ヒーロー惨敗
「なら、容赦しない」
それだけ言うと、男が右手を振り上げる。
その瞬間、男が被っている羽の生えた帽子が揺れた。肌を切り裂かれるような冷たい風が吹き、咄嗟に目を閉じてしまう。
まずい、この攻撃は知っている。
咄嗟に防御の姿勢を取ったが、巨大な拳で殴られたような衝撃が全身を襲った。
きっとヒーロースーツを着ている時であれば、かすり傷を負うこともなかっただろう。けれど生身の人間である私は紙人形のように吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられた。痛いなんて思っている場合じゃない、この男の攻撃は「次」がある。
目を開くとゴミ箱、ベンチ、自販機と視界にあるものがどんどんこちらに飛んでくる。浮遊能力、サイコキネシス、名称はわからないがこれがこの男の力なのだ。風そのもので攻撃することもできるし、その風で物を飛ばしてくることもできる。
それでも、ヒーロースーツでパワーアップしている状態なら私は戦うことができた。多少の攻撃でも体には傷つかないし、躱すなり跳ね返すなりすることもできたのだ。ヒーローとして、活動している時なら……だけど今の私は、普通の人間にすぎないのだ。立ち込める土煙の中で、為す術もなく私は押し潰される。激痛と共に、喉の奥から汚い声が漏れた。
なんとか目を開くものの、視点が定まらない。ただ、ちらりと私を攻撃した敵が困惑している様子が見えた。
……そうか、彼は私がヒーローじゃなくなったことを知らなかったのか……
彼は、「運命戦隊サバイバーの一員」である私しか知らない。だから相手はきっと、私がいつものようにイエローに変身して戦うと予測したのだろう。まさか、私がヒーローをクビになったなんて想像もしなかったに違いない……それぐらい、ヒーローを辞めさせられるなんてありえないことなのだ。
そんな、わかりきっていたはずの絶望的な結論に至ったところで――私は意識を手放した。




