チェスターはハルベルトに提案する②
帝国で法律を成立させる方法は3つ。
1つ目は、皇帝陛下からの勅命の場合だ。
しかし、陛下からの勅命で法律が施行され、その法律が不評だった場合が問題だ。
悪法だと批判を浴びると、皇帝の威信が傷付く。
皇帝の権威が下がると帝国崩壊の危機に繋がるかも知れない。
政治的な責任が伴うのだ。
だから皇帝が勅命を発して法律を制定する事は、殆んど無い。
2つ目の方法は、役人が法律を作成する方法だ。
帝国大学を卒業し、採用試験に合格した天才達が法案を作成する。
しかし、どれだけ優秀であっても、平民は課長補佐までしか昇進出来ない。
課長以上は、法衣貴族達だ。
彼等は自分達に都合の悪い部分を修正させる。
そして、その上には、役所のトップ達がいる。
長官や次官といった役所の上層部は、領地持ち貴族家当主が就任する。
彼等もまた、自分達に都合の悪い法案は、修正させるか、机の引き出しの中で塩漬けにしてしまう。
こうして貴族にとって、都合の悪い法案は骨抜きにされるか、帝国議会に提出されず放置される。
残る最後の方法は、貴族立法と言われるものだ。
3名以上の貴族家当主が連名で、帝国議会に法案を提出する方法だ。
この場合、もし提出した法案が否決されると、提出した貴族家当主は大恥をかく。
貴族にとって、これほど不名誉な事は無い。
だから貴族立法を行う場合は、内々に根回しが必要だ。
それと、皇帝陛下の意向の確認も。
帝国議会で承認された法案でも、皇帝陛下には拒否権があるのだ。
ただ、政治責任が発生するから、拒否する事はまず無い。
だが、絶対に無いとは言い切れない。
現在、帝国宰相の下に次官が3名配置されている。
ゲルハルト派・ハルベルト派・それと中立派から各1名だ。
各派閥は、この次官が宰相を通じて、皇帝陛下に打診するのだ。
各派閥の意向を皇帝陛下に打診するのが、次官の仕事みたいなものだ。
ちなみに、俺自身もそうだし、俺を支える派閥の貴族達も、俺を皇帝にしようとは思っていない。
だから、俺の派閥からは次官を排出していない。
法案が帝国議会に提出されると、審議が開始される。
そして、最後に採決が行われる。
出席貴族の過半数以上の賛成で、法案が可決される。
だが、ここには、帝国特有の仕組みがある。
まず、帝国議会に出席出来る貴族は、男爵家以上の貴族家当主か、その代理人だけだ。
男爵以上の貴族の任命権は、皇帝陛下しか持っていない。
だから、準男爵や騎士爵は貴族でな無いと言う貴族達もいるそうだ。
次に採決の方法だ。
男爵家当主の投票は1人1票とカウントされる。
しかし、子爵家当主の投票は、1人で2票とカウントされるのだ。
そして、伯爵家は3票。
侯爵家が4票。
公爵家が5票だ。
これらを集計して、過半数以上の賛成が必要だ。
上位貴族は、寄子を抱えている。
寄子貴族は、寄親の指示に従う。
塵も積もればじゃ無いけど、結局のところ数が物を言う。
だから、貴族立法を行う場合は、必ず上位貴族への根回しが必要だ。
だが逆に、法案を成立させる事が出来れば、貴族達から一目おかれる存在にもなれる。
ハルベルト兄上から依頼されれば、ルーベンス・ボーデン両公爵は、張り切って法案作成に取り掛かるだろう。
俺と同様に、兄上も皇帝陛下から爵位を貰っていない。
皇帝陛下から爵位を貰い、貴族として独立すると、皇室籍から外れてしまう。
そうなると、次期皇帝に即位するのは困難だ。
だから、兄上自身が提出する法案の署名を行う事は出来ない。
だから、法案提出には、兄上以外の貴族家当主3名が、連名で提出する必要がある。
つまり、両公爵以外にもう1名。
当然、指名するのはハルベルト兄上だ。
今は両公爵の力が強すぎる。
兄上には、大きな実績も無い。
だから、正直言って、派閥内での発言力が弱い。
このまま皇帝に即位した場合、傀儡になってしまう恐れもある。
だから、3人目を誰にするのか?
それがとても重要だ。
兄上から指名された貴族家当主は、派閥内での発言力が強まるからだ。
俺はハルベルト殿下から信頼されてるんだぞーって事だからな!
だから派閥内に3人目が登場する事によって、両公爵の発言力が多少なりとも弱まり、兄上も派閥の運営がし易くなるハズだ。
さあ、兄上!
早く決断するんだ!
俺がそう思っていると、エリーゼが「ハルベルト様!チェスター様の提案。とても良い提案だと思いますわ!!」
エリーゼが兄上にプレッシャーを掛ける。
…エリーゼは、凄く優秀なのかも知れないな…
考え込んでいた兄上が「分かった。出来る限りの事はしてみよ!」
そう言った。
さあ、後は兄上をお手並み拝見だ。
俺は、まだ成人前だ。
だから、皇帝から爵位を貰っていない。
貴族じゃ無いから、俺は帝国議会に出席出来ないし、投票権も無い。
今回の法案は、ハルベルト派から提出するし、誰も俺が提案したなんて思わないだろう。
だから、大打撃を受けるゲルハルト派から怨まれる事も無いし…高みの見物だな!
この話が終わると、また、エリーゼが話し始める。
今度の話題は、俺とソフィアが慰問に行った話だ。
エリーゼが「ソフィア様。今度慰問に行かれる時は、私も連れて行ってくれませんこと?」
「はい。喜んで!」
ソフィアが返事をする。
するとエリーゼが「ハルベルト様!ハルベルト様も、チェスター様が炊き出しに行かれる時に、ご一緒されたら如何ですか?」
「…ああ、そうだね。チェスター頼むよ!」
「はい。兄上!承認しました」と、俺は答える。
やはり、エリーゼは優秀だな。
先日、俺とソフィアが慰問に行った映像をエラが編集して、テレビニュースで流した。
バイオレットから「市民達の間で、俺とソフィアの人気が物凄い事になっています!」と報告を受けた。
弟夫婦の方が人気があるのは、不味いと判断したのだろう。
エリーゼは油断ならない。
関係良好なら強い味方になるが、関係が悪化した時は強敵になる。
そんな事を考えていると時間になり、今日のお茶会がお開きになった。




