第7話「猫の気持ち」
「にゃごらぁぁっ!これでどうやぁっ!」
ゲームに夢中になるオヤブン。
天才を自称するだけあってゲームの腕前も初めてとは思えないもので、全戦全勝でステージ6に到達していた。
その横では
「んんっ…イィェス!!」
サラがスマッシュを決める。
「これで6ー6です。次で最後にしましょう」
卓球対決は開始してからジュリアが6連続得点で圧倒していたが、コツを掴んでからはサラが押すようになり気づけば同点。
「力加減を知らないパワープレイにここまで追いつかれるとは…次はこちらも全力でお相手します」
「ふっふー!いきまーす!!」
カコッ!
気持ちがいいくらいに振り抜くサラ。
サーブから全力が過ぎる彼女に対し、
「時を待ち、確実に勝利を」
カコッ!
ジュリアは返しの強弱を使い分けてサラのミスを誘う。
「アゥっ!」
「まだ」
「ィイッ!!」
「まだ」
「んんっ!」
「まだ」
機械的に返してくるジュリア。
押し切れず焦ったサラは
「んィィっ…あ」
やや上方向に緩く打ち上げてしまった。
これをチャンスと見たジュリアが2歩下がり構える。
「あ!まっ、待ってーー!」
「ふんっ!」
ラケットは上から下へ。渾身の一振り。しかし、サラが予想していたスマッシュほど威力はない。むしろ通常時と変わらない速度の球で
「おー?チャンス!」
サラも1歩下がり今度こそ決めようと構える。が。
キュルッ!
「っ!?ノーーー!!」
着地後の球の軌道が変わった。
ジュリアの元へ戻ろうとするように手前へ跳ねたのだ。
スマッシュどころか球を打ち返すことも出来ずに決着。
「バックスピンです。さすがに人間が使用するものより回転が強いので…大人気なかったでしょうか」
「魔法みたいでーす!すごーい!!」
「……」
サラは落ち込むことも悔しがることもなく驚き喜んでいた。
反応に困るジュリアだったが
「いける!いける!いけろ!来いやぁっ!んにゃぁぁぁぁ!!」
興奮するオヤブンに注目が集まる。
2人は自然と卓球台を離れゲームを観戦することにした。
「格闘ゲーム…」
「オヤビンはどっちですかー!」
画面左側には居合いの構えで待機する侍のキャラクター。右側にはガタイのいい大鬼のキャラクター。
「ワイはファーストサムライのムラマサや!」
「おーー!?サムライ!」
「ステージ7。ここをクリア出来れば次が最終ステージですね」
「ホンマか!よっしゃ!このまま一気に勝ったるでええ!」
「ムラマサ。本名は谷村雅紀でこのゲームの世界に異世界転生したという設定です。ファーストサムライと自称するのはゲームの世界観に和の要素が存在しないためでしょう。カウンター技が主体で、自ら攻めるのは必殺ゲージを消費して放つ超常一閃を使用する時のみ。敵にすると強敵ですが自身で操作するとなると扱いが難しい上級者向けのキャラクターです」
「誰も聞いてへんやろ!というかどんだけ詳しいねん!」
「筐体に付属している説明書にそう書いてあります」
「わー!オヤビン!」
「あ!しまっ」
突然のジュリアの解説にオヤブンが余所見をしてしまう。
その隙に敵のキャラクターが猛攻をしかけ…
「おい!ここまで負け無しやったのに1敗してもうたやんけ!」
「2本先取で勝利です。今のは敗北ではなく、ダウンしただけで」
「もうええ!とりあえず変なこと言わんといてくれ!」
「分かりました」
「オヤビン!頑張ってー!」
「ぐぬぬ…負けられへん…!絶対に勝つんや…!」
ガチャガチャ…ガチャッ!
オヤブンのレバー操作が激しくなる。
正確なコマンド入力でムラマサを操作し、難しい技を華麗に決めていく。
「…敵の必殺ゲージが溜まりました。必殺はカウンター不可なので注意を」
「おう!空振り誘ったる!」
「オヤビン!ジャンプ!」
「引きつけて…もうちょいや…今っ!!」
画面上にカットイン。敵キャラが必殺技を使用するが、導入の大振りなパンチを2段ジャンプで見事回避。そのまま逆方向へダッシュしやり過ごすことに成功した。
「よっしゃ!ジャスト回避で必殺ゲージが溜まった!これでぇぇ…」
一転、今度は敵に向かってダッシュし
「もらったああああ!んにゃぁぁぁぁ!!」
同様のカットイン後すぐに必殺技が発動し、画面いっぱいに巨大化した刀をキャラクターが振り回す。
「フィニッシュやぁ!超常一閃!」
「多段ヒットの技だとは思いませんでした。ですが、お見事」
「まあな!ワイは天才やからなぁ!」
「オヤビン…!ステージ8でーす…ラストは…」
「おいおい。ラストパイレーツ?オルゴルって誰やねん!最初のキャラクター選択画面にいなかったやん!?」
「オルゴル…。呪われし秘宝を体内に宿す海賊。不老不死の肉体となったことで長く生きている。なのでラストパイレーツ…ということでしょう。ゲームの設定上、ムラマサとオルゴルがライバル関係にあるようです」
戦闘開始。
オヤブンはカウンター技を決めるため早速コマンド入力を始めるが
「にゃぁぁっ!?おい!なんやねん!」
「戦場が海賊船になっています。オルゴルの専用ステージということもあり、常に大砲の弾が狙って飛んでくるようです」
「ズルすぎるやろ!!こんなん!ちょ、弾は攻撃できへんのか!」
「避けるしかありませんね。説明書にはガード不可と」
「そういえばその説明書もやたら詳しく書いてるなあ!ほぼ攻略本やんけ!」
「クレームに対処するためでしょう。……オルゴルが高笑いすると次の行動がダッシュ攻撃で確定と書いてあります。カウンターするならそのタイミングがお勧めです」
「分かった!…んにゃにゃにゃ……」
ジュリアのアドバイスを聞いたオヤブンはひたすら攻撃を回避する。
繊細なレバー操作で大砲の弾を含む敵の全ての攻撃に1度も当たらない。
「き、きたっ!高笑いや!剣持ったで!!」
「今です」
「でぇぇいっ!!どうや!っ全然体力減ってないやんけ!」
「時間無制限なこともあって体力は高めに設定されています」
「まさか今のを何回もやらなあかんのか!」
「オヤビン!頑張って!」
「……ここまで来たら勝つしかないやろ!」
………………………………next…→……
創造…!でも、
ガチャ。
自分でもびっくりするほど行動は冷静だった。
ドアを開け、背を向けずに小走りで外へ。
「無駄だ無駄だ!どこに逃げても!」
ソープを抱いたまま走りだした。
吠える犬達と共に、おじさんの怒鳴り声が近所に響く。
呪われろとか、そんなことを言っていたと思うが…とにかくその場から離れるのに必死だった。
今日だけで2人も代行に会うなんて。
しかも近所で?今まで全然そんな気配なかったのに。
「…もうすぐで駅」
追いかけられてる感じはない。
使者を創造したわけじゃなさそうだ。
「本人が強化されるとか…?でも…何にも…呪われろとか言ってたけどもしかし…」
どこを疑っても変化なし。
「ソープは?問題ない?」
「……」
「怪我も無いし、いつもと変わらないかな…」
「くすぐったい」
「あ、ごめんごめんちょっとやりすぎ………え?」
「やさしくやって」
「………」
一旦。凪咲さんを呼ぼう。
スマホは…と
「ちゃんともって」
「………」
片手で抱っこするのは一瞬でも嫌らしい。
ただ、言われた通りにすると両手が塞がってスマホを取り出すことが出来ない。
「…思考で…呼びかけてみよう」
距離次第では伝わるはず。
凪咲さん。凪咲さん。大変なんです。
ソープを見つけたんですけど、いくつか問題が…!
とにかく駅前まで急いで来てください!
合流したら
「真」
「うぉぉっ!?」
集中してる時に囁くように呼ばれて大きく反応してしまった。
「大丈夫!?」
「つよくもたないで」
「あ、あ、ごめんなさい」
「なんで真が謝るの?私でしょ?ごめんね、驚かせちゃって。ちゃんと聞こえたし、なんとなくこっちの方向にいるのかなっていうのも伝わってきて急いで走ってきたんだけど」
「えと…とりあえず凪咲さん、ソープをお願いします」
「うん」
「おねえちゃん」
「……」
「具合悪いの?」
「ソープは大丈夫です」
「真がだよ」
「…家に帰りましょう」
「ごはん」
………………………………next…→……
「オヤビン!あとちょっと!」
「体力が減ってから攻撃が激しくなりました。集中力を切らしたら」
「分かっとる!さっきからずっと集中砲火しか使ってきてないしな!コイツも追い詰められてるから焦ってんねや!仕留めたる!高笑いせえ!」
現状は知る人が見ればシューティングゲームの弾幕のそれで、大砲の弾の他に樽や剣、金貨など何でもありでオヤブンの操作するキャラクターをしつこく狙っていた。
どれかに触れればキャラクターは怯んでしまう。そして怯むとすぐに強力な攻撃が飛んでくる…という一切プレイヤーに勝たせる気がないような難易度になっていた。
「前回の高笑いから3分。長過ぎます。もしかしたらこのまま高笑いは」
「絶対やる。待つ。じっくり待って…」
「オヤビン!必殺ゲージマックスでーす!」
「待つんや…」
「いいえ。ここは攻めるべきです。回避しながら距離を詰めてください」
「待てば確実に勝てる!あと1、2回攻撃当てれば終わるやろこんなもん!」
「ここで賭けなければ」
「嫌や!」
「オヤビン!勝って!」
「にゃ…くそ!手汗が!」
「操作ミスをする前に攻めてください」
「ちっくしょう!こっちから行ったるわぁぁ!」
タイミングを選びつつピョンピョン跳ねながらジワジワと距離を詰めていく。
しかし。やはりゲーム側もそれを予測していたのかプレイヤーの避けたくなるタイミングに合わせるように明らかに周期のズレた樽が飛んでくる。
「にゃ!?」
「被弾…」
「ずるいでーす!今のだけ違うところから出てきました!」
「怯んだ途端にダッシュ攻撃…残りの体力ではこれはもう」
「間に合え!このぉ!」
ズギャァーン!KO!
「………」
「敗北しました」
「知っとるわ…」
「オヤビン」
「1人になりたい」
オヤブンは筐体から飛び降りるとどこかへ走り去っていった。
「相当悔しかったようですね」
「オヤビンは頑張り屋さん。だから負けるのは嫌いでーす…」
「探しに行きますか?」
「大丈夫。あとで迎えにいきまーす!!」
「…サラ。話をしよう」
そこへダンが声をかけた。
「ご主人様。手伝いに戻ります」
「ああ。そうしろ」
ジュリアは開放されてホッとしたように旅館の仕事に戻っていった。
「お話?なんですかー?」
「君とオヤブンは特別だ。分かるか」
「はーい!特別です!パートナー!」
「…君はまだ戦えてはいない。守られている。この違いに気づけるか」
「……?」
「英語なら伝わるだろうか…」
ダンはスマートフォンを取り出し、アプリを起動した。
「少し面倒に思うかもしれないが」
サラに画面を見せると
「この人は誰ですかー?」
「通訳だ。ビデオ通話を使用しリアルタイムで会話をサポートしてくれる」
「おー!」
それから3分後。
「うっ…うぅぅぅ〜…!!」
サラは号泣していた。
「伝わったようだ。協力に感謝する」
通話を終了したダンはサラの肩に手を置いた。
「遊び感覚で代行同士の争いに参加するのはやめたまえ。戦闘に負けてもそこで終わりではない。必ず奪われる。生命を」
「ごめんなさぁい…!!」
「君は家族を、友達を、オヤブンを大切に思っているか?」
「もちろんでぇす…!!」
「それは相手も同じだ。大切なサラが殺されたとなれば悲しむだろう。厳しいことを言うが、負けは許されない。どれだけ傷ついたとしても」
「……うぅっ!」
「分かってくれたか」
「どっ…どっ、どうしたらいいっ、ですかぁっ!」
「負けないために。ということなら、私なりにアドバイスをしよう」
「知りたいっ!知りたいでぇすっ…うぅ!!」
「創造の書を使え。新たな武器を手に入れるために」
「武…器…?」
「オヤブンは強い。だが、腹を満たしてしまえば途端に弱くなる。そうなると君を守れなくなってしまう」
「………」
「武器だ。どんな時でも力が発揮できるものを」
「ぐすっ…」
「大丈夫か」
「オヤビンっ、迎えにいってきます…」
………………………………next…→……
「僕、ソープの言ってることが分かるんです」
帰宅してすぐに僕達はテーブルを挟んで着席。そして今の状態を報告した。
言われたことに対して凪咲さんは考える様子を見せて
「問題っていうのは、その」
「ソープが人間の言葉を話してるんです!オヤブンさんみたいに!」
「んー…ソープ。こっちおいで?」
「ごはんたべたい」
「にゃあって聞こえるよ?私は」
「僕にはご飯食べたいって」
「あげてみる?」
凪咲さんがまぐろ系の缶詰を取ろうとすると
「かりかりしてるやつたべたい」
「あ、凪咲さん。カリカリした食感のやつがいいって言ってます」
「本当に?えっと、じゃあ両方あげてみようよ。それでソープが食べたいのが何なのか証明できそう」
「はい」
皿を2つ用意し、それぞれにエサを盛り付ける。
それらを床に同時に置いてソープが食いついた方が…ということになった。
「いくよ?せーの…はい。召し上がれ」
「かりかりたべる」
「あ。本当にカリカリの方食べてる…」
「泥棒に入った男の人がソープを売った相手っていうのが、動物を保護してるおじさんで家の中にいっぱい犬や猫がいて」
「そうなんだ。良い人だね」
「違っ…違わないかもしれませんけど、酷い飼い主に対してすごく怒りやすい人で…その人も代行なんです」
「え?代行?」
「はい!」
「それは先に言ってよ!」
「ごめんなさい…」
「じゃあソープの言ってることが分かるのは」
「その代行のおじさんのせいなんです」
「…もしかして…うーん、どうなんだろう」
「なんですか?」
「泥棒したあの男。その代行のおじさん?に会うの2回目だったんじゃない?」
「はい?」
「真実は分からないけど。犬の使者って思いつくかな。せっかく創造するのに、普通の犬だよ?ペットにするならあんなに多くはいらないでしょ?使者にするとしても…コストを考えたら強いのを1匹じゃない?」
「……え、…っ!あの犬達はおじさんから盗んだってことですか?」
「ソープと同じように他所で売るつもりだった。きっと、保護の相談とか言えば簡単に家に入れたんじゃないの?」
「…入れたと思います」
「それで。飲み物を要求するとかしておじさんが離れた隙に…でも思ったより多くついてきてしまっておじさんに気付かれた」
「そこで…えっと…ん?」
「真と同じように創造の力で犬達の言葉が分かるようになった。男はその時点で盗みに入ったとバレてるから、通報される前に逃走。でも犬達の方が足速いし、その子達の声も聞こえてしまう」
「……」
「きっと、腹が減ったとか。お前を食ってやるぞとか」
「…犬に脅されたんですか…!でも、でもですよ?凪咲さんが一方的に倒した時、本を燃やしたら犬達も消えましたよね?」
「あくまでも何を言ってるのか分かるだけだから、創造の力で主従関係を築いたのかなって。だから…その気になればの話なんだけど、街を歩いてるその辺の普通の人でも使者に」
「それ、凪咲さんの考えでは…ですよね?ね?」
「ふふっ。怖いよね。でも何でも出来てしまうのは事実でしょ?生き物でもどんな物でも、特殊な能力でさえも創り出せてしまう」
「僕はどうすれば…」
「他に何かある?特に無いんだったら…そのままでもいいんじゃない?」
「えっ!?なんでそんなこと!」
「ソープとお話出来るってことだよ?別に私達はソープのこと大切にしてるし、むしろ良い創造にも思うけど」
「でも…!」
「飼い主を改心させるためにペットの言ってることを分からせるってことでしょ?」
「……」
「大好きなペットの気持ちが本当に分かるんだから、」
「ダメです!やっぱりダメです。言ってることが分からなくても理解してあげようとする気持ちが大事なんです。それが大切に想うってことなんですから」
「もっとかりかりたべたい」
「おかわりをあげます。欲しがってるので」
「やっぱり便利でしょ?」
「しっかり戸締りしておじさんの所へ戻ります。凪咲さん。相手は代行なんです」
「悪いことはしてない」
「……」
「でも私は真のパートナーだから。いいよ。本だけ燃やそ?」
「凪咲さん…」
「創造は何でも出来てしまうから。例えば、今の真みたいに動物と話せる創造を受けた相手は全員死ぬ…みたいなことされたら困るでしょ?怒りやすいならヤケになった時にやりそうだもん」
「それ聞いたら余計に嫌ですよこんなの!さっさと燃やしましょう!」
「うん。ソープ、お留守番しててね」
「ねる」
「寝て待ってるそうです」
「惜しいなぁ。真、帰ったら私にも」
「ダメです」
「むー」
言われてみれば、あのおじさんはそこまで悪人とかいうわけではない。
人によってはペットの言ってることが分かる能力を夢だと語る人もいるかもしれない。
それでも。
気持ちが悪いのだ。
………………………to be continued…→…




