7、校庭の賊軍VS校舎の官軍
しかし、俺の思惑とは裏腹に、少々大変なことになってしまった。もしかしたら、韓非子ちゃんは、あのような事態になってしまうことを予測していたのかもしれない。
校舎外の人々は食糧分配の方法でモメたのだ。
仲良く分ければ良いものを、「ウチに多くよこせ」だの「こっち少なすぎる」だのと言い出したものだからもう大変。その態度が我らが韓非子ちゃんの逆鱗に触れたらしく、彼女はダッシュで飛び込んでいって、
「ケ、ケンカするなら、返してもらうわ!」
とか言って食べ物を引っ込めたものだから、さらに大変。
どこから出た食糧なのか明記せず、ただ校庭の真ん中に置いただけだったので、いきなり韓非子ちゃんが持ち去ったのを目にした人々が「超ふざけやがって、ぬけがけだ!」「韓非子ちゃん……いや違うな韓非子ちゃんを操ってるあの男を引っ捕らえて拷問だァ!」などと俺を指差して悲痛に叫んだ。なんとかなだめるのが大変だったな、殺されるかと思う程に。
プンスカと怒れる韓非子ちゃんが言うには、「あの連中は悪質だから飢え死にして構わない」とのことだ。案外、荀子ちゃんや孟子ちゃんも同じように考えているのかもな。結局のところ校舎外に居る連中というのは、上に立つ人の言うことに耳を貸さない人々であるから、天下統一……というよりも幸福――風紀委員サイドが考える人々の幸福――のためには邪魔でしかないと、そういうことだろう。
俺としては、どんな人でも飢え死にさせるわけにはいかないと思うけれど。
さて、これで食糧問題は振り出しに戻ってしまったと思われたが、完全な振り出しではなかったようだ。校舎の中で暮らす一般生徒たちの中に慈悲深い人々が数多に存在したようで、自らの給食を外の人々に差し出すために闇市に横流ししたため、闇市が復活した。
しかし、である。復活したはいいものの、食べ物の値段がひどく高騰していて、結局食事にありつけない者が続出し、授業を終えて敷地内に仮設された寮に帰ろうとする人々から金品および食糧をカツアゲする輩も続出。
そこでようやく重い腰を上げたのが孔子ちゃん派の二人である。
荀子ちゃんと孟子ちゃんは、それぞれ自分の教え子から軍隊を組織し、賊の討伐を試みるという、久々に風紀委員らしい行動を見せ、賊はこれに応戦。事実上の戦争である。
命が掛かっている賊は妙に計画的な進攻を見せた上、火攻めや川の汚染水を使った水攻め等を敢行するほどの本気ぶり。そして、なんと多くの怪我人を出しながらも賊連中が圧勝した。狩猟や農耕で鍛えられていたからだろう。
装備も訓練も不十分で人ばかり多くて戦いに対する工夫も見られない上にモチベーションも低い風紀委員サイドは緒戦に大敗してしまい、その後もズルズルと連戦連敗を重ね、降参する形で完全敗北してしまったわけだ。
最終的には焦土と化して農地として使えなくなってしまった田畑――火計のために賊たちが自ら焼いた田畑――の賠償として三ヶ月分もの大量の食糧を賠償として無条件提供することで事態を収めるしかなく、荀子ちゃんと孟子ちゃんは責任の押し付け合いをした。
ただし、この時に提供された食糧というのは、校舎外の人々全員のものと言うには遠く及ばず、蜂起した一部の賊にのみ与えられた。つまり、全く足りなかった。
そのため、
「――そうか、欲しければ、奪えばいい」
などとネガティブな気付きをしてしまった校舎外の人々は次々と武装し、食い物を求めて戦争を起こした。しかも荀子ちゃんや孟子ちゃんを相手にではなく、二人から食糧を受け取った賊を相手に。
「こっちにも分けろ!」
「俺たちにも分けろや!」
「つべこべ言わずに全部渡せ!」
あちこちでバトルが開始され奪い合いが始まった。何故風紀委員に挑まなかったかと言えば、おそらくこう考えたのだろう。最初の戦いでは奇襲が成功したから勝てただけであって本気を出した風紀委員連中に人海戦術で押されたら勝てない、と。
確かに、校庭の人々も一枚岩ってわけでは決して無いのだ。ルール無用の戦にまで発展したら、圧倒的に校舎派が有利だ。差がありすぎる。
こうして、多くあった勢力がさらに細かく分かれていき、半ば自動的に整備されながら、群雄割拠の戦国の秋が到来したのであった。




