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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第一章 閉じられた世界、始まりは春夏
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幕間 孟子ちゃんと荀子ちゃん

 黄色い月が浮かぶ夜。孟子ちゃんは、多くの部下たちを引き連れて歩いていた。行列の先頭を早歩きする孟子ちゃん。後ろの荷台には、大量の食糧が積まれている。


 孟子ちゃんは、『仁』『義』の文字が刺繍された学ランっぽい服をはためかせて、部下たちを外の世界へ導こうとしている。なお、孟子ちゃんにとっての仁とは「同情心が育ったもの」のことで、義とは「恥を感知する心が育ったもの」ということらしい。他の人の仁や義は、また解釈が違ってくるのだろうけども、孟子ちゃんにとっては、そういうことらしい。


 孟子ちゃんが校門に近付いた時、孟子ちゃんに向けて鎖が射出された。


 ジャララララ。


 そんな音を立てながら、鎖が伸びてきた。孟子ちゃんは黒い鎖を掴み取り、投げ返した。


 鎖の鞭は、耳障りな金属音を立てて地面に落ちた。


「……孟子。何のつもりか、聞いてもいい?」


 鎖使いの正体は、荀子ちゃんであった。


 孟子ちゃんは、堂々とした口調で言う。


「ここには、真の王者の器を持った人間が居なくなってしまったわ。だから、聖人のいる地に行こうと思って」


「孟子、まさか逃げる気なの」


「逃げるとは人聞きが悪いわね。ただ、この学校にはもう未来が無いから、別のところに引っ越そうかと思ってね」


「それでこんなゾロゾロと部下を引き連れてるのね。百人くらい居るかしら。でも、夜逃げにしては派手で目立ちすぎるわ」


「荀子ちゃんも、こんな王者不在のどうにもならない学園には見切りをつけたら良いわ」


「孟子、それは本気で言っているの?」


「これから、この学校は、もっともっと乱れるわ。孔子姉さんも居なくなってしまった以上、この学園との契約が切れたと言っても過言ではないわね。出ていくのに、他に理由が必要かしら?」


「当然。無責任の口だけ番長は許されない。こうなったのは、あなたにも責任がある。それに、孔子姉さんは、きっと帰ってくる」


「……まったく、面倒くさいのに見つかっちゃったわね」


「孟子が居なくなったら、みんながまた困惑する。他の生徒たちが混乱するでしょう。苦しむでしょう。その姿を見て忍びないと思わないの? そんな状況にさせたら恥ずかしいとか思わないの?」


「わからないかしら、荀子ちゃん。もっと、自分の力を活かせる所があるのなら、そっちで全力を尽くして、そして、やがてこの学校も本物の王者の風によって統一してみせるってことよ。ここには本当の王者が居ないから、だから外に探しに行こうって言ってるのよ」


「王が居なきゃ、孟子は何もできないの?」


「どうして、そんな必死に、引き止めようとするのかしら。荀子ちゃん一人では、孔子姉さんの教えを伝えていけないということかしら」


「……そうじゃない。責任を果たしなさいと言っている。それに、こう言うのもシャクだけど、孟子は孔子姉さんのお気に入りだからね。姉さんが帰ってきた時、孟子が居ないなんてことになったら、姉さんに顔向けできない」


「正直に言ったらどうなの? 自分の力だけじゃ、他の連中に潰されるから、組みたいってことでしょう」


「違う。孔子姉さんのために仕方なく言っているだけ」


「どうだか」


「どうしても行くと言うのなら、わたしを倒してから行くことね」


 鎖を握り締める荀子ちゃん。


 孟子ちゃんは、フッと小さく溜息を吐くと、


「戦いは好きじゃないわ」拳を構えることなく(きびす)を返した。「でも、そうね。孔子姉さんのために、何とか学園を、善なる状態に回復させないとね」


 荀子ちゃんも安堵の溜息を吐き、戻っていく孟子ちゃんたちの派手な行列に背を向け、校門の前に立つ。


 出入り口を、黒い鎖でギチギチに縛って封鎖した。誰も出て行くことのないように、と。


「こんな乱れ果てた状態になってしまった学園の、その生徒を、外に出すわけにはいかない。正しい教育を施さなくては」


 荀子ちゃんは走り出す。別の校門に向かって。夜のうちに、全ての門を封鎖しようというのだ。


「孔子姉さんが帰ってきた時に生徒が一人でも減っていたら、認めてもらえないからね」


 その後、部下に命じて堀をめぐらすなどして、学園は何人の脱出も許さない、閉じられた世界になるのだった。



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