第21話 赤い月のディストピア④ 〜あの夜の記憶〜
――あの夜のこと、今、ハッキリと思い出した。
深夜1時過ぎ。
「――明日も頑張りましょうね、タケナカさん! リアハゥイ」
「リア……え? おう、気をつけて。いろいろ聞いてくれてありがとな」
コンビニの仕事を終えて、バイト仲間のソムナン君と別れた俺は、国道をトボトボ歩いてた。
十二月の冷たい風が頬を刺し、店長にもらったコロッケが入ったコンビニ袋がスースー揺れてた。
コロッケを静かに取り出して一口かじる。
――また怒られた。
――明日のシフト、だるいな。
――ソシャゲのデイリー忘れてた。
頭の中はいつものモブな思考でいっぱいだった。
俺が憧れる転生系主人公「レオン=アークブレイド」みたいに、クールで、誰にも臆さず、誰からも好かれるヒーローとは大違いだ。
「はぁ……ソムナン君はああやって励ましてくれたけど……こんなしょーもない人生、いつまで続くんだよ。異世界転生でもしねえかな……」
そんなグチをポロッとこぼした瞬間――
ドーン!
「うおっ!?」
歩道に4トントラックが突っ込んできた!
反射的にコロッケ投げ捨てて、横にドーンと飛び込む!
ガシャーン!
よし、華麗に回避!
俺、運動神経だけはそこそこ――
ブウォオオーーンッ!
「ちょ、マジ!?」
目の前にタンクローリーが!
何このコンボ!?
俺の人生、こんなド派手な終わり方かよ!?
でも――
――異世界転生、クル!?
叫んだ瞬間、視界が真っ黒。
夜空にコロッケがスローモーションで舞う――
それが、最後に見た光景。
――俺は死んだ。
ふわっと体が浮く感覚。
目を開けると、キラキラ光る白い空間。
雲みたいなフワフワの床に、光の粒子がチラチラ漂ってる。
「マ、マジで転生空間キタ!? やった!」
ラノベ読みながらずっと妄想してた展開!
ガチでキタ!
テンション爆上がりでガッツポーズ。
目の前にドーンと現れたのは――
片手に杖を持ち、黄金の椅子にふんぞり返るオッサン。
白いローブに金ピカの王冠、モサモサの白髭。
「ザ・神様」な貫禄あるけど、目がニヤニヤしてて、ちょっと詐欺師っぽい雰囲気も。
「ふむ、騒がしい若者よ。ワシは『ゼノス』。いわゆる『神』と呼ばれる存在。この次元の管理者じゃ」
「神様!? てことは、やっぱ転生確定!?」
俺、興奮で前のめり。
さっきの悲劇も吹っ飛んで、目ギラギラ。
ゼノス、ニヤリと笑って髭をガシガシ撫でる。
「ホホ、落ち着け。コロッケかじりながらタンクローリーに轢かれし哀れな魂よ」
「うっ、コロッケは無罪だ! ……そんで、どんなチートスキルくれるんです? 無敵バリア? 魔法全マスター?」
「ホッホッホッ!」
ゼノス、デカい声で笑う。
椅子からズリ落ちそうになる。
「まあ、焦るな。実はお前には“特別な資質”がある。我が姪っ子、月の女神『イオネラ』が管理する世界を救うのにピッタリの力じゃ」
おお、“資質”に“女神”!
それっぽいワードがバンバン出てくる!
「じゃ、じゃあ俺、選ばれし者!?」
ゼノス、ニヤケ顔で指パチン!
空中にキラキラ光るスクリーンがポップアップ。
俺のステータスだ!
【名前】竹仲タケル
【職業】勇者
【ステータス】
攻撃32、防御26、素早さ31
武力31、知略3、政治2、統率4
【スキル】
『シルバーフレイム』(古代魔法、竜属性特攻+100%、炎攻撃+50%)
『剣術S』
『主人公補正Lv.20』
「すげぇ……スキル『シルバーフレイム』!? スタイリッシュ系チート!?」
ゼノス、椅子の背もたれにドカッと寄りかかる。
「ふむ。“シルバーフレイム”はな、イオネラ世界の古代勇者『タケルティオン』が『暗黒竜』を原始の世界へと封印した魔法――お前の魂に宿る力じゃ」
「お、俺、伝説の古代魔法使えるんすか!?」
「そうじゃ! イオネラの世界の1つが暗黒竜復活により壊滅。生き残った反乱軍も敗れ、闇に飲まれてしもうた。お前がその力で世界を救うのじゃ!」
「うおお! 主人公すぎる展開!」
――って、ちょっと待てよ!?
「そもそも何でフリーターの俺がそんなすげえ魔法を!?」
ゼノス、一瞬キョドッて目を逸らす。
「……実はの、本来イオネラ世界の正勇者に継承されるはずが……転生課の新人職員が死亡者リスト見て『タケル=勇者』と勘違い。神々の世界もバタバタじゃったからのう……“凡ミス”じゃ!」
「は!? 理由ショボ! あと『滅びスタート』ってハードモードすぎません!? 神様の力でどうにかなんないんすか!?」
俺、焦ってゼノスに詰め寄る。
さすがにこれは上級者向けすぎるぞ!
ゼノスは髭をいじりながら渋い顔でフムフムと頷く。
「確かに厳しい状況じゃ。神々のルールでワシらの直接介入は無理でな。できるとしたら世界そのものの『消去』じゃ。実際、評議会でもその話が出とる――」
「うわぁ……消去とか、えげつな……」
「じゃろ? イオネラはあの世界を愛しとるからのぉ……。そこでタケル! お前を百年前、暗黒竜が召喚される『五ヶ月前』に転生させる。それがワシにできる最大限の介入じゃ」
「タイムリープ!? かっけぇ! 過去で暗黒竜復活阻止して世界救うんすよね? ち、ちなみにその後……ハ、ハーレムって、イケます?」
ゼノス、ニヤリと笑って指をピッと突きつける。
「ホホッ、正直じゃの! それはお前次第……じゃが、ステータスがぶっちゃけ微妙じゃ。だから転生時にワシが3倍に盛ってやる。感謝せい!」
「え、3倍!? あざます! あっ、あと……この『主人公補正』ってメタいスキル、何なんすか?」
「それはの、ワシの世界の転生者なら誰もが持つ力じゃ。“魂に宿る運命の炎”、世界の理を超え、“定められた物語を書き換える力”――それが『主人公補正』じゃ!」
「おお、さっぱり意味わかんないけど凄そう!」
「レベル20はまだその火種に過ぎんが、その信念と魂が燃え上がれば、“運命すらねじ伏せる”可能性を秘めとる。お前の情熱がその力をどこまで引き上げるか、ワシも楽しみじゃぞ!」
「俺、完全に主人公! これでモブ人生脱却だ!」
「よほど『主人公』に憧れとるんじゃのぉ。まるで25歳とは思えん。まあ、そのバカみたいな情熱、嫌いじゃないぞ。派手にやってこい!」
「あ、待って神様! 俺、あっちの世界で死んじゃったらどうなるの? 転生って1回キリ?」
俺、急に不安になる。
ゼノス、ニヤニヤがちょっと引きつって、咳払い。
「ふむ。ワシの世界では転生は“1回のみ”。死ねば終わりじゃ。ただ、運が良ければ、イオネラ世界のルールで転生できるかもしれん。あっちは“転生チャンス10回”じゃ」
「10回!? 鬼アツ! やり直しまくったらハーレムも余裕でイケそう!」
俺、拳握って大ジャンプ!
でもゼノスは渋い顔で手を振る。
「まあ、待て。あっちのルールはな、転生条件が“完全ランダム”。案内人ですら予見できん。“オーク姿”で転生とかもあるらしいぞ」
「完全ランダム!? オーク!? あ、ああ……それ微妙っすね……」
「ま、そもそも転生できる保証もない。死なないように頑張るんじゃ! ド派手にハッピーエンド掴んでこい!」
「OK、神様! 俺、世界守って、最強のハーレム主人公になる!」
ゼノス、デカい笑い声で両手の親指をグッと立てる。
「ホッホッホッ! 可愛い姪っ子の愛する世界、よろしく頼んだぞ、タケル!」
ゼノスが杖を振り上げると俺の体が光に包まれる。
「――あ、そうそう! 容姿はお前の“理想の姿”を想像するんじゃぞ〜!」
「えっ! そんな直前に!?」
光がバチーンと弾ける。
俺の意識はスーッと新世界へ――
目を開けると異世界の森の中。
とりあえず、剣の反射で顔面チェック。
燃えるような真っ赤な髪に銀色に輝く瞳――
こ、これ「レオン=アークブレイド」じゃん!
やった、理想通り!
「――敵襲だ!」
む、遠くから誰かの叫び声!
早速イベント発生!?
赤いターバンの盗賊が馬車襲ってる!
「よっしゃあ! 腕試しだ!」
今日から俺は「フリーター竹仲タケル」改め「勇者タケル」!
馬車からチラッと覗く「紺色髪」と「瑠璃色瞳」の超絶美少女!
うおお!
こりゃ、メインヒロイン候補間違いなし!
「ハーレム王への第一歩! 主人公、行くぜ!」
この出会いが、俺の運命を変えたんだ――




