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森の巨人  作者: SAME
12/17

森の時間(1)

 「・・・。」


 幸せそうなカップルは、階段を下りていった。

オレは、呆然と残される。ただそこに突っ立って…突っ立って…


 「それでいい。」

 横から、ゆっくりとした低い声が響いた。そうして、ポンポンと肩を叩かれる。


 「親と同じにならずにすんだ。お前の方がずっと大人だ。」


 男の声だ。ここに来てようやく喋ったわけだ。

けれど、オレはそんなことを気にする気力もなく、歩道橋の柵へもたれかかった。

ただ、悲しい。ひどく、悲しい。


 「……別に大人になりたくないよ。」


 オレはもう何も考えたくなくて、歩道橋から下を眺めた。

渋滞気味の道路は光の帯と化し、デパートやファッションビルや飲食店の明々としたライトに、最大音量で流れてくる賑やかなBGMと沢山の人の群れが、楽しげな雰囲気を作り出している。


 「もう見当がついていると思うが…」


 長い長い沈黙の中、オレの横で同じようにじっと景色を眺めていた男が、口を開いた。


 「私と彼女は未来から来た。篤史の時代よりも少し未来から。その時のタイムマシンは、今の『肉体そのまま』移動する方式ではなく『肉体をデーターへ変換して』移動する方式だった。」


 やっぱり未来の人か…。いつまでも落ち込んでいても仕方がないので、オレは男の話にのる。

 「…データに変換?できるの、そんなこと?」


 「説明すると長くなる…不可能じゃない、ただ、非常に複雑で膨大な計算が必要となるだけだ。

ところで、今、私達がいる時代だが、ここは本当の過去じゃないんだ。」


 「え?じゃぁこれ幻覚か何か?」

 恐竜はすごく存在感あったし…他の時代も、今立っている時代も、全く違和感がない。

さっきの若い両親すらもウソなんだろうか?


 ところが、男はあっさり首を振った。


 「いいや、『同じ時間軸』のひとつ、簡単に言うと平行世界パラレルワールドだな…厳密には少し違うんだが。平行といっても、それぞれ時間の進み方が違う。

 私達の世界は『平成』まで時間が進んでいるが、ここは『昭和』までしか進んでいない。今まで見てきた時代全部そうだ。この世界には、1年…いや0.001秒ごとに遅い平行世界がたくさんある。合わせ鏡のように無限に。」


 「…早い世界はないの?オレ達の明日の時間になっている世界とか。」


 「あるだろうな。けれど、いくのは当分無理だろう。これも長くなるから省くが。

しかし、『同じ時間軸』である以上、この世界で暮らしている人間は今いる私達の時間と全く同じ人生を歩む。そこにいる篤史の両親も、結婚して、子供を産んで…」


 そういって、男はオレの顔を見て口元だけで笑う。

 「だから、ここの彼らを消しても今の篤史が消える訳じゃない。平行世界だから。」


 「…はぁ」

 なんかダメ押しされた気がする…結局、運命は変えられないのだ。オレのも、それからこの世界に生まれるオレのも。

 けれど、どこか安心している自分がいた。

いくら嫌な親であるとしても、この時代の彼らにあたるのは間違っている気がしたからだ。

ここの彼らは何にもしていないのだから。今のところは。まぁいいさ、そんなものだ。



 「最初、彼女の姿がなぜ見えないのか、不思議に思わなかったか?

  タイムマシンで過去を巡っている時にはなぜ見えるのか。」


 唐突に男がそんなことを言い出した。


 「思うも何も、びっくりしたよ。透明人間なんて初めて見たもん…何で急にそんな話?」


 「マシンが発明された当時、行ける過去は『本物の過去』かいう論議を呼んだ。

もし『本物』ならば実用化する前に、規制するなど対策をしなくてはならない。未来を改変しないように。

 しかし、どうやってそれを確認するか?篤史ならどうする?」


 何の授業だ…でも、何か答えるまで話すつもりもないんだろう。

ふむ、一番単純な方法と相場が決まっているんだよな、こういうのって。オレはとりあえず、頭に浮かんだ方法を口に出してみる。


 「…たとえばリンゴを置いとくだろ。で、2日ぐらいたったら過去に行って、そのりんごを食べちゃうんだよ。そして、元の時間に戻ってりんごが消えてたら、本当の過去ってことにならない?」


 「無難だな。だが、人手が多くいる。リンゴを見張る人間…2日間不眠不休は無理だから3交代とする。監視カメラ類は、改ざんの可能性を疑われるので却下。当日、リンゴを見ている学者と実験者と共に過去へ行く学者…二手に分けねばならない。それぞれ5人くらいいればいいだろう。(学者先生は2日間ずっと見張るなんて芸当はしない。当日約束の時間に現れるだけだ)りんごを持って過去に行くという方法もあるが、仕掛けやトリックを疑われる余地を残すのは好ましくない。

 それに、2日後にあるリンゴと過去置いたリンゴが同じ物だと、すぐ証明できないから…目の前で消えたリンゴの代わりに別のリンゴを置く…なんてことも考えられる。足を引っ張るのが好きな人間もいるからな。それを防ぐためにさらに見張る人間を増やすとなると…いずれにせよ、実用化前に極秘でやる実験にしては大がかりになってしまう。」


 「それじゃ、他の物でもダメじゃん。」


 コイツ一気に350字ぐらい喋ったな…さっきまで全くだんまりだったくせに。

しかし、リンゴ一個で大がかりと言われても…そうだ、壁に落書きするとか!古代人が描いた絵っていうの、洞窟に良く残っているらしいし。いや、それでも見張りがいるのか。ええー、じゃぁ…そしたら…


 オレが頭をひねっている様子を見て満足そうに頷きながら、男は言葉を続けた。


 「発明者は一つ考えついた。見張りなどの余分な人員を必要ともせず、過去・未来と2手に別れなくても良く、一目で確認が取れ、代わりがなく改ざんされるおそれのないもの…。」






 「自分自身だ。」





お読みくださりありがとうございます。



コイツ…かなり喋るぞ…!!

解説入れると長くなるし、省くとわかりにくいし、加減が難しいです。

後、3~4話で終わる予定です。

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