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75◇戮力と決着

 



 素早く現状を確認。


 聖者側。聖騎士二人が生死不明、一人が命を落とすも、敗走することなく奮戦中。

 俺、お姫さん、『吹雪』の聖女ネモフィラの三人が、『片腕の巨人兵』と戦闘中。

 残る六人は、街の中央から迫る形骸種(キュリオン)の軍勢を押し留めている。


 そして今、二人分の聖女の加護を載せた俺の斬撃が、巨人兵の片腕を裂いたところだった。


「さて、どうするか」


 今回の作戦の参加メンバーたちがどれだけ優秀でも、人間なのだから体力の限界というものがある。


 想像してみてほしい。

 都市一つ分の人間が、全員動く死者になったとして、だ。

 それが一斉に突っ込んでくるのを、六人で止められるだろうか?


 考えるまでもなく不可能だと分かるが、仲間たちはそれを実行している。

 もちろん、聖女の魔法や聖騎士の卓越した戦闘技術があってこそだが、だからって何時間もやれるようなことではない。


 つまり、ここからの長期戦など許されないのだ。

 大きく疲弊しているとはいえ、十二形骸を短期決戦で仕留める必要があるということ。


 そして制約はまだある。

 形骸種(キュリオン)固有の能力を派手に使うわけにもいかないのだ。


 『黄金郷の墓守』こと騎士セオフィラスとの戦いでは、それが対人戦レベルであった為に誤魔化しが利いたが、巨人兵に効くレベルの火炎や骨剣を生み出せば、さすがにバレる。


 俺の正体を知っている者は限られており、その数はこれ以上増やすべきではない。


 今回の俺は、生身のまま戦っており、それを最後まで貫く必要があるのだ。


 まだまだ大剣を使っていたいところだったが、いつもの直剣へと変える。

 俺が大剣を一振りすると、鱗が剥がれ落ちるようにして骨がパラパラと落ちていき、剣がスリム化した。


「巨人の首を落とすには、ちぃとばかし物足りないが、まぁなんとかなるだろ」


 俺に手を半ばまで断たれた巨人兵はしばし悲痛な叫びを上げていたが、そこでめげることはなかった。


 裂けた腕を二又(ふたまた)の鞭に見立て、こちらに向かって振るわんとしたのだ。

 死者ならではの、後先考えぬ体の使い方と言えるだろう。


 剣で弾くか、斬るか。

 超高速で迫る二又の鞭の被害が後ろの聖女に行かぬよう気をつけながら対処できるか。


「アルベール様、どうかご存分に」


 背中に掛かるネモフィラの声。

 意図を察した俺は、即座に胸中で念じる。


 ――『黄金庭園』。


 瞬間。

 地面から複雑に絡み合った茨の壁が突き出し、巨人兵の一撃を見事防ぐことに成功。

 ずしんっと大地にまで衝撃が伝わってくるが、俺たちに直接の被害はなし。


 そして、茨は攻撃を防いだだけではなかった。

 巨人兵の攻撃を防ぐと同時、やつの腕に絡みついたのだ。

 これまでの件を学習し、深く根を張った茨だ。簡単には引き抜けまい。


 そしてちらりと後ろを確認すると、やはりというべきか――ネモフィラがセオフィラスの天聖剣を握っていた。

 十二聖者就任の証として、王国より貸し与えられた剣。


 その中に能力は入っていないが、建前上は植物操作の能力が入っていることになっていたものだ。

 つまり、『黄金庭園』に限れば、『ネモフィラが相棒の天聖剣の能力を使用した』という言い訳が通るわけだ。


 選択肢が一つ増えたのはありがたい。


 そして、好転の兆しはこれだけではなかった。


「アルくん、ここは任せても?」


 巨人兵の足許を、一つの人影(、、、、、)が通り過ぎていくのが見えた。


 俺はその人物に気づき、微笑む。


「あぁ、先輩を頼むぜ」


 その人物は、巨人兵が落としたあるものを拾い上げ、形骸種(キュリオン)の軍勢を食い止める仲間たちへと合流。


「『天聖剣・大狐の剃刀』」


 彼女が呟くと。

 剣身がぶわりと(ほど)け、六本の帯となる。それらは遣い手の望むままに伸び、複数の形骸種(キュリオン)を引き裂いた。


「……リコリス後輩!」


 『霧雨』の聖女イリスレヴィちゃんが、喜びに満ちた声を上げる。


「はい、先輩の可愛い後輩、リコリスですよ~」


 制服はひどくボロボロになっていたが、『霧雨』の聖騎士リコリスちゃんは無事だった。


「生きていると、信じていたぞ!」


「先輩、涙の再会は私も望むところですけど、あとにしましょうね?」


「だ、誰が涙など!」


 確かに、イリスレヴィちゃんとリコリスの微笑ましいトークに和んでいる場合ではない。


「――私の天聖剣は……ッ!」


 欠けていた、もう一人の聖騎士の声が。

 仲間たちの頭上、廃墟の屋上付近から響いてきた。


「あー、あたしが使ってる!」


 『黄褐』の聖騎士セルラータちゃんが、その声に応える。


「こちらへ!」


「ほらよ!」


 セルラータちゃんは迷わず天聖剣を投げ、己のもう一振りの剣を抜いて戦闘を続行。


 空中で『天聖剣・赫灼』を握った男――『炎天』の聖騎士グレンは、着地と同時に、刃を横薙ぎに振るった。


「多人数相手ならば、赫灼はこう使う」


 剣閃に沿って豪炎が噴き出し、形骸種(キュリオン)の軍団に向かって駆け抜けた。


 その一撃で、視界上の形骸種(キュリオン)の半数が焼失した。

 凄まじい火力だ。

 多対一において、非常に有能な能力を秘めていたらしい。


 巨人兵の首を斬ろうとしていた時のものが熱の圧縮だとすれば、今のは拡散だろうか。


 なるほど十二聖者。

 形骸種(キュリオン)の討伐において、真価を発揮するとこうなるわけだ。


「グレン! もう! 遅いよ!」


 聖女の声に、グレンは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「すまないカンプシス。心配を掛けた」


 これだけの戦力が揃えば、向こうは大丈夫だろう。

 おかげで、俺は目の前の敵だけに集中できる。


 俺が仲間に形骸種(キュリオン)の軍勢を任せたように。

 仲間たちは、俺に巨人兵討伐を任せたのだ。


 沢山の美女美少女からの信頼。

 応えねば男ではないだろう。

 グレンとかいう男が混ざっている気もするが、考えないこととする。


「行くぞ」


 いまだ茨を引き抜くのに手こずっている巨人兵。

 その右腕を通路とし、一気に駆け上がる。


 こいつには散々苦しめられた。

 今日この日まで誰も討伐出来なかったのも納得の、脅威だった。

 実際、現役の十二聖者の聖騎士が、二人も吹っ飛ばされた。


 だが、それもここで終わりだ。


 俺はやつの肘あたりで跳躍。ぶわりと中空へと跳び出す。

 巨人兵の頭蓋骨正面にて、剣を上段に構える。


 グレンは先程、こいつに噛まれて放り捨てられたが、同じ轍は踏まない。


 大きく開かれるのは、鯨さえも噛み千切れるだろう、巨人の(あぎと)

 

 そこに迷わず剣を振り下ろし、刃が上顎に接触。

 やつの上顎は、そのまま――脆く崩れ去る(、、、、、、)


『――――ッ!?』


 やつの動揺が伝わってくるようだった。


 種明かしではないが、口にする。


「――『震動伝達』」


 元々は『天庭の祈祷師』が保有していた能力。

 騎士セオフィラスとの戦闘で、俺の骨の剣を欠けさせた能力。


 それを今度は、俺が巨人兵の骨に対して使用したわけだ。

 やつの骸を破壊するのに必要な『揺れ』については、腕を斬った際に掴んだ(、、、)


 ぼろぼろと崩れていく巨人兵の頭蓋骨。

 その向こう、やつの頚椎が俺の視界に入ってきた。


 俺はそのまま、空を滑るようにしてやつの首に向かって落ちていき。


「じゃあな」


 抵抗する最後の術を失った巨人の頸を――断つ。


 ――『片腕の巨人兵』、討伐だ。




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