ある日の休日⑦-3 高1(挿絵有り)
「おぉ〜! 広い!そして高い!そして景色も!」
「だろ?なんでここに作ったのかは知らんが、展望レストランって言葉があるくらいだしな。社員からも結構好評らしいぞ。」
お父さんがドヤ顔で語ってるけど、わかる気はする。
私も食堂に入って珍しく、ついはしゃいじゃったから。
中は清潔感溢れてて綺麗で広くておしゃれ。
何故か最上階というおまけ付きで、窓からは街のビル群が見えるしね。
※あくまでイメージです
「まだ少しだけ早いから空いてて助かったな。どうする?窓際にするか?」
「んー······あそこでいいよ。窓際はちょっと暑そうだからね。」
私が選んたのは真ん中辺の席。
あの辺りに円形にブロック?が積んであって中にフェイクグリーンかもしれないけど、植物がいくつか植えてあって緑が癒やしっぽくなってるの。
たから、いいな〜って思ってね。
ちなみに窓際は景色は良いけど日差しが暑いのでやめたんだ。
電車でもそうだったけど、冬でも窓越しの日差しって何故か暑いんだよね。
車とかでも同じで。
「OK。じゃ、後はメニューだな。こっちな。」
案内されたのは普通の券売機。
メニューは大まかに分けると、うどん、そば、ご飯もの。
そして種類も結構あるね。これも、ここにいる従業員が多い故なのかな?
「お父さんのオススメは何?」
分からないので聞いてみました。
うどんと蕎麦は何となく想像がつくから、多分ご飯物かなー?とは思うけどね。
「う〜ん·······やはり日替わり定食かな?ご飯とおかず、味噌汁とサラダのセットだよ。何が出るかは名前の通り分からないけど、味は美味しいよ。」
「じゃあ、それにするよ。」
「了解。ご飯の量は少なくも出来るけど、するか?」
「うん。」
「よし、じゃあそれでと。あと、あそこにドリンクバーがあるから。あれは自由だから好きなだけ飲んで大丈夫だよ。」
そう言ってお父さんは食券を買って持って行ってくれました。
私も言われたドリンクバーに行って、取り敢えずお冷だけ頂戴して席へ。
確かに色々あったけど、その辺はやっぱり食後かな。
席に座り周りを眺める私。
先程までは空いてたけど、お昼になって休憩時間になった社員さんらしき方々が、続々とやって来て賑わってきたよ。
男女問わずスーツ姿でビシッと決めてる中にポツンと私がいるから、まー目立つ目立つ。
「誰こいつ?」
「何あの子?」
「外国のお客かしら?」
そんな感じで皆さんがひそひそと呟きながら、私を見てるんだよね。
もう少し会社員っぽく見られる服装のほうが良かったかな?と思いつつも、でも髪が目立つから結局は一緒か······と納得する私だった。
ただまぁ、外国人に見られてるっぽいのでお父さんが戻って来るまで、話しかけられる事はなかったけどね。
ーーーーーーーーーー
「頂きます。」
その後、お父さんの持ってきてくれた定食を頂きます。
今日の日替わりは海老フライと豚の生姜焼きのミックス。
お父さんが「今日は当たりだな!」って、嬉しそうにしてたよ。
夜はお酒を飲む為かそこまでは食べないお父さんだけど、お昼は結構食べるみたいだね。
私はご飯を減らしてもらったけど、それでも少し多いかな?
「あ、美味しい······」
「だろ?味は美味しいし、社食で値段も安いから外で食べるより断然いいんだよ。」
うん、それは分かるな。
この値段と量と味。これならわざわざ外食する必要を感じないし、弁当持参も手間と荷物になるのを考慮しても、こっちのほうが断然よいと思う。
そして、今日の定食の生姜焼き。
これは私が普段作るの味付けとは当然違うけど、生姜の風味と醤油やみりんといった調味料のバランスが良くて美味しい。
海老フライもある程度は作りためだとは思うけど、それでも衣はサクサクしてるし。
雑談しながら、お父さんとお昼を食べる。
お母さんとはたまに食べに行ったりしてるけど、お父さんと2人でってなると恐らく初めてかな?と思う。
だから私も嬉しいなって思うけど、お父さんも心なしか嬉しそうにしてる感じがする。
こーゆー機会って、普段ではなかったからね。
家族みんなで外食はあっても、2人ってのはさ。
そんな感傷に浸りながら食べてる時間も長くは続かなかった。
だって、社員食堂だもん。
「鈴宮部長、相席失礼します。」
声のした方を見ると、トレイにご飯を乗せた男女合わせて10人くらいの人達がいました。
お父さんと年が近そうな人が1人2人で、残りは若い感じの方々で。
「鈴宮部長が早めに居なくなったと思ったら、こんなとこで女性とお昼を食べてるよ······。」
「うわ!綺麗〜〜。ぶちょー、誰ですか?この方は!?」
「外国人さん?」
「髪が白くてちょー綺麗なんですけど!?」
みなさんが口々に色々と言ってる。
主に若い男の人が『あなたはどなた?』とか『お父さんが女性を連れ込んでる』みたいなニュアンスでさ。
何それ?と思ったよね。
そして、ちょっと驚かしてあげようかな?とも。
私としては非常に珍しく、正直ちょっとイラッとしてるから。
私のことはいつもの事だから別に構わないけど、お父さんに対しての言い方がちょっと失礼じゃないかと。
もしかするとフレンドリーな部署で、こういった気さくな関係も良しとしてるのかもしれないけど、私は知らないからね。
あと、お父さん部長さんだったんだね······知らなかったよ。
「Father, who are these people? Also, come hang out with me for a minute」
(お父さん。この人達はだれ?あと、ちょっと付き合って。)
と、私。
いきなり英語で話した私に驚いたお父さんだったけど、頷いて付き合ってくれた。
「These are my people. They're good guys, but sometimes they get into a bad mood」
(こいつらは私の部下だ。いい奴らなんだが、たまに悪ノリするんだよ)
「部長が英語喋ってる···初めて聞いたよ···」
「英語···本当に外国人さんだったのか······。」
「部長はこの綺麗な外国人さんと、どんな繋がりがあるんですか!?」
「ぶちょー、この方とどんな関係なんですか!?」
作戦は成功かな??
私の見た目と英語で会話をした事実を見て、外国人と信じてるみたいだね。
ただまぁ、みなさんの話し方が若い方特有というかそんなテンションで話してるけど、仮にお客様だったら不味くない?と思ったりもしたよ。
それだけ衝撃的な光景なのかな??
私とお父さんの組み合わせって······?
「You can tell him she's my daughter」
(娘って教えていいよ)
頷いたお父さん。
ちょっと早いけど、ネタバレの時間です。
休憩時間も限られてるし、ドッキリ的なものも成功でしょう。恐らくね。
「この子はな、私の娘だよ」
「「「えぇぇーー!?」」」
「娘って!!?」
「マジですか?!」
みなさん、中々いい反応です。お父さんもそんな反応を楽しんでるみたいだしね。
お母さん曰く私はお父さん似らしいけど、こういう所はお父さんとお母さん、両方を受け継いでるよねって思う。
まぁさっきのお父さんへの対応で、ちょっとくるものがあったからこんな事をしてるんだけどさ。
「I Love Father♡」
隣で座ってるお父さんの腕を取って、甘える様に言ってみた。
これにはお父さんも驚いてたけど。
「マジだ。」
「本当なんだ······。」
「あれ?でも部長の奥様は日本人の方ですよね?俺、会った事ありますけど?」
「でもこの娘、バリバリの外国人さんじゃない??」
「「どういうこと??」」
お母さんを知ってる方がいたみたい。
だからか私に対して疑問を持ってるみたいです。
「おう。俺の妻は日本人だぞ。再婚とかでもないし、この子も隠し子でも養子でもなく、ちゃんと実子で血の繋がった俺の自慢の娘だ。」
「先程は驚かせてしまい申し訳ございませんでした。鈴宮航平の娘の『鈴宮このは』と申します。いつも父がお世話になってます。」
先程の謝罪とお父さんがお世話になってる事への感謝を込めて、ご挨拶です。
いくら偉くても、部下の方がいてのお仕事だからね。
下の方が気持ちよくテキパキとお仕事ができれば、お父さんもストレスなく仕事が出来ると思うし、好かれる事もいいことだと思うから。
「いえいえ、とんでもない。」
「こっちこそ、部長に迷惑かけてばかりで······。」
「鈴宮部長に良くしてもらってます」
私が改めて挨拶をして、お父さんの部下の人達も改めて挨拶をしてくれたんだよね。
それからは、お父さんの部下のみなさんも交えてのお昼となりました。
みなさんが自己紹介してくれて、家では話さないお父さんの仕事について聞いたり教えてくれたりして中々有意義な時間だったよ。
あと、私についてもね。
「このはちゃんのその髪は地下なの?」
「はい。生まれつきで。でも、とっても気に入ってますよ。」
「いいわね〜。とても綺麗で素敵だよ」とか。
「今日は何でまたここに来たの?」と聞かれて。
「俺がたまたま忘れ物してな。妻に持ってきて貰おうとしたんだが仕事でムリだったらしく、たまたま家にいた娘が代わり来てくれたって訳だ。」
苦笑いするお父さん。
理由が忘れ物だから恥ずかしいよね。
「部長も忘れ物するんですね〜。じゃあ、このはさんは大学生とかですか?」
「いえ、高校1年生です。今日は高校入試絡みで学校が休みなんですよ。」
「え!? 本当?JK??」
ゴツン!
「こらっ! JKとか言うな、バカ! ごめんなさいね、こいつこんな奴なのよ······。」
男性の頭を殴って替わりに謝ってくれた女性。
やってる事がまるでコントだよ、とは思っても言わない。
「大丈夫ですよ。そのくらいなら気にしませんから。」
「ならいいんだけど······本当にごめんなさいね。」
笑いながら返事を返して、こういう雰囲気の職場なら楽しいだろうなって思っちゃった。
ーーお父さん 視点ーー
「しかし鈴宮部長もいいですね。あんな素敵な娘さんがいらっしゃって。羨ましい限りです。」
「そうか?」
「はい。うちも中1の娘がいますけど、あまり口聴いてくれませんよ?思春期ってものあるんでしょうけど······。」
そういうモノなのだろうか?
確かにそういった話はよく聞くが······。
臭いって言われるとか、洗濯物を一緒に洗わないで!って言われたりだとか。
「うちは·····あの娘が特殊だったからな。生まれつき白髮だったせいで小さい時から奇異の目で見られたりもしたし···。それに、その後も普通じゃない大変な事も起きて、あの娘には苦労をかけてしまって·····。普通じゃない人生を歩ませてしまった。だから思春期云々という事をやる暇がなかったんだと思うよ。」
「そう···だったんですか······。」
「ああ。それがなければ、君の娘さんと同じ様な反応をしてたかもしれんな。」
隣で俺の部下と談笑してる娘を見ながら思う。
どうしてこうなってしまったのか、自問自答しても答えは見つからない。
黒髪のない真っ白な髪で生まれた、我が娘のこのは。
目を開けば黒の瞳ではなく、赤い瞳。美しい色合いだったが当時はそんな感傷に浸る間もなく、関係者みんながパニックになった。
なにかの病気や疾患ではないかと。
その後の検査で白子症というメラニン色素が関係する遺伝子疾患ではないかと結論づけられたが······。
ただ、将来的に陽の光に弱くなるとか視力が低下すると言われたりもして、この様な姿で生ませてしまった娘に対して、自分達を責めたりもしたものだ。
そして、今でこそああやって笑顔で幸せそうにしているが、あの時の13歳の娘が泣いて土下座した、あの衝撃的な光景は鮮明に覚えている。
色々と苦労は背負わせてしまったが、懸念されてた症状は出ずに健やかで性格の良い娘になってくれたこのは。
そんな娘の身に中1の時に起きた、妊娠したという衝撃の出来事。
何が起きたのかさっぱり分からないまま、ただ単に相手の男をただじゃ済まさんぞ!という怒りしかなかった。
そして、このはの決断。
あの時だって、ただ『産みたい』と言えば産ませてあげるつもりだったのに、まさか土下座までしてあれだけの決意を見せるとは思わなかった·····。
仮に堕ろすとした場合に、もう時間的な余裕はなく短い時間しか考える暇はなかったというのに、あれだけの思いを見せてくれた······。
「相葉くん、私は何もしてないよ。むしろ色んな意味であの娘に負い目がある。でも、ああして笑顔で笑っているのは全部あの娘の努力と苦労の結果だ。凄いのは娘。私には出来過ぎた娘さ······。」
本当にそう思う。私には出来過ぎた娘だと。
家事は万能だし、性格もよし。学校の成績だってそこまで詳しくは知らないが、母さん曰くかなり良いらしい。
比較するのはよくないが、葵くらいが寧ろ普通だと思ってる。
「おとーさん。」
「ん?」
娘のこのはが、私をじっと見つめて声を掛けてきた。
「お父さんは、何もしてないって言ったけどそんな事ないよ?ずっと影で私と雪ちゃんを助けてくれていたじゃない。私、知ってるんだからね。」
「このは······。」
「だから、負い目があるとか思わないで。色んな事あったけどさ、それがあったから雪ちゃんに出会えたわけだしね。」
「そうか。」
「うん。それに相葉さん?今、思春期って事ですけど、そっと見守って支えててあげてください。それで、うんと困ってる時には手を差しのべて助けてあげてください。今は色んな事で悩んだり考えたり戸惑ったりで、心のゆとりがないんじゃないかと思うんですけど、そんな中でも子供は親がしてくれた事は理解してると思いますから。」
「そうかい?」
「えぇ。私もそうでしたから。」
「···素敵な娘さんですね。部長。」
「ああ。ホントにな。」
本当に良い子に育ったよ。この子は。
「おとーさん。」
「ん?なんだい?」
「今日は早く帰ってきてね。久しぶりにお酌してあげるよ。」
「いいっすねー部長!」
「羨ましい〜!」
「こんなかわいい子にお酌だなんて···」
「私にもお酌してくれないなしら?」
「·········」
「どうしたんですか?部長??」
「「「「????」」」」
「よーし、お前等!! 午後はテキパキとミスせず仕事やれよ!!俺は今日は定時で帰る!何が何でもな!!」
このはがお酌をしてくれるのは、一体いつ以来だ?
それに雪が寝る時間になると、このはもリビングからいなくなるから絶対に定時で帰らなければ!!
「やるぞ!俺は!!
お前等ミスするんじゃないぞ!」
「「「「ヒイィィィ···」」」」
お父さんに火が着いた瞬間だった――――。
ーおまけー
「ねぇ?部長。」
「ん?何だ??」
「さっき娘さんが言ってた『雪ちゃん』というのは、部長の娘さんなんですか?」
「あぁ···それか······。」
話が一区切りついたなと思った時に、このはの言葉に反応した部下がいた。
普段からこういう風に細かい事に気づけば、更に伸びると思うのに······残念だ。
さてさて、雪ちゃんの事か。
どういう風に説明したものかな······?
「『雪ちゃん』というのは、私の娘なんですよ♪」
「「「「えぇーーーー!!??」」」」
どうやって説明しようか悩んでた私を尻目に、当のこのはがあっさりとバラしてしまった······。
それをすると今後の展開が読めるから、あえてどうするか悩んだど言うのに······。
「このはちゃんって、高校1年生なんだよね?」
「そうですよ?」
「うっそー!?じゃあ、なに!?中学の時に産んだわけ!??」
「うわわわわ······。凄い進んでるよ······。」
言ってる事は一部正しいけど、そこには知らないが故の認識の違いがある。
皆は雪ちゃんがまだ赤ん坊なのを想像してる筈なんだが、実際はなぁ······。
「じーじ」「ばーば」と言って、元気に走り回る幼稚園児だからな。
「ほら、これが娘の雪ちゃんです。」
「「「「えぇーーーー!!??」」」」
「ちょっと······この子、大っきすぎない?」
「いや、その前にこのはちゃんにそっくり過ぎなんだけど!?」
「計算が合わないんだけど! 小学生の時に産んだの!??」
相次ぐ爆弾投下に、静まる気配をみせない我が部下の面々。
まぁ昼休みもあと僅かだし、最初で最後でもあるこのお昼。
こんな時ぐらい、賑やかでもいっかと思う私だった。
 




