ある日の誕生日③-3 20歳高2(挿絵有り)
このはちゃんから『近くに到着したよ』って連絡を貰って、お姉ちゃん達とのお話を一旦止めて家の外へと向かった私。
Tシャツにショートパンツっていう姿で外に出てしまった私だけど、まだまだ残暑があるので寒くはなかった。
それでも時間的なものなのか、少しだけひんやりとはしていたんだけどね。
玄関を出で家の前の道路を確認してみれば、右手側の方にライトを付けてハザードランプを点滅させてる車があった。
暗くて車種やナンバーまでは分からないけれど、多分このはちゃんだ。
「あ······あれかな? おーい!」
聞こえるか分からないけど、声を出して手を振ってアピールした。
こんな時間のこの住宅地域にハザードランプを付けて止まってるのは宅配便の車しかないけど、あれはどう見てもトラックではないんだよね。
あとは帰宅する車くらいだけど、その車がハザードランプを点滅させて止まってるのは不自然なので、そうするとやはりこのはちゃんしかいないんだよ。
「茜ちゃーん。あぁ、良かった〜。場所があってて······。ナビがこの辺りまでしか案内しないからどこかな?って思ってたんだよね。」
車から降りてきたのは、やっぱり今このはちゃんだった。
昼間とは違ってTシャツとスカートっていう姿だったけど、これはこれでいいなって思う。
明かりは車のライトくらいしかないから詳しいデザインとかは全く分からないけど、このはちゃんは何を着ても似合うんだよ。
キチッと着こなした姿も凛々しくて素敵だけど、こういうラフな格好もまたギャップがあっていいし······。
「で、どうしたの? こんな時間にこのはちゃんが来るなんて珍しいじゃない?というか、初?」
私は思ってた事を尋ねてみたんだ。
こんな時間にわざわざ会いに来る理由に心当たりがないから。
「どうしたのって······今日は茜ちゃんの誕生日でしょ?それを祝いに来たんだよ。お誕生日おめでとう♪茜ちゃん。」
「あ······。」
「それと、これは私からの誕生日プレゼントね。貰ってくれる?」
そう言うと私の手を取って、このはちゃんか持ってたらしい紙袋を渡された。
何かは分からないけど、そんなには重くない。寧ろ軽い??
と、いうか······。
「なんで?なんで······このはちゃんが私の誕生日を知ってるの??私、このはちゃんに教えた事はないと思うよ?クラスの皆にも教えた事もないし······。」
そう。
なんで、このはちゃんは私の誕生日を知ってるのだろう?
このはちゃん自身にもクラスメイトにも話した事も教えた事もないのに。
「あれ?覚えてない?? 前に一緒に買い物に行った時に、茜ちゃんが教えてくれたでしょ?」
「それは覚えてるけど、私、言ったっけ??」
買い物って言ったら水着を買った時か、または下着を選んで貰った時だけどどっちも記憶にないよ~。
そんな私自身ですら言った記憶がない会話での事を、覚えていてくれたなんて······。
「うん、言ってたよ。そういう訳で改めて······17歳、おめでとう。茜ちゃん♪」
「う、うん!ありがとー!このはちゃん!!」
嬉しくなって、ついこのはちゃんに抱きついてしまった。
そしてまた泣いちゃった。
そんな私を「よしよし。」って、ポンポンとしてくれるの。
本当に私ってば、このはちゃんの前でよく泣くようになった。
まぁ、その殆どは嬉し泣きみたいな感じではあるけれど、でも、だって······このはちゃんは優しすぎる。
私自身が覚えてない会話でしっかり覚えてくれてて、おまけにプレゼントまで用意してくれてさ。
おまけにこんな時間にわざわざ持ってきてくれるなんて······。
そういう優しさや気遣いが嬉しくって、周りに誰もいないのをいい事にわんわんと涙を流しちゃった······。
「ごめんね、このはちゃん。シャツ、濡らしちゃった······。」
「大丈夫だよ。暗いし誰にも分からないから。」
暫くして落ち着いてからこのはちゃんに謝ったの。シャツを濡らしてしまったから。
「それとプレゼントありがとうね。大事にするね。」
「うん。気に入ってくれればいいんだけどね。」
「そんな事ないよ!このはちゃんが選んてくれた物てしょ?大切にするよ!!」
改めて誕生日のお礼を伝えれば、このはちゃんも少し照れくさそうに言ってくれて。
何を選んでくれたのかは分からないけど、このはちゃんが選んでくれた物なら気に入らない訳がないよ!
寧ろずっと大切に置いときたいくらいだもの!
それが、飾ったり出来る物ならだけど······。
「それじゃ、また明日ね。お休み〜茜ちゃん。」
「うん!また明日ね! それと今日はありがとう。とっても嬉しかったよ!!」
そうお互いにお別れの挨拶を交わして、このはちゃんを見送ってから家の中へと戻る私。
そしてリビングルームに入ったら、お姉ちゃんに何故か泣いた事がバレてめっちゃ心配されたんだよね。
何があったのって喰らいついて来るお姉ちゃんを、必死に宥めて事の顛末を話したの。
それだけ心配してくれたって事は嬉しくもなるけど、逆に心配かけて申し訳ないなとも思う。
それは勿論、お父さんにも言える事で。
「で、茜ちゃん。そんな鈴宮さんに何を頂いたの?」
「まだ確認してないから、分からないよ?」
お姉ちゃんに促されて紙袋を開ける私。
何気にお父さんやお義兄さんも注目してるのが、嫌でも伝わってくる。
そんな変な緊張感に包まれながら紙袋を開けてみれば、細長い箱と一つの手紙?カード?らしき物が入っていたんだよね。
「何だろう?」
そう言いつつ箱の方を袋から出してみたけど、やっぱり軽い。
そして音も特にしなかった。
まぁ、音に関しては箱に入ってる時点でしっかりと収めてあるのだろうから、恐らくしないだろうとは思ってたけど。
で、もう1つの方。
「これは·····バースデーカードかしら?でも、他の立体的なカードかもしれないわね?」
私の隣で覗き込んでるお姉ちゃんが、そんな事を言ってくる。
「こういうのって結構色んなのがあるから、開けてみないと分からないよね?」
私もそういうのはお店で見たことがあるから知ってる。
今、私の手元にあるカードタイプみたいのだったり本タイプだったり形は様々だけど、開くと中から複雑に組み合わされた立体的な図柄が出来るあれだよね。
色んな図柄で展開されてて、そういった仕組みを利用した絵本とかも売ってたりもするし。
「わぁ! 凄い素敵·····。」
ワクワクとドキドキ、其々の気持ちを持ってカードを開いてみたら中から出てきたのはカラフルな文字で『Happy Birthday』と書かれていて真ん中にケーキ、周りには色とりどりの風船が浮かんでいた。
そしてそれらが立体的に見えるように細工をされていて、今にも風船が飛んでいってしまうような、そんな感じに見えるんだよね。
そしてこれだけても飾っておける、そんなカード。
うん、飾っておこう!
そう思った。ただそのまま飾ると痛むから、後で展示用のケースでも買ってこなくちゃだね!
「良かったね、茜ちゃん。」
「うん。こういうのってバースデーに限らず種類が沢山あるけど、このはちゃんが選んでくれたって思うと、それだけでも嬉しくなるよ♪」
ほんと、それなんだよ。
数あるカードの1つではあるけれど、このはちゃんが私の為だけに選んでくれたっていう、それだけでこれは何倍もの価値になるの。
どれにしようかな?って考えて悩んでくれて、その選び抜いた先にあるのがこのバースデーカードだからね。
これだけでも嬉しくって泣きそうになるのに、それを堪えて最後の箱へ手を伸ばした。
綺麗に梱包された、長方形の箱。
でもそんなに厚みはなくて、例えばだけど商品券が入ってますって言われても不思議はない様な、そんな箱。
丁寧に梱包を解けばしっかりと手触りの良いケースが出て来て、それと一緒に小さなこれまたカード·····いや、手紙が入ってた。
そして、何故かそれを見てハッとしたお姉ちゃんがいた。
『茜ちゃんへ。 17歳のお誕生日おめでとう。私は茜ちゃんと知り合えて仲良く慣れて、学校生活が毎日とても楽しく感じられる様になりました。そんな茜ちゃんに感謝とお祝いを兼ねて、プレゼントを送りします。気に入って貰えたら嬉しいです。 このはより。 追伸∶これは以前お出かけした時に、茜ちゃんが熱心に見てたのを思い出して私なりに選んでみたよ。』
このはちゃ〜ん······。
そんな······私に感謝なんて違うよ。感謝してるのは私の方だよ。
寂しくしてた私の心を癒やしてくれて、嫌な顔を一つもせず甘えさせてくれて······。
勉強だって丁寧に教えてくれるし、さっきだって洋服を汚しちゃったのにも関わらずニコニコと怒りもしないで······。
いつもいつも迷惑をかけてばかりで感謝をしてるのは私の方なのに、私の方こそが『ありがとう』なのに······。
読み上げた小さな手紙に、ポタポタと涙が滴り落ちた。
お姉ちゃんが背中をポンポンとしてくれて、「大丈夫?」って声をかけてくれて、それに対して私は「うん。」って変えした。
心を落ち着かせる意味も込めて何度も何度も読み返して、最後の文章に『???』っていう疑問も浮かんだけども。
そして落ち着いたので、最後と思いつつ本当に最後になった箱を開けた。
そして固まった。
何これ?
こんなの私が貰っていいの!?
箱の中に入っていたのは、綺麗な青い石。
丸っぽい形の石の周りに、シルバー色の素材でハート型っぽく形作っていてその石を包んでる。
そして、チェーン。
これ、ネックレスじゃん!?
箱を顔の近くまで持ち上げて、じっくりと見つめる。
何をどう見てもネックレスにしか見えないそれ。
本当に私が貰っていいのかな?そう思う。
だってコレ、高そうなんだもん······。
「茜ちゃん······。この石、何だか知ってる?」
「うん?······この青い石の事だよね? ······私こういうのには詳しくないからちょっと分からないかな?お姉ちゃんは何だか分かるの?」
隣で一緒に見てたお姉ちゃんが、そんな事を言ってきた。
そして、それに対しては分からないと答える私。
恥ずかしいけど、私はこういうのにはあまり詳しくないんだよ。
知ってるのは、ダイヤモンドとルビーと水晶かな?
それだってダイヤと水晶の見比べは分からないから、似た大きさの飾りならそれこそ区別はつかないよ。
ルビーは赤くて綺麗だからわかり易いけど、あとの2つは似たような感じだから難しいんだよ。
「これね、多分だけどサファイアだよ。」
「サファイア?あ〜······名前は聞いた覚えはあるかな?へぇー······サファイアってこんな綺麗な青色をしてるんだ?」
サファイア。
思い出せば名前は聞き覚えがあるね。でも、それがどんな石って言われると思い出せないし、説明も出来ない。
ただ今知ったのはサファイヤは青色をしてるということ。
「そうだね。まぁ色は物によって濃い薄いってのはあるし、それは値段とかにも影響はするんだけど、まぁそれは今はいっか。」
そうなんだ。
宝石って同じ物でも色が違ったりするんだ。
しかもそれで値段も違うなんて、奥が深いんだね····。
「でね、このサファイアだけど茜ちゃん、貴女の誕生石よ。9月生まれの誕生石はサファイア。 石言葉は「成功」「慈愛」「誠実」とかだったかなー? 身につけることで心が穏やかになり、誠実な愛をもたらすとか言われてるとかだったと思うな。」
「お姉ちゃん、よく知ってるね?」
「ま、まぁ······私はこういうのは好きだし?それに茜ちゃんの誕生月だから覚えてるのもあるけどね?」
お姉ちゃんはレベル照れくさそうにそう言うけれど、それにしても良く知ってるなとは思うよ。
それにしても·····この綺麗なサファイア、私の誕生石なんだ。
知らなかったなぁ······。
このはちゃんはそんな事まで知った上で、これを送ってくれたのかな?
「あ!もしかして······。」
「何?どうしたの?」
閃いたというか、もしかして?って思った事があった。
「さっきの手紙のね、 『追伸∶これは以前お出かけした時に、茜ちゃんが熱心に見てたのを思い出して私なりに選んでみたよ。』 って文章、前に一緒に買い物に行った時に私がアクセサリーショップを熱心に眺めてたのを覚えていてくれたのかも······。」
「······そうなの?」
「うん。あの時はあまり時間が残って無くて、じっくりは見れなかったんだけどね。私ってそういうアクセサリーとかの類を持ってないからさ、興味とかあったんだよ。友達もさ、学校だとヘアアクセサリーとかで多少お洒落なのを付けたりしてる子もいるから·······。」
お母さんが亡くなって以降、幼い自分では手入れをする事の出来ない長い髪の毛は、私にとって不要の物だったんだよね。
その流れで今まで短いままで来たからヘアアクセサリーの類は持ってなかったし、別にそれでも問題はなかった。付けて行く様な場所も特になかったからね。
けど、このはちゃんの隣に並んで歩く様になってからはそういうのにも興味が湧いたんだよね。
このはちゃんはアクセサリーとかもお洒落に付けてるし、ピアスも付けてるのを見た。
そんな素敵なこのはちゃんの隣を歩いていて、私もピアスとかアクセサリーをお洒落に身につけてみたいなと思ったんだ。
それと私は髪の毛を伸ばす事にした。
それはこのはちゃんに勧めたれたからだけど、長くなったらなったで色んな髪型にもチャレンジ出来るよね。
そしてその時にヘアゴムを含めて、色々なヘアアクセサリーを使えるし身に付けられる。
だから今まで以上に、アクセサリーという物に興味を抱いたんだよ。
「茜ちゃん。貴女にとって鈴宮さんってどんな存在?」
「このはちゃん?存在??」
真剣な表情をしてしっかりした声で、このはちゃんはどんな存在って尋ねてきたお姉ちゃん。
そんなの決まってるよ。
「そんなの決まってるよ。私の大切な人。とても優しくて、私を癒してくれて幸せな気持ちにさせてくれるの。それでいつも私の事をよく見ていてくれて、困った時は嫌な顔をせず、いつも助けてくれるの。 だから私は、このはちゃんと出会えて良かったって思ってるよ。」
嘘偽りのない、私の本心。気持ち。
このはちゃんと出会えて救われて変われたから、今のこの私があるの。
「そう·····。ねぇ、茜ちゃん。 鈴宮さんの事は生涯ずっと大切にしなさい。あの子は貴女が思ってるより、きっとすごい子よ?」
「え? それはお姉ちゃんに言われなくても勿論そのつもりだよ。それにこのはちゃんすごい子なのもわかってよ。 容姿は勿論だけど勉強だってトップだし性格だっていいんだから。それに料理はめっちゃ美味しいし、子育てだって正に理想の母っていうのかな?そんな感じだもん。」
何を今更言うのだろう?って思った。
「いや······、そうじゃなくてね? 例えば今回のこれ。 まず貴女が覚えてない何気ない会話で誕生日を覚えていてくれた。貴女がちょっと興味を持っていたアクセサリーショップでの様子から、プレゼントを恐らく選んだ。」
「うん。本当に私の事を良く見てるんだよね、このはちゃんって······。」
いつもそう。
私の気付かない仕草や様子とかそういうのを良く見てる。そしてそれに驚かされる私。
今回のもまたそうだしね。
「それにこのネックレス。これもまた彼女なりの気遣いが籠もってるわよ。」
私から箱を手にとってマジマジと眺めるお姉ちゃん。
そんなんだろうか?
確かに綺麗で素敵なネックレスだなとは思うけど。
「これさ、多分いいやつだよ。高めのジュエリーショップとかで売ってる様なのね。で、茜ちゃんが大人······社会人だとか、ちょっとしたドレスアップを必要とする様な場面で付けてても恥ずかしくない様な、そんなしっかりとしたネックレスだよ、これ。そこまで考えて選んでくれてて·······とっても大事にされてるんだね、茜ちゃんは。」
「このはちゃん······。」
また涙が溢れてきた。
お姉ちゃんの考察がそこまで合ってるとは限らないけど、でも、そんな的外れな事は言わないはず。
そしてそれは、日頃のこのはちゃんを見ていれば何となく、いや、きっとそうなんだろうなっていう確信的なものが持てる。
「友達という関係で、相手の事をそこまで大切に思ってくれる人なんて世の中早々いないわよ。だから茜ちゃん?鈴宮さんの事は大切にしなさい。鈴宮さんの存在は貴女にとって1番の宝物なんだからね。」
「うん······うん!大切にするよ!私、このはちゃんの事、大好きだもん!」
また新しく知った、このはちゃんの一面。
夏休みを通してこのはちゃんとの関係はより良い関係になったと思ってたけど、まだまだ知らない面もあった。
このはちゃんは私の事を、本当に良く見ていてくれる。
そしてその1つがこのネックレス。
「ほら、いつまでも泣いてないで、身に付けて見なさいよ?」
「うん。」
箱から丁寧にネックレスを取り出して、首にかける。
初めてで金具をとめるのに少し手こずったけど、何とか着けることができたよ。
「どう?」
恐る恐る尋ねてみる。
人生で初めてのネックレス。しかも、このはちゃんからのプレゼント。
正直、心臓はドキドキしっぱなしで、早く鏡を見て姿を確認をしたくてソワソワしてる私。
「うん!似合ってるわよ!」
「ほんとほんと。素敵だよ、茜。良かったね。」
「よかったね~、茜ちゃん。とっても似合ってる。」
「ほんと!!?」
家族皆から似合ってるって、お褒めの言葉を頂いた。
嬉しかった。第一声がそれで。
でも·····やっぱり自分で確認をしないと不安だよ。
「ちょっと、鏡で見てくるねーー!!」
さっきの嬉し涙はどこへやら、洗面所へとかけていく私。
後ろから「走るなー!」って声がしたけど、そんなのに構ってる暇はないんだよ!
早く、一刻も早くこの姿を確認しないと私が持たないんだよ!!
ー今年の私の誕生日は、このはちゃんのお陰で一生の思い出になった日だったー
ーーおまけーー
その後。
彼女はこのネックレスを生涯とても大切にした。
学生時代の休みの日は勿論の事、社会人になった後は毎日身につけるようになり、肌見放さず大切にそれはそれは丁寧に使った。
留め具等が壊れればその都度直してもらい、彼氏が出来た後もプレゼントとしてネックレスだけは貰う事を頑なに断っていたそうだ。
そして、今より少し先の未来。
彼女が純白のドレスを身に纏った時もその首元にはそのネックレスが、青い宝石が彼女の胸元で光り輝いていた。
そんな彼女と白い髪の女性が笑顔で並んで写ってる写真が、彼女のスマホと部屋の中に飾れているのだった。




