力の核心
地下神殿。
砕け散った氷の中から、ジークがゆっくりと立ち上がった。
「グ……グガァァァァァ……!!」
黒い魔力が全身から噴き出している。
ミリアは杖を握ったまま、ジークを見つめる。
「……やっぱり」
「ミリア様?」
リゼットが隣から尋ねる。
ミリアは、かつてリュミエール王国で戦った魔物の姿を思い出していた。
「リュミエール王国で戦った魔物と同じ……」
人間から変化し、異常なまでに魔力を放ち続けていた魔物。
その身体の奥に存在していた魔力の核。
「この人……もう、魔物になってる」
ミリアはジークの胸元を見る。
「この人の中にも、きっと魔力の核がある」
「核……?」
エギルが目を見開く。
「うん」
ミリアは頷いた。
「魔物の力の中心。きっとそれを壊せば……!」
ゼノンが拳を握る。
「こいつを倒せるってわけか」
エギルが剣を構える。
「探し出すぞ!」
ジークが地面を蹴った。
「グガァァァァァ!!」
ドゴォン!!
凄まじい速度で迫る。
「ここは僕が!」
バルドルが前へ飛び出す。
ガギィィィン!!
ジークの拳を両腕で受け止めた。
「ぐおおおおおっ!!」
床が大きく沈む。しかし、バルドルは耐えた。
「みんな今だ!」
「任せろ!」
ゼノンが手を地面へ向ける。
「『大地の枷』!!」
ズズズズズッ!!
地面から土の鎖が伸び、ジークの両脚へ絡みつく。
「グガッ!?」
一瞬、ジークの動きが止まる。
「エギル!」
「ああ!」
エギルが一気に踏み込む。
「『聖煌一閃』!!」
ズバァァァァン!!
白い斬撃がジークの胸元を切り裂いた。
「グガァァァッ!!」
黒い魔力が吹き飛ぶ。
「……あった!」
ミリアが叫んだ。
ジークの胸の奥。
黒い魔力に包まれた、小さな黒い光。
「核……!あれが本体ってわけか!」
しかし、ジークもすぐに身体を起こした。
「グ……グガァァァァァ!!」
核から凄まじい黒い魔力が噴き出す。
エギルが剣を構える。
「簡単には斬らせてくれんか!」
「だったら、何度でも隙を作ろう!僕が押さえる!」
バルドルが叫ぶ。
「私も援護します!」
リゼットが走り出す。
「おれが足を止める!」
ゼノンが再び地面へ手をつく。
「『大地の枷』!!」
土の鎖がジークの脚へ絡みつく。
「グガァッ!!」
ジークが強引に引き千切ろうとする。
「今!」
ミリアが杖を振る。
「『氷の槍』!!」
ズドドドドドッ!!
氷槍がジークの身体へ突き刺さり、動きを封じる。
「エギルさん!」
「ああ!」
エギルが踏み込む。
「そこだ!!」
ズバァァァン!!
再び黒い魔力が切り裂かれる。
「見えたぞ!」
ゼノンが構え叫ぶ。
「一気に叩き込むぞ!」
ミリアが杖を構える。
「うん!」
「『渦潮の咆哮』!!」
「『氷晶天爆』!!」
龍のような津波と無数の氷晶が一斉に核へ直撃した。
「グ……ガ……」
ピシ……
ジークの胸の核に、亀裂が走った。
すかさずリゼットが短剣を突き刺す。
「これで終わりだ!」
ピシピシピシ……。
「壊れろぉぉぉぉっ!!」
エギルがさらに斬撃を叩き込む。
バルドルが拳に全力を込め、ジークへ飛び込む。
「僕たちの国を……返せぇぇぇっ!!」
ドォォォォォン!!
バルドルが拳を核一点へ振り抜く。
五人の攻撃が、核へ叩き込まれた。
パキィィィィン!!
黒い核が砕け散った。
「グガ……」
ジークの全身を覆っていた黒い魔力が、煙のように消えていく。
ドォン……。
ジークの身体が地面へ崩れ落ちた。その手から転がり落ちた『天穹の核』を、バルドルがしっかりと両手で受け止める。
「……終わった」
ミリアが小さく息を吐いた。
「みんな!ありがとう」
バルドルは四人にお礼を言うと、神殿の中央へと駆け寄った。
「これで……大丈夫なはず」
カチリ。
バルドルは台座の上へと『天穹の核』を力強く再装填した。
蒼い光が核に宿り、神殿の床に刻まれた紋章が静かに脈動を始めた。
地震が収まり始める。
「なんとかなったようですね」
「うん!」
リゼットとミリアが息をついた。エギルもゼノンも息を整える。
その瞬間。
ズズズズズ……ドォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃音が神殿を揺らした。
「何これ!?」
バルドルが立ち上がる。
ミリアは振り返った。
王宮の方向から巨大な魔力が押し寄せてくる。
その魔力は、神殿にいる全員が感じ取れるほど凄まじかった。
「なに……この魔力……」
ミリアの顔が青ざめる。
ゼノンも険しい表情を浮かべた。
「この魔力……尋常じゃねぇぞ」
エギルが目を細める。
「向かうぞ……」
ミリアは胸元のネックレスを強く握り締めた。
「……レイクくん」
その瞳に、不安が浮かぶ。
「お願い……無事でいて……」
◇
王宮。
ガルドの身体から溢れ出した黒い魔力が、王宮を覆い尽くしていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
床が震え、天井から石片が落ちる。
レイクは拳を構えたまま、目の前のガルドを睨みつけていた。
「……来る」
ガルドの姿が消えた。
「――ッ!」
次の瞬間。
ドゴォォォォン!!
レイクの眼前に拳が叩き込まれる。
「ぐっ……!」
レイクは両腕で受け止める。
「ぐおおおおおおっ!!」
レイクの足が床を削った。
ズザザザザザッ!!
「くそ……!」
押し返そうとする。
それでも、ガルドの拳は止まらない。
「これが、我の本来の力だ!!」
「ぐああああっ!!」
レイクの身体が弾き飛ばされる。
ドゴォン!!
壁へ叩きつけられる。
「食らえ!!」
巨人族が声を上げ、ガルドへ一斉に攻撃を仕掛ける。
ガルドは振り向きざまに腕を振るった。
ドゴン!!
「ぐあっ!」
巨人族がまとめて吹き飛ばされる。
ガルドはそのままレイクへ向き直った。
「この程度か、人間族」
レイクは壁から身体を離し、ガルドを睨む。
(どうする……)
あの光の魔力。あれさえ出せれば、まだ可能性はある。
(どうやって出す?)
これまで何度も、追い詰められた瞬間に現れた。
なのに、自分から出そうとすると何も起こらない。
「まだだ……!」
その声に、レイクが振り向く。
先ほど吹き飛ばされた巨人族の一人が、瓦礫に手をついていた。
「……おれたちは……まだ……」
震える腕で身体を起こす。
残された魔力など、ほとんどないはずだった。
それでも、その身体から僅かな魔力が滲み出る。
「まだ……立てる……!」
レイクの瞳が僅かに開く。
そして、ふと、ガルドを見る。
黒い魔力が先ほどとは比べ物にならないほど膨れ上がっていく。
レイクには、ガルドの黒い魔力が身体の奥底から溢れ出しているように見えた。
「……そうか」
レイクが呟いた。
脳裏に、過去の戦いが蘇る。
魔力を使い果たした時。身体が限界を迎えた時。
それでも諦めず、最後の力を振り絞ろうとした時。
そのたびに、身体の奥から白い光が溢れ出した。
「あの時のおれは、魔力を集めてたんじゃねぇ」
レイクは自分の胸へ手を当てる。
(奥だ……奥から魔力を引き出すような……)
目を閉じ、体内へ意識を集中させる。
(もっと奥だ……)
ガルドが歩み寄る。
「何をしている!」
レイクは答えない。
さらに深く。奥へ。奥へ。
ガルドが拳を構える。
「そのまま砕け散れ!!」
ドォンッ!!
破滅の拳がレイクの顔面へと迫る。
レイクが目を見開いた。
「これだ……!」
その瞬間、レイクの身体から、眩い光が爆発した。
ドォォォォォォン!!
ガルドの拳がレイクへ叩き込まれる。
「なに!?」
ガルドの拳を、レイクが片手で受け止めていた。
「な……その力は……!」
ガルドが初めて目を見開いた。
レイクは拳を握る。
「さっきまでとは違ぇぞ……」
レイクが地面を踏み込む。
ビュン!!
レイクが消えた。
「何!?」
次の瞬間。
ガルドの眼前にレイクが現れる。
「うおおおおっ!!」
白い光を纏った拳が、ガルドの顔面へ叩き込まれる。
ドゴォォォォォン!!
「ぐおおおおっ!!」
ガルドの身体が吹き飛ぶ。
王宮の壁を突き破り、瓦礫の中へ叩き込まれた。
「ガルドが……!」
巨人族たちが息を呑む。
レイクは拳を見つめる。
白い光が、今までとは違い、まだ消えず全身を巡り続けている。
「これだ……」
ガルドが瓦礫を吹き飛ばし立ち上がる。
「……まだだ。まだ、終わってはいない!!」
黒い魔力が再び膨れ上がる。
「この我が……貴様ごときに!!」
レイクも拳を握る。
「そんな長く持たなそうだ……さっさと決める!」
レイクが駆ける。
ガルドも突っ込む。
黒と白の魔力が激突する。
「うおおおおおおっ!!」
「ぬおおおおおおっ!!」
拳と拳が幾度もぶつかる。
ドゴォン!!
ドォォン!!
互いに譲らない。
だが、レイクの拳が、ガルドの腹部へ突き刺さった。
「ぐおおおおおっ!!」
ガルドの巨体が大きく浮き上がり、吹き飛ぶ。
「まだ……だ……!」
ガルドは黒い魔力を噴き出し立ち上がる。
レイクは息を切らしながら、その姿を見つめる。
「……なら」
右手を斜め後ろへ広げ、溢れ出る光の魔力を右手のひらに極限まで凝縮させた。
「これで、全部終わらせる!!」
レイクが右手を掲げると、白い光が轟炎へと変わり、巨大な炎が渦巻く。
「その技は……」
ガルドが目を見開く。
ビュン!!
レイクがガルドへ突っ込む。
「『地獄の轟炎』!!」
ドッッッッッカァァァァァァン!!
巨大な轟炎がガルドを真正面から飲み込む。
「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!」
白き光を帯びた規格外の大爆炎が炸裂した。
ガルドの巨体は豪快に宙を舞い、王宮の分厚い壁へとめり込んで、今度こそ完全に沈黙した。
巨人族たちが、呆然とその光景を見つめる。
「……ガルドが……」
「ハァ……ハァ……やったぞ……!」
レイクが息を整えていると、回廊の奥から足音が響いてきた。
「レイクくん!」
「ミリア……!こっちは片付けたぜ!」
駆け込んできたミリア達の姿を見て、レイクはニッと歯を見せて笑った。
ミリアも晴れやかな表情で頷く。
「私たちも!バルドルくんも無事だよ!」
「おう!そうか!てか、エギルとゼノンいつの間に来たんだ?」
激闘を終え、互いに無事を喜び合い、笑顔を交わす六人だった。




