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闇を宿す笛

 レイクたちが笛吹き男を睨みつける。


 男は何も言わず、地面に落ちた笛を拾い上げた。


「……」


 その瞬間だった。


 ズズズズズ……。


「……!」


 笛から、ドロリとした黒く禍々しい魔力が滲み出した。


 周囲の空気が震え始め、空気そのものを押し潰すような魔力だった。


「……なんだ、この魔力」


 レイクが思わず身構える。


 ミリアも杖を握り直した。


「この魔力……さっきとは全然違う……!」


 エギルが目を細める。


「……あの笛から出ているのか?」


 笛吹き男は答えない。


 笛の表面に刻まれた紋様が淡く輝き始めた。


 ゼノンが険しい表情を浮かべる。


「……ただの魔道具じゃねぇな」


「やっぱりか」


 レイクが拳を握る。


「そんなヤバそうなもん、どこで手に入れやがった……?」


 笛吹き男は、口元を僅かに吊り上げた。


「……この笛の力を知りたいか?」


 そして、笛を口元へ運ぶ。


 ピィィィィィ……!


 高く澄んだ音色が響き渡る。


 ズズズズズズ……!!


 笛から溢れ出た濃密な闇の魔力が、漆黒の衝撃波となって周囲へ一気に吹き荒れた


「……な、なんだ!?」


 レイクたちは身構えた。


 ドゴォォォン!!


 黒い魔力は空中で蠢きながら、徐々に形を変えていく。


 腕。


 脚。


 胴体。


 そして頭部。


「……人……?」


 リゼットが目を見開く。


 全身が黒い魔力だけで形作られた、巨大な人型。


「グオオオオオオオオッ!!」


 魔力の魔人が咆哮する。


 森全体が震えた。

◇

 一方、部屋の隅の鉄格子の中。

 

 囚われていた獣人たちは、レイクたちと笛吹き男の対峙を息を呑んで見つめていた。

 

 怯えて身を寄せ合う子供たちを守るように立っていた大人の獣人たちが、拳を震わせる。


「……おれたちは、あいつらに助けてもらうのを待つだけなのか?」


「違う」


 昼間にレイクと刃を交えた獣人の若者が、鋭い眼光で前を見据えた。


「おれたちも……戦えるはずだ」


「……もう、檻の中で誰かの助けを待つのはやめだ!」

「おれたちの身体は、家畜になるためにあるんじゃねぇッ!!」


 他の獣人たちも立ち上がり鉄格子へ歩み寄る。


 バキィィィンッ!!


 凄まじい怪力によって、分厚い鉄の棒がへし折られる。


「行けぇぇぇッ!!」


 別の檻でも、ガシャァンと扉が蹴り破られ、さらに奥の格子もバキィンと粉砕された。


 解き放たれた獣人たちが、怒涛の勢いで檻の外へと飛び出していく。



「うおおおおおっ!!」


「行くぞ!!」


「もう奴隷には戻らねぇ!!」


 奴隷商たちが悲鳴を上げる。


「な、なんだこいつら!?」


「檻を壊しやがった!」


 獣人の一人が奴隷商を吹き飛ばす。


「ぐあっ!」


 別の獣人が駆け込む。


「こっちは任せろ!」


「おう!」


 次々と獣人たちが加勢する。


 一人。


 二人。


 さらに三人。


 それぞれが持つ強靭な身体能力を活かし、互いに連携しながら奴隷商たちを追い詰めていく。


「数が多すぎる!」


「逃げろ!!」


 しかし逃げようとした奴隷商の前へ、別の獣人が立ちはだかった。


「逃がすか!」


 ドゴッ!!


 奴隷商が吹き飛ぶ。


 獣人たちは、もう誰にも止められなかった。


 そして、最後の奴隷商が地面へ倒れる。


「……やった」


 獣人の若者が呟く。


 周囲を見る。


 そこには、壊された檻。


 そして自由になった仲間たち。


 幼い獣人たちも、恐る恐る檻の外へ出ていた。


「……おれたち、自由になったんだ」


 誰かが呟く。


 獣人たちは互いに顔を見合わせる。


「……ああ。もう、檻には戻らない」

◇

 その頃。


 レイクたちは笛吹き男と黒い魔力の魔人と対峙していた。


「グオオオオオオオオッ!!」


「な、なんだよ……こいつ!」


 レイクが驚く。


 笛吹き男が再び笛を吹く。


 ピィィィィィ……。


 魔力の魔人が動いた。


「来るぞ!」


 エギルが叫ぶ。


 魔人の拳が振り下ろされる。


「うおおおっ!!」


 レイクが拳を構え、正面から受け止める。


 ドゴォン!!


「ぐっ……!」


 地面が大きく陥没する。


 レイクの足が地面へめり込んだ。


「こいつ……重てぇ!」


 レイクが拳を押し返す。


「レイクくん!」


 ミリアが魔法を放つ。


「『氷槍(アイスランス)』!」


 無数の氷槍が魔人へ飛んでいく。


 ズガガガガッ!!


 魔人の身体へ突き刺さる。


 ズズズズ……。


 傷口から黒い魔力が溢れ、瞬く間に元へ戻っていく。


「……再生した!?」


 ミリアが驚く。


「ならば、おれが!」


 エギルが駆け出し剣を振り抜く。


 ガキィィィン!!


 魔人の腕を斬り裂く。


 しかし、斬られた腕は黒い霧となって崩れた直後、再び形を取り戻した。


「……くっ!」


 エギルが距離を取る。


 リゼットもワイヤーを放つ。


「一旦動きを封じる!」


 シュッ!


 ワイヤーが魔人の身体へ絡みつく。


 リゼットが引き絞る。


「はあっ!」


 ギギギギッ!!


 魔人の身体が軋む。


 ブチィィィン!!


「なっ……!」


 ワイヤーが弾き飛ばされる。


 ゼノンが魔法を放つ。


「『渦潮の咆哮(ヴォルテックス・タイド)』!!」


 巨大な水の渦が、牙をむく龍となり、魔人の身体を貫く。


 しかし、それでも倒れない。


 ゼノンが舌打ちする。


「チッ……!なんなんだよ、こいつ……!」


 レイクが再び魔人へ突っ込む。


「だったら、ぶっ壊すまでだ!」


 拳を振り抜く。


 ドゴォォン!!


 魔人の身体が大きく吹き飛ぶ。


「やった!」


 ミリアが声を上げる。


 しかし、魔人は空中で身体を捻り、地面へ着地した。


「……マジかよ」


 レイクが目を見開く。


 魔人は何事もなかったかのように立ち上がる。


 その背後では、笛吹き男が静かに笛を吹いていた。


 ピィィィィィ……。


 その音色に合わせるように、魔人の身体から再び闇の魔力が噴き出す。


 ミリアが呟く。


「笛の音に合わせて動いてる……魔人を動かしているのも……あの笛なんだ」


「そしてあの男自身も、笛を持ってる間は強力な闇の魔力で守られている」


 エギルが剣を構え直しながら、鋭く分析した。


 ゼノンが笛吹き男を睨む。


「あいつをどうにかしねぇとな」


「ああ。あの笛を完全にぶっ壊すしかねぇ!」


 グオオオオオオオオッ!!


 魔人の両腕から放たれた黒い衝撃波が、迫る。


「避けろっ!」


 レイクの叫びとともに五人が四方へ跳躍した。

 

 ドッッッガァァァンッ!!

 

 先ほどまで全員が立っていた地面がクレーター状に陥没する。


 ピィィィィィ……!


 立ち込める土煙の向こう側で、笛吹き男は無表情のまま冷ややかに笛を構えていた。

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