ディセント・ソウル・オン・ディーセント・ライフ
ドーモドーモ。小説家になろうで初投稿となります。岡田レイと申します。
ええ、初投稿です。初投稿ですがね、パクりです。言っておきます。この作品はニンジャスレイヤーを往年のラノベ風にパクりました。ええ、僕は初投稿の作品でパクりを行いました。サブタイトルもちょっと忍殺意識してます。そんだけです。
「なぜ日々を怠惰に過ごす、現代人達よ」
大阪のとある駅前にあるファーストフード店の二階の窓際の席から、彼は普通は使わないような芝居じみた口調で、自嘲めいてひとりごちた。つぶやいた言葉は店内の会話と外から聞こえてくるクラクションにかき消され、聞こえなくなった。
しかし、彼には道行く人々に偉そうに説教をできるほど立派な人間ではない。なぜなら彼もまた現代人。統一化され、真似し合って生きることしか人生のノウハウを知らない日本の半数以上を占める人種の一人だからだ。
彼の名は………………いや、語るまい。彼のような人間のことをいちいち事細かに説明しては、その他大多数の人々のことも語らねばならない。
彼の外見は平均的なのだ。髪と眼は黒く、身長は高くもなく低くもない。いわゆる中肉中背………………なんなら読者のあなたと同じかもしれない。これで無気力ならばライトノベルの主人公なのだが、完全に無気力ではなかった。幸せになりたいと考えているし、出来るものなら成功したいとも思っている。だからこそああして怠惰な現代人を憂いたわけだ。
21世紀は前半を終えてついに後半へと差し掛かった。東京オリンピックは済んだし、昭和のテレビを支えたあのお笑い芸人は最近寿命を迎えた。コミックマーケットはまだまだ続いている。某国民的漫画は劇的な最終回を迎えた。それらの影では多くの人々が汗を流し、様々な熱い思いが乱気流のようにうずまき、達成感や喪失感となって当事者の身に叩き込まれたことだろう。
しかし、誰もがなんとなく予感していた。
「21世紀の前半途中から、歴史に名を残すような人はもう出てこないのでは?」
実際そうであった。社会科の教科書にはいつまでも同じ人物ばかり書かれており、ただこの時期に何が作られた、何の政策が行われた、という情報ばかり増えてゆく。
多くの人々が努力をしている。しかし、それは歴史に残らない。なぜか?既存の努力だからだ。有名な大学に入る。良い会社に入る。残らないのも当然だ。みんながやっていることをいちいち取り上げて称賛するほうがおかしい。
前人未到。最後にその言葉を浴びた人物が現れたのはもういつのことだったか。
史上において、彼らの成し遂げた功績とそのための努力に比べればレールの上でもがいている有象無象の努力など怠惰と呼んでもいい。ゆえに、冒頭の言葉であった。
もっとも、彼はその努力をバカに出来るほど努力をしたわけでもないのだが………………
彼は母の薦めで奈良からわざわざ大阪まで来て英会話を学んでいた。講師とはこの駅の近くのファミリーレストランで落ち合う予定なのだが今日は気分が乗らず、中止の旨を講師にメールで伝えた後こうしてブラブラしているのだ。彼が今飲み食いしている金は母から受講料として渡されている金を使ったもの。良識ある人であれば眉をしかめるような最低な行いだ。彼に他人を批判する権利はどこにもないだろう。
(………………あー、クッソ。最低、最悪のクソ。クソクソクソクソ。マジでクソだよ………………)
自分の髪を片手でぐしゃと掴みながら目の前の空のコップと包み紙から目をそらす。彼は最低であったが、罪悪感は持ち合わせていた。それを意識することで自分が許されるような気がしたのだ。
(なんで俺は最低なんだ?死んじまえ。クソッ)
彼はおもむろにトレーを片付け、店を後にした。日はもう沈んだが、駅前では上司部下同僚と並んで歩いているサラリーマンから髪をめちゃくちゃな色に染めた軽薄な男女までが騒ぎながら笑顔で通り過ぎてゆく。今日は金曜日なのだ。5日間の仕事や学業から解放された日。花金というやつだ。道行く人々の9割はストレスを感じさせない笑顔。残りの1割は?それは今こうして自責の念に駆られている彼のような、自分に開き直れない不器用な人々だ。
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(結局何するでもなく………………か)
結局彼は自己嫌悪に苛まれながら、先程の店から歩いて二十分ほどの、人通りの少ない路地まで逃げるように歩いてきた。
そこには駅前のように飲食店が建ち並ぶわけでもなく、民家が何の魅力も醸さずに敷き詰められている。散歩道にしても今は夜。ここを通る価値はあるまい。
果たして彼は何を思ってこの道を歩いているのか。どこへ行こうと言うのか。
きっと、どこにも行きたくないのだろう。そしてどこにも居たくないのだろう。
そんな矛盾した、彼自身でさえ説明できない意識が彼を導いたのか。それとも本当にただの偶然か。彼はどこかの墓地にいた。どこかの寺だろう。
内心ぎょっとしたが、自棄めいた心境にある彼は別に祟り殺されてもいいやと引き返さずにそのまま墓地内を歩き回ることにした。
自分や同級生と同じ苗字の墓はあるだろうか。かっこよかったり珍しかったりする苗字はあるだろうか。墓石を携帯電話のライトで照らしながら、別段楽しんだりすることなく彼は墓石を見て回っていた。小学校低学年ぐらいならば楽しみを見出せるかもしれないが、彼はもう高校生だ。もっとも彼自身、自分が高校生にふさわしい学力を持っているとは思っていない。
(………勉強サボって俺は何やってんだろ)
何度目になるかわからない自虐を心の中でつぶやき、彼は墓を照らすのをやめてひたすら歩き続けた。そういつまでも歩けるほど広いわけでもないが、
とにかく歩き続けた。
そして歩きながらひたすら無意識の自己嫌悪に心を浸し続ける彼の目の前に、ピラミッドのように積み重ねられた縦長の石の山が現れた。無縁仏だ。
身寄りのない人、供養する親族や遺族がいなくなってしまった人の墓だ。昔に祖母からそう聞いた彼はひどく哀れんだものだ。あまりのいたたまれなさに、幼い彼は具体的な内容のない、とにかく良くありますようにと手を合わせて祈りを捧げた。
今の彼は、退廃的な未来の象徴としてそれを見ていた。
努力もせず、人付き合いも嫌う。そんな自分が将来この石山の一つにならないと断言できようか?彼はある種のシンパシーを感じていた。決して友好的なものではない、例えるなら自分より劣った人間を見て安心するような…もっとも彼の場合は自分と同等のものを見て安心していると言った感じだ。駄目なのは自分だけじゃないと。
彼がそう感じた瞬間、背筋に何か熱いものを感じた。夜の墓地とくればヒヤリとするものなのでは?と思うかもしれないが、とにかく熱いものを感じたのだ。弱々しい炎の筆で撫でたような、背骨に沿って煮えたぎった熱湯をスプーン一杯だけ垂らしたような……………
「…………?」
妙に思い、背中に手を回すが何もない。気のせいだろうか?リンパや血の流れが一瞬速くなったのだろうか?
(………………………気味が悪いな。そろそろここ出よう。今のちょっと怖いし)
彼は無縁仏の石山に向き直ると、音を立てずに拍手してから手を合わせて念じた。
(本日はどうもお邪魔しました…………厚かましい願いでありますが、私めに同情を感じられたのであれば、何の努力もせず、何の辛抱もしない私をどうか同じ穴のムジナと思って、その縁でお守りください)
彼自身、冗談めかして念じた文句だ。本気でそうは思っていないだろう。そんな都合のいい話があるわけないし、そもそも彼は神や仏が人の想いに応えると思っていない。何の意味もない、戯れ程度の祈りであった。
しかし、『受け取る側』はそんな意図など酌めぬ。
『同じ穴……だと?』
「へぇっ?」
突如聞こえた声に、間の抜けた声が出る。
『私とお前を………同じ穴のムジナだと!?』
「えっ…えっ、えっ?えええっ?えっ?」
『ふざけるなよ………』
声が止んだ。怨念と憎悪が複雑怪奇に織り混ざった禍々しい声。なんだったのだろう?幻聴?今まで幻聴というものを感じたことがないのでわからなかったが、あんなにはっきり聞こえるものなのだろうか……………
『ふざけるなああああああああああっ!!』
困惑する彼の脳内に、全身に、不意打ちのように先ほどの声がより強烈な怒りを伴って響き渡る。同時に先ほどの熱が再び……いや、それ以上の高熱。弱々しい炎の筆は全身を包み込む業火のように彼の表皮を苛んだ。スプーン一杯の熱湯はドラム缶いっぱいのマグマのようなどろりとした熱となり、彼の体内に満ちていく。
彼は悲鳴を上げなかった。上げれなかった。体感したことのない苦痛に体は反射的な行動もとれず、地面に背中から倒れて無心でもがくばかりであった。
「熱い」「苦しい」「死んでしまう」
言語化できない脳の原始的な信号すら、さらに襲い来る圧倒的な熱と苦痛に塗りつぶされていく。
彼の感じる熱は炎や溶岩によるものではない。彼が熱いと感じているだけだ。その証拠に彼の体にやけどによる皮膚の損傷は見られない。彼がもしこのまま息絶えようものなら、死因は何になるのか。ショック死?何の?警察は混乱することだろう。住職は内心迷惑がりながら、切ない表情を浮かべるだろう。
果たしてこの責め苦はどれだけ続いただろう?一分?五分?十分?彼に聞いてもわからないだろう。今の彼は自分が誰なのか。どこにいるのか。今が何時なのか。家がどこなのか。そもそも自分が生きていると認識出来ているのだろうか?灼熱にあえぎ続ける間、彼はただ苦痛を与えられるだけの何かであった。
そして、幾分とも知れぬ苦痛はようやく終わりを迎え、向こう二、三回分の人生の苦痛を前借りしたような地獄から解放された彼は少しずつ自分を思い出していく。
自分は郡原光。人間。男。奈良に住んでいる。16歳。今の時刻は……わからない。携帯を見ればわかるか。そして………
「今の何だよ…………」
今しがた自分を襲っていた苦痛を思い出し、慄いた。今は何ともない。先ほどまでの熱は嘘のように消えてなくなり、むしろ夜風が少し寒いぐらいだった。
あの声は誰の声だ?あの地獄のようなひと時はあの声の主がもたらした物なのか?そもそも……そもそも……
そこから先を彼に考察することは出来なかった。人は、本当に不可解なことに遭遇するとこうも何も出来なくなるものなのか。と光は困惑した。
(………………もう帰ろう)
光はなんとも言えぬ気持ちのまま、そそくさと墓地をあとにした。考えてもわからない。何かの病気だろうか?もしそうだったら両親になんて言おう………………?
ぐるぐるとそんなことを悩みながら、光は駅へと向かった………
ここで、なぜ今になって急に彼の名を描写したのか?ということを明かしておこう。
なぜなら彼はもう“普通”ではなくなったからだ。今や彼は特筆すべき存在、その身に自らのもの以外にもう一つの魂を宿す人々………………………
彼らの名乗るところの、コヨミ憑きという存在に。
彼はまだ、その自覚を持っていない。
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「おかしいだろ………………」
件の金曜日から二日後、日曜日の夜十時に光は自室の勉強机に肘をつき、机の上に散乱する本を凝視していた。
親が買ってきてから一度も使いもしなかった参考書。ページにシワをつけて遊ぶしか使いようのなかった教科書。気が向いたときに黒板をそのまま書き写すだけのノート………………それらが机の上に本来の用途のために使われている………………
つまり、彼は勉強しているのだ。
勉強するだけで何を大袈裟な………とお思いになるかもしれないが、彼は重度の勉強嫌いであるにもかかわらず、今は勉強に何のストレスも感じていない。どころか喜ばしいものさえ感じていた。わからないところがあれば過去の単元を読み返し、それでもわからなければネットのわかりやすく解説している記事を自分なりにまとめてノートに写す………………彼にとってこんなことはかつてないことだった。
きのう、おとといは普段通り何もしなかったのだが、今日ゲームセンターから家に帰ってすぐに彼はまっすぐ机に向かい、鞄から教科書とノートを出して予習復習に打ち込んでいた。
今は勉強の手を止めて先ほどのセリフと似たような文句をつぶやいているが、こうしている間も彼は勉強の衝動に突き動かされている。これが金曜の夜から二日続いている。二日間勉強がしたいと感じても意地でも手を付けなかったことは彼の勉強嫌いのほどをあらわすにあたって特筆すべき事項であろう。もっとも日曜夜の今、ついに内なる衝動に負けて机に向かっているわけだが…………
(勉強なんてしたことないし、しようとも思わなかったし、したくもなかった。なんだこれ。なんでこんな………………)
今までの自分が自分でないような強烈な違和感。それが何とも不愉快なようで心地よいようで………………
ややこしい話になるが、彼は今”勉強がしたい!“と思っているわけではない。”勉強をしなければ“と思っているのだ。
たとえば、あなたが綺麗好きで「今日ぐらい風呂入らなくてもいいや」などと言って着替えだけして寝床につくようなやからが信じられないほど不潔で下劣で最低だと思っているとしよう。もしそうなら、あなたは風呂に毎日入りたいと思うだろう。
では、あなたはなぜ風呂に入るのか?つまり、あなたは”清潔を保ちたい“から風呂に入るのであって、“風呂に入りたいから”風呂に入るのではないだろう。
それと同じで、彼は”勉強がしたいから“勉強をしているのではなく、”何かの理由“が彼に勉強をしないことに強烈な嫌悪感を感じさせているのだ。
では実際何が理由なのか?それがわからないから彼は戸惑っているのだ。
「まぁ、やらずに寝て成績下げるのに比べりゃいいんだろうけど………………」
こうして考えている時間すらも惜しく感じる。この時間も勉強に回さねば。自分の思考から独立して存在する謎の声が自分にそう告げているように感じた。
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「おかしいだろ………………」
先ほどから九時間後、月曜の朝七時に光は自室の窓に手をつき、人気の少ない道路を凝視していた。
昨夜に光は深夜の三時まで勉強を止めることが出来ず、風呂に入って上がる頃には三時十五分。家が学校に近いので八時には家を出れば間に合うが、余裕を持って朝の支度をするなら七時に起きなければならない。即座に寝たとしても睡眠時間は三時間四十五分。起きれなければ遅刻、起きれても寝起きは最悪、授業中は居眠り必至だ。しかも寝付くまでの現実的な時間を考えれば睡眠時間は三時間半程度か。
だが七時ジャスト………………いや、目覚まし時計が鳴る三分前に起きた光の体調は最高だった。眠気も疲れもまったく感じない。その上学校が全く憂鬱に感じない。どころか喜ばしくもあった。その喜びは、昨夜の勉強に夢中になっていた自分が感じた、思考と独立した何かの発するものと似ていた。
光は目覚まし時計を見やる。デジタル式の電波時計には“07:01”と表示されていた。アラームが鳴る前にスイッチを切ったため、七時を過ぎても時計は静かなままだった。
「………………………まあ、別になんか被害こうむったわけじゃないし」
「そう………そうだよ。こんな日もたまにはあるわな。ひょっとしてショートスリーパーとかいうアレにでもなったのかも。結構なことじゃんかよ………………」
光は自己暗示のように納得し、うんうんとうなずきながら部屋を出た。久々にスッと起きれたんだ。朝御飯をゆっくり食べてみよう………………そんなことを考えながら。
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「………………やっぱおかしいよな?」
時間の説明は省く。放課後とだけ言っておこう。
光は学校の個室トイレに座りながら今日一日を思い返していた。
前日の勉強ラッシュで脳が勉強に慣れているのか、それとも短時間睡眠が何か良い影響を及ぼしているのか。今日はいつもより遥かに勉強が頭に入ってきた。先生の話と黒板の内容を理解し、もてあましていた色ペンをフル活用して見やすいノートを作れた。普段は不器用な自分にどうしてあんなことが出来たのだろう?
これに留まらず、体育の時間でも似たようなことが起きていた。別にスーパーマンのような超人的な身体能力を手に入れていたわけではない。今日は一度も「息切れ」を起こさなかったのだ。
今日はクラスの誰かのチャラけた態度が体育教師の逆鱗に触れたらしく、一限丸々マラソンという事態になってしまった。体力がない上にペース配分が苦手な光は肺が潰れるような疲労を覚悟していたのだが、今日はまったくその気配が無かった。後半になっても汗一つかかず、調子に乗ってちょっとペースを上げてみても(こういうところが彼の要領の悪いところだ)何ら問題なく、一着とはいかなかったが完走しても息が上がったりすることはまったく無かった。
一応、周りがゼーハー言っているのを見て自分だけ………というのは変に見られると思いしんどそうなフリをしてはいたが。
そして放課後、気持ちやらなんやら色々なものを整理するためにトイレにこもって今日一日を思い返していたのだ。
(………………あれがきっかけなのかな)
光は金曜日の出来事を思い出していた。自身に振りかかったあの壮絶な苦痛。壮絶すぎてもはや本当にあったことかどうか覚えていないぐらいだ。
(いや、だとしてもなんであんな目に遭ってこうなるんだ?ショックで脳になんかあったのかも………………)
光は適当な仮説を立てた。しかし立てたからといってどうなる?それが正しいかどうかなどわからない………………結局、無意味に頭を使うだけだ。
(………………まあ、悪いことはないからいいけど。ほっといて大丈夫か。じゃあ)
その時。光が思考を放棄し、結果オーライで結論を出そうとしたその時。
『………………知りたいの?』
光の意識が切り替わる。日常の弛緩した意識から、猛烈な苦痛を受け入れるときの慄然とした意識に。あのときの体内に溶岩を満たされたような苦痛を思い出した。なぜ?
今聞こえた声。穏やかだが、どこか影を感じさせる若い女性の声。
光はその声が“あのときの声”と同じに聞こえた。無縁仏の前で、自分の背中を炎の筆で撫でたあの声と。
「………………誰ですか?」
質問から二拍三拍置いてようやく光は声を絞り出した。未知に対する警戒心をこめた声だ。
『警戒しないで?だいたい逃げようにもあなたは絶対に逃げられないから………………………ごめんなさい。この言い方だと余計警戒しちゃうよね』
「………………………」
ぐ、と光の喉で息が詰まる。どういうことだ。男子トイレに入ってくる女………痴女か?どう逃げたものか。
『あの………………そういうのじゃないのよ。どこ探しても私いないから』
「は?」
『うん………耳塞いでみて?そしたら私の声よく聞いてね?』
「………………」
光は何か疑ることもせず、言われた通りに耳を塞いだ。何やら女性のペースだ。
『………………塞いだね。聞こえるでしょ?耳塞いでても声くぐもったりしてないでしょ?』
「あ………………はぁ………………」
『頭の中で話してるのよ。テレパシーとかじゃなくて、頭の中にいるの』
「そう………………なんですか」
通常、このような体験をすれば絶叫とまではいかずともそれなりに狼狽することだろう。が、不思議と光は大きなリアクションを見せなかった。それがあまりにも平然と訪れたことで、さして驚けないのだ。
『驚かないんだ………………慌てられても困るけど。でもちょっと予測はしてたでしょ?』
「まあ……………予測というかなんというか」
『あ、それとね。私との会話は口に出さなくてもいいのよ。今は外に誰もいないみたいだけど、もし誰かに聞かれてたら変な人に思われちゃう』
「念じるだけでいいんですか?」
『そう………………出来ればその言葉も頭の中で思って欲しいな。口に出して会話するより思念で会話する方が何倍も早いのよ』
そういうものか。と思った。確かに喋るという行為は簡単そうに見える。だが、頭の中で文章を組み立ててからそれを口に出すという、結構手間を食うものなのだ。だから頭の中で思ったことを伝え合うほうが手っ取り早いのかもしれない。
(じゃあ、これでいいんですかね。聞こえます?)
『………………………』
(………………もしもし?)
『………………………?』
(郡原光!郡原光!郡原光!郡原光!郡原光!郡原光!)
『ん?何?どうしたの?』
(聞こえてました?)
『えっ?何なの………………?』
「あっ、えー………やっぱり口で話しますね」
『………………ごめんなさい。ちょっと待っててね』
返事がなかったので、念が弱いのかと案じ自分の名前を強く念じたところようやく反応が返ってきた。
(ひょっとして俺の意思が弱いからとかそんな理由で念が弱いのか………………?)
光がまたしても答えのない思案をしていると、数十秒の間何も喋らなかった“それ”が戻ってきた。
『フゥーム………………お主、頭の中で結構ゴチャゴチャ考えとるようだの』
今度は仙人めいた男の老人の声だった。何やらアドバイスを仰げそうな、そんな頼りがいのある雰囲気の声だったが、やはりどこかに影を感じる。
そしてこの声も、光は“あの時の声”と同じ存在であるとはっきり認識した。
「や、そうでもないですよ」
『事実そうだから仕方あるまいよ。こうも思念がごちゃついてると話もロクにできん。今夜は早く寝ろ。夢の中で話す』
「夢?」
『そうだ。とにかく早く寝ろ。いいな』
先程の女性の声に比べて、この声はやや不親切なところがあるようだ。
(………………なんか同じやつな気がするけど、性格がこうも違うとなぁ。やっぱ別人?でもなんか………………)
「うーん………………」
考えても考えても、答えは出ない。
――――――――――――――――――――――――
「どうも。おはよう………………は違うかな。今寝てるわけだし。おやすみも違うよね………………まぁとにかく、夢の中に失礼しますって感じかな」
「はぁ………………」
気が付くと光は真っ白い部屋で、あぐらをかきながら話をしていた。
あの後家に帰ってから言われた通りに10時には布団に入り、妙な緊張があったものの問題なく寝付けた。
通常、一度眠れば次に意識を持つのは起きてからだが今はどうやら眠りながら意識を持っているようだ。なんとなく起きようと思えば起きれそうな感覚はある。
「まあ、挨拶はここらへんにしとこうかな。まずは………………今後君の安寧は保証されないと思ってくれ」
気さくで穏やかな印象を受ける青年の声の“それ”はいきなり危なっかしい文句を投げてきた。脳内に響く声ではない。目の前で話している。
とはいえこの声にもやはり影の射すところがあったので、そういったセリフは似合うと言えば似合った。
「それはまた………………どうして?」
「君は殺し合いに巻き込まれるはずだ。かなりの高確率で」
「はァ?」
「あぁ、そういう反応になるとは思ってたよ。いいかな?まず君には“コヨミ”の存在を教えよう」
「暦ぃ?」
馬鹿にしてるのか、といった感じで光が問い返す。
「勉強不足とはいえ流石に暦ぐらいは知ってるよ。明治より前の年号は言えないけど」
「あはは、お約束みたいな反応だね。そのままの意味のコヨミではないんだよ」
それと明治の前は慶応だよ。と付け足して話を続けた。
「いいかな。コヨミというのはいわゆる偉人………………歴史に名を残した人の魂のことを言うんだ」
「エジソンやニュートンなんかの科学者から徳川家康や織田信長みたいな武将。彼らの魂は大きく、強かった。それゆえに消えることなくいつまでも存在し続けた」
「だから魂のまま、あの世………………天国かどうかは知らないけど、そこから今君たちが生きている世界を眺め続けている。何か面白いことはないかと偉そうにね」
影と優しさの織り混ざった声に、新たに怒りのような感情が混ざった。光は声のトーンから読み取ったわけでもなく、ただ自分の気持ちの変化を感じ取るように怒りを抱いていることを理解できた。
「で、今現在………………彼らにとって世界中で特に日本がぶっちぎりで面白くないらしい。なんの変化も革新もない。時代を動かし続けてきた彼らにはそれが見てるだけでも耐えられないんだろうね」
「そういった理由があって、だいたい………………13年ぐらい前からコヨミ達が大量に日本に押し寄せてる。任せられない。俺たちが代わりに日本を変えるってね」
「13年も昔から………………ん?偉人達が現代に甦るって………いいことなのでは?」
「全然。甦っているのは偉人の魂だけ。それもかなり屈折した形での復活だ」
「屈折?」
話の進展を予感した光があぐらの足を組み替えると、少し声のトーンが重くなって話が続いた。
「面倒なことに、コヨミ達はそのまま現世に降臨するのではなく現代の人間を依り代に選んで降臨している………………端的に言えば憑依だね。コヨミが憑依した人間のことを“コヨミ憑き”と呼ぶんだ」
「さらに憑依の際にコヨミたちはその記憶を憑依者にほぼ残さない。残すのは………………」
――――――――――――――――――――
翌朝、光はベッドの上で上体を起こしながら呆けていた。昨晩自分の見た夢がイマイチ思い出せないが、“あいつ”から突拍子もない話を聞いたような夢だった。とは覚えている。
「んんあァー………………なんだっけな。よく覚えてないけど、結局あいつ夢には出たんだよな?なんかコヨミがどうとか話してたのは覚えてるけどもその他が……………………………ひょっとして要点らしい要点全然聞けてない?」
「………………………あれ、あいつの顔どんなだっけ?顔まで覚えてないのかよ俺」
早く寝た意味なかったな。と付け足して目覚ましが鳴る二時間前に起きた光は相変わらず体調がいいことを自覚しながら部屋を出た。昨日に比べると十分に睡眠をとったので、寝不足ということはないだろうが………………
「流石にお母さんまだ寝てるよなあ………………適当に朝飯食っちゃお」
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「……………………件のコヨミ憑きの家を見つけました。住所、家の外観をメールで送ります」
朝の澄んだ空気の中で、柴犬を連れたジャージ姿の男が携帯電話を片手に一軒家を遠巻きに眺めていた。体は細くもないが太くもない。しかし背は高く、180センチあるのは間違いないだろう。
髪は整えられていない上に無精髭も生やしているが、これは彼がだらしない性格だからではない。彼は意図的にこの風貌を作っているのだ。
「はい。憑依は最低でも一週間以内に起きたものと思われます。コヨミの力を使って何かしら悪事を働いたかは不明。他のコヨミ憑きとの交戦は経験していない可能性が高いです」
「憑依したコヨミは不明です。現在コヨミの痕跡しか追えていないので、細かい情報はわかりません。近くで会えばわかるかと………」
「………………はい。はい。今日中にはスカウトします。はい。了解です。はい」
男は通話を切ると、立ちっぱなしで散歩の再開を待つ柴犬の頭をくすぐるように撫でた。
「高校生のコヨミ憑きか………………きちんと聞き分けてくれればいいんだけどもね………………聞き分けてくれないと、彼は血を見ることになる」
男のつぶやきは意に介さず、柴犬は目を細めて頭部への心地よい刺激を堪能している。男は続けざまにつぶやいた。
「まったく、こういうのは俺の得意分野じゃないんですよ………………むしろ苦手なくらいだ。なあサリバン先生。アンタ代わりにやってくんない?」
男の………………押江仁門の内なる魂に向けたつぶやきには誰も返事を返さなかった。
はい第一話終わりです。いやあ、しょーもない描写ばっかして肝心なとこなんも書けてないしなんか前知識無しだと何書いてんのこいつってなるような唐突さで情報出してるしでうまくいきませんね。書いてる側だと全部知ってるのでこんなんでいいかな。って思うんですけど改めて読み直すともーひどいひどい。あらすじ無かったらチラ裏ですよこれ。言い換えればあらすじのあるチラ裏ですよ。
まえがきで書いたとおり、「ニンジャスレイヤー」をめちゃくちゃパクってます。ニンジャスレイヤーをご存じない人にわかりやすく説明すると、「ニンジャスレイヤー」では千年以上前に死んだニンジャ達の魂が現代日本に甦って人々の体に取り憑き、憑依者に強い力と能力を与えるという設定があります。
はい。ここです。ここパクりました。ニンジャを偉人に変えただけです。今後の展開や構成もニンジャスレイヤーを大きくパクったものになります。
繰り返しますがこれはパクリなのでニンジャスレイヤーよりつまらなくなることはあっても面白くなることはありません。もしあなたが面白く感じたのならそれは私が劣化させずにパクれたということです。
仮に多くの人が「ここ面白い!」と同じ意見を出したとしても全体で大きくムラがあると思うので、全体がムラなくきちんと面白いニンジャスレイヤー読んだ方が面白いです。っていうかこんなもんと比較するまでもなくニンジャスレイヤーは面白いです。読みましょう。タダで読めます。
そんな感じで、次回からはあとがきではニンジャスレイヤーの販促を行います。みんなもニンジャしようぜ!