02:リアン、少女と出会う
まるで落雷に打たれたかの衝撃だった。
艶かしいのその肢体に頭からつま先まで自然と視線を這わせていた。
決して疚しい気持ちからではなく、彼女から視線を逸らす事が出来なかった。
いや、逸らす事が許されなかったと表現した方が正しかったのかも知れない。
間抜けに口を開け、彼女の言葉は一切鼓膜に届いていなかった。
聞こえていないと勘違いしたのか、若干不機嫌そうな面持ちへと変わり、俺に肉迫する勢いで接近していた。
「のお! 主に聞いておるのだ! 妾が貰って良いかと聞いておるのだから何か言わんか、戯けがっ」
ここでやっと我に変える事が出来た俺は、少女の肢体が隠す事なく目の前に迫っている事に気がつき、転がるようにして後ろへと身を引いていた。
「やっ、やる! 魚はやるから……そのっ、ふ、服を着てくれ!」
自分でも分かるほど顔が熱くなり、今にも沸騰しそうになりながら目を逸らして懇願していた。
未だに隠す様子を一切見せない少女は、仁王立ちでニヤリと歪な笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「なんだ主。妾の体に発情しておるのか? ふふっ、初心い奴よな。 ちっとばかし揶揄いたくなってしまうのぉ」
興味が無くなったとばかりに魚をその場に落とすと、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいて来るものだから、俺は尻を引きずって後退していた。
「逃げなくても良かろう?」
「なら近づかないでもいいだろう?」
「それは妾が決める事だ」
「……自分勝手な奴だな……」
彼女が前進するのに合わせてこちらは後退していたが、いつまでもそんな状態が続くはずもなく、背中に岩盤が当たる衝撃を受け下がれる限界だと理解した。
「今から妾が何をするか……分かるか?」
「……さあ? 俺はどうされるんだ?」
「ふふっ、それはのぉ……」
正面から俺に覆い被さり、そのきめ細かな柔肌に包まれる。女性特有の甘い香りが鼻孔を擽り、血が沸き立つ感覚に頭がクラクラとした。
彼女の指先が俺の首筋を舐めるように這い、徐々に上へと伸びて右頬を優しく包み込む。唇と唇とが触れ合いそうな距離まで彼女の顔が近づけられ、咄嗟に俺は目を強く瞑っていた。
すると、彼女の唇は俺の左耳へと運ばれて、生暖かい吐息がかけられた。
「ふぅ……」
「ーーーーっ!?」
背筋に電撃が走ったように震え、腰が砕け堕ちてしまっていた。
「……これくらいで根を上げるとは……さては主、童貞だろう? ふふっ」
情けなく、小さな声を喉の奥で漏らしてしまい、彼女はクスクスと笑っていた。
「…………悪いかっ……」
図星を突かれ、不機嫌を隠すことなく視線を横へ向けて恥ずかしさを誤魔化していた。
十五で成人にもかかわらず、十八にまでなって童貞というのは余りにも遅すぎるからである。
「まぁまぁ怒るな。安心しろーー」
そう言って立ち上がった彼女はクルリと後ろを向き、小振りな尻を突き出して来る。
「ーー妾も処女だからのぉ」
「ーーーーっ」
張りのある二つの双丘が眼前に広がり、しかし大切な部分は後手に回した両手を広げて見えないように守っていた。
女性の体をこんな間近で見たことが無かった俺は、自分でも可笑しくなりそうくらい興奮しているのがわかる。
無意識の内に手をその双丘へと伸ばしかけていたところで、いつの間にか拾われていた魚を顔面に叩きつけられ、その場で後ろへひっくり返ってしまい、盛大に岩盤に頭をぶつけてしまった。
激痛と共に邪な気持ちも霧散していた。
「なっ、何すんだっ!」
俺が起き上がると、彼女はフリルのついた薄手の黒いワンピースを既に纏っており、こちらを向いて笑顔を向けていた。
「主が余りにもやらしい目付きで妾の大切なところを見ようと獣になりかけておったからのぉ〜。お仕置きをしてやったのじゃ」
ケラケラと楽しそうに笑う彼女が不覚にも可愛いと思ってしまった自分が悔しく、投げられた魚を拾い立ち上がると、魚籠へと強く放り込んでいた。
「ーーあっ、それは妾の魚……」
「俺に返してくれたんだろう? ありがとなっ!」
「ーー全く、子供じゃな主は」
意地悪い俺の態度に、小さな溜息と一緒に呆れたような顔をされてしまった。
元はと言えばお前のせいだろう、と言いたい気持ちが強かったものの、言葉で彼女に勝てるとは到底思えない俺は黙ることにした。
「それで主、名は何というのじゃ?」
そこには呆れた顔は既になく、年相応な幼い顔を向けて質問してきていた。
正直ここまで辱しめを受けた手前答えたくなかったが、答えなかったからと言ってまた妙な事をされては堪ったものではなかったので、渋々ながら答える事を選択していた。
「……リアンだ」
「歳は?」
「十八」
「ーーその歳で童貞か」
「気にしてる事をハッキリ言うなっ!」
本当にこの少女はデリカシーやら羞恥というものはないのだろうかと疑いたくなってしまう。
「……俺が名乗ったんだ。お前も名を名乗ったらどうだ」
「……ふむ……そうだなーー」
右足を軸に円を描く様にクルリと回り、濡れた髪が煌びやかに雫を辺りに散らす。
そんなちょっとした動作でさえ絵になってしまうのだから、この少女の絶世の美貌に息を呑んでしまう。
俺の方を向いて彼女が止まると、可愛らしい小さな口を三日月形に薄く釣り上げ、微笑む。
「ーーライラじゃ。妾はライラという」
そう言って濡れた髪を耳にかける仕草に、悔しいが見惚れるようにライラを眺めてしまっていた。
読んで下さりありがとうございます。
【攻撃力1、防御力9999で転生された俺はどうしたらいいの?〜古代魔法も魔王の一撃も効かない件〜】も現在《第24部分》まで並行して投稿しております。気になりましたら、そちらも読んで頂けたら幸いです。