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たとえ自分の物でなくとも 19


「人間だから側においてもらえない」彼女はそう言って泣き続けた。

いや‥‥語弊がある。涙は流していないが、ユーノにはなんとなく泣いているような気がした。

姫について城にさえ避難できれば、相方と合流するまでの身の安全は守れると思っていたが、そんなに簡単に安全は手に入らない。城が閉鎖される、それも妃でさえ閉ざした中に受け入れないとなると、森でさえ安全ではないということだ。

どちらの王の意思かユーノには全く想像がつかなかったが、彼女を切り離すということは、それだけ『今』『この状況』が危ういということ。


「姫。ティコやレタルは?」

「知らない‥‥」

「じゃあひとりでここまで戻ってきたの?」

「途中まではシンジュと一緒で、最後は‥‥はぐれた」

「シンジュ様は外にいるのか」


予想外だった名前を聞いてユーノは驚く。赤の王の側で補佐をしている樹木の妖精が、城に篭っているのではなく外に放置されているとの事だ。

ユーノや獣たちにまみれている間に彼を残したまま城は閉じてしまったのだろうか。


「ここにいても状況が分からない。シンジュ様と合流しよう」


何も分からない姫よりも、もう少しだけでも詳しい話が聞けるのではないかと思いユーノは彼女の手を引いた。


「歩くのが辛いなら背負うけど」


少し抵抗があったため、そういえば足を痛めていたのだなと思い出す。


「大丈夫。もう歩ける」


大丈夫とは彼女は言うけれど、その表情はどう見ても大丈夫には思えなかった。





◇ ◇ ◇



ユーノが手を引いて、シンジュを捜しにいこうと提案する。

私もシンジュに会うのは賛成だったが、ユーノが手を引いた瞬間‥‥さっきの場所が頭の中に、フラッシュバックっていうのかな、わっとあふれてきた。

ユーノは関係ないのに怖いと感じてしまった。


「歩くのが辛いなら背負うけど」

「大丈夫。もう歩ける」


歩けるけど、行きたくないってわがままは認められないんだろうなと思いながら先に歩きだす。

シンジュに「お姫様はここでお留守番しようよ」って言われた場所は全く目印がなかったと思うし、あってもシンジュ自体がじっとしているとは思えない。


「ユーノ‥‥何があったの」


シンジュに会うにしてももう少し情報が必要だよね‥‥って思う。少し冷静になったと自分に言い聞かせる。


「俺はわからない。だからシンジュ様から情報が欲しい」

「シュークル達は?」


ユーノが分からないのであれば他の情報源をと知ってる名前を言ってみたが「投石のゴタゴタでバラバラになった。シュークルに関してなら無事だったら最前線で首を狩ってるよ多分」と首を振られる。

投石があったって事だけは分かる。

石が自発的に飛んでくるわけじゃないから、飛ばした相手にシュークルは‥‥向かって行ってるわけだね。多分。


とりあえず来た方向に帰ってみようかと思うが‥‥、道が全く分からない。

森の木々があるほうへ近づけば、戦いの場所から遠のけるかもしれないなぁとユーノに提案をしてみた。

進む方向を決めるのに私は権利が無い、だからユーノが行きたい方向に進むしかないわけだ。






遠くてどごん。どごんと聞いたことの無い音がして、地面が揺れる。

それはしばらく時間を置いて聞こえてくる。連続で永久に出来るわけではないらしい。

投石っていうんだから記憶の中のカタパルトを思い出す。人より大きなそれに大きな石をぶら下げて、十人ぐらいでひっぱってとばすのだ。

たしか。

だから、石なんてたくさんセットできないんだろうし、揺れてない今は準備しているんだろうなぁって。

ただ、気分が悪い。


「まって姫。ニンゲンだ」


ユーノの言葉に大きな岩に隠れる。

ちょうど人間たちは岩を挟んでかなり向こう側で何かをしているようだ。

ここかから見える人数はたった4人。

見えないところやもう少し先に何人か居るのかもしれないけど。


「逆方向に進むべきだったな」

「今から戻る?」

「戻るけど。もう少し先かな。何言ってるか分からないけどもうすぐ場所を動くみたいにみえる。今動くと逆に見つかるかもしれない」


私には全く聞こえないし見えないけどユーノはそういう。

とりあえず警戒しつつ休憩となった。

岩陰に座り込むと、治まっていた揺れがまた始まる。

振動と砂埃に胃がむかむかしてきた。

座り込むともっともっとゆらゆらするのって何。


「ユーノ。このゆらゆら何とかならないかしら」

「ゆら‥‥」


ユーノが何かに気づいたように地面に耳を当てる。


「多分このしたは穴が通っていて、余計に揺れるんだよ。崩れないといいけど」


嫌なユーノの言葉は普通に予言となった。

メキメキって地面が割れて、割けた‥‥。

危険を察知したら逃げなさいって、そんなの無理だって。

えっ。穴開いたんですけどって思った瞬間崩れたよ。あっという間にまわりは崩れ始めて落ちる。

そう、ユーノの言うとおり地下に空洞があったので、私達は地面ごとまっすぐ下に落ちた。

達っていうのは、隠れてみてた人間さんたち。

隠れていた岩っぽいやつと一緒に落っこちたわけなのでこの災害で自分達が見つかったわけではない。

浮遊感が気持ち悪いとか思ってたら、すぐ体制を保てなくて頭のほうから落ちるようにこけた。レタルからもらった毛皮がなければ首を痛めていたかもしれない。レタルサマサマだ。

真後ろにいたユーノも同じざまになってるかと思えば、さすが獣。それとなく体制を保って私の前で仁王立ち‥‥。

いや無事に立ってんなら起き上がるの助けろよ。


「ユーノ?」


すこし、ほんの少しだけいらっとしたけど、ユーノが落ちた空間の奥のほうを凝視して止まっているのが気になった。周りに聞こえないように小さな小さな声で呼びかける。

まあ、周りはそれどころじゃない。まず上に上がろうとワイワイしておられる。

結構絶壁で砂地だから掴むところなんか全然ない。向こうのほうは黒い空洞が広がっていて、何にも見えない真っ暗闇だ。やっぱり地下に穴が開いていた‥‥。あの災害で埋まらなかっただけでも幸運だ。

みんな上のほうに集中しているからこそ私とユーノのやり取りは見つかってないと思いたい。


「ケガレだ」

「けがれ?」

「いつからそこにいるか、何なのか誰にも分からないが。妖精たちはそう言う」


けがれ???


同じように暗闇を見つめてみるが、全く暗闇しか見えずユーノの顔に視線を戻す。でも、ユーノと目が合うことはない。ずっと暗闇を見ているわけだ。


「何を言っても通じない、ただ彼らは欲を満たすだけだ」

「欲って」

「大体は空腹‥‥かな」


私の手を引いて後ろに下がる。


「ほら」


ユーノの動きとともに暗闇のほうから蔦のような黒い物体が地面をはってくる。何となく嫌な気がしてその黒さから、少しずつ離れた。周りの人間たちはあまり気にしていないようで、上に這い上がれないかと、皆多用に模索中のようだ。


「正しい判断だね。ほら、彼の食欲がみたされる」

「食欲?」


悲鳴は壁の向こうから聞こえた。

壁って表現があってるのかは知らないがこんな地下空洞続き、別のところに穴ぼこが出来てもおかしくない。

声は、後ろの絶壁の向こうから聞こえた気がした‥‥。



ボキ‥‥メキ‥‥

ゴリゴリ

ぎゃあああぁぁぁ



そして直ぐ傍で折れる音と大きな声が響く。

声がしたほうから声のするほうに視線を動かしても黒い闇だけで全く何も見えない。

何も見えないけど、声は一人だけじゃない。もっともっとたくさんだ。


「ゆ‥‥の‥‥。これ‥‥」

「喰われてるんだよ」


小さく冷たくユーノはこぼした。

視線は暗闇からはずさない。


なんのホラーだろう、音だけが私たちの居る空間に反響する。

喰われているって言葉とその音で想像するしかない。

映像が無いから想像が掻き立てられて怖いのか、映像がないから現実だと理解できないからいいのかさっぱりわかんない。

普通は悲鳴上げて逃げ出すだろう私は、ただ、固まったまま動けずにいた。

ただ、何時こっちに黒いのが迫ってくるのか怖くて音のする方向というより、黒とそうじゃない地面の境界を見ているしかない。

多分こっちに来ないのは、私たちが静かにしているからだと思う。

慌ててよじ登って落下して騒いだら、直ぐにこっちにくるんじゃないかって息を吸う事も怖くて動けなくなる。








「おや?生き残りがいるのか、しかも妖精ときた。もしかして、この穴の中で殺し合いした生き残りかな」


黒の塊に飲み込まれた人達の動向に気を取られ自分たちを見下ろす存在に気がつかなかった。上からの言葉に体がびっくりして飛び上がる。比喩表現ではなく本当に飛び上がってしまい‥‥、ユーノに体を押さえつけられた。


「ごめん‥‥」


口元をおさえ直ぐに暗闇に視線を戻すが、こちらに侵食している様子は無い。

というか声とか音とかも何も聞こえない。

そういえば音とかしなくなったの何時だ?


「いや‥‥でも、あのニンゲン何をいってるか分かる?」


えっと。上のは人間なのね‥‥いやそんなことより、目の前の黒いのの方が大事でしょ。


「そんなことよりも」

私の言いたいことが分かるのかユーノは「たぶんケガレは大丈夫。結構前から動いていない」と言った。


結構前って‥‥一瞬だと思ってた時間がずいぶんたっていたのかな?


「ここで殺し合いしたのかって」

「上から見て、アイツラは全滅してるってことか」


ここからは一番近くの男の足が見えるだけ、後は黒い影がゆらゆらと、ただの真っ暗闇にしか見えない。上からの情報はとってもよく分かる言葉で示された。


「そうそう、殺し合いをしたんだろ。この穴、砂地だものね、出口にむかって登ろうともがけばずるずるすべるし、登ろうと努力している背中はとっても狙いやすい。白い毛皮の妖精は僕にもわかる言葉で話せるんだ。面白い希少種かな。どう?助けてあげようか」

「できるの?」

「何て?」


耳元でユーノが不機嫌そうな声をだす。

私は契約の力があるから言葉が理解できるだけだ、ユーノにはそれはない‥‥先に話を進められれば面白くないだろう。


「助けてあげようかって」

「ニンゲンの言うことなんか信用できないだろ」

「でも、ここから上がれなくても‥‥」


目線はユーノの背中のはるか先、真っ暗闇を見てしまう。

あそこに黒い何かがいるのか、何にも居なくてただ真っ暗なのかはさっぱり分からない。

さっきみたいに悲鳴が‥‥声が聞こえて何も見えないのだったら何かがそこに居て見えないように立ちふさがっているんだって思うのだけども。

今は何も居ないってユーノが言うから声が出せる。


「どうする。ここも危ないから悠長に待っててあげられないんだけど」

「まってまって、引き上げた後、そのまま何かしない」

「何かって、刺したり切ったりとかかなぁ。引き上げる手間考えたら、意味がないと思うけど。あ、でも僕はそこの死体みたいになるのはごめんだから、君が心配している武力は持ってるよ」

「武力は持ってる?」

「もちろんさ。戦うのは僕じゃないけど。君たちは僕を傷つけられない。だから安心して」


いや、全く安心できないよね。

全く安心できないけど、いつかは確実に喰われちゃうここに居るよりか安全なのかもしれない。


いざとなったら逃げれるよね‥‥

ユーノだけでも。


「今すぐ上げて」

「だって、ドウセツ君」


ひゅんって音がしたと思ったら、縄みたいなのが落ちてきた。

これを使ってよじ登れって事?


「とりあえず上に上がろう。それから」ユーノの耳元で小さな声で「逃げ出そう」と続けた。

武力って言うのだから一人じゃなくて団体さんが剣を向けて威嚇してくるファンタジー映画を思い出す。ぺらぺらしゃべるあの人は役柄的には隊長さんかな。

ユーノは何か言いたそうにこっちを見るけど、彼の文句は聞いてられない。

私、思ったよりココが嫌なようだ。


ユーノが縄みたいなのを掴み、私も両手で抱えたタイミングで「上げて」と緩い声が聞こえた。

あげて?

疑問に思った瞬間。体がぎゅんと引き上げられ宙に浮く。


「ぎゃぁぅ」


胸と腕に衝撃が来て、肺にから押し出された可愛げのない声が口から漏れる。

ああ、傍にロザリーが居なくてよかったなんて、少しだけ思った。

その直ぐ後に地面に叩きつけられる。


「いったぁ」

「大丈夫?希少種さんは身体能力が壊滅的なんだね。アルビノはかなり弱いってことかな」


隊長役の彼からなんと手を差し出された。

口調はバカにされているのは分かるけど、その差し出された手に驚いて固まる。


「警戒結構。でも大切なお友達が居るから、暴れたりはしないよね」


一段高いところから差し出された手を下げることなく相手は続けた。


「ドウセツ君が言うには、彼より君のほうが強いっていうんだもの。人質は弱いほうだよね。もうすぐドウセツ君が捕まえてきてくれる」


だって、彼ってば空中で宙返りだろ。そのまま縄を踏み台にしてジャンプして逃げ出すし。

慌ててドウセツ君が叩き落しちゃって、遠くに落ちちゃったのを回収しにいってくれてるんだよ。あーいう小さな妖精はもろいけどすばやいからなぁ。びっくりしたよ。

にこにこと隊長役の彼は話し出す。ユーノは逃げようとして失敗したわけだ。


「人質にしてどうするの」

「希少種さんには、お願いがあるんだ~お願いさえ聞いてくれたら開放してあげるよ」

「それを素直に信じろっていうの」


前に殴られた瞼が痛み出す。

人間は嫌だと記憶を思い出す。


「僕はこの乱戦には無関係だし。むしろ巻き込まれたくない。もし関係してたとしても君たちなんかを使っても何も交渉価値なさそうだろ。本当なら見捨てておこうかと思ったけど、希少種さんが僕と会話が出来たら助けてあげたんだ。それとも穴に戻る?」


私が今居る場所は彼よりも一つ低い場所。

もう少し這い上がらなければ外とはいえない穴の淵。

私二人分ぐらいの狭い場所は、この男が突き落とそうと思えば簡単に落とせる場所だ。

後ろをふりかえり、穴の中の残酷な状況を確認する。

黒いもやもやは上からは見えなくて、目隠しがとれたそこは酷いものだった。

多分、人であったものと赤黒い土がぐちゃぐちゃに散らかっている。


「僕ね、妖精の言葉分からないから通訳をして欲しい。ただそれだけ」


こんな場所には帰りたくないと、当たり前のようにその手を取った。



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【××× A good child, so do not imitate ×××】
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