受付嬢とお邪魔虫
大分遅れましたね。すみませんでした。
シェーレは満面の笑みを浮かべながら鏡に映る自分を眺めていた。
「うふふ……完璧!」
身に纏う純白のブラウスは、以前にケイスケが好みだと言っていたものだ。
また、シェーレもこの服が可愛いと思っていたので、やはり自分達の相性はぴったりだと言える。
そんなことを考えながら、シェーレは鏡の前でくるりと一回転してみせた。
「ケイスケ君が見たら……なんて言ってくれるのかな?」
今日はシェーレにとって数少ない休日だ。
毎日仕事で溜めていたストレスを発散させる為にも、まずは黒い羽虫を叩き潰しにいかなくてはならないだろう。
まあ、それはその気になればいつでもできる。まずはケイスケだ。彼を捕獲……保護しなければ話は進まない。
シェーレは鏡の傍に貼り付けてある写真を見て微笑んだ。
「じゃあ、行ってくるね。ケイスケ君」
そこに貼られた76人のケイスケ達は、どれもカメラに視線を向けてはいないものの、はっきりと顔の全てが映っている。
それはまるで、本人はいつ写真を取られたのかすら気付いていないようだった。
シェーレはケイスケの写真の一つにキスをすると、頬を赤めながら部屋の外へと出て行く。
そして、「行ってきます」と玄関前に貼り付けられた397枚の写真に挨拶をして、今度こそ外出するのであった。
*****
「ケイスケ。今日はお仕事お休みなんだよね?」
朝っぱらからメリーがそんなことを言ってくる。というかこいつ、どうやって俺の部屋に入ってきた。
そんな俺の心情を察したかのように、メリーは片目を瞑ってこう言い放つ。
「これからは窓にも気をつけないとね?」
「OK分かった。今度からは即死級の罠を仕掛けておいてやるから安心しろ」
「ああ!? ごめんなさい! 全て嘘です!」
やたらドヤ顔をしてくるメリーにイラっとした俺は、早速目の前で作成スキルを発動させようとした。
……チッ! こいつが土下座なんてしなけりゃ、今すぐ『殺すんデス』を作成してやるところだったのに。
俺はメリーに呆れた視線を送りながら話の続きを促がした。
「……で? 俺が休日ならなんだってんだ?」
「いや、その、あの……一緒にベッドに」
「ああ?」
「すいません。嘘です。一緒にショッピングに行きたいなぁって思っただけです」
「ふーん、そっか。……買い物ねぇ」
そういえばここ最近、金欠やら仕事ラッシュやらでまともに買い物にも行ってなかったな。精々、大安売りだった野菜と果物をちょこっと買っておいただけだ。
せっかく財布の中身がパンパンになったんだし、何か買っておいても損はないだろ。
そうだな……たまには豪勢な肉でも楽しもうかね。
「分かった。今日は一緒に買い物に行こう」
「ほんと!? やたー! デートだ!」
「……やれやれ」
嬉しそうにはしゃぎやがって。……可愛いじゃねえか。絶対に言わないけど。
俺は飛び跳ねるメリーに苦笑を浮かべながら、手短に出掛ける準備を済ませた。
*****
王都ロンディアには身分の垣根が存在しない。
その為に一つの店に売られている品物は他の国に比べて圧倒的に多い。
庶民から貴族、様々な客がいつ来ても大丈夫なように、店の商品はピンからキリまで揃っているのだ。そしてそれは同時に、店内の賑やかさにも繋がっていた。
「ねえ見て! このスペクターストラップ超可愛い!」
「シオン……お前のセンス、最悪だな」
「シグマ君! これ、五目炒飯に使えそうだよ」
「おお! これは確かに美味そうな米だ!」
「はいよ! フラスン国の名物料理、エムカルゴの丸焼き! 美味しいよぉ!」
「きゃあああ、美味しそう! このエムカルゴ、焼かれてビクンビクンしてるぅ!」
「あのクオラさん、そういう発言は店内であんまりしない方がよろしいかと」
「いいか!? あと五秒後に始まるバーゲンセール! 主婦如きに絶対に負けるわけにはいかねえ! 冒険者の力を今こそ見せつけ――うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「どいたどいた! そのハイポーションいただき!」
「へっへっへ! このキメラの羽飾りは渡さないよ!」
「なんだこのBBA共は!? 強すぎる!」
特に一箇所に色んな店が集まっている商店街では、その賑やかさも喧しいほどに騒がしくなる。
しかし、俺はそんな商店街が割りと嫌いじゃなかった。
様々なモブ達が己の存在感を発揮するこの騒然さは、見ているだけで微笑ましく思える。まあ、俺もそのモブの一人なんだけどな。
「ふおおおおおおおおおおおお! その悩殺スケスケパンツ! 私が貰ったぁああああああああ!」
「うおおおお!? 黒髪精霊が誰も買わなさそうなヤバイ下着を購入しやがった!」
「まさかあの【臆病者】の前で着るつもりじゃあ!?」
「あの野郎、今度会ったらぶっ殺す」
「「「賛成!」」」
……まあそれはともかく、さっきから不穏な台詞が聞こえるのは気のせいだろうか?
ていうか、一緒に買い物に行きたいって言ってた馬鹿は何処に消えた。向こうのバーゲンセールか? 勘弁してくれよ。俺を目の仇にしてる冒険者集団がいるじゃねーか。
フリーターと冒険者は犬猿の仲というくらい相容れない存在だ。
俺は彼等に見つからないように、こっそりと商店街から離れることにした。
メリーを置いていくことになるけど、まあ別に構わねーだろ。どうせあいつには【マーキング】があるわけだし。
「ケイスケ君……じゃなくて――ケイスケさん?」
「ん?」
一人溜息を吐いていた時、突然声を掛けられ、俺は極自然に後ろを振り返った。
「あれ? シェーレか。今日はお前も休みなのか?」
「はい! ケイスケさんもお出かけですか?」
「ああ」
俺の後ろにいたのは、やけに可愛らしい洋服を着ているシェーレだった。
純白の服と彼女の銀色の髪が、彼女に神聖さを与え、清純な雰囲気を作り出している。一瞬天使か何かだと思った。
「その服、似合ってるな」
「~~~~ッ! 本当ですか!?」
「ああ」
「そ、そんな……えへへへ。ありがとうございます!」
おお……メッチャ可愛い!
シェーレが恥ずかしそうに頬を赤くしながら笑う姿に、俺は素直にそう思った。
これだよこれ! シェーレはやっぱりこういう可愛い普通の女の子なんだよ!
ここ最近おかしな様子を見せていた彼女だけに、俺は今の彼女に心から安堵していた。
「あの……今、お一人ですよね。もし良かったら、これから二人でお買い物しませんか?」
「え? ああいや、悪い。今日はメリーと――」
「もう! ケイスケの馬鹿! ちゃんと待ってくれないと駄目じゃない! ……って、何? また私のケイスケに近付いてきたの? ストーキング受付嬢さん」
「……貴方に言われたくありませんね。この前科持ちのストーキング変態ビッチ」
「はぁああ!? 誰がビッチですって!? 私はケイスケ一筋よ!」
……ああ、そういえば前にも何度かこういう展開になったことがあったっけ。
ていうかヤバイ。またシェーレさんの目からハイライトが消えている! これは放っておいたらかなりヤバイぞ!
俺は咄嗟にメリーとシェーレの間に割って入った。
「ストップ! 一旦ちょっと待て!」
「ケイスケさんどいて! そいつ殺せない!」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ!」
「だから待てって! 落ち着けって言ってんだろうが!」
二人はヒートアップしすぎて、今にも街中でスキルをぶっ放しそうになっている。
俺は全力で二人の怒りを静めることに尽力した。
……それにしてもやっぱりおかしい。いつもならシェーレの方から引き下がってくれる筈なのに。
俺は一度、シェーレと二人で話をする必要があると思った。
他作品と同時並行に書き進めるのは辛い……。




