ある日の誕生日③-1 20歳高2
9月のある日の夜。
まぁ、夜と言ってもそこまで遅い時間でもなくて、今は午後7時を過ぎたくらいなんだけどね。
それでも車の通りや街灯の少ない我が家の住宅地域では、外はもう真っ暗でこれといった騒音もなく非常に静かな感じなんだけどね。
そんな中、我が家では晩ご飯も終わりみんながそれぞれ寛いでます。
雪ちゃんはわからずテレビだし、葵はスマホを何やらポチポチと弄くってる。あの感じだとゲームをしてるか、ネットを見てるのかもしれないね。
そしてこんな時間でもう食べ終わったの?と驚かれるかもしれないけど、基本的にうちは雪ちゃんの生活(寝る時間が早いから)に合わせてるので、この7時過ぎくらいには食べ終わるんだよね。
お父さん?
お父さんはいないよ。
本来ならお父さんが帰ってくるのを待ってから食べた方が良いのは分かってはいる。
だけどもいつも定時で帰れる訳でもないし、電車の状況次第では大幅に遅くなる時があるから先に食べてていいよと言われてるんだよね。
『今、大丈夫?家にいるのかな?』>>
スマホを取り出してLI◯Eを起動して、パパパパっと入力して送信する。
そして食べ終わった食器を洗いつつ、後は返信を待つだけ。
9月15日。
去年は知らなかったので、そのまま何事もなく素通りしてしまった日なんだけど、今年は違う。
今日はなんと茜ちゃんの誕生日なんだよね。
前に一緒にお出かけした時になんでもない会話の中で、さり気なく尋ねた事があったんだよね。それで知ったの。
もちろんその後も普通の会話をして楽しんでたから、茜ちゃんも特に意識はしてなかったと思うし、それは今日の学校でもそうだった。
学校でも普段通り甘えきて甘えさせて、みんなと楽しんで。
茜ちゃんの事はよく見てるつもりだから、誕生日だからって特に変わった変化もなくごく普通だったからね。
ちなみにこの誕生日というワード。
実は私、みんなの誕生日を知らないんだ。
あれ程仲の良い私達だけど誰一人として知らないし、又、私の誕生日を聞いてくる子もいない。
不思議に思うけど、私はみんなとは歳とか精神年齢的なものが違うからよく分からないんだよね。
ただまぁ、高校生にもなって今更『◯月◯日は私の誕生日なんだ』って言うのに抵抗があるだけかもしれないし、そもそもそんなに気にしてないっていうのもあるかもしれない。
私だって祝ってあげるのは好きだけど、自分が祝られるのはあまり好きじゃないし。
恥ずかしいというか照れくさいというか、そんな感じでね。
そーゆー意味では今年の私の誕生日は最悪だった。
あれは完全に私の黒歴史ってやつだよ······。
「ふふ······ふふふふふ······。」
「ど······どうしたの、お姉ちゃん!? いきなり変な笑いをして?何だか怖いよ?」
「えっ? うっそ!? 私、そんな声を出してた? いや······何もないから大丈夫だよ。ごめんね?」
「······別にいいんだけどさ、その、何と言うか······急に変な雰囲気が漂ったから驚いちゃった······。」
「あはははは·······。それは、ホントごめんごめん。」
たまたま飲み物を取りにこちらへ来た葵に、私の変な所を見られてしまったらしいです。
いや〜······、私としてもそんな変な笑いとか雰囲気とか出したつもりは無かったんだけど、バッチリ出てたみたいだね。
失敗失敗······。
言葉だけになってはしまったけど、葵に謝っといた。
だって、手は洗い物で泡々状態だったからね。
カチャカチャと、食器を洗いながら考える。
やっぱりあれは私の中ではかなりトラウマというか、嫌な思い出として残ってしまったみたいだね。
まぁ······家族とはいえ、あれだけの痴態を晒してしまったわけだし、それもそうなるかと納得もする。
ただ逆に考えると、家族だったから良かったとも捉えられるよね。
あれを外でやらかしてしまったと仮定して想像するとゾッとするし、新しい私の体質というか弱点が分かったのは収穫としては大きいからさ。
ピンコン♪
「おっと······。茜ちゃんかな?」
食器を洗い終わって後はすすぐだけとなったタイミングでLI◯Eの通知が鳴った。
手をすすいでタオルで拭いた後に確認をしてみると、やはり茜ちゃんだった。
>>『今ね、お姉ちゃんの家にいるの』
ふむふむ。
お姉さんのお家か〜······。ということは、今夜は向こうのお家でお祝いでもしてるのかな?
以前に茜ちゃんは、比較的近くに住んでいるお姉さん家に行ってご飯を一緒に食べたりとかする事もあるって言ってたし、今日はお祝い日だから尚更その可能性はあるよね。
『ちょこっと会いたいんたけど会えるかな?』>>
『差し支えなかったら住所教えてくれる?』>>
はてさて。
どう出るだろうか?
普通に茜ちゃんの家なら問題なく会ってくれるだろうけど、今回は違うからねー。
ピンコン♪
>>『大丈夫だよー。住所は◯◯市△△△2583-35だよ。分かる?』
『ありがとう(≧∇≦)b 大丈夫!ナビ様いるからね。』>>
『これから向かうから、近くに着いたらまた連絡します』>>
>>『はーい♪』
スマホを閉じて残りのすすぎを終わらせる。
あとはこれを水切りラックに乗せておけば、ひとまず作業はお終いです。
(あぁ······良かった。会うことができて。)
本当にそう思う。
多分会えるだろうとは思ってはいたけれど、でも、無理な場合もあるからね。
そしたら明日とかあるけれど、できる事なら当日の方がいいもんね。
「お母さ〜ん、ちょっと茜ちゃんの家に行ってくるね。」
ダイニングテーブルで珈琲を飲んでるお母さんに伝える。
時間も時間だし心配をかけない為にも、その辺りのことはきちんと伝えるよ。
「こんな時間に茜ちゃんの家?」
「何かあるの?お姉ちゃん??」
当然の疑問で、お母さんと葵が聞き返してきた。
「うん。今日さ、茜ちゃんの誕生日なんだよ。それでちょっとプレゼントを渡したいから行ってきたいんだ。大丈夫、渡したら直ぐに帰ってくるからさ。それなんで、雪ちゃんをちょっとだけお願いします。」
「誕生日ね〜。わかったわ。暗いから気を付けて行くのよ?」
「うん、ありがとう。雪ちゃん? ママちょっとだけ出かけてくるから待っててね?直ぐに帰って来るから。」
「はーい。ママ、気をつけてね。」
「うふふ。ありがと、雪ちゃん。」
お母さんにお礼を言いつつ、雪ちゃんの頭を2度3度撫でてからリビングを後にして、一旦自室へと向かいます。
クローゼットからバックとプレゼントを取り出して準備OK。
バックは別に要らないんだけど、この中にお財布と免許証が入ってるから、持っていかない訳にはいかないんだよね。
「行ってきまーす。」
玄関で一言声をかけて車へと向かう。
こういう暗い時間に外に出ることは殆どないけれど、センサーライトが設置してあって自動的にライトがついてくれる。
これはお父さんが帰りが真っ暗で危ないからって設置した物らしいんだよね。
普段このライトの恩恵にあずかることは殆どないけど、でも、今みたいな状況では大助かりだよ、ほんと。
車に乗って、ナビに先程の住所を入力して検索。
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うん。分かってはいたけど、茜ちゃんの家から結構近いね。
地名が同じ所で、番地も茜ちゃんの所とそれなりに近いから。
あとはまぁ、普段自転車の茜ちゃんでも行ける距離というのも考慮して近いだろうとは想像してたけど。
さて、行きますか。
夜間で田舎の住宅地域というのもあって車の通りは少ないけど、でも夜間だから気をつけて運転しないとね!
茜ちゃんの驚いた顔と喜んでくれる顔を期待して、私は茜ちゃん所へと向かった。
ーー 茜ちゃん 視点 ーー
「茜、誕生日おめでとう。」
「茜ちゃん、おめでとう♪」
「おめでとう〜、茜ちゃん。」
「ありがとー、お父さんお姉ちゃんにお義兄さん。」
家族皆が祝ってくれた今日は、私の17回目の誕生日。
そう、今日私は17歳になったんだ。
とは言っても、これといって何か思う事があるわけでもないんだけどね。
『あー、また1つ歳を取ったな〜。嫌だなー。』とかって思う様な年齢でもないし、かと言って誕生日プレゼントを期待する歳でもないから。
ただ淡々とした日常に少し華を添えられて、夜を迎えるだけなんだ。
「さあ、色々と用意したから沢山食べてね。悟くんも遠慮しないでね?」
「ありがとう、お父さん。」
「あははは·····。ご馳走になります、お義父さん。」
「こっちも色々と用意したから、茜ちゃん食べるのよ?余ったら持って帰っていいからね。」
「うん。」
華を添えてくれるのは、私のお父さんとお姉ちゃん。
誕生日とお正月といった特別な日は、お姉ちゃんの家で家族皆でご飯を食べるんだ。
何も無い普通の日でも偶にお姉ちゃんに呼ばれて、一緒に晩ご飯を食べたりする日もあるけれどね。
で、この日はお父さんとお姉ちゃんが凄く張り切るんだ。
お父さんはお寿司をドドンと頼んで持ってくるし、お姉ちゃんもそれ以外の唐揚げやフライドポテト、サラダ等といったものを作ってくれる。
そして、さっきも言ったようにそれらを余る前提で作るから、翌日のおかずになったりもするんだよね。
「お姉ちゃんの唐揚げは美味しいよね。揚げ方が上手だからさ、外はパリッとで中はジューシーだし。」
モグモグと唐揚げを食べながら、お姉ちゃんを褒める。
実際にこの唐揚げは上手にあがってるからね。
「そんな事はないわよ。茜ちゃんも知ってるだろうけど、今のコンロは温度センサーが付いてるから油の温度管理も楽だし、いっぺんに入れすぎなければ誰でも似たような感じに仕上がるわよ。」
「まぁ、そうなんだけどさ〜。それだって、肉の大きさで揚げる時間とかも微妙に異なるんだから、揚げ過ぎとかだって起こり得るじゃん?だから、やっぱりお姉ちゃんは上手だよ。」
温度センサーは知ってる。家のビルトインにも付いていて油の温度を160℃〜180℃まで設定出来るんだよね。
そしてそこまで上がれば自動的に火が弱くなるから、目安として非常にわかり易くて助かるんだ。
ただ揚げる時間はその時々で違うから、その調整が難しいと私は思ってる。
それに、家だとあまり揚げ物は作らないからね。
基本お父さんと2人だから、揚げ物に関しては作るより惣菜として買ってしまった方が丁度良いんだよね。
余れば翌日にあたため直すかアレンジをすればいいんだけど、そこまでする気が起きないというかそんな感じで·····。
久しぶりに食べたお姉ちゃんのおかずは美味しかった。
ぶっちゃけると、味はこのはちゃんの方が数段上で美味しい。
だけど、私はこの料理で育って救われて今までは目標としてきた。
お母さんのいない私にとって、母の味といえばお姉ちゃんの料理の味になるからね。
ただ······私は母の味よりも、このはちゃんの味を今は目標としてるけど。
それはお姉ちゃんにはナイショ。
お寿司を堪能して、お姉ちゃんの料理を味わって。
お姉ちゃんの子と触れ合いながら家族団らんの時間を過ごしてると、視界の端で私のスマホがピカピカしてるのに気が付いた。
>>『今、大丈夫?家にいるのかな?』
確認をしてみればLI◯Eの通知で、送って来たのはこのはちゃんだった。
家?
何だろう?って思ったけど、受信してから気付くまでに少し時間が経ってしまったので慌てて送り返したの。
『今ね、お姉ちゃんの家にいるの』<<
>>『ちょこっと会いたいんたけど会えるかな?』
>>『差し支えなかったら住所教えてくれる?』
珍しい······。そして疑問。
普段のこのはちゃんはこの時間、ご飯を食べたり家事をしたり雪ちゃんと楽しい時間を過ごしてる筈なんだよね。
それにもう少しすれば雪ちゃんとお風呂の時間にもなるから、益々この時間に会いたいなんて言うなんて不思議でしょうがない。
「どうしたの、茜ちゃん??」
「いや···そのね······。友達が今から会いたいって言ってくれてね、良かったら住所を教えてくれないかな?って送られてきたの。」
このはちゃんは自宅なら知ってるけど、お姉ちゃんの家の方は知らないからね。
だからって無闇に教える訳にもいかず、一先ずはお姉ちゃんの許可を取らないといけないな、と思った。
「へぇー······。このタイミングでねぇ······?? その子は茜ちゃんの何なの?男の子?今日が誕生日だって知ってるの??」
珍しくお姉ちゃんから、矢継ぎ早に質問が飛んできた。
「ち、違うよー!送ってきたのはこのはちゃんって言って、女の子で私のクラスメイトなの!!」
「そ、そうなの? やけにムキになっちゃって怪しいな〜?」
もぅ!!
なんなのさ!お姉ちゃんは!!
私の事を大事にしてくれてるのは知ってるけど、だからってその言い方はないよ!
よりによって、このはちゃんに!!
ムキにはなりたくないけど、このはちゃんの事を悪く言われてるみたいでイライラしてきちゃったよ······。
「なぁ、茜? このはちゃんって······鈴宮さんの事だろ?」
「うん、そうだよ。」
「じゃ、大丈夫だ。教えてあげなさい。」
疑ってくるお姉ちゃんに見かねてか、お父さんが助け舟を出してくれた。
まぁ、お父さんはこのはちゃんと会ってもいるしその時に一緒にご飯を食べたりもしたから、このはちゃんの人となりを知ってる。
そしてこのはちゃんを気に入ってくれて、今の私の状況も知っていて理解もしていてくれてる。
そんなお父さんの言葉に頷いて、早速返信を送った。
お姉ちゃんの家の住所を送って、暫くしたら今から向かうねと返って来て。
その文章にまた送り返して、後はこのはちゃんの到着を待つだけだ。
先程のお姉ちゃんへのイライラはどこへ行ったのか、ご機嫌になった私。
だってどういう理由だかは分からないけど、普段会わない時間に会えるなんて嬉しいじゃない?
恋する乙女みたいだけど、まぁ、あながち間違ってもいないからね。
このはちゃん、早く来てくれないかな〜?
ワクワクドキドキする、そんな私だった。




