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歪んだ淑女のメロディが

一話投稿するのにおよそ三ヶ月のペース………………(完走は)ダメみたいですね(諦観)

っていうかスマホが書きにくいんですよォ。パソコンで書こうにもパソコンだとなんかいろいろ誘惑があって着手しづらくなるしィー

ガラケーってホント良いもんでしたよね。文字打ちやすいし指の変な部分痛くならないし速度制限ないし。ストリーミング再生し放題ってよく考えたらすごいですよ。

ひょっとしてケータイ小説が流行ったのはガラケーが文字を打つのに適していたからなのかもしれませんね。何が言いたかったか忘れました。では本編どうぞ。

「こんな時間にこんなとこで何してんの?いや私も人のこと言えないけどね」


その少女は光の姿を捉えると嬉しそうに笑みを浮かべて光の方へと歩いてくる。整った顔立ち。背中まで伸びた流れるような長い黒髪。白くてきめ細やかな肌。短パンから伸びるタイツに包まれた長細い脚。端的に言って美少女だ。

見る人によってはクールビューティーという言葉が似合いそうな容貌とは異なり、常に人懐っこそうな笑みを浮かべている。


「えっと、まあ散歩の休憩中というか」


「へー。私も!本当に人のこと言えないねー」


あははと、何がそんなにおかしいのかと問いただしたくなるようなまぶしい笑顔を浮かべるとそのまま光の前に立つ。光は自分よりもやや高い背の彼女が目の前に立っていることに緊張していた。


「まあ私は今から休憩するとこなんだけどね。郡原くんも今から?それとも入れ違っちゃった?」


「俺は…………」


一瞬逡巡して、こう答えた


「今休憩しようとしてたよ」



―――――――――――――――――――――――――――


ちょうど出て行こうとしたところだというのに、嘘をついて公園に留まった。権兵衛は『スケベ』と吐き捨てるように罵って頭の奥に消えて行った。光は「うるせえ」と強く念じた。彼とて健全な男子高校生。無気力に見えても男児ということか。


ちょうどさっきまで座っていたベンチに光は座っていた。異なるのはさっき座っていた位置に少女が座り、その隣に光が並んで座っているということだ。


さてこの少女、光にとっては……というか光の通う学校では多くの人々に見知られた相手だ。要は同じ学校に通う、同じクラスの同級生である。


「そういえばさ、郡原くんって私のこと覚えてる?」


最初に切り出したのは少女から。

同級生に対して自分のことを覚えているか?とは同窓会でもない限りなかなか失礼な物言いだが、彼女をとがめるものはいない。美少女だからだ。


「そりゃあ覚えてるよ。埜羽嶺(のわみね)さん」

「下の名前は?」


「………へ?」


下の名前?そうだ。苗字は覚えている。ホームルームで出欠を取るときにしょっちゅう呼ばれている。それにこの容姿。その気がなくても覚えてしまうに決まっている。

だのに、下の名前となると……姓ではなく名となると……


「…………えっ、と……」


出てこないのだ。


「ひっどいなあ。クラスメートだよ?出席番号離れてるとはいえ……」


「の、埜羽嶺さんは俺の名前言えるの?」


とっさに聞き返した。言えっこない。クラス内だけでなく、学校全体でも目を見張るほどの美少女だ。その付き合いは運動部のエースやら成績上位者やら、スクールカーストでの上位者とのものがほとんどだろう。彼女自身もスポーツ、勉学共に秀でている。なぜ自分と同じ学校にいるのかが不思議なくらいだ。そんな天上人が自分の名前を覚えていようはずが……


「郡原光でしょ?覚えてるってば」


覚えていた。


「覚えてたんだ…」


自分が彼女に認識されていたと思っていなかった光はあんぐりと口を開いた。


「当たり前でしょ?覚えてなきゃひどいなんて言わないもん。クラスメートの名前はみーんな覚えてるよ」


「へえー…………」


一瞬、「俺が特別に覚えられてるわけじゃないんだな」と小さく失望したが、厚かましいぞと自省しすぐにその思いを取り払った。


「ちなみに私は織枝ね。埜羽嶺織枝(のわみねおりえ)。ちゃーんと覚えてなよ?寂しいから」


「ああ、うん。ごめん」


そうか、覚えていたのか。覚えていないのは俺だけか。むしろ覚えるのが普通なのか。と申し訳ない気持ちになり、顔を伏せる。

そんな光を見て織枝は少し声のトーンを落として新しい問いを光に投げかける。


「郡原くん。あのね、本当に郡原くんに嫌な思いさせようとして聞くんじゃないよ?」


前置きにそう言って、一息ついて間を置くとその“質問”を口に出した。


「郡原くんって、ひょっとして他人にあんまり興味無いの?」


…………………………………………………


沈黙が一瞬場に満ちた。


「………埜羽嶺さんはそう思うのかな」


光は返答によって沈黙を破った。質問に対する答えになっていない。


「そうだったら悲しいな」


織枝の返答も質問に対する答えになっていない。

また沈黙が場に満ちる。今度は一瞬ではなくやや長い。別にお互いに気まずかったりするわけじゃない。光が答えれば済む話だ。

当の光は、沈黙の間考えていた。自分は人に興味が無いのか。無いとしたら何故なのか。あるのならば人のどんなところに興味があるのか。

沈思黙考の末、光は口を開いた。


「多分無いんじゃないかな。あんまり」


考えた末にそれか。と文句を付けたくなるような答えだが、織枝は文句を言ったりすることなく、ただ笑顔で


「そっか!」


とだけ返した。


―――――――――――――――――――――――――――


「それじゃ、私そろそろ帰るね」


あの後は織枝が会話のイニシアチブを握り、学校でどんなことがあったか、どんな話をしたか、といった内容の会話を光は一方的に聞いていた。

学校での思い出がほとんどない光にとって、自分の通う学校でそんなことが起きていたとは知らず非常に新鮮な気分で聞いていた。


途中、野球部員が某所でやらかしたらしい失敗談を聞いて思わず笑うと、織枝は目を輝かせて「始めて笑ったね!」とそれ以上の笑顔で喜んだ。見てくれだけでない、こういったところが彼女が男女問わず人気のゆえんなのだろう。顔がいいだけでは同性に嫌われるだろう。



(笑って話すの、久し振りだなあ………………)


光は家族以外の人間と笑顔で話をするのは何年振りだろうと思い起こす。中学以来か?いや、もうちょっと最近か?と考えている内に織枝が光に「ねえ」と呼び掛ける。


「あのさ、郡原くん。そろそろ皆には言うつもりなんだけどさ、入学してから始めて話した記念で郡原くんには今日言うね」


「な、なんだよ急に……」


「びっくりすると思うよ……?」


ふふふといたずらっぽく笑うと、織枝は特にタメを作ったりすることなく言い放った。




「私、豪蘭学園に転校するんだよ!」



………………………………………


(どう、リアクションすればいいんだろう)


「すっごいでしょ?もう私もびっくりしたもん!」


(理由を聞く?コヨミ憑きの可能性を探る?探ってどうする?)


「お父さんとお母さんなんてもう狂喜乱舞!私だって自分の子供があそこ入るなんて聞いたら同じリアクションするもん!」


(一応コヨミ憑きじゃなくても入学出来るんだよな。その可能性もあるけど)


「けど、やっぱ不安なんだよね。本当に私なんか入っていいのかな」


(でも埜羽嶺さん、そこまで勉強出来るのか?そりゃあ、成績はいいって評判だけど)


「全国レベルどころか世界レベルの生徒ばっかりって言うし。一芸入試系の人は大学教授レベルの専門知識とかザラらしいよ」


(実際どのぐらい勉強できるんだ……クソ、全然知らねえ。やっぱ俺マジで人に興味なかったのかな)


「それに、東京の学校だとやっぱり知ってる人誰もいないでしょ?一応寮はあるらしいけど、それも不安なんだよね」


(どうする?どうする?俺はなんて言えばいいんだ?もしコヨミ憑きだったら埜羽嶺さんも殺し合いに巻き込まれたりするのか……?)


「でもやっぱりさ。クサいセリフだけど現状を変えるなら、まず自分から変わらなきゃって思うんだよ」



「……え?」


埜羽嶺の言葉が耳をすり抜けて頭に入っていなかった郡原だが、その言葉だけは聞き取れた。


「何?どうしたの?」


「何って………埜羽嶺さん、現状変えるって言った?」


「言ったよ?」


それが何か?と言わんばかりに首をかしげる。

光には理解できなかった。


「……なんで?」


「え?」


「埜羽嶺さんは変わらなくても十分……だと思う。だってそうだろ。勉強も出来るし、スポーツだって得意だろ?見た目……だっていいし、誰とでも仲良く出来る。なんでわざわざ変えるんだ?ひょっとすると悪化しちゃうかもしれないじゃんか………」


話すにつれ、声のトーンが落ちる。自分はとても情けないことを言っていることに気付いた。

そうだ。自分のような底辺の人間は、これ以上悪くならないようにすることしか出来ない。だから留まり続ける。


でも、織枝は違う。社会に出て成功できる人間だ。“そういう人種”である彼女は変化しても悪化することはない。

自分とは違う世界の人間なのだ。話しながら気付いた。何を彼女と自分を同列に扱っているのだ。身の丈もわきまえることも知らないのか、情けない。


彼女に申し訳ない。訂正しよう。


「……ごめん。言ってて間違いに気付いた。忘れ………」

「郡原くん」


光の言葉を織枝がさえぎる。本当に申し訳ない。自分とあなたを一緒にしてしまった。仲良くなれたと思った。あわよくば学校のアイドルと恋仲に……なんて考えてしまった。違う人種なのに、自分は―――――――――――


「私はね、自分じゃなくて周りを変えたいんだよ」


「……え?」


織枝の口から出てきた言葉は、光の意図していたものを否定した。




「私ね、歴史の教科書読んでていっつも思うんだ。昔の人ってすごいなあって」


「だって、今私と郡原くんがこうして話したことって後世に伝わる?伝わらないでしょ?」


「でも、偉人なんかだと死に際の言葉とか、どこそこでだれだれとほにゃららを話した、なんてことも全部教科書に載っちゃうんだよ?」



―――――――――――――――――――――――――――


「エジソンやニュートンなんかの科学者から徳川家康や織田信長みたいな武将。彼らの魂は大きく、強かった。それゆえに消えることなくいつまでも存在し続けた」


―――――――――――――――――――――――――――



織枝の言葉に、先日の権兵衛の言葉が光の頭の中でフラッシュバックする。

似ている。埜羽嶺織枝は似ている。








「だーれもやったことないことにためらいもなく挑戦して、いつだって世の中を変えてきたんだよ?でも、私たちが今の日本でそんなことしても変な目で見られて、何もさせてもらえないでしょ?」



―――――――――――――――――――――――――――


「彼らにとって世界中で特に日本がぶっちぎりで面白くないらしい。なんの変化も革新もない」


―――――――――――――――――――――――――――



似ている、というよりそうだ。“人種”の話だ。光の言おうとしたことと彼女の述べる言葉の意図は異なるが、彼女は確かに“人種”が異なる。





「たとえば、ニュートン。なんで物は下に落ちるのかなんて、誰も気にしたことのないことを研究して、すべてのものはお互いに引きつけ合うってことを地球のりんご一つで解き明かして、それは宇宙全体でも同じだってことがわかった。アインシュタインなんかは機材も何も揃ってないような時代に重力波の存在を提唱して、その後研究者たちがとんでもなくお金のかかる機材を使って100年後にようやくその存在が観測されたんだよ」



―――――――――――――――――――――――――――


「時代を動かし続けてきた彼らには―――――――――――」


―――――――――――――――――――――――――――



そうだ、彼女は………





「そんなすごい人が過去に現れたっきりなんて、嫌だよ。今の退屈な世の中を変えれば、きっとそんな人がたくさん出てくると思うんだ。だから、私が変われば周りも変わるかなって」




―――――――――――――――――――――――――――


「――――――――――それが見てるだけでも耐えられないんだろうね」


―――――――――――――――――――――――――――



“偉人”と呼ばれる人種なのだろう。


変化を好み、未知を恐れず、それでいて優れた才覚と強い根気を併せ持った風雲児。いや、その風雲さえを巻き起こす。それが“偉人”だ。


「豪蘭学園は九月に入学式が始まるから、それまでは奈良にいるけど、多分夏休みの真ん中ぐらいには東京に行っちゃうかな?」


光は目の前の少女の存在が大きく感じ、落ち着かない気分になった。コヨミだのエピソードだのラボラトリオだのよりも心が動かされた。目の前だ。それは目の前にいるのだ。膠着した現代を見続けてきた光に、織枝はあまりにも立派に見えた。

当の織枝は、そんな光をよそにマイペースに話し続けている。


「郡原くん。東京行く前に友達が一人増えて、私嬉しいよ。ありがとう」


「どういたしましてこちらこそ………………」


短時間で友達認定なんて、そんなにハードルの低い友達なら他の友達とも大した仲じゃないんだろ?と、普段の光なら心中でそう毒づいていたところが、本音も建前も“どういたしましてこちらこそ”と言わざるを得ないほどに光は織枝がまぶしく見えた。


(なんて親愛的なんだ。この人他人を嫌いになったことがあるのか?気安すぎるだろ………………)


この“気安い”は拒絶の意を表す言葉ではなく、フレンドリーであることを表す言葉だ。光は他人の接触をやや拒みがちな自分に比べ、性別やスペックから、何から何まで真逆の存在だな。と小さく苦笑いを浮かべながら公園から見送ることにした。


「じゃあ、また明日。夜道だし気をつけ「あ、それとね」



光の言葉をさえぎって織枝が口を開く。


(そろそろ帰るって言ってたけど、結構残るな………………)


母がよく知人との電話を終えようか終えようかとする度に「そうそう」と新しい話を切り出して終わらないのを思い出し、女性とはそういうものなのか?と思慮する。


「………………郡原くん、本当はもうここ出るつもりだったのに私に付き合わせちゃってごめんね?」


「………………えッ!?」


織枝の口から紡がれた言葉に、光は動揺を隠せずにあわてふためく。


「なっ、なん、わかっ………いやっ、いや!そんなこと!別に、違っ」


「アハハ、どんだけ驚いてるの。だってほら、ベンチ」


ちょいちょい。と人差し指で自分が今光と座っているベンチを指すとさも気付いて当然であるかのようにこう言った。


「私が座ったとき、ベンチ温かかったもん。私が来たときに休憩しようとしたとこなら、このベンチが人肌にぬくもってるわけないもんね?」


「それに、最初は休憩中って言ってたのにそのすぐ後に“休憩しようとしてた”って言ってるもん。矛盾してるよー」


「あ………………」


愕然。今の光の顔を表すならその言葉以外になかった。

が、あまりの羞恥に耐えきれなかったのか、それから逃れるために光は珍しく頭を働かせて反論を述べた。


「い、いやいやいや!俺が来る前に他の人がベンチに座ってたんだって!それに、休憩のやつは、言葉の綾っていうか、なんていうか………………」


「だよね。その可能性も普通にあるよねー。全然確定じゃないものねー………………」


「へ?」


確信してたんじゃないの?と光は呆気にとられた。


「それもあり得たんだけど、その………………フフッ、郡原くん、クフッ、リアクションが正直過ぎてっ………………」


「なっ」


「ごっ、ごめんっ………………笑っちゃ失礼なのに……………」


ぷるぷるとうつむいて肩を震わせて口元を手で押さえる織枝。唖然とする光。要するに自分のポカでスケベ心が露呈したわけだ。もっとも織枝の言葉では“光が付き合ってやった”ことになっているようだが、そこは学校のアイドル。このようなことは慣れっこなのだろう。


「えっ………じゃあ、俺がうまいことリアクション抑えてたら………………?」


「くひひっ………………わ、私はただのめっちゃ恥ずかしい自意識過剰女になってたよ………………ウフフフフフッ」


「んだよそれぇ………………」


「あっははははは!」


力なくぐだり、と光がうなだれると、それに対応したシーソーのように織枝は上を向いて笑い声を上げた。


「はー………………ごめんねなんか。詐欺師みたいなひっかけして」


「別にそこまで悪質じゃないけどさあ」


がしがしと頭をかきながら光はベンチにもたれかかった。先ほどの権兵衛の叱咤もあって早いとこ家に帰りたかったが、ここで帰って織枝と帰り道が同じだった場合気恥ずかしいのでもう少しの間留まることにした。


「それじゃあ今度こそ!帰るからね!もう言い残すことはない………と思う。あっても我慢する!」


「ははは………………我慢するんだ」 


三度目の正直ということわざに倣い、織枝はようやく帰路につくらしい。これ以上留まられたらどうリアクションを返せばいいのだろう。と光はほんの少し不安になる。本人に自覚はないが、この不安はコミュニケーションを取ろうとする意欲が彼にある。ということの裏付けであり今までの彼には見られない心理的言動であった。短時間とはいえ、織枝とのコミュニケーションをとったことがきっかけであることに間違いはないだろう。


「それじゃあ光くん」


光は自身のその心境の変化の機微には気付いておらず、不思議な満たされた感覚を覚えていた。そして、それと同時に“あの感覚”の到来を心の奥底で感じ取った。予感の予感の予感。来る。あの感覚が来る。もう少しで来る。あの戦慄が……………………



「また今――――――」

「埜羽嶺さん!」


光はほとんど反射的に織枝のシャツの襟を引っ掴み、そのまま引き寄せてバックステップで後ろに飛んだ。

急に何事か?一体何を?この時の織枝の心境は計り知れないが、少なくともただ事ではないと察したことだろう。


「ちょっ、郡原くん急に何………………」


光の行動の意図を確かめるべく、問いただそうと口を開くと、言葉の続きは背後から轟いた強い力で何かを地面に叩き付けた音でかき消され、視界は舞い散った砂ぼこりで隠れてしまった。


「なっ、何!?」


「俺にもわからない………………けど、多分悪い事態だと思う」


「悪い事態…………?」


「……お小遣いもらったりジュースおごってもらえるなんてことは絶対にないんじゃないかな」


光は恐怖と緊張をごまかすために慣れない冗談を言ってみたが、声が自分でもわかるほどにうわずって震えており、より恐れが大きくなるばかりだった。

舞い散った砂ぼこりはしばらくの間光と織枝の視界を奪っていたが、じきに砂が沈殿し、弱々しい星と街灯に照らされる公園の景色があらわになった。


「………………なぁんなん?なんでウチ今の外したん?まさか自分避けたん?腹立つわあ」


そしてついぞ先ほどまで織枝が立っていた位置には短い髪を金色に染め上げた女が(地毛でないとわかるのは、つむじの部分からわずかだが黒髪になっているからだ)たたずんでおり、不機嫌そうに光と織枝の方を睨み付けていた。


「なっ………!?」


「やー………………えっ何?めっちゃ美人やんそこのコ。びっくりしたわ………………そっちのと釣り合って無さすぎやろ。えっ付き合ってるん?」


「ぐ、郡原くん………………この人誰か知ってる?」


「全然………………」


「なんや苗字呼びかいな。ほなら付き合ってへんねんな」


いきなり現れて好き勝手言いやがって。というのがほとんどパニックに陥った光の頭の片隅に残された冷静な部分が抱いた感想だった。これを客観的に、例えばこれを読んでいるあなたのように安全な立場で状況を観察することが出来れば目の前の女がコヨミ憑きであることを看破できたかもしれないが、いかんせん光の未熟な精神では受け止めきれなかった。


『光!おい光!聞いてるか!』


頭の奥で権兵衛が何かわめいている。今度は自分と同い年ぐらいのやかましい男の声だ。頭の中から聞こえる声でさえ、周囲の音と同じように耳を通り抜けていくように頭に残ってくれない。どうすれば、どうすれば?そもそも何が起きているんだ?


『このヘタレ!ちょっと熱くなるぞ!オラァ!』

「うあっ!?」


権兵衛が叫ぶと、光の喉が一瞬熱風を吸い込んだように熱くなる。これはパニックどころではない。光はリラックス状態というほどではないものの、ほんの少しだけ………目の前の状況を推察する程度には………落ち着くことができた。


『気付け代わりだ………………いいか光。前に話した通りの事態だ!ヤツはコヨミ憑きで、お前かあの子のどちらかを、あるいは両方殺しに来ている!』

「殺しにって………なんでそんなこと!?」


「光くん………………?」

「なんやアンタ急に。キショいわあ」


権兵衛の言葉に思わず叫ぶと女は怪訝な目付きで、織枝は心配そうな目付きで光に視線を送る。


『あの女は今“外した”と言った。ついでに“避けたのか?”とも聞いた。あいつはあの空中からのストンピングを意図的に行ったんだよ。だからそんな言い回しをする。落ち着いて周囲に気を配っていればすぐわかることだ』

「そんなこと言ってたっけ………………」

『言ってたんだよ。落ち着いてなかったんだお前は』


「アンタちょっとココおかしいんちゃうか?正味引いてるでウチ」


女が人差し指で頭を指してとんとんとタップする。

光は女の言葉に耳を貸さず、足下に視線を移した。

女の足下の地面は干ばつ地帯のようにひび割れてボロボロになっている。あの落下の衝撃であることはわかった。もしあれが自分か埜羽嶺の頭にでも直撃していたら文句なく即死していたことも。


「………………殺すんですか?」


光が絞り出した言葉は、命乞いにも聞こえる言葉だった。女は破顔し、くっくっと笑った。


「今の出来事でようウチがアンタ殺す気やってことわかったな。そこはすごいで。せやなあ。たいがいのヤツは混乱してパニクって………………それが人生最後の感情や。その点アンタらは幸せやで。キッチリ殺される自覚を持って死ねるんや。言うたら安楽死やで。自分が死ぬってわかって死ぬんや」


「な、何言ってるんですか………………?」


「はん?」


光に襟首を掴まれたまま棒立ちになっていた織枝が、何が何やらまったくわからない様子で口を開いた。


「ぐ、郡原くんもあなたも………………なんで、殺すとか殺されるとか、そういう発想になるんですか?あなたは、その、刃物とか、銃も持ってないし………………」


「アッハッハッハ!なるほど!せやなあ。ウチはあんたの言う通り、銃や刃物はおろかライターすら持ってへんわ。ついでにエアガンもペーパーナイフも持ってへん。携帯と家の鍵しか持ってへん丸腰………着の身着のままやなあ」


「じゃあ………………」


「まあ聞きぃや。プロレスラーとかがよう言うやろ?ほら、俺は人間凶器だーとかなんやら言うとるやん。ボクサーはこぶしが凶器なんて話もあるし、それとおんなじや」


「格闘技ってこと………?」


「あーちゃうちゃう。ボクサーんとこやなくてプロレスラーのほうな。ほんでプロレスラーなんですかーとか言いなや?ほんまに言葉通りに受け取ってええから………………百聞は一見にしかずやね。見とき」


そう言うと女はそばにある街灯に手を付き、ニヤリと笑みを浮かべた。


「言っとくけどこれはウチの本領とちゃうで。ウチと同じ人種のヤツなら標準装備や」


女が、ちょうど手のひらの運動をするようにギュッと街灯の支柱に触れる手に力を加えると………………


「コヨミ憑きっちゅう人種のな」


支柱はバギン!と金属が潰れる怪音を伴い、女に触れられていた箇所はまるで紙コップを握り潰したように変形して、その部位から折れてしまいそのまま植え込みに倒れこんでいく。


「………………!!」

「あぁ………………?」


織枝は絶句し、光は当惑の声を上げた。折れた。街灯が折れた。女の細腕一本で、まるでひまわりを手折るように折られてしまった。

光も、織枝も、未だかつて遭遇したことのない現実に圧倒されていた。


「とまあこのスペックでアンタらを殺すわけやな。人生最後のコミュニケーション取る相手やからウチの顔よう覚えときや………………あ、自己紹介まだやったなそういえば。あいさつしとこか」


「ウチは緋乃塚燈子(ひのつかとうこ)………………そこの冴えないボク、君や。君。郡原光くんを殺しに来たんやけど、アンタも現場にいたから一緒に死んでもらうわ。恨まんといてな美人のおねーちゃん」

終わり!終わり!いやまだ続きますけどね。推敲やらなんやら重ねてたらいつの間にかすげえ間が空いたんですよ。っていうか織枝のキャラがわかりづらい。美人系?それともかわいい系?あと性格もなんか掴みづらい。なんなんだこいつってな感じで言葉選んでたらめっちゃ空いたんですよ。


サブタイトルの「歪んだ淑女のメロディが」は燈子のコヨミにまつわるもので、とあるバンドのとある曲のワンフレーズをちょっと手を加えて取ったものです。というか、取ったつもりでした。


つもりというのは………………まあその………………………

歌詞を間違えて覚えていたというか………………

次回に何の曲か書きますので、三ヶ月か四ヶ月くらいしたらまた読んでください。


………………………えっ何?ニンジャスレイヤーの宣伝?今回はしませんよ?そんな毎回毎回やってられませんよ。

やだなあどんだけニンジャスレイヤー好きなんですかあなた。僕も好きですけどね。物理書籍買いました?えっ?買ってない?ははは、電子書籍版の物理書籍もありますからKindleなんかでお買い求めることを推奨します。ははは。

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