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俺が主人公だったのは過去の話  作者: 無頼音等
フリーターのお仕事編
9/19

アーサーちゃんと遊ぼう! 後編

魔物は倒されると魔石を残して消滅します。

 この世界には魔獣と呼ばれる生物が存在する。

 言ってみれば、魔物と動物の中間みたいな生き物だ。

 魔物特有の凶暴な運動能力を持ち、動物のように死んでも消滅することはない。しかもその存在は極めてレアで、一部の道楽には大金を叩いてでも手に入れようとする奴がいるらしい。


 「きゃうん、きゃうん、きゃうん、きゃうん!」

 「アーサーちゃんが喜んでいますわ! やっぱり私の目に狂いは無かったようですわね!」

 「……あの、一応説明してくれませんか? どうもあの依頼書だけじゃ詳しい内容まで分からなくて」


 まさか“アーサーちゃん”が魔獣だったとは。……こんなの、依頼書の何処にも書いてなかったじゃないか! だから契約破棄して問題ないよなぁ!?

 因みにさっき【鑑定】を使ってみたら、アーサーちゃんのレベルが135だと表示された。これはもう第一級冒険者じゃないと手に負えないレベルである。

 というか種族名が『弩級プードル』って……新手の戦艦かよ。

 俺は目の前にいる体長三メートル以上の子犬(・・)を見上げながら乾いた笑みを浮かべた。







 「アーサーちゃんは迷宮の近くに倒れていたところをうちの主人が保護しましたの」


 キャメロット夫人曰く、最初はアーサーちゃんも普通の犬と同じ大きさだったらしい。しかし一日過ぎるごとにどんどん大きくなっていき、一ヵ月後には現在の大きさになったのだとか。

 それ以降、体の成長は止まったものの、誰もアーサーちゃんと満足に触れ合うことが出来なかった。

 そして先日、死ぬ気でアーサーちゃんの遊び相手になってくれた執事がとうとう不幸な事故(・・・・・)で大怪我をしたそうだ。


 「……で、急遽アーサーちゃんの遊び相手を探すことになってしまったと?」

 「そうなのですわ。しかし、誰も相手にしてくださらなくて、私イライラしていましたの。あの精霊さんにちょっかいを出したのも、恥ずかしながらただの八つ当たりですわ」

 「それで、何で俺にこの仕事を依頼してきたんですかね?」

 「決まっていますわ。貴方から強さを感じましたもの!」

 「……は?」

 「私は今も覚えていますわよ。貴方のバックドロップを! あの目にも止まらぬ移動速度! 流れるような洗練された動き! 少女相手に躊躇しない容赦のなさ! それら全てがアーサーちゃんを満足させる為に十分過ぎるスペックだと直感したのですわ!」


 キャメロット夫人は自分の拳を硬く握り締め、そんな感じで力説してくれた。

 ……いや、知らんがな。もういっそのこと、あんたが遊び相手になっちまえばいいじゃないか。

 そう思ったが、依頼を受諾した手前そんなことは言えなかった。というか、もうそろそろアーサーちゃんがヤバイことになりそうだ。ここでダラダラ会話している暇は無い。


 「ガルルウルルルルルウウルルウルルルルウルル!」

 「あのワンちゃん、ちょっと鳴き声おかしくありません?」

 「アーサーちゃんはここのところ満足に遊べていませんの。ですから相当なストレスを抱えているのですわね。……では、あとはお任せしますので」

 「ちょ、おい!?」


 キャメロット夫人は優雅に歩いているのに、尋常じゃない速度を出して早々にこの場から姿を消した。


 「ガルルルルルルウルルルルルルル!」

 「……マジかよ」


 そして俺と一匹の魔獣だけが取り残された。

 この状況は非常にヤバイ。こっちも攻撃できるんならそんなに苦労することもないが、防戦一方でこの犬の相手をするとなると本当にヤバイ。

 下手したら大怪我したっていう執事と同じ末路を辿ることになる。正真正銘命懸けだ。


 「へッへッへッ!」

 「ちょ、待て待て! こっちくんな!」

 「きゃうん、きゃうん、わんわんわんわんわんわん!」

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 こうして俺は、アーサーちゃんが疲れて眠るまで命懸けの鬼ごっこを続けるのだった。




*****




 夕暮れの中、気持ち良さそうに眠っているアーサーの傍でキャメロット夫人は微笑んでいた。


 「今日は思いっきり遊べたのね。……良かった」


 アーサーは極度の寂しがりやで、一人では満足に遊ぶことも出来ない。

 しかし、これまで雇っていた執事達は全員アーサーの巨体に手をこまねいていた。

 突進されて吹き飛ばされたり、手で叩かれて吹き飛ばされたり、くしゃみの風圧で吹き飛ばされたり。

 とにかく、アーサーを満足に遊ばせることが出来なかったのだ。


 「確か、ケイスケ・ハオリと言っていたわね」


 ところが、今日は違った。

 今朝にたまたま出会っただけの少年。彼からはとても噂通りの臆病者とは思えないほどの強さを感じた。

 キャメロット夫人は、そんな彼に可能性を見出したのだ。

 この少年ならアーサーを満足させることができるのではないか。そんな期待を抱いたのである。そして、その期待に彼は応えてみせた。


 「……恩返しをする必要がありますわ」

 「きゅーん」

 「あら、起きたのですか? ふふ。今日は楽しかったでしょう?」

 「わん!」

 「安心なさい。今度から定期的に彼が来てくれるでしょうから」

 「わんわん!」


 この日、一人と一匹はとある黒髪の少年に感謝した。




*****




 「ケイスケぇええええええええええええええええええええええええええええ!」

 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 同時刻、ギルドで再会を果たしたメリーはケイスケに向かって突撃した。

 一人で迷宮を探索した時も、魔物を惨殺していく時も、ずっとケイスケのことを想っていたメリー。彼女はもうケイスケに触れ合いたくて仕方がなかった。

 ところが、ケイスケはまるで化け物でも見るかのようにメリーを恐れ、強化系スキルを使ってまでギルドから逃亡し始めた。


 「犬が! 犬が! 襲ってくるぅうううううううううううう!?」

 「ちょっと待ってよ!? 私犬じゃないよ? メリーさんだよ! 今貴方の後ろを追跡中だよ!?」

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 すっかり飛び掛ってくるものにトラウマを持ってしまったケイスケ。彼はひたすら夜の都市を駆け回った。


 「ちょ、ちょっと待ってよケイスケ! お願いだから正気を保って! じゃないと、ひっく、私、泣いちゃうよ? えっぐ……ふぇ、ふえええええええええええええええええん!」


 こうしてケイスケが正気に戻るまで、泣き叫ぶメリーは彼と鬼ごっこを続けるのだった。

改めて見直してみると、酷いオチでしたw

頑張れメリー……。

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