ある日の授業①-3 高1(挿絵有り)
カリカリカリカリ……
意外と静かな教室に私が黒板にチョークで書く音が響きます。
まずは基本の基本から。
黒板用の定規を使って図を書いて、色を上手く使いわかり易く。
まあ、ここは問題ないと思うからそんなに時間はかけずに。
「まず、これが三角比の基本です。sin、cos、tanで、これがそれぞれを表す公式ですね。ここは大丈夫だとは思いますが、覚えておきましょう。」
「次にいくつか公式を書くので分らない人はメモってください。後ほど説明します。」
そう一言いれてからまた、いくつか書いていきます。
実際の所、それなりに授業が進んでるから誰がどこを分らないとかが、分らないんだよね。
時間の問題もあるから、まずは大事な所から行こうかなと思う。
書いてて、ふと後ろを見ると巡回に来た先生がまだいらっしゃる。
どうしたのかな?
「先生。お時間は大丈夫なんですか?」
「ああ、私はこの時間予定がないから巡回に来たんで大丈夫だよ。面白いんで見てるけど、気にしないでやってていいよ。」
「あ、はい。分かりました。」
気にしないでって事なので、進める事にしました。
予定がないのもいいな〜と、ちょっと思ったりもしたけどね。
「この公式も大事な基本中の基本なので暗記出来るようにしましょう。まだ覚えてないよって方は漢字を覚えるのと同じように何回も書いて、何も見ずに書けるようにしてね。三平方の定理って何?という方も後で説明をするので気軽に聞きに来てね。」
それからいくつか例題とその解答式をわかり易く書きます。
そして説明といきます。
「………それで公式は計算することで証明出来るので、自分で説明出来るようになると理解度とかが向上します。なので、とにかく問題を解いたりして数をこなさないといけません。」
「こなさないといけないのですが、正直誰が何処を分からないのかが私には分からないので、黒板に書いた公式&例題で自分がどの辺りが分からないか把握してください。
最初に述べたように、公式を暗記できてない方は暗記から。出来てる方は②もしくは③になります。把握出来れば個別に教えられるので、お昼休みに聞きに来てくださいね。」
「時間もあと5分くらいなので、今日はこの辺で終わりにします。
拙い説明だったけど、聞いてくれてありがとうございました。」
静かに聞いてくれたクラスメイトにお礼を伝えます。
すると、パチパチパチと拍手を頂いて「良かったよ〜」とか「こっちこそありがとう」なんて声を頂きました。
みんなのいい参考になればいいんだけどね、と思いながら先生を見ると先生まで拍手してる。
というか先生、最後まで居たんだね?本当に時間大丈夫?と思ってしまう私でした。
ーー高橋先生 視点ーー
職員室でお昼を食べてる私の下へ、1人の先生がやってきた。
「高橋先生。食べてる最中申し訳ないです。ちょっとご一緒させて貰ってもよいでしょうか?」
「これは篠塚先生。ええ、大丈夫ですよ。どうかなさいました?」
篠塚先生は2年生を担当してる先生で、基本私達の受け持つ1年の生徒とは関わりを持たない。
まあ、クラブや委員会等で関われば別だが…。
「実は本日の3時間目授業の時に、高橋先生のクラスが自習だという事で手の空いていた私が見に行ったのですが……」
「ああ、巡回して頂いたの篠塚先生でしたか。ありがとう御座います。……もしかして、あいつら騒いでましたか?今朝方、自習を伝えた時にかなりはしゃいでましたから心配はしてたんですが……」
「いえいえ、逆ですよ。静かによくやってました。褒めてあげたいくらいです。」
「そんなに、ですか?にわかに信じられませんが??」
今朝あんなにはしゃいでた、あいつらがなぁ〜と思う。すると、篠塚先生が見せたい物があるのでパソコンいいですか?と、きたので了解してケーブルを渡した。
見せたい物とは動画だったようだ。
「あれ?これは…うちのクラス?」
「ええ、そうです。3時間目の自習の時ですね。スマホで撮ったんですが。」
そこに写ってたのはうちのクラスだったが、自習の様子とはちょっと違う。
鈴宮が教壇に立ってて、黒板に何やら書いてあって、話しつつまた書いてる??
「何をやってるんだ? もしかして教えてる?」
「ええ、そうです。経緯は分かりませんが自習時間を利用してクラスメイトに教えようとしてたみたいですね。」
その後も引き続き画面を見てると、スピーカーから聞こえてくる鈴宮のいい声に惹かれたのか、近くに居た他の教諭も見に来たくらいだ。
「この子、チョークで書くの上手いですね。それに書き方もよくて、非常に分かり易い。」とか「この勉強の順番とか悩み克服方法なんて、いい発想で私としても参考になりますね。」なんて、結構褒められてる。
その後も見てると、キャーキャー騒いで飴とムチ作戦?
すげー。こいつらやたらやる気だしてるわ(笑)
俺の時もそのくらいやる気だせよ!なんて思ってしまう。
一段落?したあとに鈴宮がまた公式と例題、解答式を書いてる。
うわ!すげぇな。
こんなにスラスラと書けるもんなのか?俺は数学は担当じゃないが、学生の時にこれは結構難しかったような気もしたんだがな……。
解答式もわかり易くて教えてるし、見やすい読みやすいときた。
おまけにお昼休みに個別に教えるだと!?
オイオイオイ…マジかよ?
俺はまた、鈴宮の知られざる一面を見てしまったようだ…。
一通り見て一息ついていると、
「ね。凄いですよね、彼女。教わってる身なのにあそこまで書けて、尚且つ的確な説明ときたもんです。」
「えぇ…」
「そうですよ、高橋先生。公式は暗記さえすれば書けるかもしれませんが、あの例題は違います。基本的な問題ではありますが、あの場で教科書も持たずにスラスラと書く。おまけに解答式も。あれは三角比について完全に理解してないとあんなにも書けないです。まだ教わってる段階なハズなのに、もう理解しちゃってるんですかね?」
興奮した口調で話すこちらの先生は3年生の数学を担当してる井上先生だ。ちなみに女性な。
「彼女はどういった感じの生徒なんですか?」
そう言われて、少し考える。
「そうですね…、席替えをしても常に教卓の前を望んで座ってまして、授業態度は姿勢も正しく非常に真面目で真剣。他の担当教諭からも満点を貰ってますね。」
「おぉ〜」なんて声を出す先生方。
「成績の方も現時点ですが、数学と英語はトップですね。その他もベスト3には入ってますし非常に優秀な生徒ですね。おまけに彼女は性格も優しくて面倒見がよいので、そこに居てくれるだけでもクラスが纏まるんですよね。今やってる文化祭の取り決めや準備なんかも彼女が中心になって良くやってくれてますし、私としては嬉しい限りです。」
再び「おぉー」とか「それは凄いですね」なんて声が。
そこで俺はここぞとばかりに、彼女の良さを他の先生方にアピールする。
彼女が、鈴宮が頑張って優秀だってのは我々1年生を担当する教師は知っているけれども、他の先生方は知らないからな。
それに鈴宮は良い子過ぎて、俺の自慢の生徒だ!と言いたくなるんだよな。(たまたま俺のクラスに来ただけなんだけど。)
容姿も然ることながら、やっぱり内面が素晴らしすぎるし、子供を自慢したい親の気持ちに近い、そんな感じだな。
一通り話し終わって落ち着いた頃、
「来年度は是非私のクラスに来て欲しいもんですな。まぁ、担任を出来るかもまだ分かりませんが…」
ハハハハと、笑いながら話すは隣の2組の先生。
うちの学校は1年生を担任すれば、大体は3年生まで変わらず受け持つ。
それはやはり、大学や専門学校などの進学が関係してるからだけども、さすがに新学年のクラス替えとかはまだ分からない。
どのように変えるかの話し合いはいずれあるが、こればかりは祈るのしかない…。
「ねぇ、高橋先生。」
「はい?何でしょう?」
「彼女、鈴宮さんでしたか。1年生にも関わらずあの教え方の上手さと、性格ですか…それを考えると教師に欲しいと思いません?きっと良い先生になれますよ。彼女。」
うん、それは俺も何となく思った。
鈴宮の事だから、先の事はもう決めてそうな感じもするが……。
選ぶのは彼女次第。
でも、アドバイスくらいならいいかな…?
このはちゃん先生爆誕!




