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第19話 赤い月のディストピア② 〜ルナティアの月〜

 ――百年前の記憶がノエルの宝玉から俺の頭にドバッと注ぎ込まれる!

 

 今まで触れてきた宝玉とはまるで違う感覚……!


 なんか……


 白いチュニックにケープマント、

 瑠璃色の瞳に……

 長い紺色髪の少女の姿が……。


 

 あの顔……



 ミオ!?


 でも、髪や目の色が違う。

 


 誰だ?

 


 うう、頭が……!




〜〜〜〜〜〜


 


 ――私はミオ。


 ミオ・アストラヴィア。


 年は18。


 ルナティア族の混血の末裔であり、月の女神イオネラに仕える秘宝の守護者。


 首にかけられた宝玉は、ルナティアの秘宝――月の光を宿し、歴史を繋ぐ聖遺物。


 7歳の時にザルド帝国の迫害で親を失い、セレンディアの辺境の地で孤独に育った私は、ルナティア族である母の遺言で秘宝を守ってきた。


 

 ――月耀暦402年十の月。

 

 私はセレンディア国王の召集に応じ、馬車で王城へ向かっていた。


 帝国の魔皇帝ヴェルザドールがルナティアの秘宝を奪い、赤い月の呪いで世界を混沌の渦に巻き込もうとしている今、私の宝玉と魔法が世界を救う鍵だと告げられた。



 でも、心は重い。

 

 ルナティア族の血は誇りだが、混血の私は純血の族民が持つ力に及ばない。


 ヴェルザドールへの恨み――


 親を奪い、一族を奴隷に落とし、「赤き月の生贄」にした男への怒りは胸を焦がす。



 月が不気味に輝く夜、馬車の揺れが心を落ち着かせる。

 


 すると、突然――


 

「敵襲だ!」

 

 御者の叫びに顔を上げると、馬車の外では帝国の暗殺者集団――『紅鱗蛇刃』の一味が剣を振りかざす。

 

「宝玉と娘はここだ! やれ!」


 蛇刃の剣が御者に振り下ろされる瞬間――


 

 ――ズドン!

 

 

「ぐあっ!?」

 

 銀色の炎が蛇刃の剣士を吹き飛ばす。


 

「すげえッ! チート能力、ド派手にキター!」


 

 ……何?


 

 馬車の前に、剣を握った青年がしたり顔で立っている。

 

 燃えるような赤い髪、銀色の切れ長の目、自信満々の笑み。


「うおお!! 転生直後にドンピシャ美少女! こ、これ序盤のヒロイン救出イベ!?」


 

 意味不明な叫び声。

 

 敵意はないようだけど……


 このテンション、頭痛い。

 

「最初の敵はゴブリンか盗賊がテンプレだからなぁ。腕試しにちょうどいいや!」


 彼は、銀の炎を纏った剣を振り回し、蛇刃一味を次々薙ぎ倒す。

 

「俺、TUEEE!!」

 

 調子に乗ってるけど、動きは鋭い。

 

 でも、敵の一人が吹き矢を構えた瞬間――

 

「毒よ! 気をつけて!」

 

「え!? あぶねぇ!」


 

 ドカン!


  銀の炎が敵を焼き払う。

 

「ナイス! マジ助かる!」

 

 彼はニヤつきながら親指を立てる。

 

 ……変な人。


 でも、助かった。


 

 ――これが彼との初めての出会い。

 

 

「えと……お、俺、竹仲タケル! ハーレム王目指してる……勇者! よろしく!」


 ハーレム王……?

 意味がわからない。

 

 ルナティアの血を引く私に、こんな軽い男が絡むなんて。


 

 月の女神様、これは試練ですか?



 

 ――そして私と彼はセレンディア王城に到着した。

 


 荘厳な石の間に、国王「アリオス=ミラノス=バルドリオン」が待つ。


 彼の背後には、四百年前、魔王軍との和平の礎を築いた伝説の王「ゼラ=バルドリオン」の戦斧が掲げられる。

 


「ミオ殿、よくぞ参られた」

 

「国王陛下、ご命令を――」

 

 私が一礼すると、タケルが横から割り込む。

 

「王様! 敵ぶっ倒すんでしょ? 俺も行くよ!」


 

 な……!

 国王にその口調!? バカなの!?

 

「タケル、控えなさい!」

 

「ハハハ! 元気があって良いではないか、勇者殿!」

 

 アリオス王、甘すぎる……。

 彼は真剣な顔で続ける。


「ザルド帝国が赤い月の夜に『暗黒竜』を召喚しようとしている。あれは世界を破滅させる力を持つ。必ず阻止せねばならん」

 

 私の首の宝玉を握る手が震える。

 

「魔皇帝ヴェルザドールは、世界中の宝玉で月の呪いを発動するつもりだ。先月、魔法学院からも奴の側近『グリメラ』の手により奪われた」


「ま、魔法学院!? 青春ハーレムいけるじゃん!」


「ちょっと、タケル! こんな時に……!」


 アリオス王は小さく息を吐き、首を横に振る。

 

「残念だが宝玉が奪われた後、皆、魔力を奪われた。騎士団長『ガルフレッド』も戦死し、『ミラノス・アカデミア』は壊滅状態だ」


「ガーーン! 帝国、許すまじ!」


「帝国が全ての宝玉を掌握し、魔法を扱える者はもういない……。ミオ殿、ルナティアの力を使えるのは混血のそなただけだ。タケル殿の古代魔法『シルバーフレイム』と共に」


 私の力――『月魔法』は、ルナティアの血に宿る月の女神『イオネラ』の加護。


 赤い月の呪いに対抗できる唯一の希望。


 でも、混血の私の体は、その力を引き出すたびに軋む。

 純血なら耐えられる力も、私には重すぎる。


 額に滲む汗を悟られぬよう、姿勢を正す。


 タケルや国王陛下に、この弱さを知られるわけにはいかない。


 私の月魔法とタケルの古代魔法――

 

 この二つだけで、帝国の闇を打ち砕かねばならないのだから。

 


 するとタケルが自信満々に胸を叩く。

 

「話はややこしいけど、要は『ヴェルなんとか』倒して暗黒竜召喚止めたらいいんでしょ?」

 

 ……この楽観主義、緊張はほぐれるけど、不安しかない。



 

 ――ザルド帝国への道は険しかった。


 帝国と敵対中の『モリスゴール王国』の関所ではタケルがスパイ疑惑をかけられ「俺、主人公!」と叫んで事態を悪化させる。


「タケル、何やってるの!? ノ・エスピラ! ソロ……ロコ!(スパイじゃない! ただのバカ!)」

 

 私は片言の『エラディス語』で何とか誤解を解いた。

 

「タケル、もっと慎重に動いて。帝国のスパイにみんな警戒してるのよ」

 

「主人公は勢いが命! この前、魔王も“肩ポン”許してくれたでしょ? ミオ、俺を信じな!」


「なっ!? タケル、あの時のことまだ自慢!? よくもあんな無謀な行動……」


 

 あの出来事が、頭痛と共に蘇る――


 


 ――月耀暦402年十一の月。


 私たちは帝国軍に対抗すべく、『禍焔大陸』にある魔王城へ援軍を求めに赴いた。


 宝玉の輝きが鈍る中、およそ四百年前にセレンディアの『三聖女』と和平を結んだ魔王――『ゼルドラス』様の力が必要だった。


 魔王城の門は黒い炎のようにそびる。

 

 私は緊張で息を詰まらせた。

 タケルは私の5倍怯えてた。

 

「ミ、ミオ、マジでここ……魔王城!? や、やべえ、『ゼルドラス』とか超絶極悪ネームじゃん……!」

 

「タケル、もう、黙ってて! ゼルドラス様は“和平の王”よ。失礼のないようにね!」


 タケルはガタガタ震えながら剣を抱えた。


 いつも「ハーレム王!」とか騒ぐくせに!

 こんな時は腰抜け!



 謁見の間に通されると、巨大な角と真紅のマントを纏ったゼルドラス様が玉座に座っていた。


 仮面で素顔は見えないけど、私たちを見据える赤い眼光に圧倒される。



「ルナティア族の末裔と勇者よ――」

 

 その声は意外にも軽やかで、気さくさすら感じさせられる。

 

「我輩もあの男には因縁がある。だが、月の力が弱まる今、魔族の均衡を保つので手一杯。援軍を出す余力はない」


「そ、そうですか……」


 私が肩を落とすと、彼は申し訳なさそうに続ける。

 

「遠路はるばる参ったその労を無駄にしたことは、我輩も心苦しく思うぞ」


 威厳はあるけど、伝承の「寛大な魔王」がこんな親しみやすい声色だったなんて……!


 タケルも呆気にとられていたけど急に目が輝き始めた。

 

「え、ゼルドラス様、めっちゃフレンドリー!? じゃあ俺たち、もう仲間っすね!」


 タケルが突然、彼の肩をポンと叩いた。

 


 ――嘘!?

 叩いた!?


 魔王の肩を!?

 調子に乗りすぎでしょ!

 


「タ、タケル!?」


 私は青ざめ、涙目で叫んだ。

 


 ――終わった。


 私たちはここで死ぬ。

 


「クックッ……」


 彼は仮面の下で笑い、明るい声で言った。

 

「ハッハッハッ! 面白い勇者だ! そなたの魂、“闇を貫く光”だな。ルナティアの娘よ、こやつを導き、ヴェルザドールを討て。我輩はここでそなたらの勝利を祈る!」

 

「……は、畏れ多くも、感謝申し上げます!」

 

 私は冷や汗で震えながら頭を下げた。


 

「よっしゃ、魔王様とバディ!」

 

 タケルは何か叫んでる。

 

 バカ……

 生きてるのが奇跡よ!


 

「タケル、次は絶対許さない! 寿命が10年縮んだわ!」


 私は彼の胸をバシバシ叩き、ため息をついた。


「ミオ、魔王めっちゃ絡みやすかったな! でも残念。魔王の援軍なんてすげえ心強いのに」

 

「ゼルドラス様は配下の魔族を抑えるのに精一杯。仕方がないわ……」


「じゃあ、また……肩ポンしにいく?」


「冗談でもやめて! 震えてたクセに! バカ!」


 

 この人、私がいなかったら何回死んでるんだろう。

 


 でも、ゼルドラス様の「勝利を祈る」という言葉が、宝玉の温かさと一緒に心に響いた。

 

 これは……


 タケルが引き出した言葉なのよね……。



 

 ――月耀暦403年一の月。


 カリムシャール王国の領地に入り、森の中を進む。


「めっちゃモンスター出そうな雰囲気!」


 タケルが騒ぐ中、私は荒れた村を見つめた。


「……20年前、この国は平和だった。『リン』という姫君がいたけど、モリスゴールとの会談へ向かう道中、紅鱗蛇刃に攫われて帰らぬ人に……」


「姫暗殺かよ……最悪……」


「ルナティア族を匿っていたから標的にされたそうよ。宝玉も奪われ、後継者なき王家は乱れ、国は弱体化。帝国の侵攻を許すようになったの」


「帝国の奴ら……どんだけクズなんだよ!」


 タケルは怒りを顔に滲ませて剣を握る。

 私は頷き、胸の宝玉を握った。


 遠くで不穏な鳥の声が響く。


 

 さらに森の奥へ進むと、木々の間に隠れた集落が見えた。


 ルナティア族の隠れ里――


 滅びたと思われていた純粋な血を引く者たちが、ひっそり生き延びていた。


 私の遠い血縁……胸が熱くなる。

 

 警戒心の強い彼らだったが、私の宝玉を見て歓迎してくれた。


 長老の『ミャーラ』が月光の祭壇に私を導く。

 祭壇の石碑が青白く輝く中、彼女は静かに言う。


「ミオよ、そなたの宝玉は我らの希望。真の姿を隠さず見せなさい」


「真の姿……でも、私は混血。純血の皆さんのような『月の耳』もなく、力も足りなくて……」


「隠す必要はない。そなたはそなた自身。月の女神は、ありのままの魂を愛する」

 


 ――ありのまま……。


 私の手が、無意識に腰の後ろに伸びる。


 そこには、迫害の恐怖からずっと隠してきた「私の証」が眠っている。


 

「……分かりました。月の女神様、そして皆さんの前で、隠すことは致しません」

 

 深呼吸して、腰に巻いていた布を解く。


 魔法の隠蔽を解くと、白い尾が現れ、青い光が月光に溶ける。


 ――母の遺したルナティアの証。


 里の民が静まり、子供たちが「光ってる……!」と囁く。


 ミャーラは微笑む。  


「美しい光じゃ。その尾は希望の灯。混血ゆえの光が、闇を祓う。そなたの旅は、純血の我々を必ず超えることになる」



 涙がこぼれる。

 

 両親の死後、初めて尾を誇れると思った。

 一族の絆が、私を抱きしめる。


「ミオに尻尾!? めっちゃキレイじゃん! “モフキュン”最高!」


「タケル、静かにして!」


 タケルのバカ声に、感動が台無し!

 というか「モフキュン」って何!?

 


 一方、タケルも長老から闇を断ち切る「勇者の剣」を託される。

 

「うおお! ガチかっけえ!」


「はぁ……キミ、ホント子供ね……」


 

 ――でも、ありがとう。

 

 なんだかキミには色々と救われた気がする。


 

~~~〜〜〜


 

 こんな小さな石に、こんな熱い絆が……。


 ノエルの宝玉から流れる記憶はまだ続く。



 赤い月の夜、「レオン」そっくりなバカ勇者タケルと「紺色髪」のミオは……

 

 どうなったんだ……?

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