第9話「アマトゥワ族の力」
「トゥカミ。創造の書についてあなたが知ってることを教えて」
それを聞いたトゥカミは顔を上げ、凪咲さんと目を合わせた。
「アマトゥワ族、代々守ってきた。神の力を」
「……」
ダンさんがジュリアに目で合図を送ると、彼女はこっそりと袖から…ボイスレコーダーを起動した。
「いつの時代も必ずいた。王、大悪、災厄。それらを繋ぐのは神の力。いつの時代も、一番上に立ちたい人間達が大きな争いや災いを起こした。世界にある不思議な建造物、強い病気、科学で分からないもの…全て代行が創造した」
「トゥカミ。それは戦争すらも代行が狙って引き起こしたものだということか?」
「……違う。戦争は弱い人間がするもの」
「でもイメージは近いですよね。僕達が知る戦争は多くのものを奪ったり、失ったりしますけど」
「代行による争いは当時では考えられない物を創り出したのですね。病魔による支配、自分だけの特別な城…人の上に立つ…そんなことのために、人間達は神に預かった力を乱用したと」
「ごめん。ちょっといい?」
「どうかしましたか?」
凪咲さんが何かを聞きたそうにしている。
聞くべきかどうか迷っているのかも。
「トゥカミはアマトゥワ族って戦闘部族の末裔なんでしょ?それで、アマトゥワ族は神の力を守ってきた。見たところトゥカミは日本人ではないし、わざわざこの国に来たんだよね?」
トゥカミは頷いている。
「……用があるから来たんでしょ…?神の力を守るために来たって考えるのが自然だよね。だとしたらさ…?」
「日本で大きな争いが。そう言いたいのでしょうか。柊木様も同じ考えのようですね」
「え、あ…はい」
いつの時代にも、王と大悪と災厄が存在した。
…今の日本にも同じようにその3つが生まれようとしている。そういうことですか、凪咲さん。
「うん」
「しかし悲しいことに王も大悪も災厄も"正義"ではありませんね。権力という名の椅子を求めて争う者達と、全てを押し流すリセットボタン。トゥカミ。つまりは、日本で最強の代行が権力を手に入れ…場合によっては災厄を招く。それを阻止するためにあなたは現れたのですね」
「小さな欲なら構わない。王を目指す代行を許してはいけない」
「こんなこと言うのも変かもしれませんけど、トゥカミさんって僕達の側ですよね。簡単に言えば悪い代行を倒したいってことですし」
「うん。でも正義の味方ってことでもなさそう」
「お前達、神の力で何をしたい?」
会話の流れでトゥカミさんが聞いてきた。
…でも答えた内容によってはまた戦うことになりそうで怖い。
「私は歴史が知りたい。多くの人間が現代まで繋いできた物語を知りたい。これまでも、これからも、世に出ることのない歴史が知りたい」
ダンさんはあまり口に出さないけど、僕が想像している以上にお金持ちなのだろう。
今の世の中、お金があればほとんどの事が解決出来てしまう。
その上で創造の力を使ってやりたいことが…知ること…なのだ。
どんなにお金を払っても叶わない、常識の外に存在する事象を知ることなのだ。
「僕は…」
分からない。
ダンさんのようにやりたいことがあるわけではない。
でも、挙げるとしたら。
「幸せになりたいです」
「真…」
「幸せになるために、真の意味で平和になってほしいです。そんな、王がどうとか、災厄だとか…困ります」
「アマンマーッマッ!!」
突然叫ばれたからびっくりした。
全身を使って跳ねてしまった。
「アマンマーッマッ!!」
最後のマッだけ声が裏返っている。わざとなのか。
というか、なんだろう。どういう意味なんだろう。
「お前達、神の力、相応しい」
トゥカミさんが僕達の前で再び土下座した。
すると…
「あ、動物の使者…でしょうか」
川に流したはずの猿と熊がいつの間にか戻ってきていた。
そして鷹と狼…
「そういえば鷹と狼は戦闘に参加してませんでしたね」
「……なぜだろうな。私達が2人で挑んだ時は…」
「アマトゥワの力!お前達にも教える!」
続々と動物の使者が集まってくる。
…やっぱり川の中にワニもいたみたいだ。
学校の1クラス分くらい動物が集まったところで、トゥカミさんが立ち上がった。
「神の本を」
「……創造の書ですよね」
「ああ。ジュリア」
疑うこともなくダンさんは創造の書を取り出した。
じゃあ、僕も…
「はい。…信じよう。きっと大丈夫」
「ありがとうございます」
僕達の本の表紙に手を置き、
「アンムラキラアンムラキラ…ショペーノキラアンマノス、アンマトウサアンマトウサ、チョコレート」
「今チョコレートって」
「言ったよね」
カリカリカリカリ…!!
「え?」
「…何かが書き込まれている!」
「ちょ、トゥカミさん!?」
閉じたままの本の中から音がする。
「……そうか」
「な、何か分かるんですか?」
「神の文字だ」
「………」
「アマトゥワ族は神の文字を扱えるのだろう。今やっているのは、」
「まさか」
あの一切読めないでお馴染みの、卍の親戚みたいな文字を本に書き込んでいるのか。
"過剰な読書"でなら何が書いてあるか知ることは出来るが…。
「終わった。1番後ろ」
「…なんかぎっしり埋まってます」
「読めはしないが、ここにアマトゥワ族の…私が求めている情報が」
「使え」
「え?使え?」
「やれ、神の力」
「…真。最後のページをREADしろということだろう。試そう」
「………はい」
自然とダンさんとタイミングが揃った。
((READ)) ((READ))
………………………………next…→……
「っ。ここは…」
ヒュォォォ…高い音を鳴らす風が僕の体を強く揺さぶる。
目の前にあるのは、曇った空。
下を向けば…他にも色々と見える。
……よく見れば、見える範囲の全てがちょっとおかしい。
でも、何がおかしいのか…
「創造の書」
思い出し、右手に持つそれを開いてみる。
…不思議だ。書き込まれている内容が全て日本語に…!
読める。全てが。
「神に愛されし旅人よ。この歌をあなたに贈ろう。…」
人ならざる者も愛せ 心を開き 心臓を撫でてもらえ
互いの生命は繋がり 生まれることを躊躇った者も 決心がつくだろう
時には傷つくのもいいだろう あなたが人であるならば 全ての行いがその身を支える
悪しき心もまた あなたが人であるならば ひとつの美となり己を変える
いつかは愛も
バチィィン!!!
「いったぁぁっ!?」
「真!」
「凪咲さん!?何するんですか!」
痛みで気がつくと…元の場所にいた。
凪咲さんがものすごく慌ててる…空の明るさからして、過剰な読書みたいに長い時間集中していたというわけでも
「伏せて!」
「うわぅっ!」
頭を抑えられた。
直後、近くの石が弾け飛んだ。
「何事ですか!」
「分からない!でも襲われてる!」
「誰にですか!」
「分からないんだってば!」
極端に姿勢を低くして、周囲を確認する。
ジュリアさんはダンさんを引きずって移動して…
「動物達が…」
使者達が、暴れている。
僕達に怒っているとか暴走しているとかそんなんじゃなくて。
…どの動物も、体から血を流している。
「…え」
トゥカミさんは、頭から血を流していた。
……一部が特に赤黒くなっていて…よく見ればそれが傷だと分かる。
「何が起きて…」
「逃げよう。どこから狙われてるのか分からないけど、とにかくここから離れなきゃ」
「は、はい…!ジュリアさん!」
「ご主人様が目覚めません」
「ビンタでも何でもいいから起こして!撃ち殺されたらどうするの!」
「…ご主人様。ご主人様」
「もう!真…アイアン・カードは!」
「あ、ええと…、展開!」
とりあえず大きくしてみた。
10mほど離れた位置にあった。
「ごめん!それで自分のこと守ってて!」
「凪咲さん!?」
何をするのか気になるところだが、アイアン・カードの元へ急ぐことにする。
僕が移動するのに合わせて近くの石が弾け飛ぶのが恐ろしい。
どう考えても狙われている。
……たぶん、トゥカミさんと同じように頭部を。
「展開!!」
もっと大きく。
ドーム状に…防御範囲を延長する。
ガンガン鳴る。アイアン・カードに何度も何度も攻撃が…。
「真!私達も中に入れて!」
「あ、はい!」
展開を繰り返し、入り口を開けて閉じる。
その間に凪咲さんが、ダンさんを支えながらジュリアさんも入ってきた。
「ダンさん…!」
「まふ…」
頬が…左頬が…ぷっくら腫れている。
思いっきりビンタされたようだ…え、凪咲さん僕の時は手加減を?
あの威力で?
「柊木様。ご主人様よりご自身の心配を。鼻血が出ています」
「あ。でもどうしたらいいんでしょうか。攻撃は続いてます。音から相手の位置を探りますか?」
「分かっても大体の方向くらいだよね。襲うにしても、代行と使者はセットだって考えないと」
「自分の体を改造するタイプもいますよ。その場合なら1人で来てる可能性も」
「…はい。ご主人様」
「ジュリアさん?」
「皆さんより体が頑丈に創られていますから。時間を稼ぐ…もしくはそのまま倒してきますのでお2人はご主人様をお願いします」
「いいよ。分かった」
「旅館までの勝負と考えていいですか」
「はい。それで構いません」
「…ふぅ。……」
数秒。息を整え、心の準備を済ませる。
「圧縮!」
アイアン・カードを元に戻し、凪咲さんと協力しダンさんを支えて走る。
ジュリアさんが先行してダッシュすると、狙いはジュリアさんに集中した。
「凪咲さん、ダンさんを起こすのにどれだけビンタしたんですか」
「ビンタは形だけだよ。殴ったって表現の方が正しい。まともに歩けなくなってるし」
「おふぉろひい…ひみのふぁーほはー…」
「わ、悪気はないんです…緊急だったので…」
すると、着信音が聞こえた。…ダンさんの方からだ。
凪咲さんはスマホを受け取ると代わりに操作して…僕達にも聞こえるようにスピーカーにした。
「聞こえていますか。敵は1人。見たところ代行は別行動をしているようです。使者の方はこのまま対処します」
「大丈夫なんですか」
「もんひゃいはい」
「はい。ご主人様の言う通り問題ありません」
「じゃあ代行に動きがあったら私が動くよ。ジュリア。なるべく早く倒して戻ってきて」
「分かりました」
そこで電話は切れた。
…戦闘しながら電話出来るって、器用だ…。
「急ご」
「そうですね」
((READ))
「なっ」
僕でもダンさんでもない。
僕達から少し遠い…でもしっかり聞こえた。
男の声だ。
「凪咲さん!」
「任せて平気?」
「はい!」
彼女は武器を構えて行ってしまった。
「ひょはんはふぇのひんほうは。ひほほう」
「すみません。何言ってるのか分からないです」
逃げなくちゃいけない。
敵のことを考え、様々な展開を予想し、対応策も用意しなくては。
でも、色々している間に新鮮な記憶が消え失せてしまう。
さっき見たものを…忘れてしまう。
すごく大切なものな気がするのに。
………………………to be continued…→…




