第13話 青春☆魔法学院!②
――試験当日。
俺たちはトップバッターで幻影迷宮に突入!
目的は指定ポイントへの到達!
支給された魔道具――短剣『タクトダガー』を腰に携え突き進む!
壁がグニャグニャ動くホラーな迷路、めっちゃアニメのラスダンっぽい!
緑色に光る燭台、謎の魔方陣、ワクワクが止まらねえ!
「さあ、みんな! 迷宮の謎解いて、無事青春ハーレム完成させるぜ!」
俺が短剣を掲げると、セーラがツインテをビシッと振る。
「なんであんたが仕切ってんのよ! ロクに勉強してないんだから下がってなさい!」
「お、おう……」
「『幻影迷宮』で試験が行われるのは今回が初めてなの! 何かあれば教授が駆けつけてくれるらしいけど……気を引き締めなさい!」
「うすっ……!」
俺たちは最高のチームワークで次々に現れるトラップを攻略しながら迷宮を突き進む。
――無数の扉が並ぶ部屋。
オリビアが首を傾げ、ポニテを軽く揺らす。
「うーん、扉がいっぱい。正解どれかな?」
リリが水色髪をフワッと指で払い、目を細めてマークを見つめる。
「オリビアちゃん、みて! この順番に開けるんじゃない? 月の満ち欠けのマークが……!」
「あ! そっか、ルナティアの月の位相周期か! さすがリリたん!」
俺は顎をさすり、ゆっくり頷く。
「ふむふむ……」
――ガチャン!
正解の扉が開き、キラキラ光る通路へ!
いいぞ、順調だ!
――逆転重力の迷路。
床が突然回転! みんな逆さまに!
エスターがメガネのフレームをクイッと押し上げ、冷静に呟く。
「セーラ、これは重力反転の魔方陣だけど、どう思います?」
セーラが両手を腰に当て、キリッとした声で答える。
「私は45度ベクトルで反転すると思う」
クロエが片手で紫髪を耳にかけ、低く呟く。
「周期3秒、魔力の波形も試してみる」
俺は微妙な笑顔で頷く。
「おお……なるほどね……?」
ゴゴゴゴ……
――ズドン!
全員着地成功!
みんなナイス! さすがだぜ!
――3つの聖杯が浮かぶ祭壇。
水を注げば扉は開くが正解は1つだけ。
残り2つは入り口に強制転送のトラップ!
セーラが瞳を細める。
「魔力の残滓が共鳴してるのは中央だけ。左右は微妙に“ずれ”てる。みんな、どう思う?」
――?
オリビアが指先で炎の残光を弾く。
「炎の波の還流、左と右は鏡写しみたいに歪んでキモい感じ! 真ん中だけ超キレイな“完ペキ円環”に戻ってんの! ガチ中央一択っしょ!」
――??
エスターが空中に複雑な魔方陣を一瞬で描いて、指でなぞる。
「月の位相遷移を螺旋ベクトルで追跡すると、左は外向き発散、右は内向き収束、中央のみが完全な静止軌道を維持しています。つまり……“留まるべき場所”は自明ですね」
――???
クロエが地面に掌を這わせ、闇の脈を読み取るように呟く。
「……澱みと濁り。左は腐った影。右は偽りの虚無。中央だけが、本物の“無”……完全に浄化された、静かな深淵」
――????
リリがそっと聖杯に触れて、優しく微笑む。
「癒しの波も……左と右は跳ね返ってくるだけ。中央だけがちゃんと“受け止めて”くれてる。『大丈夫だよ、全部預けて』って、そっと抱きしめてくれてるみたい」
――?????
「タケル、どう?」
セーラに振られて、口が勝手に動いた。
「……真ん……い、かな……」
「え、何?」
「――ッ! う、うん……真ん中……で、いいんじゃ……ない?」
彼女が静かに結論を下す。
「じゃあ、決まりね」
中央の聖杯に水を注ぐ。
――キラーン!
聖杯が光り、道が開く!
よっしゃあッ! この調子だ!
――俺、握った拳を静かに下ろし、ふと立ち止まる。
みんなの会話が飛び交う中、俺は半歩下がる。
さっきセーラに「え、何?」って聞き直された瞬間、自分の声のちっちゃさに死にたくなった。
みんなが一瞬だけこっちを見て、優しく、でも明らかに「まあ、タケルだからね」って顔で微笑んでた気がした。
うんうんと頷く。
顎に手を当てる。
眉寄せたり、仲間のリアクションに合わせて笑ってみたりする。
「ああ〜」「そっかぁ」「なるほど」
全部、演技。
脳内真っ白。
置いてけぼり感MAX。
よくいる「集団行動で何かやってる風を装いつつも、気まずくて引きつった笑顔」のあいつ。
あの「何かしなきゃと思いつつも、何やったらいいのか、何しゃべったらいいのか分からず、ソワソワ動くだけで実質何もしてない」あいつ。
――今の俺、完全にそれ。
「タケル、こっちの魔方陣見て」
セーラに呼ばれる。
存在感出そうとちょっと過剰気味に「お、おう!」って反応して駆け寄る。
わざわざ走っていく距離でもない。
指差された魔方陣、意味わかんねえ。
「うーん、なんか……ごちゃっとしてるね……?」
――それしか言えねえ。
「……そう。ねえ、オリビア――」
めっちゃ呆れらた!
「タケルくん、魔力の流れ感じる?」
リリに優しく聞かれる。
「あ、ちょっと……ビリビリしてる……いや、してない……?」
――なんも感じねえ。
「ありがと、タケルくん」
リリ、ニコッと天使の微笑み。
その優しさ、逆につれえ!
集中状態のエスターが俺を横目に真剣に尋ねる。
「小像を置き換えるタイミング、分かりますか?」
――俺に聞いてるのか?
「え、あの、えーと……」
「はっ、ごめんなさい! タケル君でしたか! ク、クロエさん、タイミングは――!」
振り向いたエスター、顔真っ赤でガチ謝罪。
何もしてねえのに謝られるの一番キツイ!
無力感と罪悪感のダブルパンチ!
……俺、マジで何もしてねえ。
――中学の終わりごろ。
周りは「ファッションブランド」とか「洋楽バンド」とか、急に高度な話題に移行し始めた時期だった。
俺は会話についていけず、目立たずニコニコと相槌を打つしかなかった。
別にそれでハブられたりしたわけでもなかったけど……
あの何とも言えない疎外感。
それは専門学校に行ってからも、社会に出てからも何度も繰り返したっけ……。
もう転生ループ8回目なのに前世のこの気まずさを覚味わうことになるとは……。
――ハーレム王? どこにいる?
――試験前の威勢、どこいった?
――俺のポジ、ただのギャラリー!
……でも、「それでいいのかも」って、どこかで思ってる自分がいる。
だって、みんなカッコいいんだもん。
俺が口出ししたら、絶対邪魔。
最初は「ハハ! みんな、何言ってんのか分かんねえって!」って茶化そうとも思った。
でも、みんなの真剣な顔見てたらそんな空気でもない。
クロエとか話しかけるだけでキレられそう。
そもそも遅延覚醒で意識目覚めたのが試験一日前。
クソみたいなタイミング。
10日前から「仮の俺」が動いてくれてたみたいけど、“成績ビリ”の時点で頭悪いのはお察し。
おそらくこの状況は変わってないだろう。
頭脳戦で活躍なんて無理。
だから、頷く。
「ふむふむ」って言う。
引きつった笑顔で、半歩下がる。
これでいい。
とにかく今は邪魔をしない。
それが今の俺の役割。
“置物王・竹仲タケル”、25歳――いくぜ!!
――紫がかった霧の立ち込める不気味な空間。
天井の裂け目からスライム状のヘビモンスターがニョロニョロと這い出てきた!
これは……ようやく俺の出番!
頭で活躍できないなら戦闘でやるしかねえ!
置物モード、解除だ――!
「ハーレム王の炎、くらえ!」
俺、短剣にシルバーフレイム纏ってドーン!
――ドババババ!
セーラがツインテを振り、顔を赤くして叫ぶ。
「あ、バカ……!」
ヘビモンスター、分裂して襲ってくる。
10体に増殖!
床を這い回り、シュルシュルと迫る!
「凍てつきなさい!」
「キモい! 燃えちゃえ!」
セーラ、オリビア、氷の矢と赤い火球ブッ放して一掃!
ナイスサポート! 二人ともかっけえ!
ハーレムパーティ、マジ強い!
……って、俺の出番また一瞬で終わった……?
足引っ張っただけ!?
マジ……情けねえ……!
オリビアが俺の肩に腕を回してきて、陽気に笑う。
「にひひ〜♪」
「オ、オリビア……?」
背が高い。
俺より拳一つ分くらい高い。
腕回されると自然と顔が近くなって、間近で見るオリビアの顔……
めっちゃ可愛い……。
ちょっと大人びた卵型の輪郭に、でもどこか幼さが残るふっくらした頬。
天真爛漫な大きな目をイタズラっぽく細め、ポニテの先が俺の耳をくすぐる。
スラッとした体がぴったり寄り添って、甘ったるくて、ちょっとトロピカルな香水の匂いがふわっと鼻を突いた。
ギャルっぽい、夏の海みたいな、でもどこか大人びた匂い。
一瞬で頭がクラッとするくらい強くて、でも妙に心地いい。
リップグロスでテカった唇から、小さめ八重歯がチラッと覗く。
「タ〜ケルっち♪」
甘く、ちょっと鼻にかかった声。
すぐ横、ほんの数センチ先から零れるその響きは、鼓膜を直接震わせて、背筋をぞわっと走らせる。
息の温度が「ふぁ……」っと頬にかすかに触れて、香水の甘さに混じった生温かいミントの匂いが、鼻腔の奥まで染み込んでいく。
――ダメだ。
頭がぼうっと溶けそうになる。
心拍数200超え。
試験前までの俺だったら「うっひょー!」って心の中で絶叫してたはずなのに。
――今の俺が、そんなこと思っていいわけねえだろ。
自嘲が胸を突き刺す。
「頑張ったじゃ〜ん。分裂させるの、ナイス判断だよ〜。あれでみんなの連携引き出せたんだから!」
「そ、そう?」
俺は笑おうとするけど、もう口角すら上げられなくなってる。
陽キャ特有の優しい嘘に顔が引き攣って、目が泳ぐ。
オリビアはさらに陽キャスマイルで続ける。
「焦っちゃうのはわかるけど、次はもっとタイミング見てさー、みんなに合わせてみよっか!」
「うん……」
「私らまだ“15”なんだしさ、これから実践で磨いていこーぜ!」
15!?
マジかよ、みんな若ぇ……。
しかも実践で磨くって……
勉強すらできてねえのに俺の価値って一体……。
彼女なりの励ましが、逆に俺の無力さをガッツリ突き刺す。
オリビアはポニテをくるっと回しながら、ニコニコ笑顔でみんなの方へ戻っていく。
――スッ。
ちっちゃい影が横に並んだ。
クロエだった。
ジト目で俺を見上げてくる。
身長差20センチくらいあるから、完全に下から刺すような角度。
ボソッ。
「……バカタケル。顔に出てるぞ」
「……え」
「自分の不甲斐なさに、泣きそうになってるだろ」
うっ! 見抜かれた……!
心臓がギュッてなる。
言い訳も誤魔化しも、全部通用しない。
俺が言葉を詰まらせてる間に、クロエは紫髪を軽く払って続ける。
「古代魔法の持ち主が……そんな顔でウジウジしてんな」
それだけ言って、プイッと顔を背ける。
……え?
これ、励まされてる……のか?
「自信持て」ってこと……?
ありがとう、クロエ……
毒舌だけど、案外優しいんだな。
いや、待て……
俺、10歳も年下の女の子に慰められてんのかよ……!
それはそれで……
俺、思わずガックリと頭を下げた。
胸がズキズキして、視線を床に落とすしかねえ……。
――ん?
床の模様に、他と違う渦巻きみたいなのが……。
何気なく踏んでみる。
――ズドン!
「へ?」
部屋が神秘的な光に包まれ、ガラガラガラと壁が動く!
一瞬で荘厳な祭壇がある空間に変化!
セーラが目を丸くして叫ぶ。
「この祭壇……“目的ポイント”!? タケル、あんた……!」
「隠しスイッチ! タケル君、見事です!」
「……やるね、バカタケル」
「タケルくん、すごいよぉ!」
「タケルっち、ナイス! これで試験クリアじゃん!」
――みんなから褒められる!
胸のモヤモヤが、パッと晴れる!
マジで……心が軽くなった!
偶然だけど――俺でも役に立てたんだ!




