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無色透明に君が滲む  作者: 莉乃
無色透明主義者
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第一話

 紅茶かコーヒーなら紅茶。塩か味噌なら塩。白い服か赤い服なら白い服。そんな選択を続けるのが、私の人生だった。


 刺激が少なく少しでも色の薄い方を選ぶ。穏やかに過ごしたいとか平和主義だとか、聞こえの良い言い回しも出来ると思うけど、私のはきっと違う。


 刺激の先には、新たな出会いがあるかもしれない。そこでは夢のような時間を楽しめるかもしれない。



『通過点』だったはずの学校が、『行きたい場所』になったあの日を思い出す。



 でも、楽しい夢が醒めた先には何があるのか。


 楽しさとは、あとで訪れる痛みの前触れだ。なら、最初から選ばない方がいい。


 あの時だって、あんな選択をしなければここまで痛みに怯えることはなかっただろう。色を求めた代償は、今も消えない(あざ)のように胸の奥に居座っている。


 バレないように小さく息をつく。正面の同僚は、聞きたくない話をやめない。



「一回くらいお試しで来てみなさいよ。会いたい会いたいってさ、そろそろうざくなってきたところ。板挟みにあってる私の気持ちも考えてほしいんだけど」


 吐き捨てるようにぼやきながら、こちらに向けていたフォークで器用にサラダを口に運ぶ。


 平日の正午を回った都内の飲食店は、どこもテーマパークのような喧騒けんそうに満ちている。食欲をそそる香りと共に、色とりどりの話題が飛び交う。


「ねえ聞いてる?さっきからずーっと上の空」


 テーブル越しに聞こえる声が、ほんの少しだけ低くなる。彼女とはそれなりに長い付き合いだからわかる。この声色はそろそろ危ない。


 他の同僚相手ならこんなことはないけど、彼女の前だとほんの少しだけ気が緩む。


「ごめんごめん、ちゃんと聞いてるって」


 地声より少しトーンを上げて応える。


「試してみないとわからないのはそうなんだけどさ、遠慮しておくよ」


「それよりさ、今日の日替わり美味しくない?」


 目の前のパスタを指す。 ポルチーニ茸の何とかパスタ。具材のキノコなのかソースなのか、何が口に合っているのかわからないけど、毎日でも食べられそう。


 リピート確定。日替わりだからもう会えないかもしれないけど。


「またいつもの事なかれ主義?そろそろ変わんなって」


 トゲトゲしい声で言い放ってから小さく咳払い。子供をあやすような優しい声色で一言添える。


「つまんなかったらもう無理に誘わないからさ」



 昔からずっとこうだ。押しの強さと、妙な気遣いが同居している。


 バラみたいな子だな、と思う。


 高く通った鼻筋に自信をたたえた大きな瞳。金色の髪はいつもポンパドール。これがいわゆる「しごでき女子」というやつだろうか。


 私の数少ない友達であり同僚、椎名しいな つむぎ


 私とは住む世界の違いを感じるけど、大学から数えて六年ほどの付き合いになる。大人びた見た目に反して体躯は小柄なせいか、どこか小動物めいた愛嬌が滲んでいて馴染みやすい。


 もっとも、私に対してはいつも容赦が無いから、トゲの山に真っ赤な花弁が埋もれている『トゲ盛り盛りのバラ』って感じだけど。


「あー、うん…。気持ちは嬉しいけど、やっぱりやめとく。空気悪くしたり、色々がっかりさせちゃうかもだし」


「いつもごめんね」


 目を伏せながら告げる。私の表情を見て諦めがついたのか小さく息をつき、彼女は仕事の愚痴に話題をシフトさせた。


    ◇


 コーヒーを買ってから帰ると言う紬と別れてエレベーターに乗る。近年外国人観光客も増えたこの街は、人も多いし物価も高い。


 1,500円のランチなんて当たり前だし、それに加えて一杯600円はするであろうコーヒーを買う紬の経済力に震える。


「これが中途採用と新卒採用の差ですか…」


 誰もいないのをいいことに小さくぼやく。彼女とは部署は違えど、同い年だからそれほど格差は無いはず。金銭感覚の差であることを願う。


 エレベーター内の鏡を見て最低限の身だしなみを整えてから、紬を見習った大きな足取りで自席へと足を進めた。

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