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アークロック  作者: 加鳥このえ
第二章 激突! 修行編!!
31/48

第31話 星空のグータッチ

 合宿二日目、夜。


 ()えない僕の脳は洞窟の入り口が無くなった答えを見つけられずにいた。風に当たりながら帰宅するこの時間は、僕の脳を黄昏(たそがれ)させる。


 まるで残業に明け暮れるかのようにやつれたこの町を見つめながら、変わってしまった僕を感じた。


「はろにゃー! 元気ー!? わたしはー! ど疲れたぁ……」


「……」


 気持ちよく黄昏ていた僕は突然声をかけられて、動きを止める。そして声の主を見た。


 振り返るとそこには陽向(ひなた)さんがいて、ゲロッゲロッに頬をこかせていた。やけに顔色悪く見えたので、僕はそんな彼女を心配しながら文句を言う。


「うるさいよ。それと、大丈夫? 顔色悪いけど」


「ううっ、私は疲れましたぁ」


「……」


 もはや立っているのも難しいほど、足をプルプルとさせている陽向さん。


 ここは山に隣接している道路。宿までは距離があり、歩くのは大変だろう。


 少し考えた後、髪をいじるフリをしてタイミングを見計(みはか)らう。


 だがこれは先延ばしに過ぎない。


 僕はいつまで緊張しているのだろう。彼女が困っていると言うのに。


「……あのさ」


 僕は勇気を絞ってこう呟いた。彼女に伝わるギリギリの声量で。


「おんぶしようか? 大変だったんだよね?」


 あの滝行を終えたんだ、並程度の疲労で済むはずがない。


 僕は自分の筋肉痛すら吹っ飛ばす勢いでドキドキしながら顔を真っ赤にしていた。


 なのに、陽向さんはケロッとして僕を見た後、屈託のない笑顔を浮かべてこう言ったんだ。


「いいの……? ありがとう!」


 僕の気持ちすら知らなくて、この鈍感陽向さんは「トントット」と言いながら僕の背中に抱きついてきた。


「……」


 僕はゆっくり彼女の足を持ち上げる。今日の陽向さんの服装がズボンでよかった。


 まだ僕に生足を触る覚悟はない。


 この服一枚を挟んで感じる彼女の体温は、僕をやけに刺激した。


 落とすなという、謎のプレッシャーを感じながら、耳元でこう囁く陽向さんに困らされる帰路につく。


「ありがとう、相棒」


 本当に、鈍感なやつだ。





 僕も疲れていることに気づかないなんて。


 ■□■□■


 突然ですが、失礼します!


 私の名前は陽向灯里(ひなたあかり)


 鍵斗(けんと)くんにおんぶされて帰ってきたのですが、絶賛大ピンチ!


「食材が……ない……」


 今日は私が料理当番なのですが、冷蔵庫には食材が入っていませんでした。


鍵斗(けんと)くん、この島のスーパーって……」


 近くにいた鍵斗くんはスマホで調べてこう返してくれた。


「閉まってる。しかも一個しかない」


「……終わった」


 晩御飯抜きが決定した瞬間である。すると鍵斗くんはリビングの床の扉をおもむろに掴み、持ち上げた。


「もしかしたら地下室にご飯があるかもしれないし、見てくるよ」


「まさかの地下室、急展開!? そんなところにドアがあったんだ……」


「うん。鍵が閉まってたけど、あったよ」


「それって入っちゃダメなやつじゃ!? ちなみにどうやって開けたの?」


「『鍵使い(キーユーザー)』の力で」


「来たこれ! 犯罪し放題などんな鍵も開ける違法能力!」


「……いいじゃん」


 そう言うと鍵斗くんが拗ねたので、私は反省して「ごめん」と返した。


 少し、テンションが高すぎたようだ。疲れているせいか、調節ができない。


 鍵斗くんは謝った私に「いいよ」と言って微笑んだ。そしてこう続ける。


「じゃあ見てくるよ」


「あ、私も」


 そう言って動こうとした時、体に痛みが走る。修行の疲れだろうか。それを察してくれたのか、鍵斗くんは「いいよ休んでて」と言ってくれた。


 私は言葉に甘えることにする。


 そして程なくすると彼は帰ってきて、こう言った。


「すごいよ! たくさんあった!」


「おお!? マジっすか!?」


 そして出されたのは……


「たくさんのツナ缶だよ。賞味期限も大丈夫!」


「……」


 ダンボールに入ったツナ缶であった。


「他にはある?」


「……なかった」


 幸いご飯はあったので、今日は白ご飯の上にツナを乗せた丼にした。


 ツナはお代わりし放題なのに、みんな苦しそうに食べていた。


 美味しいんだけどさ……なんか……花がないよね。味も飽きるし。


 申し訳ない、明日からはきちんと買います……と私は心の中で謝罪した。


 私はそう反省して「ご馳走さまでした」と呟く。


 さて、そんな夜ご飯タイムが終わり、私はふと外に出て行く鍵斗くんを見た。


 気になったのでついて行こうとするが、流石はリーダー、すぐに気づいた。


 私はそんな彼に一声かけて、一緒に玄関を出る。


「陽向さんも散歩?」


「鍵斗くんは散歩なの?」


「うん」


「じゃあ一緒に行こっかな」


「わかった」


 二つ返事のように容易く散歩が始まった。


 夜のこの島は静かで、気持ちの良い夜風が吹いている。


 星を眺めるとその壮大さに圧倒され、落ちている石っころを見つめるとそのチンケさに同情した。


 私はまるで、この島に包まれているように、あらゆるものが目につくようになる。


 鍵斗くんもそうだったようで、近くに置かれてあった腰あたりまである桃太郎の石像を指差した。


「桃太郎だ」


「桃太郎だね〜。鬼を倒した英雄」


 その鬼という言葉に反応したのか、鍵斗くんの動きは止まり、不安そうにこう話し始める。


「あのさ、信じてもらえるかわからないんだけど……」


「うん」


「鬼がいるんだ、この島には」


「……知ってる」


「わかってる、信じてもらえないことは」


「信じるよ、鬼がいるんだね」


「でも信じてほしい、本当に……って、信じる?」


「うん」


 私は夜風に吹かれながら、星の下にいる鍵斗くんを見つめた。


 ここは砂浜の横の道路。横を見れば海があり、ザバーンという海が動く音が耳をすませなくとも聞こえてくる。


 そんな場所で、鍵斗くんは私を見つめながらこう言った。


「なんで信じてくれるの? こんな荒唐無稽な話」


「……だってリーダーだもん。リーダーの話を信じられなかったらもう終わりだよ」


 私は頑張れば足が届きそうなほど低い堤防に座り、海を見つめながら、横をトントンと叩いてこう言う。


「座って。お話しよ」


「うん」


 横に座った彼の横顔を見つめながら、私は微笑んだ。


 鍵斗くんはたぶん、疲れている。昨日の夜に鬼の話をしてくれて、私たちはそれを信じた。なのに再度聞いてくるということは、鍵斗くんが信じられなくなっているのかもしれない。


 それを直接伝えても、鍵斗くんは無理しちゃうんだろうな。


 必死にそんなことないと否定して、私に弱いところを見せないようにする。


 だから、私は遠回しに伝えることにした。この綺麗な海を見て。


「思い返せば、こうやってゆっくり話したことなかったよね」


「……確かに。いつもは、はちゃめちゃで、こうやって腰を据えたのは初めてな気がする」


「ふふっ、だってさ、鍵斗(けんと)くん学校じゃ話しかけても無視するんだもん」


「むっ、無視はしてない。ただ、恥ずかしいだけ……」


「えー、もっと私はお話ししたいのにー」


「……だって、陽向さんは友達も多いし」


「そっか……。でもさ、私は感謝してるんだよ、鍵斗くんに助けてもらって」


「え……?」


 私は初めてアークロックに入った時のことを思い出しながら、こう話した。


「鍵斗くんに会えて、私の退屈な日常は変わった。あの日、怖い人から私を救ってくれたこと、ちゃんと感謝を伝えてなかった。だから改めて言うね。鍵斗くん……助けてくれてありがとう」


「……お礼なんていいよ」


「よくない」


 私は鍵斗くんの頬をぷにっと触ってこっちを向かせた。彼は「わ、わかりました」と返す。


 それに満足した私は手を離した。


「でも、本当にありがとう」


「うん」


「鍵斗くんに会えて、アークロックに入れて、私はすごく楽しい。こういう時、詩的なことを言えたらかっこいいんだろうけど、思いつけるほど頭良くないからさ、だから、直接伝えるね。これからもよろしく、相棒」


「……陽向さん」


 鍵斗くんはそう言った私を見つめて、優しくこんなことを言ってきた。


「背中、任せた」


「……おう!」


 その返事がどうにも嬉しくて、私はクシャッと笑って拳を出した。彼は、それにグータッチで返してくれる。コツンと合わせた拳に、確かな信頼を感じた。


 そして、蘇った自信をひしひしと感じる。


「さて、なんだか恥ずかしくなったし帰りますか」


「ええ、な、なんか変なこと言ったかな……」


「もー、本当鍵斗くんはー」


「えー!?」


 夜というのは不思議なもので、本音がぽろっと漏れてしまう。まるで流れ星のように過ぎ去っていった修行での疲れは、私の中で思い出として消化された。


 私の横を歩く相棒は、先ほどの会話の反省会をしているのか黙っていた。


 恥ずかしいことを言ったのは私なのに、こんなふうに真面目な彼がどこか面白くて、私はふふと笑ってしまう。


 気づいてなかったけど、私はもう、星も海も見ていなかった。


 そんな感じで、二日目の夜も終わります。


 あーあ!


 次の日なんて来なければいいのになぁー!

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