ゲーム制作合宿
すみません今回短めです。
すでに夏休みに入ったというのに、無謀にもリリスたちの作るギャルゲーは、夏のコミケでの頒布を目指して作られることになった。
出展は二階堂先輩のコネと僕のMPを使った反則技のコンボで、無理やりなんとかブースを確保したらしい。
マスターアップの締め切りは7月いっぱいと、普通に考えれば無謀すぎるスケジュールだった。
だが、時間稼ぎの空間魔法もあるし、人間界での生活も長く魔族にしてはバランス感覚に優れている二階堂先輩もついているから、まあなんとかなるだろう。
リリスたちゲーム研究部の一行は、都内のウイークリーマンションを借りて、三日間(実際には三年間相当)のゲーム制作合宿を行うそうだ。なんでも、空間魔法内にトイレがないと、待っている人は数日から数十日の待機を余儀なくされるとのこと。
ゲーム関連の資料や機材、イラスト用の画材、好物のチョコレートパイなどを買い込み、リリスとルキの合宿準備には余念がない。
ただ、製作合宿直前にアイリスがうちに来て、三人でしていた打ち合わせから漏れ聞こえてきた内容が、少し気になった。
「魔澄ルートのバッドエンドは、やっぱり血の池で溺死っスかね」
「いえいえ、ビジュアル的には針の山で串刺しでしょう」
「あなた方、少々感覚が古くていらっしゃるわ。ここは自動小銃の一斉掃射で蜂の巣ですことよ」
「あと、魔奈美のキャラデザは、こっちの手斧を持ったほうでいくっスか?」
「イメージ的にはこちらの手鍵のほうではないかと」
「わたくしのラフ画での自信作は、このホッケーマスクのツンデレ系なのですけれど」
いったい何のゲームを作ろうとしているんだ……。
小説のときもそうだったが、どうやら魔族は、人間の死を娯楽とみているフシがある。
「人間の死は、イコール魂の収穫っスから、人間界で戦争や虐殺が起これば、魔界ではお祭り騒ぎなんっスよ」
戦争映画を見ていた際、ワクワクしながらリリスは言っていた。
確かに人間界においても、人の死をテーマにした映画や小説はごまんとある。
しかし、それらはワクワクしながら見るものではないと思うのだ。
「人間界では死は厳粛なものなんだぞ」
「大丈夫っス、魔族も同族が死ねば悲しいっスし、そういう感覚は人間と共通っス。まあ魔族は寿命も長いし、事故や突発的な死に関しては蘇生もできるっスけどね」
リリスはそう言うが、戦争映画で人が死ぬたびに『よっしゃっス!』と嬌声を上げるリリスを見ていると、まるで信用できないのだ。
まあ、あの二階堂先輩もディレクターとしてついているし、今回は学園もののギャルゲーとのことなので、たぶん大丈夫だろう。
そしてゲーム研究部の一行は合宿に入った。
一方、リリスとルキがいなくなり、ずいぶんと静かになった我が家で、僕はしばらく触ってもいなかったギターをさっそくメンテナンスし、感覚を取り戻すべく暇さえあれば弾いていた。
また、バンドのメンバーとの連日の打ち合わせや、久しぶりの音合わせのほか、CDやDVD、ネットの動画などで内外のバンドの曲を聴き漁ったりと、僕はすっかり軽音部員らしくなっていた。
今からスタートして文化祭でまともな演奏をするとなると、ゲーム制作中のみんなには悪いけど、一分一秒が惜しいのだ。
合宿から戻ったリリスに、泣きながら抱きつかれたのには驚いた。
「サトル様……サトル様! 会いたかったっスよぉ!」
「大変ご無沙汰しておりました、アグレアス卿。お元気そうでなによりです」
ルキもなんだか涙目でやけに畏まっている。
「おいおい、大げさだなぁ」
と、言ってから気付いたが、リリスたちにとっては三年ぶりの再会だったのだ。
リリスたちの話では、最初の一日、つまり一年かけてさまざまなギャルゲーをプレイしながら企画を立て、残りの二日間(二年間)でじっくりと時間をかけて作成し、市販のゲームと何ら遜色ないほどのクオリティに仕上げることができたという。
やはりリリスの、ここぞという時の集中力や持続力は半端ではない。もし僕が参加していたとしても、ついていけたのかどうか自信がない。
一日を一年に延ばす空間魔法は、体への影響は一日分とのことだ。
たとえば何十日間も腹が減らず、眠くもならないかわりに、一度寝てしまえば百日以上も経っていたりするとのことで、結局一睡もせずに、三日間の完徹をしたのと同じ消耗状態になっているという。
そんなわけで、戻ってきたリリスとルキは、早々に自室で爆睡していた。
そんなリリスたちを見て、正直、僕がゲーム作りに参加しなくて正解だったかも、と思ってしまった。
文化祭まで日がないのに、夏休み前半からこんなに消耗していては、練習や打ち合わせの予定が大幅に狂っていただろう。
もちろんゲーム作りはマスターアップにも余裕で間に合い、あとはコミケを待つばかりだということだ。
お読みいただき、ありがとうございます。




