迷える豪傑
王宮最深部、玉座の間――。
玉座の間の中央で、ミリアはマルフィアと向かい合っていた。
「こちらへ、ミリア様」
マルフィアはいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、奥へと歩いていく。
ミリアはその後を、不安げな表情で追っていた。
「……なぜ、私を呼び出したの?」
マルフィアは振り返る。
「それは、これから少々大切な用があるからですよ」
「大切な用……?」
「ええ」
その時――
コンコン。
扉を叩く音が響いた。
「入りなさい」
マルフィアが答える。
「失礼いたします」
扉が開き、そこから一人の男が姿を現した。
先ほど廊下でレイクたちとすれ違った三魔将の一人だった。
男はマルフィアの前まで歩み寄ると、静かに頭を下げる。
「お見立て通りネズミが入り込んでるようです」
マルフィアは驚く様子もなく、口元に笑みを浮かべた。
「そうかい。まぁ手は打っていることだしね。予定通り頼んだよ」
「かしこまりました」
三魔将は一礼すると、部屋を後にした。
ミリアが不安そうに問いかけた。
「……ネズミ?」
マルフィアは何事もなかったかのように答える。
「いいえ、お気になさらず」
「でも……」
ミリアは不安そうに呟く。
「……そういえば、お父様は?」
「王は眠っておられます」
「そう……」
ミリアは俯く。それから、もう一度マルフィアを見上げた。
「なにをするというの?」
マルフィアはゆっくりと口角を上げた。
「ふふふ……」
その笑みを見た瞬間、ミリアの胸に嫌な予感が走った。
マルフィアはただ、不気味に微笑むだけだった。
◇
王宮内。
レイク達は王の間へと走っていた。
先頭を走るリゼットが叫ぶ。
「ミリア様はこの先だ!」
重厚な廊下を抜け、広場へ出たその時――
「止まれ」
前方に立ち塞がる男がいた。
「ガルディオ殿」
そこに立っていたのは黒薔薇六傑の一人、元騎士団長――ガルディオだった。
「リゼット。この先へ部下まで引き連れて何の用だ?」
リゼットは一瞬だけ迷い、答えた。
「ミリア様にお伝えしたいことがあります」
ガルディオは一歩前へ出る。
「なら私が伝えよう。言え」
リゼットはガルディオを見据える。
「いえ、直接お伝えせねばなりません。そこを通してください」
「ならん!言え」
ガルディオは即答した。
「どうして……」
必死に叫ぶリゼットに対し、ガルディオの鋭い眼光が冷たく光る。
「マルフィア様より、どうやら王宮にネズミが紛れ込んでいるとのことでな」
「……なっ!!」
リゼットは正体が割れていたことに息を呑んだ。緊迫した空気が走ったその時、レイク達後ろから足音が響いた。
「ガルディオ。そこを通してあげて」
影から現れたのは、黒薔薇六傑の一人、元宮廷魔導師――セレナードだった。
「セレナード貴様まで……ならん!!」
セレナードは真剣な表情でガルディオを見る。
「お願い!マルフィアの企みは私にはなんとなくわかる」
「……!?」
レイクが反応する。
セレナードはレイクたちへ視線を向けた。
「おそらく……ミリア様の呪いを完全なものにし、恐ろしい魔族へと変えることなの」
「……は!?」
レイクの目が見開かれる。
「なんだと!?」
エギルも驚愕の表情を浮かべた
「魔族に……それがあいつの呪いか」
ゼノンが拳を握る。
「えぇ」
セレナードは頷いた。
セレナードは眼前のガルディオへ必死に訴えかけた。
「だからお願い!そこを開けて!」
ガルディオは俯き、苦悶の表情を浮かべた。歯をギリギリと噛み鳴らし、身を震わせる。
「……ならん!すまない……おれにも守らねばならんものがある」
ガルディオはゆっくり顔を上げた。
「だから……ここは通せ……」
ビュン!!!
ガルディオの目の前に、レイクが迫っていた。激しい魔力を拳に滾らせ、振りかざす。
「……っ!!」
ガギーーーン!!!
ガルディオは大剣の腹で間一髪その拳を受け止め、重厚なカウンターの蹴りを叩き込む。
レイクは後方へ跳んで着地すると、床を滑るように膝をつき、そこからゆっくりと立ち上がった。
「……さっきからまどろっこしいんだよ、どいつもこいつも……!!」
血走った目でガルディオを睨みつけ、レイクは全身の怒りを爆発させて叫んだ。
「おい、おっさん!!てめぇにも事情があって譲らねーってんならこっちも譲るつもりはねーぞ!!!」
溢れ出る感情を乗せて、鋭く言い放つ。
「そこを退け!!退かねーならぶっ飛ばす!!!!」
その迫力に息を呑みながらも、ガルディオは大剣を強く握り直した。
「すまない……!来いっ……!」
その瞬間かんかんと甲高い警鐘が打ち鳴らされた。




