4オジサン、勝手に投稿する
翌日。
窓から差し込む陽光が久世の脳を焼く。徹夜は厳しい年頃だ。
むかしは徹夜で作業して朝日が昇る頃には死んだように眠りにつくなんてしょっちゅうだったが、レコーディングルームの時間など気にしなくて良いDTM中心の環境に変わってから無茶はしなくなった。
そのまま床で寝てしまおうか。
そんな誘惑が頭をよぎるが玄関扉を蹴り飛ばす轟音と怒声を前にそんな誘惑は霧散した。
「ちょっと!!久世さん!!あれどういうこと!?!?許可してないんだけど!?」
バンバンと金属のドアを蹴る音がする。やめろ、この寝不足の頭にラップ音は致命的なんだ。あとドアの修繕費が怖い。
居留守を使おうか……。
「いるのわかってるから!!久世さん引きこもりでしょ!?」
失礼なやつだ。
いや、青葉は最初から失礼だった。そうじゃなければ初対面の男を脅したりしない。
「開けないなら警察呼ぶよ!!」
「…………」
いよいよ冗談では済まなくなってきた。いくら青葉が無礼で、無理やり人の家に押し掛ける女とはいえ今の状況で警察なんぞ呼ばれたら圧倒的に青葉が有利だ。たとえ冤罪だろうと自分は心に深いダメージを負うことになる。
「…………はぁ……」
諦めのため息と共に久世は玄関の鍵をあけた。
「うおっ!?」
鍵をあけた瞬間ドアが開きチェーンに引っ掛かった扉がバァンと鳴る。
「ちょぉっと話があるんだけどぉ」
扉の隙間から爛々と光る猛禽類の瞳が覗いている。あと数センチ扉に近かったら喉を掻き切られていそうな恐怖だ。
「開けるから……開けるから一旦離して……」
「閉めたらまた鍵かける気でしょ」
「しない……しない……」
「…………」
怪訝そうな青葉の視線に耐え久世は震える指でチェーンを外した。カチャンと、チェーンが外れる音と共に扉が開け放たれる。
これで物理的に久世を守るものはなくなった。
「あのさ、無許可でアップするとかなに考えてんの?」
「えーと……ショート動画だし制作風景、みたいな?」
「ショートだから良いってなら警察いらないんだよ」
「こっわ……」
青葉は威圧感をまとったまま家に上がると破壊神のままリビングのソファに座り一言。
「私、全っ然納得できてないんだけど。あんな中途半端な歌公開するなんてなに考えてるの?」
「そうは言うが、人にみせるなら十分だ」
「でも、あんなんじゃ……」
「みろよ、これ」
「ん?」
昨晩公開したショート動画には3桁を超えるコメントが寄せられていた。日本語だけでなく英語に中国、絵文字だけのコメントがならびそのどれもが青葉の歌声を絶賛し、フル歌唱に期待していた。
「再生数……100万……?」
「そ。公開して12時間も経ってないのに総再生数100万。ショートの時点でこれなら成功した部類だろうよ」
「だからって……私はもっと完璧な歌をあげたかったのに……」
「その完璧ってのはいつ出来上がるんだよ」
「……」
「クリエイターってのは完璧なもの、自分が納得できるものを見せたがる。だがな、そんなもの待っていたら先に自分が潰れちまう。おまえの目的はなんだ」
「…………」
「1曲あげただけでソイツには届くのか?たかが1曲の博打みたいな勝負でソイツに届くのかよ」
「それは……」
「中途半端だろうがおまえの歌なら数が打てる。高い水準の歌を何曲も出したほうが1発屋より確率は上がる。ならおまえはソイツに届く歌を何曲も歌え。曲なら俺が書いてやるから」
「それ……ホント?」
「……せいぜい俺が曲を書きたくなる歌手になれよ」
「きゃぁぁぁ!!ありがとう!久世さん!」
散らかったリビングで青葉は跳ね回った。
年相応にはしゃぐ青葉をみていると久世は懐かしさを感じてしまう。
だいぶ会えていない娘は今このくらいの年齢だろうか。
もう父のことなど覚えていないだろうが。




