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百家争鳴 ―風紀委員を埋めてやる―  作者: 黒十二色
第四章 戦国の秋、後編
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8、墨子ちゃんVS孟子ちゃん

 仁義の服をまとった孟子ちゃんは武器らしい武器を持っておらず、全身入墨の墨子ちゃんも同じく自らの肉体のみで戦う格闘タイプの娘である。


 同じタイプ同士の一戦は、前哨戦として陸上トラックを高速で百周というものを消化し、二人互いに譲らず息も切らさないバケモノぶりを見せていた。韓非子ちゃんなんかは二周目くらいでその場にへたり込んでしまったのにな。


 孟子ちゃんとしては、もはや自らを囮として『学園最強の盾』である墨子ちゃんを引き付けておく必要が無くなったようで、墨子ちゃんとの決着の時が来たようだった。


 校庭のど真ん中に移動して対峙する二人。


 しばし無言で向かい合っていたが、先に口を開いたのは孟子ちゃんであった。


「あなた、よく反省していた様子だったけれど、『善』に目覚めたわけではなかったのね。考えてみれば、そうね。『無条件に全てを愛する』なんていう軸の無い思想は、善を通り越して混乱を生む悪に他ならないものね。そんなこと主張するのは、もはや人間じゃないわ」


 墨子ちゃんは言葉を返さなかった。


「手錠、ちぎれてるけど、どうしたの。墨子ちゃん」


 しかしこれにも反応をしない。厳しい目つきで孟子ちゃんをにらみつけている。


「墨子ちゃん、あなたのこと、調べさせてもらったわ。中学の時は相当荒れていたらしいわね。中学生とは思えない異常な戦闘力の高さを持て余して、ナイフみたいに尖ってたと聞いたわ。盗みやケンカをやったし、親を殴ったりまでしていたそうじゃない。そして、その末にご両親が亡くなった」


 校庭での戦闘における声はマイクを通じて全校放送で流れているので、孟子ちゃんの言葉は生徒たち全員の耳に入り、学校中がざわついた。しかしそれに構わず孟子ちゃんは雄弁に続ける。


「何の罪にもならなかったし、大きな事件として取り上げられることも無かったから、あなたがご両親を殺したとかそういうわけではないのでしょうけど、そうね、事故死や病死だったけれど、散々ご両親に反抗していたあなたには罪の意識があったから、全身に罪人の証である墨を入れて自分で手錠をかけることにした……ってところかしら。それからは全ての人々を愛し守ることで罪を償おうと考えた。違う?」


 孫子ちゃんは、同じ牢屋に入っていた関係で事情を知っているらしく、コクコクと頷いていて、どうやら孟子ちゃんの言っていることは当たっているようだ。


「以前、墨子ちゃんに入墨の理由を訊ねた時に、重い口を開いてくれてね、私の足が義足になった理由、私が友達に裏切られたって話を語ったお返しに、重たい話を聞かされて、私は泣いちゃったんだけど、そのとき墨子ちゃんは悲しそうに笑ってたよ」


「ただ、荒れてたのは中学までの話だろう。俺も墨子ちゃんのことは風紀委員の資料を基に調べたが、そんなに悪いことをしていたわけではなかったぞ。せいぜい、生徒会がある体育会系の部活を廃部にしようとしたのに反発して、部室に立てこもって廃部を拒否したとして捕まったって話だった。そりゃ風紀委員の命令を拒否したら捕まるだろうから、風紀委員という立場からものを言えば、荒れてないとは言えないのかもしれんが」


「ちょっと待って。墨子ちゃんは高校では全く荒れてなかったよ。それは確実。墨子ちゃんは中学時代に、『もう誰も傷つけない』って誓ったんだよ。実際、あれこれ調べたけれど墨子ちゃんは見た目がちょっとヤバそうなこと以外は荒れたこと何もしてないんだよ」


「でも権力に逆らって捕まったんだろ。だったら、荒れてると言えなくも無い」


「逆らって捕まったんのは事実だけれど、その時に取り締まりに現れた風紀委員の対応が酷いものだったのよ」


「ほう、どんな対応を?」


「墨子ちゃんが、立てこもりをしたのは事実なんだけど、その前段階として、学園上層部は部活側にある条件を出していたの。それは部員を五人集めること。でも部活側、どうしても四人しか部員を集められなかった。誰に協力を依頼しても失敗した。その中で、唯一手を貸したのがその全身入墨と手錠から最恐の不良と恐れられていた墨子ちゃんだった」


「さすが墨子ちゃんだな。そんな小さな人助けまで」


「でもね、生徒会および風紀委員は部活の存続を認めなかった」


「何でだ。墨子ちゃんで五人が揃ったんだろ」


「『揃っていない』と言ったわ。『自ら罪人を名乗る墨子ちゃんは、そもそも人間ではないから、数に数えられない』って言って廃部を強硬に決定したの。当然それに反発した墨子ちゃんが単身、立てこもりでしつこく無言の抗議をしたんだけど、捕まって牢屋行きよ。ま、おかげで私は墨子ちゃんに出会えたから、百パーセント悪いことばかりでもなかったけど、それにしても酷いものよね」


「おいおい、生徒会や風紀委員って、そんなに酷いことしてたのか。罪のない人に罪があると決め付けて捕まえて、挙句に人間扱いしないとか、それこそマトモな人間のやることじゃねぇだろ」


「そうよ。生徒会長はまた違うんだけど、生徒会内に裏で暗躍する人たちが居たのは本当」


「ていうか、俺は風紀委員だったけどそんなの知らなかったぞ」


「あなたは風紀委員と言っても幹部ではなく末端だもの。世の中には裏と表、本音と建前というものがあって、上層部からの逆らえない裏の本音というものを実行する人たちが居るのよ。我が校でその実行者に該当するのが風紀委員。あなたに降りてくるのは建前としての指令だけだから、さも風紀委員が正義を実行しているように見えたんじゃないかな」


「……てことは……考えたくないが、四天王の一角を担うほどの大幹部だった我らが韓非子ちゃんはそれを知ってたり関わっていたりしたのだろうか」


「それは……どうなのかな。私の見立てでは、知っているし関わっていると思うけれど」


「そうなのか韓非子ちゃん……」


 俺は校庭で一人ぽつんと立っている韓非子ちゃんの背中を見つめた。ゆったりした服からスコップを出したり引っ込めたりして、落ち着きなくしていた。


 本当に関わっていたのだとしたら、そんな重大なこと、俺に言ってくれても良いものを。何で話してくれなかったのだろう。


「でもね」と孫子ちゃん。「本当に悪くて捕まえて罰を与えないといけない人も悲しいけれど居るよ。それをしっかりと取り締まって更生させる。それが主たる役割。つまり表。ただ、上が『潰したい』とさりげなく言ったものをきちんと潰すことが、風紀委員の裏の役割なの」


 孫子ちゃんの話が真実なのかは不明だ。信じたくないことでもある。しかし、風紀委員が食糧が無い時に校庭の生徒たちに分け与えず無視したことを考えると、そういったことをやっていたのでは、と思えてくる。


 墨子ちゃんは、全ての人を守りたいと言った。それは本人にとっては絶対の思想。韓非子ちゃんにとって『法』が絶対であるように、墨子ちゃんにとっては『愛』することが絶対。罪人も、自分に敵対する人も、全てを愛することが墨子ちゃんの人生で最も大事なことなのだ。


 だけど今、墨子ちゃんはその絶対の博愛を曲げてまで風紀委員を打ち倒そうとしている。墨子ちゃんが、そうまでしないと永遠に平和が訪れないと思ったなら、やはり風紀委員の支配をこれ以上続けさせるわけにはいかない!


「やっちまえ! 墨子ちゃん!」


 これ以上、孟子ちゃんや孔子ちゃんたちの好き勝手にさせてはいけない!


 そして、戦闘が開始される。



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