白トリュフの魅力
酒飲みな私は、様々なつまみを食べてきた。世界中の珍味を求め、取り寄せをしてきた。
就職し、飲む機会が増えたのもあるが、やはり社会人になったのだからもっと高級な食材を口にしたい。そう考えた私は、世界三大珍味について調べてみた。
フォアグラは肥大化したガチョウの肝臓で、濃厚な味わいがある。
キャビアはチョウザメの卵で、プチプチとした歯触りが特徴だ。
トリュフは高級なキノコで、独特の香りが特徴だ。
どれにしても、特別「美味しい」というわけではなさそうだ。「珍味」というだけあって、ただ味が良いというだけではない。それぞれの特徴を活かした料理でなければ、十分な味わいが出ないようだ。
いろいろ調べているうちに、トリュフの中でも珍しいものがあるという話を見つけた。「白トリュフ」というものは、トリュフの中でも特に珍しく、高値で取引されているらしい。中にはキロ数十万円というものもあるらしい。
それは是非とも食べてみたい、と思ったのだが、日本で味わうのは難しいとのこと。白トリュフは一般的な黒トリュフと違い、皮が薄く、水分が抜けやすい。そのため、一日で五パーセント以上減ってしまうという。しかも、収穫して四十八時間後には九十パーセント以上香りが抜けると言われている。日本では本場の味で味わうのは難しいようだ。
どうしても味わうなら、やはりヨーロッパか……そう思っていた時、友人から一本の電話がかかってきた。なんと、本場の白トリュフが手に入ったという。
早速友人の家に行って、見せてもらうことにした。初めて見た白トリュフは、たしかに形はトリュフそのもので、名前にたがわず真っ白だ。
「食べてみるかい?」
「でも、高いんだろう?」
「いいからいいから。白トリュフは、生で食べるのが美味しいんだ」
そう言うと、友人はついでに、ということで同じ産地の白ワインを注いでくれた。産地を併せていただくのも、一興だという。
さっそく乾杯し、白ワインをいただく。このワインも結構な値段がしそうだ。少し辛口で、安物のワインとは違う奥深さがある。
続いて、スライスした白トリュフを口にする。食べる前から香りが強くしていたが、口に入れるとその香りがまるで体を貫くようだ。
「どうだ、うまいだろう?」
何ともいえぬ味わいに、ワインが進む。数切れの白トリュフも白ワインも、あっという間に亡くなってしまった。
「……それにしても、これはどこで手に入れたんだ?」
「実は、白トリュフの養殖を日本でやってて、その第一号なんだ」
「え、トリュフって、日本で養殖できるのか?」
「戦前には日本でもやっていたそうだからね。それで、興味があって研究を始めたんだ」
話によると、トリュフは人工栽培が非常に難しいらしい。まず気候条件からして、日本では厳しいという。それに加え、人工栽培するにはトリュフがどのように成長しているのか、どのような場所で育てるのが最適なのか、それらを解明する必要があるという。
その研究を続けた結果、ある程度人工栽培のめどが付いたという。そして、そこで採れたトリュフの中に、白トリュフがあったという。
「へぇ、大変なんだな」
「まあね。まあ、俺は酒が飲めればいいんだけど」
そう言うと、友人は新しく白ワインの瓶を開けた。ワイングラスに白ワインを注ぐと、一気に飲み干す。
「酒のつまみのためにトリュフを栽培してるのかよ」
「まあ、そういうことだ。酒のつまみがあれば何でも良かったんだよ。たまたまトリュフの人工栽培の研究をしていたってだけで」
「はぁ……そんな動機で白トリュフが採れるなんて、恐ろしい奴だ」
「もともと珍味には目が無かったからな。キャビアもフォアグラも大好きだ」
「サラミでも食ってろ」
「まあまあ」
友人は私に酒を勧める。まったく調子のいい男だ。
「とはいえ、ある程度珍味は食べつくしてしまったからな。新しい珍味が欲しいところだ。そこで君を呼んだわけだ」
「……? 俺はつまみには詳しくないぞ?」
「いや、別に話を聞きたいわけじゃなくてだな」
「……?? 気になるな。なら一体何故俺を連れて……」
そう言いかけた時、私の視界が突然ぼやけてきた。徐々に意識が無くなってくる。
目の前にはワイングラスが見える。二杯目のワインを飲んだ直後から、少し気分が悪い気がしたが、まさか……
「いやあ、人間の肝臓なんてどうかと思ってね。ほら、君、脂肪肝じゃない? フォアグラみたいな味がするんじゃないか?」
「そん……な……」
何も言い返せない。意識だけが遠のいて行く。
ああ、どうせ死ぬならもっとお酒を飲んでいればよかったな。もっと脂肪が付いていれば、友人だって美味しく食べてくれるだろうに。