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砕かれし魔笛

 ドッッッガァァァンッ!!


 黒い衝撃波が地面を抉り、土煙が森を覆う。


 レイクたちは四方へ散開し、距離を取った。


「……くそっ!」


 レイクが拳を握る。


 土煙の向こうから、巨大な魔人がゆっくりと姿を現した。


「グオオオオオオオオッ!!」


 その背後では、笛吹き男が何事もなかったかのように笛を構えている。


 ピィィィィィ……。


「やっぱり、あいつをどうにかしねぇと!」


 レイクが地面を蹴る。


「おれが行く!」


「待て、レイク!」


 エギルもレイクに続いて駆け出した。


 二人の狙いは、魔人ではない。


 その背後にいる笛吹き男。


「おおおおおっ!!」


 レイクが拳を振り抜く。


「はあっ!」


 エギルも剣を横薙ぎに振るう。


 ガキィィィィン!!


 二人の攻撃が、漆黒の分厚い魔力障壁に完全に受け止められた。


「なっ……!?」


「なんという硬さだ……!」


 バァン!!


 二人の身体が同時に弾き飛ばされる。


「ぐあっ!」


「くっ……!」


 レイクが地面を転がり、エギルも数メートル後ろまで吹き飛ばされた。


「レイク君!」


 ミリアが叫ぶ。


「大丈夫だ!」


 レイクはすぐに立ち上がる。


 エギルも剣を構え直した。


「……あの障壁、並の魔法ではないな」


 リゼットが短剣を構える。


「正面からでは突破できそうにない」


 ゼノンは黙って笛吹き男を見つめていた。


 男は余裕の表情で笛を吹き続けている。


 ピィィィィィ……。


 その音に合わせ、魔人が再び動き出す。


「グオオオオオオッ!!」


「来るぞ!」


 五人が散開する。


 魔人の拳が振り下ろされる。


 ドゴォォォン!!


 地面が大きく陥没した。


「うおっ!」


 レイクが跳び退く。


 エギルが横から斬り込む。


 ガキィィン!!


 しかし魔人の腕を斬り裂いた瞬間、黒い魔力が傷口へ集まっていく。


 ズズズズ……。


「また再生か!」


 エギルが距離を取る。


 魔人は何事もなかったかのように腕を振り回す。


 ドゴン!!


 レイクが避けた攻撃が、地面に大きなクレーターを作った。


「こいつ、やっぱり力が半端じゃねぇ!やっぱあの笛壊すしか……」


「……待て」


 ゼノンは笛吹き男の動きを見つめた。


「あいつ自分が攻撃される時だけ笛を吹くのやめてたな」


 ゼノンの目が細くなる。


「その直後、さっきの障壁が出てきた」


「どういうこと?」


 ミリアが尋ねる。


 ゼノンは笛吹き男を指差した。


「おそらくだが……あいつ、笛を吹いて魔人を動かすために、大量の魔力を使ってやがる」


「……!」


「だから、笛を吹いている間だけ、あの障壁を展開できないんだ」


 ゼノンが続ける。


「逆も然りだ。障壁を張っている間は、魔人を動かすために笛へ魔力を回せない」


 ミリアが目を見開く。


「それって……」


「あぁ。笛を吹かせ続ければ、あいつは障壁を張れない」


 レイクがニヤリと笑う。


「だったら、笛を吹かせ続けりゃいいんだな!」


「ああ」


 ゼノンが頷く。


「問題は、どうやって魔人を抑え続けるかだ」


 レイクが魔人を見る。


「そんなの、おれたち全員でやるしかねぇだろ!」


 エギル、リゼット、ミリア、ゼノンもそれぞれ構える。


「その間に、隙を狙う」


 五人が魔人を見据えた。

◇

「グオオオオオオオッ!!」


 魔人が突進する。


「来い!」


 レイクが正面から受け止め、エギルが斬撃を叩き込む。


「リゼット!」


「任せろ!」


 ワイヤーが脚へ絡みつく。


「『氷槍(アイスランス)』!」


 ズガガガガッ!!


 ミリアが無数の氷槍を魔人の足元へ放ち、魔人の動きが鈍る。


「今だ!」


 ゼノンが暴風を放つ。


「『暴風神の領域(テンペスト・ゾーン)!!』」


 ドゴォォォン!!


 巨大な竜巻が魔人の身体を押し飛ばす。


「グオオオオオッ!!」


 魔人が数メートル後退した。


 しかし――


 ピィィィィィ……。


 笛の音とともに、魔人が再び動き出す。


「くそっ! キリがねぇ!」


 それでも五人は攻撃を続けた。


 レイクが引きつけ、エギルが斬り、リゼットが絡め取る。ミリアが動きを鈍らせ、ゼノンが押し返す。


 そのたびに魔人は再生し、笛吹き男は笛を吹き続けた。


「……!」


 笛吹き男が初めて眉を動かした。


「そうか……私を狙っているのか」


 笛吹き男は魔人を五人の前へ動かし続ける。


 五人は戦いながら、少しずつ魔人を笛吹き男から引き離していく。


「まだだ!」


 レイクが叫ぶ。


「もっと引きつけろ!」


 エギルが魔人の攻撃を斬り払う。


「こちらだ!」


 リゼットがワイヤーを引く。


「動きを止める!」


 ミリアが足元を凍らせる。


「押し返すぞ!」


 ゼノンの暴風が魔人を吹き飛ばす。


 笛吹き男との距離が縮まっていく。


 そして、魔人が大きく腕を振り上げた。


「来る!」


 五人が同時に跳ぶ。


 ドゴォォォン!!


 拳が地面へ叩き込まれ、巨大な土煙が舞い上がった。


 その一瞬。


 魔人の体勢が崩れた。


 笛吹き男との間に、僅かな道が開く。


 ゼノンが叫んだ。


「今だ!レイク!」


「おう!!」


 ドンッ!!


 レイクが地面を蹴った。


 ゼノンが両手を掲げ、レイクの足元へ魔力を集中させた。


「『渦潮の咆哮(ヴォルテックス・タイド)』!!」


 ドゴォォォォォンッ!!


「行けぇぇぇぇぇっ!!」


 背後から放たれた凄まじい水流の推進力を受け、レイクの身体が砲弾のような超高速で射出された。


「うおおおおおおおおっ!!」


 目にも止まらぬ速度で笛吹き男へ迫る。


「……っ!」


 迫り来るレイクの速度に顔色を変えた男が、咄嗟に笛を強く吹き鳴らす。


 ピィィィィィッ!!


 魔人が動いた。


 ドンッ!!


 レイクと笛吹き男の間へ、巨大な身体が割り込もうと動く。


 その瞬間――


「そう来ると思っていた!」


 エギルが魔人の横へ飛び込む。


 ザンッ!!


 鋭い斬撃が魔人の脚を斬り裂いた。


「グオオオッ!!」


 魔人の身体が傾く。


「動かさせない!」


 リゼットがワイヤーを射出する。


 シュバッ!!


 ワイヤーが魔人の脚へ絡みつく。


「今です、ミリア!」


「うん!」


 ミリアが杖を掲げる。


「『星屑の絶対零度(グラシエ・ステラ)』!!」


 キィィィィィン……。


 凍てつく冷気が一気に広がる。


 バキバキバキッ!!


 魔人の脚が凍りつき、地面へ完全に固定された。


「グ……オオ……!」


 三人の連携が、ほんの一瞬だけ魔人の動きを止めた。


「いけ!レイク!」


 ゼノンが叫ぶ。


 レイクはすでに笛吹き男の目の前。


 男は慌てて笛を口から離す。


「……っ!」


 闇の魔力を集め、障壁を展開しようとする。


 しかし――遅い。


 レイクの拳が、すでに目の前まで迫っていた。


「もう、その笛は使わせねぇ!!」


 レイクの拳を白い光が包み込む。


「なっ――!」


 笛吹き男が目を見開いた瞬間。


 ドゴォォォォォォン!!!!


 拳が笛へ直撃した。


 パキィィィィィン!!


 甲高い音とともに、笛が真っ二つに砕け散る。


「……!」


 カラン……。


 砕けた笛の破片が、地面へ落ちた。


 ズズズズズズズ……。


 魔人から大量の黒い魔力が噴き出し、その巨体が黒い霧となって崩れ落ちる。


 やがて魔人は跡形もなく消え、森に、静寂が戻った。


 笛吹き男は砕けた笛を見つめたまま、呆然と立ち尽くしている。


「……私の笛が……」


 レイクが男へ歩み寄る。


「これで終わりだ」


 男の膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちた。

◇

 レイクは地面に散らばった笛の破片を見つめていた。


「……なぁ」


 レイクが拾おうと手を伸ばす。


「待て」


 ゼノンが止めた。


「まだ触らないほうがいい」


「え?」


 ゼノンは慎重に破片を見つめる。


 すでに魔力はほとんど消えている。


 しかし、そこには、普通の魔道具とは明らかに違う禍々しさが残っていた。


「……こんな魔道具、見たことねぇ」


 エギルも破片を見下ろす。


「これほどの闇の魔力……いったい何者が作ったんだ?」


 リゼットが倒れた笛吹き男を見る。


「いったいどこからこんなものを……」


 その問いに、男は答えない。


 だが、懐から小さな黒い紋章が落ちた。


 ゼノンが拾い上げ、眉をひそめる。


「……これも、普通の物じゃねぇな」


 レイクが男を睨む。


「おい。あの笛、どこで手に入れた?」


 男はかすれた声で呟く。


「……あの方から……与えられた……」


「誰だ?」


「……お前たちが知る必要はない……」


 男は口元に僅かな笑みを浮かべた。


 レイクは砕けた笛を見る。


「……黒いローブの年増な魔女か?」


 男の表情が揺れる。


 レイクの目が鋭くなった。


「やっぱ、あのババアの仕業か」


 ゼノンが頷く。


「マルフィアから渡されたってことか」


 エギルは険しい表情を浮かべた。


「これほどの力を持つ魔道具となれば納得だな……」


 その時だった。


「……終わったんだな」


 背後から声が聞こえた。


 振り返ると、檻から解放された獣人たちがこちらを見つめていた。


「おう!」


 獣人の若者は少しだけ目を伏せる。


「……昼間は悪かった」


「気にすんなって!」


 レイクが笑う。


「お前たちも、自分で檻をぶっ壊したんだろ?」


「ああ。もう……誰にも捕まらねぇ」


 若者は仲間たちを振り返った。


「みんな帰ろう」


「ああ!」


 獣人の若者がレイク達を見る。


「村で礼をさせてくれ」


 レイクが目を丸くする。


「え?いいのか?」


 獣人達が微笑む。


「当然だ。恩を返させてくれ」


 レイクたちは顔を見合わせ、笑った。


 自由になった獣人達とレイク達は肩を並べ、森の出口へ歩き始めた。

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