白銀の疾風
スノウ公国。
セレナの暮らす森の家では、激しい戦いが続いていた。
「はぁっ!」
ミリアが杖を振る。
「『氷弾』!」
無数の氷の弾丸が、黒い分身へと飛んでいく。
ドドドドドッ!!
分身の身体が次々と砕け、黒い煙を上げて霧散する。
「やった!」
しかし、消えた靄が再び集まり、別の人影を形作る。
「……また!?」
ミリアが目を見開く。
「何体倒してもキリがありませんね」
リゼットが短剣を構えながら呟く。
彼女の前にも、三体の分身が迫っていた。
「せいっ!」
ヒュッ!
一体を斬り伏せた直後、背後から別の分身が襲い掛かる。
ガキィン!
リゼットは振り返りざまに短剣で受け止めた。
「リゼット!」
「問題ありません!」
リゼットは分身を蹴り飛ばす。
その間にも、黒い分身は増え続けていた。
「ふふふ……いくら倒しても無駄よ。この子たちは、私の魔力そのもの!何度でも蘇るのだから!」
継母が余裕の笑みを浮かべ両手を広げる。
黒い魔力が再び渦巻く。
「……厄介ですね」
リゼットが呟く。
その後ろでは、七人の妖精族がセレナを守っていた。
「姫様、こちらへ!」
セレナは不安げな表情で頷く。
「ミリア様……リゼット様……」
その時、一体の分身が、ミリアたちの横をすり抜ける。
「しまった!」
ミリアとリゼットが手を伸ばすが、四方から群がる分身に阻まれて届かない。
「くっ……!」
ミリアが杖を構えるが間に合わない。
「さあ、お眠りなさい!」
分身の冷酷な爪が、怯えるセレナの首元へと迫る。
◇
一方、雪原。
レイクとヴァルガンの戦いは、さらに激しさを増していた。
「うおおおおっ!!」
レイクが白い光を纏った拳を振り抜く。
ドゴォン!!
拳とレイピアがぶつかり合う。
ヴァルガンが後退する。
「……素晴らしい」
「言ったろ?前とは違ぇって!」
レイクが笑う。
「ええ。ですが……まだ足りない」
ビュン!
ヴァルガンが猛スピードでレイクに迫り、連撃を繰り出す。
ガキガキガキィン!
レイクはその全てを受け流し、紙一重でかわしていく。
「くそっ……!」
レイクが歯を食いしばる。
ヴァルガンのレイピアが閃く。
ヒュッ!
レイクが身体を捻ってかわす。
「危ねぇ!」
ヴァルガンは笑う。
「いい反応です」
「余裕ぶってんじゃねぇ!」
レイクは拳を振り抜くが、ヴァルガンはひらりとかわす。
「ちくしょ!」
ヴァルガンは薄く笑った。
「もう終わりですか?」
「まだだ!」
レイクの身体から、さらに強い光が溢れ出す。
「こいつでどうだ!」
右手を天へ掲げる。
眩い光が一点へ集束し――。
ドォォォォォン!!
右手に、巨大な轟炎の塊が生まれた。
「……あれは!」
ヴァルガンが目を細める。
レイクはヴァルガンを睨みつける。
「いくぞ!!」
ビュン!
レイクはヴァルガンに向かって飛び込む。
「『地獄の轟炎』!!」
ドカァァァァァン!!
白い雪が一瞬で吹き飛び、巨大な炎の柱が夜空を赤く染める。
「どうだこの野郎」
レイクは手応えを感じ、不敵に笑う。
しかし――
「なるほど、以前とは比べ物になりませんね」
炎の向こうから、ヴァルガンがレイピアを構え現れる。
レイクが目を見開く。
「……余裕かよ!」
ヴァルガンが微笑む。
「もっと見せてください。あなたがどこまで成長したのか」
レイクはニヤリと笑う。
「あぁ。まだまだいくぜ」
その瞬間。
レイクとヴァルガンが、何かを感じ取った。
「……?」
吹雪の向こうに、一瞬だけ人影が見えた。
(……まさか)
レイクの目が見開かれる。
しかし、その影はすぐに吹雪の向こうへ消えていった。
◇
森の家。
黒い分身の爪がセレナへ迫っていた。
「姫様!」
妖精族が叫ぶ。
ミリアも動く。
「セレナさん!」
しかし、分身の腕がセレナへ届く、その瞬間。
ドガァァァァァンッ!!!!
凄まじい轟音とともに、窓が吹き飛ぶ。
「『聖煌一閃』!!」
シュピィィィィンッ!!
一閃。
黒い分身が一刀のもとに切り裂かれ、黒い靄となって消えていく。
そして、そこには一人の男が立っていた。
「……エギル……?」
セレナは驚きを隠せない。
エギルはセレナを見つめた。
「……久しぶりだな」
「……!」
セレナの目が潤む。
「本当に……エギルなの……?」
「当たり前だ」
エギルは短く答え、続ける。
「相変わらず、手のかかる奴だ」
「……ふふ。相変わらず無愛想ね」
セレナは思わず笑った。
「……でも、会えて嬉しい」
セレナが小さく呟く。
エギルは少しだけ視線を逸らした。
「……そうだな」
◇
その頃。
雪原では、レイクとヴァルガンが再び向かい合っていた。
「……なるほど、同盟国の援軍ですか」
ヴァルガンが家の方を見て、微笑む。
「少し、予定を変えますか」
ヴァルガンがレイピアを下ろす。
「……?」
次の瞬間。
ヴァルガンの身体から黒い魔力が溢れ出す。
「なっ……!」
レイクが身構える。
魔力が一気に森の家へ伸びていく。
「何する気だ!」
レイクが追おうとする。
しかし、ヴァルガンはその場から動かない。
闇の奔流が、継母の身体へと流れ込んでいく。
「ぐっ……!」
家の中。
継母が身体を震わせる。
「な、何を……!」
闇が全身を駆け巡り、その力が膨れ上がっていく。
「ヴァルガン……!余計なことを……!」
継母が怒鳴る。
ヴァルガンは遠くから微笑んだ。
「必要なことですよ。あなたには、まだ力が足りない」
継母の身体から凄まじい黒い魔力が噴き出す。
「ぐあああああっ!」
家の壁が震え、ミリアが目を見開く。
「魔力が……一気に!」
リゼットも構え直す。
「先ほどまでとは、まるで違う……!」
継母がゆっくりと顔を上げる。
「……これが……私の力……!」
その目に、強烈な殺意が宿る。
ヴァルガンはレイクに告げる。
「では、私はこれで」
黒い靄がヴァルガンの身体を包む。
レイクが叫ぶ。
「待ちやがれ!」
ヴァルガンは最後に振り返る。
「次に会う時を、楽しみにしていますよ」
「くっ……!」
黒い靄が弾ける。
ヴァルガンの姿が、吹雪の中へと消えていった。
「逃げやがった……!」
レイクが拳を握る。
◇
しばらくして、レイクが森の家へ戻ってくる。
「ミリア!リゼット!無事か!?」
「レイクくん!」
駆け寄るレイクだったが、セレナの前に立つ人物を見た。
「やっぱエギルか!お前なんでいんの?」
エギルが眉を寄せる。
「たまたま母国に戻っていたところ、同盟国の異変を聞いてな。ここへ来た」
「母国?」
レイクが首を傾げる。
「お前、自分の国にいたのか?なんで?」
「……まぁ、いろいろあってな」
エギルは視線を伏せた。
「……そっか!また話してくれや!」
レイクはそれ以上聞かず、あっけらかんと言った。
そんなレイクにエギルは小さく笑いかけた。
「……すまないな」
レイクはそのままエギルへ続けた。
「てか、セレナの言ってた王子ってやっぱお前か!お前昔から愛想悪ぃんだな」
エギルは青筋を立てる。
「なんだと?おれは騎士として振る舞っているだけだ!おれから見れば貴様が緩すぎる!バカ丸出しだ!」
「あ!?バカって言ったか!?バカって言う方がバカなんだぞ!」
「ガキか貴様は!」
ミリアが思わず笑う。
「ふふ……」
リゼットも小さく息を吐く。
「相変わらずですね」
(エギル……少しだけ変わった)
セレナは今のエギルを見てそう感じた。
「エギル……」
セレナが小さく呼び掛ける。
エギルが振り返る。
「……セレナ」
二人の視線が交わる。
しかし、継母が腕を広げる。
「感動の再会は、その辺にしてもらおうかしら?」
黒い魔力が家中を覆う。
レイクが拳を握る。
「だったら」
ミリアが杖を構える。
「終わらせよう」
リゼットが短剣を構える。
「承知しました」
エギルが剣を抜く。
「四人で行くぞ」
「おう!」
レイクが笑う。
「みくびるんじゃないよ!」
継母は大量の分身を出す。
「『白煌千閃』!」
エギルの神速の斬撃が分身達を蹴散らし、次々と黒い靄となり消えていく。
「『星屑の絶対零度』!」
ミリアの放った絶対零度の冷気が継母の足元を凍結させる。
「なにっ……!?まだよ!!」
「させん!!」
ギュ!
リゼットのワイヤーがその腕を縫い止める。
ビュン!!
レイクが飛び出し、魔力を込めた拳に炎が灯る。
「『火拳』!!」
ドォォォォォン!!
「ぐはぁ……!」
継母が外へ吹き飛ぶ。
しかし、吹き飛びながら継母は歯軋りを立て、魔力を練る。
「くっ……このガキ共――」
「『聖煌一閃』!」
シュピィィィィンッ!!
息つく間もなく、エギルの一閃が継母を切る。
黒い魔力の核が現れる。
「美味しい所は譲ってやろう」
ビュン!!
エギルの背後から激しい轟炎の塊を手に出したレイクが飛び出す。
レイクはニッと笑う。
「人の命狙うなら自分も狙われる覚悟しろよ、おばちゃん!」
継母の顔に絶望が宿る。
「……なんなの!こいつらは」
「『地獄の轟炎』!!」
ドカァァァァァン!!
森全体を揺らすほどの衝撃が走った。
◇
森の家。
戦いが終わり継母は拘束され、セレナも妖精族たちも無事だった。
「……終わったね」
ミリアがその場に座り込む。
「お疲れさん!」
レイクも大きく息を吐く。
リゼットは短剣を収める。
「無事に終わって何よりです」
セレナはそんな三人を見つめる。
そして、エギルを見る。
「……エギル……来てくれて……ありがとう」
エギルはセレナを見て少し黙る。
「当然だ」
短く無愛想に言う。
「あれれ〜?」
エギルにレイクが悪戯っ子のような表情で近づく。
「エギル坊ちゃん照れてんの?ププ〜お可愛いことですね〜!そんなことセレナちゃんは言って欲しい訳じゃないんだぞ〜」
レイクに煽られたエギルの額に、ピキッと青筋が浮かぶ。
「貴様、口を閉じろ!!断じて照れていない!ただどう話していいかわからんだけだ!」
「いや、それを照れてるって言うんだろ。大丈夫か、お前?」
レイクはエギルを見て呆れた。
「……ふふ」
セレナはそんな二人を見て笑った。
「大体、貴様に男女のことを言われる筋合いはない!貴様にだけはな!」
「はぁ?おれ意外と女心はわかってるつもりだぞ?」
「貴様のどこがだ!ミリアを見て――」
「『星屑の絶対零度』!」
ミリアはエギルを氷漬けにした。
「ぐ……が……」
ミリアはエギルへ語気を強く言う。
「エギルさん!とっても暑そうだったから冷ましてあげたよ!どう?」
エギルは氷漬けにされながら必死に口を開く。
「あぁ……す……すまない……もう十分だ」
レイクだけ肩を落とし呆れて言う。
「こんな極寒のとこで、暑いってお前どんな体温?」
窓の外では、雪が静かに降り続いている。
白銀の世界に不思議と暖かい空気が流れていた。




