罪意識
しんみり話し始めた李亜に
少し同情した数分前の俺よ。
思いとどまれ。
「歪みの道は魔界に住む悪魔たちにとっては、人間界の子供で言う公園のような存在でした。大人、子供に関わらず、人間界から天界へと行き来する人をからかって遊んでいたのです。」
「最悪だな。」
それ以外にはもう何も
言う気になれなかった。
冷たく言い放った俺に
少し不満ありげな李亜は
ぶつくさ言い訳をはじめる。
「悪魔は基本的に人の不幸を喜ぶ習性があります。悪戯が大好きですし、他人の不幸は蜜の味なのです!」
これが本当の天然小悪魔か。
だいぶ意味が違うけど。
「んんっ。話がそれました。元に戻しましょう。」
「はいはい。」
「それである日私は、仲間達とここ歪みの道でいつもの様に人が通るのを待っていました。すると、そこに天界人が通りかかったのです。」
なんだ、それはつまり、
天界人に惚れて、追っかけ回してたら
訴えられて天界を追放された?ってか?
「いえ、少し違います。」
俺は思わず手で口を塞いだ。
え?俺声出てなかったよな?
心の声が聞こえんのか?
なんでも筒抜けかよ。
「す、少しって?」
恐る恐る聞いてみると
李亜は少し俯いた。
「確かにその天界人に心奪われはしました。誰もが見惚れるような美しい人でしたから。ですが私は、追っかけ回してはいません。」
そういった李亜は先ほどまでの
テンションとはかけ離れ、
凄く悲しい表情をしていた。
「その天界人は、悪魔相手に生涯の愛を誓ったのです。愛している、と。」
憎しみが込められた
悲痛な叫びが聞こえてくるような
そんな錯覚を覚えた。
次の瞬間風景が一瞬で
花畑の中へと変わった。
太陽の光と暖かさに包まれ、
花の甘い香りがする。
「えっと、ここは…」
そう言いかけて、
後ろを振り返った俺は
背筋が凍った。
そこには恐らく天界人であろう男と
見知らぬ悪魔が立っていて、
俺が振り返った瞬間に
生暖かい赤い液体が俺の頬を
ぬるりと伝ったのだ。
俺は腰が抜けてその場に座り込む。
慌てて頬に手を触れたが
そこには何も無かった。
「な、何なんだ!これは!?」
パニックになった俺は叫ぶ。
いつ現れたのか分からない李亜が
俺の後ろで静かに呟いた。
「これは私が見た、母の最後です。」




