森の旅
森の家を出て、獣道を歩き、更に急な斜面をよじ登ってしばらくいくと、山肌にぽっかりと口を開けた洞窟が現れた。つる草が入り口に垂れ下がっていて、のれんのようにさわさわ揺れている。この洞窟はどのくらいの深さなのか…ここからじゃ見当がつかなかった。
先頭に立って歩いて行く男は、なんの躊躇もなくその中へ入っていく。
「へぇ、何、ここ。中入って大丈夫なの?」
「ええ。さ、早くっ。」
洞窟の中は暗く意外と通路も狭いので、いつもの倍以上気をつけていないと、つまずいてしまいそうだった。…と、目の前が急に明るくなる。
「あ、電気付いたみたいね。」
「電気ぃ?」
天井を見上げてみれば埋め込み式のライトが明々と輝いていて、そこで初めて、周囲が岩肌ではないことに気がついた。入り口以外は全部、人工物だったようだ。壁には一面にびっしりと、なんだか分からない機械類が埋め込まれて、ランプをチカチカ点滅させている。かっこいい。
…いや、そんなことよりオレは、男がランドセルみたいな物を背負っているのが気になるんだけど。なんだアレ。
「じゃ~ん、タイムマシーンよっ!」
声が高らかに宣言した。
「…え。どれが?」
あたりにはこれといった物体がなく、部屋の中にあるのは男とオレと声の人だけだ。今、男がもう一個、ランドセル持ってるけどアレのことか…?
そもそもタイムマシンなんて…本気で言っているんだろうか。
「この部屋この部屋。この部屋全体がそうよ。ほら、機械が入ってるじゃない、壁に。ここで時間軸や年代を計算しているのよ。で、今この人が背負っているのがその計算結果を受信する装置。さ、篤史も付けてつけて。」
「はぁ…受信機でそんなにでかいの?しかも…おもっ!」
「昔の携帯電話、見たことある?今度『ググール』で画像検索してみなさい。コレだっていずれ小さくなるわよ。さあ、時間旅行へ出発~!!!」
グーグルだろ…。
けれどオレのツッコミは、突然襲ってきた光にかき消されてしまった。
白い白い光。
オレはその光の中心に向かって動いているらしかった。
周囲が全く真っ白で、今自分が立っているのか横になっているのかすらも分からなくなる。時々、顔の横をシュッと黒い線が通り過ぎるだけで他は何も見えない。そういえば、あの男と声のお姉さんはどこにいるのだろう?姿が見えない。(まぁ、1人は実際見えないけど)
ふいに、足の裏が何かの力に引っ張られた。
気がつくと、オレは森の中に突っ立っていた。
暑い…
第一印象。
そして…さっきと変わらず森の中なんだけれど、木や草の感じが微妙に…いや、非常に違う!背の高い樹木が空を隠すように生い茂り、ツタが絡まっているのやら、厚ぼったい葉っぱを垂らしているのやら、辺りを見回す間にも、聞こえてくるのは何かの生き物の声。
耳をつんざくような、それでいて嫌に低い音が響き、頭の上を影がザッと横切った。あわてて影の通った方を見上げると、向こうの木立の中へ翼竜が姿を消すのが目に入る。足下をムカデのような生物やネズミの様な生物が駆け抜けていった。
彼らが走ってきた方向に足を向けてみると、次第に木々が少なくなり、そして視界がひらけた…!!
今、立っているところは少し小高いところらしい。見渡す限り、森・岩山…人工物はまったく見当たらず、代わりに大きな、ありとあらゆる種類の恐竜の頭が、あちこちにぴょこぴょこ動いている。
どうして、こんなことが?ホントにホントにホントにホントに…
「あんまり動き回ると危ないわよ。ここ、崖だからね。踏み外したらヒュ~すと~ん…てことになっちゃうわよ。」
驚いて背後を見ると、キレイな女性が、ニマニマしながら男の隣に立っていた。
「え…、え、まさか、あの声の…」
「ほらほら、前方に見える山に注目!3…2…1…」
突然!!地面を揺るがす大振動と共に、目の前の富士山のような山が火を噴いた。
赤々とした火柱をバックに、様々な種類の恐竜たちが動き回っている。空を飛べるモノは周囲の様子を覗うようにグルグルと旋回し、陸の上にいるモノは少しでも離れようと彼方此方に散らばって移動し始めている。チラチラと舞い降りる赤い粉が、薄暗くなった空に映えてとても幻想的に見えた。
「ひゃっほ~ぅ♪ね、ね、すごくない?あ、篤史怖いんじゃないの?大丈夫よ、今立ってる高台には被害でないから。ちょっとした、よくある噴火よ。」
お姉さんの声を半分聞きながら、オレは目の前の光景から目を離せないでいた。なんと言っていいのか、言葉が出ない。
「…すっごい。コレ…本物?」
やっとの思いで口に出せたのはこれだけだ。お姉さんはそんな様子に満足したのだろう、ケタケタ笑いながら、オレの顔をのぞき込む。
「モノホン、モノホン!やっぱ、男の子にはこの時代が楽しいかな~と思ったんだけど、どぉ?」
「いや、すごいけど…すごいけども…。」
一度に色々ありすぎて、何が何だか…。
本当に過去?本当にタイムマシン?そんな機械持ってる2人は何者?なんでお姉さんは見えるようになった?
「せっかくだし、恐竜間近で見ない?安全な場所に降りてみましょ。」
固まっているオレの手をとって、お姉さんは歩き出した。戸惑って男の方に目をやると、さっきからの無愛想はどこへやら、穏やかな表情でオレ達の後をゆっくりついてくる。
特に女性に対し異存はないらしい。
さっぱり訳が分からないけれど、この状況を受け入れるしかない、か?




