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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case10 _ 終わりの始まり
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第4話「異界壁」






「……ただいま。…どうぞ」



ひとつ言えるのは、超掃除をした後でよかったということ。

細かな汚れや傷にもこだわったおかげで今なら人に見られても恥ずかしくはない。

いや、恥ずかしくないのは嘘だ。


小中高と、家に同級生を招いたことはない。

家庭訪問だって1階で対応していたし…。



「…そうか。ここは元々」


「はい。お店でした。お客さんは滅多に来ませんでしたけど」


ダンさん達の"お邪魔します"という挨拶を半分以上聞き逃した。

動作の中でさりげなく、小さな声で言っていた。

だからなんなんだと思わないわけではない。ただ、そのせいで家の中を見られているのだと強く意識してしまうのだ。



「時代を感じさせるレジカウンターだ。当時から変わらずか?」


「ずっと使ってたやつです。ボロボロなので、横から的確に叩くと勝手に開いたりします」


「当然、ここにある本は既に読み終えたのだろう?」


「はい…」


「私お茶入れるね」


「あ、ダンさん達も上に」


「いや。今回はここで十分だ」


「そうなんですか?」


「風俗街で君のパートナーに相談をされた。その内容について君にも話そう」


「はい」


気にはなっていた。どんな内容なんだろう。



「話は簡単だ。この家を安全な場所にするため、創造で手を加える」



「……ん?」


「柊木様。自宅に敵が来ることを想定し、対策としてこの家の周囲に創造でバリアを展開する…というのが柊木様の使者の提案です」


「バリアですか?」


「複数の創造の書を使えばそう難しくないはずだ。書き込む内容は私に任せたまえ」


「わ、えと、僕は」


「パートナーが戻ったら本を」


「はい…」


凪咲さんより先にソープが降りてきた。

出迎えたつもりなのだろうが、ダンさんとジュリアさんを気にして僕に近づけない。


「ソープ。ただいま。上で待っててください」


「ニャア…」


「柊木様は猫と会話ができるのですか?」


「ソープは使者なんです。だからなのかは分かりませんが、僕や凪咲さんの言ってることを理解しているみたいで。上に行ってほしいと言えば今みたいに従ってくれますし、呼べば当たり前に来ますし…テレビの動物番組で紹介されるお利口さんくらいには賢くていい子です」



「聞くの忘れてたから砂糖とミルクも持ってきたよ」



凪咲さんがコーヒーを持って戻ってきた。

それを受け取りそのまま飲むジュリアさん。

ダンさんは…


「すまない。個包装だがどちらもこの半分でいい」


「全然気にしないでよ。私が入れるね。真、本受け取って」


「あ…ありがとうございます」


ほんの少しだけ砂糖とミルクを入れるのか。

…僕はブラックとか苦いのは苦手だから極端な話、コーヒー牛乳がいいくらいで。

ゴーヤの苦味は平気なのに。



本を開き、白紙のページを…


「書き込む内容はこうだ」


ダンさんに言われるまま書き込む。





連携術式:異界壁


指定した範囲内に対象が侵入することを禁ずる。

対象は"柊木 真"が許可していない代行、使者全て。




「…書き込みましたけど……異界壁?」


「異界壁の効果は私の本で創造する」


「連携術式っていうのも初めて聞いたんですが」


「代行1人では不可能だ。それに、代行同士は当然のように争う。代行の歴史の中でも私達のように協力関係になった例は少ないから知らなくて当然ということだ」


「柊木様。ご主人様と同時に創造を行ってください。その際、範囲を指定するのでこの家全体を思い浮かべてください」


「分かりました…」


「じゃあ私が合図だすよ。……せーの…!」




((READ)) ((READ))



ハモった。というやつだ。

僕とダンさんの声が重なり、互いの創造の書が光を放つ。

その瞬間僕は自分の家の全体像と家の周りの景色を思い浮かべた。



………特にこれといって変化はない。




「これで終わりですか?」


「成功だ。どちらにも苦しむ気配はない。いざという時、驚くことになるだろう」


「その…異界壁の効果って」


「楽しみにしていたまえ!」


「ええ…」


「それでは私達はこれで帰るとしよう。その前に…」


ダンさんはコーヒーを一気飲み。


「美味かった。ありがとう」


「あの…」


「また何かあれば遠慮なく連絡を。ご主人様と2人でいつでも駆けつけます」


「あ、はい…ありがとうございます」




用が済むとさっさと帰ってしまった。





「バリア…凪咲さんのアイデアなんですか」


「うん。モモ姉の力を再現出来たらなって」


「再現出来たんでしょうか…効果を聞こうとしても教えてもらえなかったのが少し引っかかります」


「大丈夫だよ。仲間でしょ?」


「……凪咲さん、前はダンさんとの協力関係に反対してませんでした?」


「え?…まあね。反対っていうか賛成できないっていうか。あの時はもっと慎重に考えてほしかった。でも私だけじゃ真を守りきれないって思うことも増えて…私自身、ジュリアに助けてもらったりもしたしね」


「そういえばジュリアさん、よく喋るようになりましたよね。前はもっと静かで」


「冷たい感じ?多分ジュリアも私みたいに気をつけてたんだよ」


「というよりは…ダンさんのことしか見てなかったというか」


「え?」


「いえ。…お腹空きませんか」


「そうだね。ご飯作ろっか」


「はい。じゃあ今日は」


「一緒に作ろうよ、たまには」


「……はい!」


2人とも変に気合いが入っていた。

夕方までずっと料理をしていて、どう見ても2人では食べきれない量を作ってしまって。


でもそのおかげで、僕の好きな食べ物リストに凪咲さんが作るテリヤキハンバーグが追加された。






………………………………next…→……







翌日。



「ふわぁ…」


「もう。なんで一緒に寝れないの?せっかくの良いお布団なのに」


「無理言わないでください。僕はちゃんと言いましたよ?別々の方を向いてなら寝られるかもしれないって。でも凪咲さんずっと僕の方向いてましたよね?まるで僕のこと抱き枕みたいに扱って。お、落ち着きませんよあんなの!」


「そうかな…じゃあ今夜は逆でも」


「だめですよ!!…あの。聞いてもいいですか」


「スマホのこと?」



僕達は自然と早起きができるタイプだ。

でも、今日は違う。

夜中の2、3時くらいからずっとスマホがブルブル震えていたのだ。

1度はちゃんと起きて確認しようとしたのだが、凪咲さんが半分寝たままでスマホを黙らせてしまった。

それから朝まで静かにはなったが…



「着信多すぎませんか?凪咲さん、何か変なサイトに登録して迷惑メールを送り付けられてたり…」


「しないよそんなこと。サラだよ」


「え?サラさん!?」


「いっぱいメール送ってきてて。自分の家とか、近所の公園とか…もう全部。スマホで撮って画像とか動画とか送ってくれてるんだよ」


「そうなんですか…」


凪咲さんが見せてくれたのはオヤブンさんを抱っこしたサラさんが自撮りしながら散歩している動画。


言ってしまえばこれといって面白いことが起きているわけではないのだが…。



「やっぱり海外なんだなって感じですよね。街並みとか…映るものが全部おしゃれに見えます」


「オヤブンが大人しいのってなんか面白いよね」


「これ、2人の声が聞こえなくて代わりに音楽が聞こえるのはなんでですか?」


「多分編集アプリのせいだと思う。街灯とか電光掲示板とか眩しくないでしょ?明るさを下げるために使ったんだろうとは思うけど…」


「いぇーいいぇーいいぇー、わっぱっぱー…」


「ふふっ。気になっちゃうよね」


「僕達も何か送った方がいいですか?」


「求められたらでいいよ。サラはとにかく紹介したいみたいだから」


「アメリカでしたっけ。いつか行ってみたいです」


「英語できないと苦労するよ?」


「……なんですか、そのお見通しって顔は」


「なんでもなーい」


「ちょ、そうですよ!英語苦手です!学校の授業で他のみんながカタカナっぽく発音してる中で自分だけ意識してそれっぽい発音したりとか恥ずかしくて出来なかったですし、英文を日本語に訳す問題とか…」


「でも大丈夫」


「え…凪咲さん、サラさんと話せてましたもんね。そっか!凪咲さんがいれば英語も」


「そうじゃなくて、創造の書があるでしょ?」


「………ですね…はは」



サラさん元気そうだ。よかった。



「今日はお昼ハンバーガーにしよっか。手作りでチェーン店のセットみたいにしようよ」


「いいですね、それ!」


「向こうのサイズ感を再現しないと気分は味わえないから…ちょっと挽き肉と冷凍ポテト買いに行こ!」



平和な時間が何より大事だ。

…この時間だけは、どんなに楽しくてもあっという間に過ぎてほしくない。






………………………………next…→……







「おーい。終の解放者さんよー。こんなもんか?雑魚ばっかり寄越すなよ。勝てねえって分かってるくせに」




欠月。以前真と凪咲が訪れた地で今日、多くの血が流れた。




「全部表紙の色が同じ。同調したのはお前らのリーダーの本か?」


彼女の前で活動が停止した心臓を晒す黒装束の代行達。

全員胸が切り開かれ、仰向けの状態で地面に並べられている。



「偽物、複製は軽い気持ちで試せば即死する。わざわざ日本中の本を集めてるんだろうが…こうやって献上してくれると手間がかかんなくて助かるよなー」


彼女は積み上げた10冊の創造の書を眺めながら


「これで俺が所有するのは」




「何冊だろうと関係ない!」




「あ?おーおー。幹部がようやく登場か。ミスネ。この前よりは強くなってんだろうなぁ?」


独り言を遮り姿を現すのは。


「馬鹿が。光の届かぬこの森ならば、お前は死を待つだけの病人と変わらない。せいぜい…」


「は?この前あっけなく死んだくせによくもまぁそんなドヤ顔出来るよなー。引くわー」


「ちっ」


「お前、今日は何分で死ぬんだろーな」



「じゃーん!!オガルちゃんもいるもーん!」



黒のスーツ姿のミスネは後退。木々の闇に隠れてしまった。

入れ替わりで登場したのは、ツギハギのアイドル風な衣装を着たオガル。



「うわ。お前かよ…」


「言う事聞いてるだけのいい子ちゃんじゃ夢は叶わない。それを教えてあげる」


「…何それ。新キャラ?自称多重人格も大変だなー。誰の真似してんだ?」


「関係なーいもーん!」


グシュッ!ザシュッ!


彼女の前でオガルは自傷行為を繰り返す。

取り出した小さなナイフで何度も腕を裂き、腹を抉り、最後に位置を調整して胸を一突き。

そして、


「あぁぁ…気持ちいいっ」


声を漏らした。



「俺お前嫌いだ。多分この世で1番嫌いだ」


「本当はね、オガルちゃんは戦うなって言われてるんだよ?でも、でもね?ムカつくから今日だけ特別なの。ミスネに力を貸してあげるのも今日だけ特別」


「設定めちゃくちゃじゃねえかよ。アイドル気取りの時は元気に話すんだろ?新キャラやりたすぎてごちゃ混ぜになってんじゃん」


「オガルちゃんきーっく!」


「んだよ。結局やんのか」



((READ))



「ミスネがリベンジしに来たんだろ?オガルに頼りやがって自分は隠れて創造か!つまんねー」







………………………to be continued…→…


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