表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
48/48

第48話 詠唱

 ドンッドンッと鳴り響く心臓の音。


 それは、勝利の鼓動でも、全てを(いさ)ます反撃の鼓動でもない。


 ただの、自信のない少女の悲鳴であった。


 でも、止まらない。


 なぜなら彼女はアークロックの一員だから。


「鬼の怒りよ、今ここに雷を落とし、紅の炎を再点火させよ! 我、鬼の巫女と炎の精霊と契約し、闊歩(かっぽ)させる威圧をこの手に掴まん!」


 跳ね上がる、炎の勢い。


 それを見た『支配のアークリオン』は顔を歪ませた。だが、いつもの調子でこんなことを言い始める。


「ふっ、詠唱……ふふっ、詠唱か……。オレの時代にもいたさ、そうやって馬鹿みたいに突っ立ってるやつがな!……なに!?」


 それは、『支配のアークリオン』にとって青天の霹靂であった。


「魔界の力よ、我に力を与えたまえ。蔓延る悪を清めたまえ。地獄の天罰よ、ここに怒りの聖水を振り撒きたまえ」


 そう、山田穂火(やまだほのか)は槍を回す。


 彼女はずっと考えていた。


 自身の弱みについて。


 空錠鍵斗(くうじょうけんと)に言われたこと。それは、詠唱の隙。


 どうしても生まれてしまうその隙を、心の中で悔やんでいたのだ。


 詠唱は集中してやるもの。詠唱はその場で立って目を(つぶ)ってやるもの。


 そんな、ありきたりな縛りを無意識に()していた。


 なぜ、そんなことをするのだろうか。


 気づいた時には、穂火の皮は一枚剥けていた。


「なんなんだ、その動きは!?」


「この場を浄化せしは鬼の炎。地獄の番人を務めし我は、鬼の力を授かりし漆黒の巫女。我に力を与え、炎の精霊に呼応せよ!」


 そう、山田穂火は止まらない。


 彼女は槍を振って、『支配のアークリオン』を襲った。『支配のアークリオン』はそれを刀で防ぐ。だがすぐに槍は回り、突きを放った。


「くっ……!」


 止まらない攻撃。『支配のアークリオン』は気押(けお)される。


 だが何よりも気に障ったのは、その声であった。


「湧き上がる炎よ、我の心に共鳴し、今ここにその力を振るいたまえ。激流のように荒々しく、そよ風のように繊細な力を!!」


「うるさい小娘が……!!」


 そう、山田穂火は『詠唱(えいしょう)』していた。


 かつてないほどの恐怖に打ち勝つために。


 これが、彼女が編み出したスタイル。


 詠唱は何も、止まってやるものじゃない。


 動きながら、バトルしながら、ありとあらゆる動きを混ぜて行ってもいいのだ。


 これはまるで……舞。


 『詠唱』というリズムに乗せて動くその動きは、山田穂火に変則的なスタイルを生み出した。


 それに『支配のアークリオン』は辟易(へきえき)する。


 常に喋り続けながら攻撃を仕掛けてくる敵など、『支配のアークリオン』にとっては未知の存在だったからだ。


 千年の記憶を探っても、そんな馬鹿げた戦闘スタイルの相手は一人もいない。


 それゆえに、彼は後手に回らざるを得なかった。


 これが、これが山田穂火が生み出した戦闘方法……!


 まさに……!


「よくもまあ、スラスラと出てくるナァ!!」


 長年の中二病経験が生み出した穂火独自の強みであった。


「我に宿(やど)りたまえ、イグニッション・スタイル!!」


「たわけがァ!!」


 ガキンッという音と共に勢いよく刀と槍がぶつかり合う。


「……ッ!」


 『支配のアークリオン』はその鍔迫(つばぜ)()いで気づく。山田穂火の力が上がっていることに。


(鬼の槍が復活したか……!!)


 桃の力により衰弱していた『鬼の槍』は、山田穂火の想いに呼応して再点火し始める。


 『虎の活力』と『牛の慈愛』が、じんわりと穂火を支えた。


 ただ、『鬼の忠誠』はまだ、目を覚まさない。


日射砲厲(にっしゃほうれつ)真獄烈火(しんごくれっか)(すずめ)(はやぶさ)に変え、子犬(こいぬ)獅子(しし)に進化させよ! 世界に落とした雫は、たった今、世界を破壊する純黒の涙へと変わらん!!」


「……うるさい」


「レクイエム・バースト、カタストロフィ・エンドレスッ!」


「黙れ……」


「この力に呼応した鬼の力よ、我に力を……」


「静まれと……言っとろうにィィィイイイイイイイッ!!!」


「……ッ!」


 『支配のアークリオン』の咆哮により、山田穂火は吹き飛ばされる。その強い圧は、まさに鬼。


 先ほどまで勝っていた『支配のアークリオン』の桃太郎要素は、勢いよく塗り替えられる。


 背負っていた陣羽織(じんばおり)も、着物も、鬼の要素が色濃く侵食し、桃色の部分は赤黒く染まっていく。桃太郎のマークも、鬼のようなものに変わっていた。


 ツノは相変わらず鋭く尖り、牙は肥大化していた。


 それは誰が見ても……異常であった。


 触れてはならない禁忌の力。


 それに触れてしまった『支配のアークリオン』は、鬼の力に呪われる。


 だが、彼は止まらない。なぜならアークリオンの心にあるのは……『願い』を求めることのみであるからだ。


「黙れ……黙れ……!」


 なぜ、そこまで『声』を拒絶するのか。陽向灯里(ひなたあかり)、空錠鍵斗であればそれに気づき、考えていたであろう。


 だが山田穂火にそんな余裕はない。


 ゆえの、インファイトであった。


「イグニッション……」


「……ッ!」


「我、(なんじ)の怒りに対抗せし力を降ろし、強き嵐をこの身に宿す。真紅の炎、我の力に呼応し鬼の力を目覚めさせよ!」


 穂火は槍を投げた。それが何を意味するかは、『支配のアークリオン』には明白であった。


 避けられた槍は空を切り、地面に当たる。


 カンッという虚しい音が響きそして……空間をくるりと回り、『支配のアークリオン』を覗いた。


 この景色に見覚えはある。


 そう、それは……!!


「……ッ!」


 『鬼の槍』は『支配のアークリオン』めがけて突き進む、しかしそれは『支配のアークリオン』には当たらず、バシンッと穂火の手の中に戻って来た。


 しかし、この光景は『支配のアークリオン』を強く刺激する。


 そう、それは……! 『鬼の忠誠』が復活した合図だったのだから。


「復活したか……!」


 『支配のアークリオン』はそう呟く。穂火は依然(いぜん)として詠唱していた。


「長きに続く鬼の悲鳴よ、我に力を貸し、反撃の叫びを聞かせたまえ! 雨の日も、晴れの日も、苦渋を味わい続けたその心に、終止符を!」


「つらつらとッ!」


 穂火は、グッと踏み込んだ。


 調子を取り戻した『鬼の槍』をぎゅっと掴んで、穂火は『支配のアークリオン』にとどめを刺そうとする。


 対する『支配のアークリオン』も反撃に出た。


 この一瞬が勝負の別れ道。全ては、このタイミングで決まる。


 まさに刹那(せつな)の見切り。実力者同士の、一撃必殺。


 空間も、時も、全てを支配しろ。


 今このタイミングが、全てを閉じる鍵なのだ。


「支配され、裏切ることもできずに泣いたあの日を、闇の炎に乗せて(はじ)けさせろ! 我、(なんじ)の代役にして、本命の戦士なり! 力を貸したまえ、鬼の巫女! イグニッション・パニッシャアアアァァァァァアッッッ!!!」


 シャキィィィィィィイイイイインッ!!! と、音が鳴った。


 凄まじい勢いが周囲に広がり、周りの草木を大きく揺らす。空間が強く振動した。


 そんな凄まじいぶつかり合いと共に……!!!


 X軸、Y軸、Z軸に、切り込みが走る。


 シャキーンっと流れたそれは、剣の流れ道であった。


 キュオーンっと鳥の鳴き声がする。


「お前はまだ青いな。そうやって技をいくつも見せる。いいか? 切り札ってのはな……」


 バサンッ、と(きじ)が現れた。


 そして、桃太郎の懐から二本の刀が新たに現れる。


 つまり、三刀流。


 この技は、空錠鍵斗に放った、城を切断した、桃太郎の切り札。


 そう、『絶炎(ぜつえん)皇画(おうが)』であった。


 そして『支配のアークリオン』は槍で腹を貫かれつつも、カチャンと刀を(さや)に納めた。


「……こう使うんだ」


 時間差で、その太刀筋が炸裂(さくれつ)する。バチンッ、という無慈悲な音と共に、穂火の身体に致命的な斬撃が走った。


「グアァァァァァッ!!!」


 残念だが、小さな奇跡じゃ、『桃太郎』は倒せない。


 山田穂火は……敗北した。


 『支配のアークリオン』は(きじ)に掴まれながら、この場を離れようと少し浮く。


 だがそのタイミングで目にした。


 身体を斬られ、血を流しながら倒れた穂火。ダラダラと流れる血の上で……


 彼女の口は、動いていた。


「……」


 対して、『支配のアークリオン』は絶句する。


 流れるように悪寒を覚えた『支配のアークリオン』を他所(よそ)に、穂火は……ただ口を動かしていた。


 それはまさに、『詠唱』。


 彼女の詠唱は——まだ、終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ