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悪役令嬢の目覚め。



ーーーチュンチュンチュン


金縛りが解けたかのように、ガバッと跳ね起きる。


淑女なのに上半身を勢い良く起こしてしまい、品がなくて恥ずかしいですわ…。


………ここは…一体…??

ふと視線を上げると太陽の眩しさは感じますが、そばに侍女は居ないようです。

お部屋はお父様の書斎よりも狭いように見えますわ。


ふと額の違和感に気づき、触れてみると何かが貼られていますわ。

か、顔にくっついているとはどういう状態ですの…!?

声にも出せずに驚き、恐る恐る剥がしてみると、額についていた部分はブヨブヨとしていて、触れた指先にもくっついてきます。

大変気味が悪く思わずその物体が離れるまで手を振り回していました。


「ど、どういうことかしら?サリー?サリー!」


状況が飲み込めずに私付きの侍女を呼んでも、返事すらないわ。

…全く使えない侍女ね、クビにしてしまいましょう。


コンコン。

ガチャ。

ドアが開くと見知らぬ女性が心配そうな顔で私を見てきます。


「紗菜?起きてて大丈夫……?熱は下がった?お母さんびっくりしちゃったよ…。せっかくのお誕生日なのにね…。17歳おめでとうね。吐き気とかはどう?夜ご飯食べられなかったからお腹空いてるよね。おかゆかうどんか作ってこようか?それともりんご食べる?飲み物持ってこようか?今夜のお祝いはできるかな…」


質問をしていると思われますが、この方の言葉が理解できないわ…。

それにしても…ずっと話し続ける方だこと。


「サリーの代わりの方かしら?もう新しく雇われてたのね。

あなたを指導したのはどなた?すぐにここへ。許可も無く入室するなんて指導者はクビね。」


淑女として口は挟まず、彼女が話し終えるのを待ってから伝えると、彼女は驚いた顔をしているようです。自分の行いの恥ずかしさに気がついたようね。……全く、私の侍女としてこの程度の人間を雇ったことも指導者として不適格な方がいる事も信じられませんね。家格が疑われてしまいますわ。


「紗菜…?どうしたの?サリーって誰のこと?それにその喋り方とか言ってることも…お母さんちんぷんかんぷんよ。熱でぼーっとしちゃった?」


彼女は変わらず理解できない言葉を続けています。この私が理解できないだなんて…。

我が家は平民の侍女は雇っていないはずですが、何かの手違いで雇われた平民なのかしら。

平民の言葉まではさすがの私も熟知していません。


会話がままならないことに頭を抱えていると、彼女は私の額に手を当ててきました。なんて無礼な…。

「熱は下がってる…どうしたのかしら…」小さな声で何か言っているようですが、公爵令嬢である私の額に侍女が触れていいなんてありませんわ。


キッとした顔で彼女を睨み、額にある手を強く振り払い、

「下がりなさい、無礼者。あなたはクビよ。」

はっきりと告げると、彼女は驚いた顔をして部屋を出ていきました。


謝罪も出来ないだなんて…本当に礼儀のなっていない方ですこと。これだから下賎な方は嫌ですわ。

深いため息と同時に目を閉じて心を落ち着かせます。

部屋の外を見ようと足元の布団を剥ぎ、ベッドの脇に座り目を開けると…

………靴がないではないですか。絶句していると足元の装いが目に入りました。


………な、なんですの、この装いは……

ナイトドレスではありませんわ。それどころか素足が丸出しで太もものあたりとお尻しか隠せないような見たこともない布を纏っているだけです。

……下着と変わらないではありませんか……。

このような姿で眠っていたなんて恥ずかしい…。見知らぬ場所でこのような無体を…。


信じられない状況に激しく動揺してしまい、慌てて素足でベッドから飛び出しました。

部屋の中で見つけた全身鏡を見ると、そこに居たのは私とは全く違う容姿の女性…………。


目の前の彼女の衣服はお腹辺りまでしかないわ、作りかけのドレスを着ているのかしら……?それにしても短すぎてヘソが見えてしまうわ。


彼女の足元は……先ほどベッドで私が見たものと同じようです…。

私が手を動かすと目の前の女性も同じ動きをするわ。

やはりこれは間違いなく鏡………。

この女性が…私………?


思わず気絶しそうになりましたが、もう少し状況を確認しなくてはと必死で理性を働かせています。


栗色の髪が肩のあたり、頬に触れてみると

………な、なんですのこれは……

爪が金色や白色や藍色などになっていますわ…


私の理解を越えてしまい、必死で保っていた意識はプツンっと途切れ気を失ってしまいました。


ーーーーーーーーー


ここは……?

あたり一面真っ暗闇。

自分の手元すら見えません。

今度は一体どこだというのでしょう……。


ふいにロウソクが灯り、あたりがほんのりと明るくなります。


ようやく見えた手元や髪は私の知る、私の姿のようですわ。

ホッとしていると、


「紗菜〜ロウソク消していいよー!」


あたりを灯しているロウソクはケーキのロウソクのようですね。


「はーい!進!一緒にフーしよ!」


すずなと呼ばれた女の子が、私の前から走ってきました。

私のことはまるで見えていないのか、横を通り去っていきましたわ。

その姿を目で追いかけると、ケーキの前で天真爛漫な笑顔をしていました。


「いいの!?やったー!!いっくよ〜!せーの!」


嬉しそうに喜ぶ男の子が、

フー、と息を吹きかけた瞬間——


「……紗菜、おめっと。」

ふわふわの茶色の髪と、照れた顔が一瞬だけ見えた気がしました。


彼を知らないはずなのに

なぜか少し心が暖かくなった気がしたのもつかの間に、

たちまち、ロウソクの炎が縦に裂け、断頭台の松明へと変わりました。


民衆のざわめきが響き、忘れもしないあの冷たい瞳。


あそこにいるのは私……?

両手を縛られ、膝をついている自分の姿が見えます。


——カチ。


乾いた音がひとつ…。

視界の端に、白い文字が淡く浮かびます。


 【悪役令嬢 断罪イベント 完了】


指が、意志とは関係なく動く。

カチ、カチ、と。

私の喉は震えていない。

けれど、退屈そうな声だけが響いた。

「もう見飽きた。」

刃が落ちるより早く、文字が消えます。


反射した刃の縁に、私の顔が映る。

——先ほど鏡で見た、あの顔。


ロウソクの火が消え、ふたたび一面が暗闇に包まれると、


「上手にできたね〜。お誕生日おめでとう!」

どこからか拍手と笑い声が聞こえてきました。


気がつくと一筋の涙が流れていました。


この暗闇は私の姿も見せてくれない。

今ここにいる私は……?


ーーー流れた涙の意味も、聞こえる声も、見える景色もわからないはずなのにそれでもだんだんと、胸の中に広がったそれが理解させていく。


あの優しい声も、照れた顔も、楽しい時間も。

私はそれを()()()()()………。

けれども、これは私のものではないのですね。

……ねぇ…紗菜…………


ーーーーーーーーー


「紗菜、紗菜!」


何度も心配している声が聞こえ、目を開けると再びベッドの上でしたわ。



先ほどのあれは——夢?

……いいえ。

こんなにも鮮明に思い出せます。


波のように流れ込んできた記憶。

それは私の心を暖めるものでした。


私は、スザンナ・ハルモント。

そして同時に——

田上紗菜たのうえすずななんですのね。


………“悪役令嬢イベント 完了”

脳裏から離れないこの文字。

喉の奥がひりつくような感覚が止まらない。


あまりにも軽く、簡単なそれが私の最期だったのだと胸に叩きつけるように理解させられる。


けして偽物ではなかった生涯、誇りも痛みも確かに存在しています。

けれど…私の人生は正しかったのでしょうか………。

私はこんなにも足りない人間だった、私はこんなにも、……愛されていなかった…。

それでも、私はただ、殿下の隣に立ちたかった…。

……自分のことをこんなにも知らなかったことを知ってしまいました。




「紗菜!大丈夫??」


ぼーっと考え込んでいて返事をしていなかった私を、心配そうにのぞき込んでいる女性。

先ほど、無礼者だとクビにしてしまった彼女。


「えぇ、お母様。大事ありませんわ。ご心配恐れ入ります。」


お返事を口にした直後、お母様は部屋を飛び出してしまいました。

何か失言をしてしまったかしら…。


お母様がいなくなり、部屋に1人きり。

侍女もいないのです。

そのような生活をしている紗菜がとてもすごいと感じました。

私も紗菜のように一人で身の回りのことをしてみせますわ。

と小さくガッツポーズをして自分を奮い立たせます。


学校がある日なので支度は制服を着用することからね。

紗菜の部屋を見渡すと壁にかけてある衣服が。きっとこれですわね。


ハンガーから下ろして着ていた衣服を脱ぎ、ワイシャツに袖を通す。

初めて一人で着替えているのに…。服の脱ぎ方も、ボタンの留め方もいつもやっているかのように自然と手が動きます。

そして、スカートを手に取り唖然とする私…。


「このような短い丈で出歩くなんて……信じられないわ……下着が見えてしまうではありませんか…」


ドレス丈に変えることは出来ないかと、見回してみましたがなく、渋々スカートに足を通しました。

着替えを済ませて鏡を見てみると、先程まで感じていたスカートへの嫌悪はなくなっていて、鏡に映る姿がたまらなく可愛らしく感じました。


コンコン。

ガチャ。


ノックの音と同時に開かれたドアから、何故か怯えている様子のお母様が声をかけてきました。


「紗菜…尊くんが迎えに来てるけど……今日はお休みする…?」


たける…紗菜のご学友ですね。


「いいえ、着替えも済んでおります。ただ今参りますわ。」


すると、「紗菜どうしちゃったの」と目に涙を浮かべていらっしゃいましたわ。

一人で身支度できたというのに、なぜ涙を…?

着方を間違えているのかしら…


不安になり、念の為鏡でもう一度全身を確認してみても、先程と同じ感情しか沸きません。

問題ないのではないかしら。

荷物を持ち、部屋を出ると


「姉ちゃん…おめでと」


少年がこちらを見ずに声をかけてきました。


「ありがとうございますわ。」


ペコリと返すと、何か恐ろしいものを見た顔でバタバタとお母様のところに向かい、「姉ちゃんがおかしくなった!!!」という声が聞こえてきました。

私の振る舞いはそんなに不自然かしら……。


少し落ち込みましたが、淑女として表情には出さず、足早に尊さんの元へ向かいましたわ。


「おう、おはよ。17歳おめっと。」


目の前にいたのは、記憶の中のふわふわな髪の方。

片手を軽く上げて挨拶をしてくれていました。

「おはようございます。お待たせして申し訳ありません。お祝いの言葉、ありがとうございますわ。」スカートを少し持ち上げ、腰を下げ、今度はしっかりと挨拶を返しました。

すると、耳を赤くしながら口元を抑え、目線を空の方に向け、反対の手で私の頭に2度ほど指を当ててきましたわ。


「どしたお前、ゲームやりすぎておかしくなったんか?役に入り込むにしたってそういうキャラはお前に合わないだろ」


お母様や弟ほど過剰に反応しない尊さんの様子に、私を受け入れてもらえたような感覚になりました。

「問題ありません。行きましょう。」と微笑むと、

「そーかい。」ニッとした表情をして、隣を歩いてくれました。

先ほども弟にお祝いを言われたことを思い出しました。

…紗菜は今日…お誕生日なのね……。


ーーーーーーーーー


学校へつくと、薄い茶金のキレイな髪の女性が「おはよ〜おたおめ〜」と声をかけてくださいました。


「おはようございますわ。」


挨拶を返すと尊さん以上に、表情も態度も変わらないまま「今日1時間目なんだっけね〜、お腹空いちゃったな〜」と話し続けていました。羅美さんのそばで元気に鼓動する胸はまるで紗菜が羅美さんに話しかけているようでした。


教室や座席などに困ることなく過ごせます。

まるで前からずっとこうしていたような気持ちになりました。

様々な授業を受け、聞いたことのない言葉や授業内容がとても興味深かったです。

今まで過ごしていた学園生活で授業を面白いと感じたことなどありませんでした。

紗菜の心がそう感じさせるのかしら…。

あぁ、紗菜。貴女の日常はなんて色鮮やかで、美しいのでしょう。


キーンコーンカーンコーン。


お母様がお弁当を入れてくれていたようで、困ることなくお昼を頂けそうです。安堵していると、「いこ〜。」と羅美さんが声をかけてくださり、中庭に向かうと尊さんがいて朝と同じように軽く手を上げていましたわ。



「ところでさ〜」

箸を置いて、羅美さんは私をまっすぐ見た。


「あなた、誰?」










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