ぶん殴る!
教会の壁を打ち砕くほどの衝撃波に吹き飛ばされ、激しく地面を転がる三人。
「くっ……! どうする?先ほどとは比べものにならない威力だ! 足の傷も完全に修復されている……!」
エギルは攻撃から脅威を察知し、レイク達に問いかける。
立ち込める煙の中、レイクは静かに体勢を整えると、隣の少女へと視線を向ける。
「いよいよだな……ミリア」
「……」
ミリアは俯いていたまま、体を震わせていた。
「ミリア!」
「え!? あ……ご、ごめんなさい……!」
「大丈夫か?」
「うん……」
「お前もいろいろ事情があるんだろうけど、今はあいつに集中するしかねぇ。……それでさ、提案なんだけど」
レイクはニッと口角を上げた。
「お前……暴発していいから、魔法撃てないか?」
「え……?」
レイクの言葉にミリアはキョトンと呆気に取られる
レイクは真っ直ぐな瞳で続ける。
「どうせおれのさっきの攻撃も、制御なんか考えてねぇ! ありったけの魔力で魔法を使ってくれ! ダメージは通るはずだし、絶対に隙ができる!」
「ま、まさか……こいつもお前ほどの攻撃を出せるというのか!?」
エギルは疑心の目をミリアに向ける。
「え……いや……」
「おれなんてもんじゃねーよ! なぁ、できるか、ミリア?」
「えっと……でも、私……暴発させてしまったら、取り返しのつかないことになるかもしれなくて……! そんなの……怖いよ……」
ミリアの表情を見てレイクは優しく声をかける。
「先生が言ってたやつか」
「え……?」
「先生が言ってたろ? 『魔法を使う時、何かを恐れている』って」
「あ……うん……」
「怖いだろうけど、まぁ心配すんな!おれもエギルもいる。お前は一人じゃねーさ!」
「レイクくん……」
力強いレイクの瞳を見つめながら、ミリアの脳裏に教会に向かう道中の会話が蘇る。
◇
『レイクくんは……怖くないのかなって』
『それは……おれだって怖ぇよ。てか今だって心臓バックバクだぜ?』
『え?』
『でもさ、ガキの頃あるやつに教わったんだ。怖くても、例え無意味でも、自分なりに必死にできることをやらないとダメなんだって。何もせず終わる方がずっと怖いんだってさ。……それがなかったらおれは今ここにいない。あの時、必死にできることをやったから助かったんだ』
レイクは5歳のあの日の情景を浮かべ語った。
『そうなんだ……』
『だからおれは、今できることを必死にやってるだけだよ。今もこの瞬間にな!』
◇
(そう……今、私に必死にできることを……!)
ミリアは決意を固め答える。
「!! うん……わかった!!」
「よし! エギル、おれらで隙を作るぞ!」
「おれに指図するな!」
「あ、そうだ。エギル……」
レイクはエギルにあることを問う。
「何やらコソコソと策を練っているようですねぇ。おい、やっておしまい!!」
グワァーーーー!!
「よし! いくぞ!!」
飛び込んでくる魔物の猛裂な爪撃を、ギリギリで回避する。
(あの魔物は巨大な図体のせいか、攻撃後の隙が大きい。カウンターでおれが斬撃を入れ続ける!)
「たぁーーーーーっ!!!」
シャキシャキシャキシャキーン!
エギルの目にも止まらぬ剣さばきが、魔物の皮膚を切り刻む。
(やはり浅いか……!)「おい!!」
「あいよ!!!」
レイクが浮かせた大量の瓦礫が一斉に魔物の顔面へと降り注ぐ!
ドカドカドカドカッ!!
「グワァーーーーーっ!?」
魔物の視界が完全に遮られ、動きがピタリと止まった。
「ミリアーーーっ!!!」
「はぁぁぁぁぁーーーー!!!!!」
(私にできることを……私のできる、全力の魔法を……!)
ミリアが両手をかざすと、その目前に巨大な氷塊と、まるで星屑のようにキラキラと輝く美しい氷の結晶が咲き誇った。
「『星屑の絶対零度』!!!!」
バーーーーーン!!!!
放たれた極限の冷気が、咆哮を上げる魔物を呑み込んでいく!
ぐぉーーーーっ!?
凍てつく衝撃波が森を揺らし、魔物はその全身をガチガチに氷結されたまま吹っ飛び、地面へと叩きつけられた。
「な……なんて凄まじい魔法だ……!」
「すげー……すげーな、ミリア!!」
「ハァ……ハァ……っ」
全魔力を放出しきったミリアは、その場にへたり込んだ。
だが——グゥゥゥゥ……
「!? まだだ!!」
「え……!?」
「少々手を加えましたからねぇ」
魔女はほくそ笑む。
氷で全身を覆われたまま、魔物が最後の力を振り絞ってミリアへと飛びかかってきた。
「さよなら……呪われた姫よ」
(どうしよう……ぜんぶ使い切っちゃって……動けない……!)
死の爪が迫る直前——ビュンッ!!
レイクが、魔物の顔面横に躍り出た。
◇
『あ、そうだエギル。もしもの時に備えてだけどさ、お前その剣、どうやって強くしてんの?』
『? 魔力だが。魔力を剣に込めるのだ。そうすることで武器はより鋭く強固になる。……知ってどうする?』
『いやぁ、まあ、もしもの時用にさ』
『何がもしもだ。そもそも貴様は武器を持っていないだろう』
『? 持ってんじゃん』
◇
(右手に……ありったけの魔力、来いっ!!!)
レイクの右拳に、眩いばかりの魔力が凝縮されていく。
(武器なんか要らねえ……!)
迫る魔物の顔面の至近距離まで跳び上がる。
「こいつで——ぶん殴る!!!!!!!!」
メリメリメリッ!! ドカーーーーーン!!!
直撃音とともに、巨大な魔物が砲弾のような勢いで吹っ飛び、教会の壁を突き破って転がった。
ガラガラガラ……と瓦礫が崩れ落ち、今度こそ魔物はピクリとも動かなくなる。
「や……やったのか……!?」
着地したレイクを見つめ、エギルは呆然と呟いた。
「めちゃくちゃな奴だ……」
「レイクくん……!」
「ふ〜。よかった……間に合って」
振り返ったレイクが、ニッと眩しい笑顔を見せる。
「ありがとう……!」
「何言ってんだ、おれこそありがとうだ! ミリアのおかげだろ、すっげぇ魔法だったな!」
(まさか……ここまでとは。あの方が気にかける理由が分かりますね)
魔女は悔しそうに歯噛みすると、冷ややかな視線を向けた。
「さて、どうする? おばさん」
「おば……!? ……まぁいいでしょう。今日はここまでにして差し上げます。……また会いましょう、いばら姫」
もわっと黒い煙が立ち込め、魔女の姿は影とともに消え去った。
◇
「おい! お前たち!!」
激しい足音とともに、教員たちが雪崩れ込んできた。
「先生!」
「一体これは……!?」
「事情は後で説明します! まず怪我人の手当を!」
「あ、あぁ……!」
崩壊した教会と転がる巨狼を見つめ、教師たちが息をのむ。
「こいつは一体……すぐに拘束し、他に異変がないか捜索するぞ!」
◇
学園へと戻った一行。幸いにも死者は出ず、重傷者も適切な処置により回復へと向かっていた。
「さて、一段落だな……! しかし疲れたなぁ、ほんと」
「う、うん……そうだね」
「おい、待て」
立ち去ろうとするレイクの背中に、エギルが声をかけた。
「貴様……名は」
「あ?? レイクだけど」
「レイク……今回は負けたが、次はおれが勝つ。覚えておけ」
ふん、と鼻を鳴らして背を向けるエギル。レイクはニコッと笑いながら声を張り上げた。
「助かったぜ! サンキュー、エギル坊ちゃん!」
ドタバタと猛ダッシュでエギルが戻ってくる。
「貴様ぁ! 誰が坊ちゃんだ! いいか、おれは由緒正しきバルカーン王国の第三王子——」
「あーわかったって! お前のその紹介、長いんだよ!」
「クッ! 貴様、少し調子に乗っていないか!? いいか、おれは王族だぞ! 平民が本来口も聞けないレベルの——」
「はいはい、うるせぇな。てかまだ王族だのなんだの言ってんのかよ」
「うるさい!! 大体貴様は礼儀というものがなっていない! おれが叩き込んでやる!」
プンプンと怒るエギルと、耳を塞ぎケラケラと笑うレイク。 そのやり取りを見つめながら、ミリアは小さく微笑んだ。
(不思議だな……レイクくん。いつの間にか、みんなが周りに集まってきちゃうんだ——)




