞれの役割と軽音部復帰
お読みいただき、ありがとうございます。
この新章の名前、ちょっとアレですね。
うーん、どうしよう。
他に思いついたのが『冴えない魔族の(以下省略)』だったり……。
「初めまして、ようこそ文芸部へ。私が部長の、三年A組・二階堂清隆です。好きなスイスの湖は『レマン湖』です」
「お初にお目にかかります、二階堂部長。わたくし、バルバス総裁の娘、ルキと申します」
今日からルキを加えて新体制で魔界イメージアップ作戦の会議を行うことになったのだが、お約束が終わらないと話が進まないのはいつものことだ。
「やあアイリスさん、今日もお綺麗ですね。もし私がル●ンだったら、空中で全裸の平泳ぎをしているところですよ」
「あなたが●パンじゃなくてよかったです。相変わらず変態ですね、ダンタリオン」
「誰が変態ですか、失敬な。確かに私も以前はファーストフードで女性店員さんにドリンクのサイズを聞かれて、『ドMです』とドサクサまぎれにカミングアウトしては異様に興奮していたものですが、今の私は『車検が通りそうな男』と呼ばれるほどノーマルなのですよ。もっとも、88ナンバーの特殊用途自動車としてですけど」
この二人のやり取りは、もはや漫才を通り越して、一種の『プレイ』ではないのだろうか……。
「次はゲームを作るっス」
会議が始まるとすぐに、リリスが言い出した。
「アニメの原作を目指すっスから、いわゆるギャルゲーを作るっス」
リリスの瞳からは、某名作野球漫画ばりの炎が立ちこめている。
「小説はどうするんだ?」
リリスのグロ描写やルキの壊滅的な構成力のなさはさておき、あれだけの集中力を発揮できるのだから、少しもったいないような気がする。
「小説は労力の割には成果が上がらなかったっスので、いったん保留っス。まあいい経験だったっスけど」
「あれだけがんばっていたのに、わりとあっさりしてるんだな」
それに、アニメの原作という当初の目的から考えると、ゲーム制作はハードルが上がっている上に、素人が作る同人ゲームとなると、可能性がほぼ皆無になってしまう気もするのだが。
「そもそも小説なんて、キモオタとニート、童貞、変態ぐらいしか読んでないっス」
「おい、謝れ。すべての読書家の皆さんに土下座して謝れっ!」
などと言いつつ僕はほとんど小説を読んだことがないが、優香がよく読んでいるらしいので、ここは絶対に譲れないところだ。
「それに、せっかく人材も増えたっスし、一人で黙々とやるよりも、みんなでキャッキャウフフと共同作業でやりたいっス。もちろん水着回と温泉イベントも込みっス」
「水着回って……」
でもたしかに、リリスの集中力や持続性には感心したが、小説を書いていて楽しそうだったかと言えば、全くそうは思えなかった。
それに、可能性が薄いだけで、ゲームを作ってもアニメには絶対にならないと決まったわけではない。
実際にアダルトを含めギャルゲー原作のアニメはいくつもあるし、一作目でダメでも続けていけば道は開けるかもしれない。小さなゲーム会社からアニメ化作品を生み出した例もあると聞くし、もしかするとこの先、夢のようなサクセスストーリーが待っているかもしれない。
まずは作ってみなければ可能性はゼロだ。
「でも、ゲームってどうやって作るんだ?」
すると、文芸部部長、三年A組・二階堂清隆の眼鏡が鋭く光った。
「ふむ、それならば我が文芸部よりも、ゲーム研究部のほうが良いですね。アイリスさん、お願いします」
二階堂先輩にそう言われると、それまで静観していたアイリスは立ち上がり、社会科準備室の隅のロッカーからチェーン付きのプレートを取り出し……。
「ようこそゲーム研究部へ。私が部長の、三年A組・二階堂清隆です。好きな擬態語は『チラリ』や『ポロリ』、『イヤ~ン』などです」
最後の一番昭和臭が漂う『イヤ~ン』は擬態語なのか?
「――では、特に反対意見もないようですし、明後日から夏休みですので、早急に役割分担を決めましょうか」
部活名のプレートを入れ替えるくだりは必要あったのか? というぐらい、先ほどと同じようなペースで作戦会議は再開している。
ギャルゲーのおおまかな作り方は、すでに部長の二階堂先輩がレクチャーしてくれた。
ちょっと意外なことに、もともとゲーム研究部にも所属しているアイリスはともかく、ルキがゲーム作りに興味津々で、異様に目を輝かせて二階堂先輩の説明を聞いていた。
どうやらリリスの言う『みんなでキャッキャウフフと共同作業』というのが、ルキの琴線に触れたようだ。
本当は寂しがり屋なんだろうな。
「リリスはシナリオを書いてみるっス。なんだかやることがあんまり小説と変わらない気がするっスけど」
「わたくしは原画を描いてさしあげますわ。少々MPでスキルをブーストして練習すれば、なんとかなると思いますの」
「私はスクリプトとサブシナリオを担当します」
「では私は女性陣の健康管理、主に人工呼吸と胸部マッサージ・下のお世話係担当で」
「はたしてその役割は必要なのかしら、ダンタリオン」
なんだか具体的な話になってきて、会議は盛り上がっている。
ちょっと言い出しづらい雰囲気だったけど、僕は思い切って手を上げて発言した。
「すみません、今さら申し訳ないんですけど、僕は今回、あまり参加できないです」
まさか共同作業をすることになるとは思わず、『アニメ化を目指すなら同人ゲームとなると可能性がほぼ皆無』という意見を言い出せなかったのも、自分が手伝えそうになくて気が引けたからでもあったのだ。
「なんでっスか? 正式に遺産相続もされて、魔界のイメージアップも一緒にやることになったじゃないっスか!」
予想通り、リリスはそう言って食い下がった。
確かに最初の約束では、以降は協力して一緒に友好の下地を築くことになっていたし、すでにルキを含め三人もの協力者が参加してくれている。
しかし、僕にも僕なりの事情があるのだ。
「わりぃ、ちょっと忙しくなりそうなんだ」
「ハッ、まさか、リリスと二階堂部長というものがありながら、そこらへんのメガネ男子と浮気するつもりっスね! 言ってくだされば、男相手なら許すっスのに!」
「なんでメガネ男子限定なんだよ! だいたい、浮気もなにも、僕はまだリリスの恋人でも何でもねえよ!」
「「「……まだ!」」」
全員が『まだ』に反応する。しまった。
嘘をつけない(適当にごまかせない)僕は、話を強引に切り替えることにした。
「ついさっき決まった話なんだけど、軽音部の活動を再開することになったんだよ」
みんなには申し訳ないのだが、そういうことになってしまったのだ。
「えっ? サトル様は、軽音部だったっスか?」
「そうだよ。そういえばリリスには言ってなかったな」
「ということは、白黒メイクで火を噴くっスか?」
「いつの時代のバンドだよっ!」
こいつの学んできた『人間学』っていったい……。
「そういえば、リリスが暇つぶしにサトル様のお部屋でエロ本捜索をしていたときに、押入れでなんだか変わった形のギターを見つけたっス」
「お、お前は僕の留守中に何をやっているんだ……」
「名探偵リリスの推理では、ケースに入ったそのギターには、最近使われた形跡がなかったっスから、いざというときの撲殺用に、鈍器として使用するのかと思ってたんっスけど」
僕のギターはブロンズ像かよ。
「あのなぁ、迷探偵」
「何っスかね、ワトソン」
「誰がワトソンだ! いつの間にかハンチング帽とパイプと虫メガネを装備装着するんじゃねぇ!」
本当にこいつの学んできた『人間学』っていったい……。
「ちなみにサトル様のお部屋からは、犯行に使われた証拠品、すなわち健康な高校生男子なら誰もが隠し持っているはずのエロ本やDVDが、一切見つからなかったっス」
「お前はデリカシー皆無の『おかん』かよ……」
「その結果、ますますアイリス警部の唱えるガチ●モ疑惑が深まる結果となったったっス」
「そんな疑惑を深めるな!」
おっと、『いまどきの高校生男子は、そういうお宝はハードディスク内に蓄えてあるんだよ!』などと言おうものなら、早速、僕のパソコンが無慈悲なガサ入れを受けそうだ。
この場はガチホ●説を断固否定するぐらいにしておかねば。
◇ ◇ ◇ ◇
(――数時間前――)
「俺たちが悪かった」
「もう一度、一緒にやってくれないか」
「頼むよサトル、いや、サトルさん!」
昼休み、軽音部の元仲間に呼び出された僕は、彼らから部活復帰の懇願を受けていた。
「サトルのギターなしでは、もはやごまかしきれないんだ」
「心を入れ替えて練習に励むから」
「もうダラダラしない。約束するから」
彼らの必死な形相にとまどう僕。
「新入生のバンドが、俺たちよりも断然うまくて、立つ瀬がねえんだよ」
「このままじゃカッコつかねえんだ」
「俺なんか鼻で笑われたんだよ」
なんとなく事情もわかってきた。
「文化祭で、好きなあの娘にいいとこ見せたいんだ」
「モテたいんだ」
「目立ちたいんだよ」
まあ僕もギターをはじめた理由の一つは『カッコいいから』だったしな。
「やべぇんだよ。俺なんかろくに弾けもしないのに、リッケンバッカーなんて高級なベースを、勢いまかせにネットオークションで買っちゃったんだよ」
「肝心のドラミングよりもスティック回しとかばかり練習していたけど、今度こそはちゃんとやるから」
「リードギターを弾きながら歌うなんて、俺の技術じゃまだまだ無理なんだよ」
なりふり構わず懇願する彼らは、いっそ清々しくすらある。
「頼むよサトル、戻ってきてくれ。一生のお願いだ」
「この通り頭を下げるから」
「かかぁも乳が出ねえと泣いておりますだ」
最後のはともかく、彼らからは黒やグレーのオーラが一切見られない。
もはや以前のカッコつけているだけの彼らではなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――というわけで、文化祭まで期間もあまりないし、僕もギターの勘を取り戻すのにしばらくかかるだろうから、当分はバンドに打ち込むことにしたんだよ。本当にごめんな」
実は「さっそく今日からミーティングを」とも言われていたのだが、こっちの会議もあるのでさすがにそれはお断りしてきたぐらいなのだ。
ゲーム制作が本当にそうなるのかはさておき、魔界のイメージアップと軽音部の活動、どちらを優先するべきかは、もはや言うまでもない。
しかし、だからといって、今この時にしかできない高校の部活を蔑ろにしたり、一応は去年ずっと一緒にやってきて、ようやく本気になってきた軽音部の彼らを無下にできるわけもなく……。
それに軽音部復帰は、もうすでに彼らと約束してしまったし。
「だいたい、ゲームを作るとなると、僕にはたぶん文才もないし、絵も描けない。ストーリーを考える才能もたぶんないし、なによりゲームにはあまり詳しくないから、正直、手伝えそうなこともなさそうなんだ」
実際、役割分担が次々と決まっていくなかで、僕は一人取り残されていた。
「あと、バンドのみんなと一緒に、夏フェスに行く約束もしたんだよ」
僕が軽音部に復帰を決めたのは、もしかするとこの誘いのせいかもしれない。
ボッチの僕にとって、仲間と一緒に夏フェスに行くなんて、夢のような話だったのだ。
これぞ青春。僕にだって、たまにはこんなイベントがあってもいいじゃないか。
「なるほど、軽音部のむくつけき男たちと、組んずほぐれつの耽美なひと夏を過ごすというわけですね!」
アイリスが目を輝かせる。
「そういうことなら仕方ないっスね。少なくとも四人ぐらいはいないと、アイリスの本にあった『数珠つなぎ』はできないっスもんね」
「わたくしも愛のカタチは人それぞれだと思いますわ、アグレアス卿」
なんだかすんなりと納得されてしまった。
「まあそういうわけで、悪く思わないでほしい」
「わかりましたっス。なんとかサトル様抜きでがんばってみるっス」
「すまんな」
ちょっと無責任かもしれないが、実際、僕が軽音部の活動に未練を残したままで中途半端に参加するよりも、やる気のある者だけで作ったほうがいいと思うのだ。
「では、ちょっとMPがかかるっスけど、一日を一年に増やす空間魔法をとりあえず三日分と、その他もろもろのチート分のMP使用承諾をお願いするっス」
「毎回思うが、漫画家さんや人気作家さんが泣いて欲しがりそうな空間魔法だな」
と承認した後で、MP使用量の数字を見た僕は、目が点になった。
数字の1の後ろに、数字が十一桁も並んでいる。
つまり、一千億MP以上。
魔界の年間平均所得MPは約500万だというのに、リリスの金銭(MP)感覚はおかしくなってるのではないか?
あと、MPの換金レートは知らないが、ゲーム会社を買収でもしたほうが確実なのではないだろうか……。
「ところでサトル様、夏フェスって何っスか?」
お読みいただき、ありがとうございます。




